忍殺TRPGソロリプレイ【ライク・ア・サンドストーム・ブロウイング・イン・エジプト】

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながソロシナリオを遊んだ記録を元に作成したテキストカラテ……一般的にリプレイと呼ばれるものとなります。気楽に読めるよ。

 今回挑戦させていただいたのは、海中劣=サンの【ニンジャの聖戦】です。

 サムネイルの画像が威圧的だ。

 挑戦者についてはオープニング中で発表とさせていただきます。ではやってみよう。よろしくおねがいします。



◇オープニングな◇

 降り注ぐ重金属酸性雨。ケジメ・ショーにあがる歓声や野次。怒号、悲鳴、破壊音。ツチノコ・ストリートは常にこうしたノイズに包まれた治安劣悪地域だ。よほどの正義感を持った無謀なマッポでもない限り、ここに介入しようなどとは思わないだろう。

 掃き溜めめいた通りの真ん中を今、一人の少女が足早に通過していく。身長は5フィートにも届かず、白黒ボーダーのシャツとオーバーオールで身を包む。その口元を灰色のマフラーで覆ったツインテールの彼女は、ひどく不機嫌そうであった。

(チクショ……なんでアタイがこんな面倒な仕事を……!)

 揶揄するような視線を向けてくるヨタモノを睨み返し、少女は舌打ちする。彼女の名はブライトクロウ。ニンジャであり、ネオサイタマを牛耳るヤクザ組織『ソウカイヤ』の末端構成員でもある。その眼光にヨタモノがわけもわからず失禁した。

ニンジャ名:ブライトクロウ
【カラテ】:5        【体力】:5/5
【ニューロン】:6      【精神力】:6/6
【ワザマエ】:4       【脚力】:3
【ジツ】:3(遠隔攻撃系)  【万札】:0
近接攻撃ダイス:5
遠隔攻撃ダイス:7(ソニックカラテ)
回避ダイス:7

【アイテム】:
 ZBRアドレナリン注射器

【スキル】:
 ○下劣なパパラッチ
 ●タツジン:ソニックカラテ
 ●タクティカル移動射撃
 ●ニンジャ動体視力

【説明】
 カゼ・ニンジャクランのソウル憑依者。
 地力は決して低くないものの、半ば趣味となった盗撮で日銭を稼いでいる。
 ちょっとしたハプニング撮影のためならばソニックカラテの使用も辞さない。

 元よりこの地域をうろついている彼女ではあるものの、今回は普段とは趣が違う。ちょっとしたミッションである。ここに居を構えるソウカイヤ傘下のヤクザ・クラン……キルエレファントに用があるのだ。

(キルエレファント・ヤクザクランの担当が度を越したピンハネしてるっぽくてさ。ちょっと証拠掴んできてよ)

 脳裏に浮かぶ依頼人の姿……セーラー服姿のニンジャ、シャープキラーに彼女はぶるりと身を震わせた。笑顔を絶やさぬ少女ではあるものの、その残虐性はオリガミ付き。しばらく前にちょっとしたドジを踏んで嫌という程思い知らされた。逆らうなどとんでもない。

 なんでも彼女、少し前に立ち上げられたなんとかいうヤクザクランの一員となったらしい。正確に言うと今回のビズはそのヤクザクランのオヤブンからの指令というわけだ。

(ヤクザクランとはいうけど、実際はソウカイニンジャの寄り合い所帯だね。最近はニュービーも増えてきたし、ラオモト=サンもニンジャの集団運用を本格的に考え始めたんじゃないかな? うちのヤクザクランもその試行の一環なんじゃないかと思うけど)

 とは当のシャープキラーの推論である。(知らないし、そんなの)とは思っても口には出せない。とにかく仕事はちゃっちゃと終わらせよう。ブライトクロウは自分の思考にそう結論づけた。終わったら趣味の写真撮影にでも行って気晴らしだ。


◇本編な◇


「ザッケンナコラーッ! どこ見て歩いてッコラーッ!? スッゾオラー!」「アイエエエ!」

 ブライトクロウは足を止め、眉間にしわを寄せた。「今売れています」「お安い」「オスモウだ」のネオン看板で飾り立てられた薄汚いビルディング。ここが彼女の目的地だ。オスモウ・ショップに偽装したキルエレファントの事務所はこのビルの中にある。

 が、その入口を遮るようにしてトラブル。無軌道学生がヤクザに因縁をつけられているのだ。ブライトクロウは舌打ちした。ことの起こりなどどうでもいい。邪魔だ。

【ソニックカラテ】判定
(3,4,4,5,5,6,6) 成功 

「イヤーッ!」「アバーッ!?」

 突如ヤクザが吹き飛ぶ! その首は120度回転していた。当然即死!「アイエエエ!?」絡まれていた無軌道学生は失禁の跡を残し全速力で逃走!

「ッたく。ウザイんだよ」

 ブライトクロウはザンシンを解く。ニンジャ動体視力をお持ちの読者であれば、彼女が中空に放ったカラテ・ストレートから迸った衝撃波がヤクザの横っ面に叩き込まれた瞬間を認識することができただろう。これぞ彼女がニンジャとなって得たソニック・カラテなのだ。

 エントランスで大の字になったヤクザ死体の懐から無造作にサイフを掏り取った彼女は、これまた無造作にそのヤクザ死体を蹴り飛ばし、壁際へと移動させた。邪魔にならないように。

【万札】:0 → 1


◆◇◆◇◆


 階段を上り続け、十階。ブライトクロウはキルエレファント事務所入り口前のフスマに手をかけ……中から聞こえる会話に動きを止めた。

「……まだ生意気な口を利くんですかァ?」「アバッ!」

 打擲音。悲鳴。ブライトクロウは状況判断した。証拠を掴め、とのことだったが……どうやら現行犯だ。会話はなおも漏れてくる。

「死なないように手加減します。あなたは経営者ですからね」

「経営者だけじゃカネは作れねえんだぞ……?」

「クローンヤクザが今売れています」

(よく言うよ)

 思わずうんざりとしてしまう。自分と同じ末端に売買できるクローンヤクザなど与えられるものか。それともそれすら横領しているのか? ブライトクロウはふつふつと怒りが湧いてきた。この杜撰なピンハネのせいで、自分が駆り出されたのだから!

【ソニックカラテ】判定
(2,2,2,3,3,4,4) 成功 

 スターン!「イヤーッ!」フスマを蹴り開けると同時、ソニックカラテ・ストレート! 「エ……」倒れたグレーターヤクザを踏みつけにしていたニンジャが、呆然とこちらを見た。その顔が……衝撃波を受け……ゆっくりと歪み……「グワーッ!?」こらえきれず身体ごと吹き飛ばされ壁に激突!

「ドーモ! ソウカイヤのブライトクロウです! ……つってもアイサツできんのかな、今のアンタに」

「グワッ……ド、ドーモ。ブライトクロウ=サン。バーグラーです……なぜこんな!?」

「ア? あのね。アンタがバカみたいにカネをせびろうとしてんから、アタイが引っ張り出されたの。上の方もさすがに見過ごせなくなったんじゃない?」

「エ……」

「単なる噂かと思ったらマジでやってるし。バカじゃない? いや、バカだね。これ、ちゃんと報告させてもらうからね」

「アイエエエエ……」

 パシャッ。軽快なシャッター音。ブライトクロウがポケットから無造作に取り出した小型カメラのものだ。被写体は当然バーグラー。脂汗を流していた彼はがっくりと項垂れる。もはや言い訳もないらしい。

 グレーターヤクザが難儀そうに身を起こし、ドゲザめいて頭を下げた。

「ド、ドーモ。ヤマヒロです。アリガトゴザイマス、ブライトクロウ=サン! うちの若いモンが地道に稼いだカネをピンハネされそうになってたんです! 本当にありがてぇ……!」

「フーン。あ、顔あげてくれる? そこのバカが暴力振るった証拠にするから」

 パシャリ。顔を腫らしたヤマヒロを、ブライトクロウは遠慮なく撮影。続いて部屋に転がっていた二つの首なしリアルヤクザ死体を見つけ、これも撮影。へたり込んだままのバーグラーを睨みつける。

「アンタ、なに傘下のヤクザに手ェ出してんの? 脳の代わりにトーフでも詰まってんの?」

「ウ……」

 返す言葉もない様子の相手を見下ろし、ブライトクロウは優越感に満ちた嘲笑を送る。普段こうして相手を見下ろす機会がないため気分がいい。あとはこれを報告してカネをもらえば終わり……(待てよ)

 そのとき、ブライトクロウのニューロンがわずかにスパークした。ついで彼女はよろよろと立ちあがったヤマヒロを見上げ、満面の笑みを向ける。

「ねぇねぇ、ヤマヒロのオジサン! アタイ、ここの事務所の危機を救ったよね?」

「え、えぇ……そりゃもう。もし来て頂けなかったらどうなっていたか」

「だよね! でも、本当にアタイに感謝してくれてる?」

「エ……」

選択肢2.ヤマヒロに謝礼金を要求する。(やや邪悪な行い)

 ヤマヒロとてベテランのヤクザである。ブライトクロウが言外になにを意味しているかなどすぐに理解できた。彼は視線を彷徨わせ……意を決したかのように懐からサイフを取り出し、それを少女へと差し出した。

「その……アリガトゴザイマス……!」

「キャハッ! アリガト、オジサマ! 大好き!」

 ブライトクロウは素早くサイフを奪い取り、自分のポケットへと無造作に突っ込んだ。これくらいのボーナスがあってもいいだろう。バーグラーのピンハネよりよほどマシだ。

【万札】:1 → 4
【DKK】:0 → 1

「……じゃ、行こっか。アンタいつまでへたばってんの? さっさと立ちなよ、ノロマ」

「アイエエエ……」

 一転して冷たい表情となったブライトクロウがバーグラーの腕を掴んだ、そのとき!

 KRAAASH!

「「「エッ!?」」」

 事務所の窓ガラスが破裂する。舞い散るガラスの中、ジェットパックを背負った男が炎の軌跡を残して事務所へ突入。目を丸くする一同の前で見事なジェット噴射制御を決めたその者は、事務所へと降り立つやいなや名乗りを上げた!

 おお、見よ! ヤクザスーツに仰々しいテング・オメーン! その名も、誰が呼んだか!

神々の使者、ヤクザ天狗参上!

【精神力】判定
(2,3,4,4,5,5) 成功

 呆気にとられかけたブライトクロウは反射的にカラテを構える。次いで自分のニューロンが目まぐるしく回転するのを感じた。ヤクザ天狗……ヤクザ天狗? かのニンジャハンター? だが知ったことではない。たかが非ニンジャに自分が遅れをとるものか!

「……ドーモ! ヤクザ天狗=サン! ブライトクロウです!」

「ド、ドーモ。バーグラーです」

 ニンジャ二名がオジギを繰り出したその直後!「ザッケンナコラー!BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! 赤漆塗りのオートマチック・ヤクザガンが弾丸20発を高速射出! モンド・ムヨーのアイサツ途中アンブッシュだ!

【回避】判定
(1,6,6) 成功
(3,5) 成功
(4,6) 成功

「イ、イヤーッ!?」

 ブライトクロウは慌てて退避! 急制止と急加速を繰り返し、逃走経路を計算して放たれたとしか思えぬ弾幕をかろうじて切り抜ける!「アバーッ!?」だがバーグラーはそうもいかぬ! すでに手負いであった彼は綿密な横一線射撃により首を刎ねられたのだ! 生首は事務所隅のゴミ箱へホールインワン! ポイント倍点! 「サヨナラ!」爆発四散! 

「な……ナンオラー!? スッゾオラー!」

 ブライトクロウは慣れぬヤクザスラングで威嚇! ヤクザ天狗は無言で彼女に銃口を向け……ふと左手首の黄金ヤクザウォッチを一瞥した。8時9分3秒で永遠に針を止めた時計を。彼は深く頷いた。

「ザッケンナコラー!」

 BLAMBLAMBLAM! 「イヤーッ!」飛来する弾丸をソニックカラテ・ジャブで撃墜! その間にヤクザ天狗はジェットパックを噴射させ、KLAAAASH! エントリーしたものとは別の窓から脱出!

 ……割れ窓から重金属酸性雨が吹き込む。燦々たる有様の事務所の中、ブライトクロウは虚しくカラテを構えていた。ふと横で蹲っているヤマヒロを見て我に返った彼女は、逡巡したあと携帯IRC端末を取り出しミッション発令者へ報告と相談を行う。

BC:ドーモ。バーグラーは黒。しかし爆発四散。ヤクザ天狗がやった。どうしますか?

 ピポッ。数分の沈黙ののち、返信が戻る。

DG:ドーモ。オツカレサマデス。キルエレファントからミカジメ・フィー回収ののちわたくしの事務所へ。バーグラーの件了解。こちらから上へ話を通す

「……エット……これ、ミカジメとして回収していくから……」

「アッハイ。ヨロシクオネガイシマス……」

 呆然とアタッシェケースを回収し(過剰なカネはヤマヒロに返却した)、ブライトクロウはふらふらと事務所を後にする。その小さな背をヤマヒロは呆然としながら見送るのだった。


◇◆◇◆◇


選択肢2.まだ仕事を続ける。(シナリオ続行)


◆◇◆◇◆


 ……その数日後! サスマタ・ストリート!

「ここか」

 ストリートを歩くペケロッパやアンタイブディズム・ブラックメタリストを横目に見ながら、ブライトクロウはとある雑居ビルを見上げていた。いくつもの室外機が並ぶビル壁には『ケンリュウ・ハッカードージョー』とオスモウフォントで記された看板。

 事前調査によると、今時珍しい非暴力主義のドージョーらしい。無論の事、ブライトクロウはここにハッキングを習いにきたわけではない。ビズなのだ。事の発端は一日前に遡る。

(キルエレファント・ヤクザクランのヤマヒロ=サンが夜逃げしました)

 グレアリング・オロチ・ヤクザクランの事務所応接間で待ち構えていたミコー装束の女は、開口一番そう言った。そりゃそうだろうな、とブライトクロウは思う。自分でもあの状況であれば夜逃げを選ぶだろう。

(いかなる理由があれど、黙って見過ごすわけにはいきません。彼は優秀なグレーターヤクザですからね。ソウカイヤのために経営手腕を振るってもらわねば)

 つまり回収だ。なぜ自分が? とは言い出せなかった。ミコー装束の女……すなわちグレアリング・オロチ・ヤクザクランのオヤブンたるディスグレイスは強力なニンジャである。優れたスカウト能力とカラテ、ジツを評価されてヤクザクランとしての独立を許されるほどに。

 それと同時によからぬ噂もある。自らがスカウトした女ニンジャたちをテゴメにしているとか、その類のものだ。熱烈なシンパがいることもその噂の信ぴょう性を高めていた。いずれにせよ、敵に回すべきではない相手である。

 そんなわけでブライトクロウはまたもつまらぬミッションに駆り出されたのだった。ひとまずこのハッカードージョーにヤマヒロがヨージンボとして上がり込んだという情報は掴んだ。後は捕獲するだけだ。

選択肢2:【ニューロン】でシステムにハッキング(目標出目5以上)
(1,1,1,2,2,5) 成功

 パシッ。LAN端子からわずかに白い煙が立ち昇る。ブライトクロウは息を吐き、ハンドベルトUNIXのLANケーブルを引き抜いた。非暴力主義は非抵抗を意味しない。むしろ暴力を遠ざけるために過剰なまでのセキュリティを積んでいる。とはいえ、それも今無力化された。

(面倒なことさせやがって)

 停止した殺人電流トラップを横目に見ながら、ブライトクロウはしめやかにドージョー内へエントリー。「イヤーッ!」入り口に設置された防弾フスマを蹴り飛ばす!

「アイエエエ!?また侵入者が!?」「エッ!?本物!?」「「ドッソイ!?」」

「……あン?」

 ザンシンしたブライトクロウは眉根を寄せた。ドージョー内にはまずサイバーサングラス着用のハッカーたち。門下生だろう。小柄な老人。師範かなにかか。ヤマヒロ。なぜ鎧を着ているんだ。そして……スモトリ二人。こいつらはなんだ?

「セ、センセイ! カネは2倍……10倍払います! 門下生を守ってください!」

「ア……いや……」

 泣きつく老人に、ヤマヒロはしどろもどろに返事をする。そこにスモトリの片割れが小声で呟くのをブライトクロウは聞き逃さなかった。

「オイ、ヤマヒロ=サン! どういうことだ! 聞いてねえぞ!」「バ、バカ! 黙ってろ!」

「……ハハァ」

 得心がいった。どうやら狂言強盗の真っ最中に踏み込んでしまったらしい。抜け目のないグレーターヤクザであれば、自分の価値を見せるために事前に話をつけた強盗もどきを侵入させて己のカラテを誇示することくらい考えつくだろう。

 その筋書きを、多少書き換えてやらねばなるまい。ブライドクロウは歯をむき出しにして笑った。

「ドッソイオラー!」「ハキヨイ! スッゾ!」「バカ、やめ…!」

 ヤマヒロの制止を振り切り(当然だ。彼はブライトクロウがニンジャであることを知っている)向かってくるスモトリ二人組。ブライトクロウは適当にその片方を見定め……「イィーヤヤヤヤッ!」

【ソニックカラテ】判定・ソニックカラテジャブ
(1,3,6)(2,6)(2,5) スモトリ【体力】3 → 0

 カラテ・ジャブめいた連打を虚空に放つ! 「ドッソイグワーッ!?」解き放たれたカラテ衝撃波の礫が容赦なくスモトリAを打ちのめした!「アイエエエ!?」スモトリBは腰を抜かし失禁!

「エッ!? ナンデ!? 強盗同士でナンデ!?」

「強盗じゃねーし! ドーモ、ブライトクロウです。……ヤマヒロのオジサン、もうここのヨージンボやんなくていいよね? アタイと一緒にきてもらうんだからさ」

「ア……」

 ヤマヒロがへたり込む。鎧もある。もはや逃げる心配もあるまい。ヤマヒロ、スモトリ、自分と目まぐるしく視線を移している老人に向け、ブライトクロウは肩をすくめた。

「そこのオジサンね、自分を高く売り込むためにパフォーマンスやろうとしてただけだよ。だからそのスモトリも仲間じゃない?」

「そ、そんな……」

「アタイも仕事があるからそこのオジサン連れてくけどさ。代わりにそっちのスモトリをヨージンボにしてみたら? いないよりマシでしょ」

選択肢1.特に何もせず、ヤマヒロを連行する

 アタイみたいのがいたら何の役にも立たないけどね、とは心の中だけに呟いておくこととした。がっくりと肩を落とす老人を横目に、ブライトクロウはヤマヒロの腕を掴む。……その時!

KLAAAASH!

「「「エッ!?」」」

 ドージョーの窓ガラスが破裂する。舞い散るガラスの中、ジェットパックを背負った男が炎の軌跡を残して事務所へ突入。目を丸くする一同の前で見事なジェット噴射制御を決めたその者は、空中にホバリングしたまま名乗りを上げた!

 おお、見よ! ヤクザスーツに仰々しいテング・オメーン! その名も、誰が呼んだか!

正義の執行人、ヤクザ天狗参上!

【精神力】判定(前回成功によりダイス+2)
(1,2,2,4,5,5,6,6) 成功 

 ドスの利いたバリトン声がドージョーの空気を揺らす。気圧されかけたブライトクロウはすぐに動揺を敵意で塗り込めアイサツを返した。

「ドーモ! ブライトクロウです!」

「ザッケンナコラー!」

 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! たちまち放たれる弾丸の雨! ブライトクロウの主観時間が泥めいて鈍化した。前回はバーグラーがいた。今回は自分一人。この弾丸の檻はすでに、自分を仕留めるためだけに展開されている……!

「ウ……ウオオーッ!」

【回避】判定
【精神力】6 → 5 自動成功
(3,6)
(5)
(4) 【体力】5 → 4
(6)
(5)
被弾一発。ゴウランガ!

 あるいはソニックカラテで吹き散らし、あるいは寸前で回避し、あるいは己の拳で弾く。緻密に編み込まれた弾幕の一つが肩を撃ち抜いたが、ニンジャアドレナリンが痛みを掻き消した。

 そしてブライトクロウは見る。「アイエエエ!?」ヤクザ天狗がヤマヒロの回収し、そのまま窓の外へと飛び立っていく様子を! 「ザッケンナ……!」ブライトクロウは拳を握り、ソニックカラテを放とうとした。だが卓越した飛行技術を持つヤクザ天狗の軌道! 下手をすればヤマヒロに当たってしまうことに思い当たり動きが止まる!

 ……ヤクザ天狗はそのまま夜の空へと消えた。ブライトクロウは呆然と去っていった彼らを見送る。魂の抜けたような顔で立ち尽くす老人や、仲間に気つけを試みるスモトリ、そして怯える門下生たち。それらはもうどうでもよかった。

 ややあってから、彼女は震える手で携帯IRC端末を取り出し、ミッション発令者に報告と相談を行う。

BC:ドーモ。ヤクザ天狗がヤマヒロを連れていきました。どうすればいいですか

 ピポッ。十分ほどの沈黙ののち、返信が戻ってきた。

DG:帰って暖かくして寝てください。報酬は後日払います

「……エット、じゃあアタイはこれで……」

「アッハイ」

「その……ここ入るときセキュリティ解除しちゃったから、気をつけてね」

「アッハイ。戻しておきます……」

 ふらふらとドージョーを出て行くブライトクロウを、師範は呆然と見送るのだった。


◇◆◇◆◇


選択肢2.少し街を歩く。(シナリオ続行)


◆◇◆◇◆


 ブライトクロウはストリートを彷徨っていた。このまま帰っても眠れる気がまるでしなかったからだ。道路を走る車のエンジン音がやけに耳に響く。『BAR赤っぱな』の蛍光看板にびくつき、空中を泳ぐマグロツェッペリンの広告モニタに映し出されるオムラ・インダストリ製最新型ジェットパックや論理トリガ銃へ届かぬカラテ衝撃波を放ってから、彼女はようやく人心地がついたように思った。

(忘れよう。なにがヤクザ天狗だ……アタイにはなんの関係もないじゃないか……)

 どことなくみじめな気分になりながら周囲を見渡す。気づいてみれば、ソウカイヤ支給のカンオケ・アパートからだいぶ離れた場所まで歩いてきてしまったようだ。疲れたし、タクシーでも拾おう。

 ブォオオオオ……ちょうどいいことに車が一台近づいて……


ザッケンナコラー!


 ヤクザスラングにニューロンが急活性化。顔を上げると、時速893kmと見間違えるほどの速度で突っ込んでくる黒いヤクザモービルがあった。その運転席でハンドルを握る男の顔……その目……深い悲しみ、使命感、狂気……

【回避】判定(難易度U-HARD)
(1,3,3,4,6,6,6) 成功

「イヤーッ!」

 目まぐるしく回転する視界が時の流れを元に戻した。かろうじて連続側転しヤクザモービル突撃を回避! ギャルルルルル! モービルは地面に黒いタイヤ痕を残してドリフト! 停止! ……そして運転席から降り立ったのは、赤漆塗りの銃を手にした男。

 おお、見よ。ヤクザスーツに仰々しいテング・オメーン。その名も、誰が呼んだか。

贖罪の天使、ヤクザ天狗参上!

「……ドーモ、ヤクザ天狗=サン。ブライトクロウです……!」

ザッケンナコラー!

 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! マズル光が闇夜を切り裂く!

【回避】判定(難易度HARD)
【精神力】5 → 4 自動成功
(3,6)
(5)
(2) 【体力】4 → 3
(6)
(3) 【体力】3 → 2
二発被弾! 

「……アアアーッ!」

 ブライトクロウはニューロンを総動員し、ソニックカラテを振るう。それでも緻密に編み込まれた弾幕は彼女の肉体を削り取る。視界が滲んだ。涙のせいだ。銃弾の痛み? 怒り? 恐怖? ……わからない。ブライトクロウはもはや、自分が涙を流す理由すら考えられない。

 殺す。「イヤーッ!」ブライトクロウは地を蹴り、ヤクザ天狗へと飛び掛った。普段の彼女では実行に移そうとも思わない行動だ。だが今の彼女は違う。この男を殺す。その一念に支配されている。殺さねばならない。それが果たすべき使命であり、運命だ。これは生き残りをかけた聖戦なのだ……!

【カラテ】判定(難易度HARD)
(4, 4, 5, 6, 6) 成功!

「グワーッ!?」

 ヤクザ天狗の鳩尾に飛び蹴りが突き刺さる! テング・オメーンの下から血と吐瀉物のカクテルを零しながらよろめく仇敵を、ブライトクロウは睨みつける。まだ足りない。重サイバネによるものか、はたまた狂気か。奴はまだ倒れていないのだ!

「ザッ……ケンナコラー!」

 懐から取り出した真鍮フラスコから、刺激臭のする液体が振りまかれる。そこに放たれる……火!

【回避】判定(難易度HARD)
(3,3,3,4,5,6,6) 成功!

 恐るべき勢いで炎が燃え盛る。だがその中にブライトクロウはいない。彼女は風めいた速度でヤクザ天狗の横に回り込み……「イヤーッ!」「グワーッ!」小さく跳ねてその横面にカラテを叩き込んだのだ!

 「イヤーッ!」「グワーッ!」たまらず倒れるヤクザ天狗のマウントポジションを奪い、そのまま左右のラッシュ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「……………。」

 ブライトクロウは不意に手を止めた。オメーンの奥からなんらかの呟きが聞こえたからだ。彼女は聞き逃すまいと耳を傾ける……

……ニンジャはボーを振り上げ……」押し殺した嗚咽が混じる。彼もまた泣いているのだ。「……聖戦は……止められぬ……贖罪(リデンプション)を……お間には何の罪もない……本当にすまん……

【精神力】判定(前回の判定成功によりダイス+2、難易度U-HARD)
(1,2,4,5,5,6) 成功!

「ア……アアアーッ!」

 もは悲鳴めいた絶叫とともに、ブライトクロウは右腕を高く振り上げる。わからない。わかってはならない。この男はなんとしてもここで殺す必要が……!

 ブォオオオオオ! 強烈な光とともに、エンジン音が迫る。ブライトクロウは呆然とそちらを見た。無人のはずのヤクザモービルが迫る。

 知りようもない。ヤクザ天狗が己の愛機、聖戦(クルセイド)を無線LANを介して遠隔操縦していることなど。そして自分もろともニンジャをゲヘナに返そうとしていることなど……!

【回避】判定(難易度U-HARD)
(1,2,2,4,4,6,6) 成功!

「ア……イヤーッ!」

 ブライトクロウは状況判断! すんでのところでマウントを解除して連続側転退避! 狂気から導き出された使命よりも己の命を優先したのだ!

「タテッ……コラー!」

 そしてヤクザ天狗もワーム・ムーブメント退避! どころか車体にしがみつきそのまま逃走! なんたるアドバンスド・ショーギ・メイジンめいた逃走タクティクスか!

 よろよろと立ち上がったブライトクロウは、エジプトに吹き荒れる砂嵐めいて去っていく黒いヤクザモービルを茫然と見つめる。追おうとか、ソニックカラテで追撃しようとか、そのような考えは浮かばなかった。彼女の思考は今、微かに見えた運転席の様子に占拠されている。

 通信機や盗聴器の類が乱雑に置かれ、至る所に雑多なメモ書きや写真が貼られた異様な世界。その写真の一枚。ああ、見間違えるものか。

 あれは、自分を写したものだった。



◇エピローグな◇

 ウシミツ・アワー。ツチノコ・ストリート、グレアリング・オロチ・ヤクザクラン。その応接間に二人のニンジャあり。

 かたやミコー装束のディスグレイス。かたや女子高生のニンジャ、ヤモト・コキ。二人の間に会話があるわけでもない。ただ一緒にいるだけだ。

「……まだ寝ないのですか? ヤモト=サン」

「アタイがいつ寝ようとアタイの勝手だ。……あンたはどうなの?」

「わたくしはまだ仕事がありますから」

 言って携帯IRC端末を確認。彼女が気にしているのはブライトクロウの所在だ。同じアパートに住んでいるソウカイニュービーの報告によれば、まだ戻ってきていないのだという。

 なにかあったか。ディスグレイスは目を細める。シャープキラーの報告を信じる限り、ブライトクロウは胆力こそ乏しいものの決してカラテの低いニンジャではない。そのようなものが消息を断つということは、再三報告に挙げられたヤクザ天狗にやられたか、あるいは。

 ディスグレイスは顔を上げる。静かな足取りでやってくるセーラー服の少女と目が合った。その背には長大なノダチ。シャープキラーだ。

「ちょっと散歩に行ってくるね、ディスグレイス=サン」

「…….この時間に、一人で?」

「アー……今回のビズ、あいつに振ったの私だしさ。目覚めが悪いじゃない」

 ややきまりが悪そうに頬を掻く。ディスグレイスは微笑し、立ち上がった。同行を申し出ようとしたのだ。留守番はヤモトに任せればよいだろう。

 そのとき!

アアアアアアーッ!?

 バタム! 絶叫とともに事務所の扉が開かれ、色付きの風が飛び込んでくる! ディスグレイスは目を丸くし、それを抱きとめた。

「……ブライトクロウ=サン!? 生きていたのですか!」

「ウグッ、グスッ、ディ、ディスグレイス=サン……ウウーッ!」

「なんだよ、無事……じゃないな。ヤモトチャン、医療キットもってきてくれる? あとスシってまだ残ってたっけ」

「ゆ、夕飯の残りでよければ」

 その身体の各所に残る傷を見てとったシャープキラーがヤモトに指示。外聞を気にする様子もなくディスグレイスに泣きつくブライトクロウを見て、なんとも言えない顔を浮かべた。

「あれ、銃撃されたんだよな……ってことはあいつ、マジでヤクザ天狗に襲われたのか」

「取ってきた! ……なに、ヤクザ天狗って」

 早々に戻ってきたヤモトに曖昧な笑みを向けてから、シャープキラーはなにやらディスグレイスに訴えているブライトクロウに聞き耳を立てる。

「グスッ、へ、兵隊を! 兵隊貸しておくれよディスグレイス=サン! お、お、オヤブンなんでしょッ!?」

「唐突になんですか騒がしい。まずなにがあったかを……」

「こ、殺す! 殺さなきゃダメなんだ! あの男を放っておいたらアタイが殺され、」

「ブライトクロウ=サン」

 ディスグレイスの静かな言葉がブライトクロウの支離滅裂な発言を押さえつけた。彼女は左手でブライトクロウを上向かせ、金色に輝く瞳で覗き込む。憔悴していたブライトクロウの表情がぼんやりとし、徐々にリラックスしてきた。

(ま、ジツ使って落ち着かせた方がハヤイよね。アレは)

 シャープキラーは小さく肩を竦める。当然のごとく彼女は知っている。ディスグレイスは恐るべきカナシバリ・ジツの使い手。肉体だけでなく精神まで縛りつける。

 ブライトクロウが恍惚とした呻きを漏らした。

「アー……イイー……」

「落ち着きましたか? ならまず報告をなさい。その後の判断はわたくしが行います」

「アッハイ」

 ディスグレイスの瞳の妖光が弱まり、ブライトクロウが正気に戻る。地面に下ろされた彼女は、ぽつぽつと報告を始めたのだった。


◇◆◇◆◇


「……成る程。ヤクザ天狗のやり口はよくわかりました」

 黒い革張りソファに座ったディスグレイスは頷く。クリスタルテーブルの向こう、同じくソファに座ったブライトクロウは俯いていた。その傷はバイオ包帯に覆われている。

 ディスグレイスの背後でわずかに顔を青ざめさせていたヤモトがぽつりと呟く。

「それにしても、盗撮写真だなんて……いつの間に撮ってたんだろう」

「ブライトクロウ=サンがまだモータルの頃だと思うよ。こいつ、ヤクザの娘だし。撮られる機会くらいあったろ」

「え?」「そうなんですか?」「な、なんで知ってんのさ!?」

 一同の視線が一斉にシャープキラーに集まる。彼女は朗らかに笑った。

「調べられるものは調べてるもの。とにかく、強請りの候補として確保してた奴がニンジャになったから追いかけてきたんじゃない?」

「そ、そんな無茶苦茶な話が……!」

「実際はどうかなんて知らないよ。狂人の思考のトレースなんてできるわけないだろ。そういうことにして納得しておけって話」

 あっさりと言い放たれ、ブライトクロウは再び俯く。その顔は死体めいて青ざめていた。ディスグレイスが小さく咳払い。

「……とにかく事情はわかりました。わたくしの方から、療養期間を長めに取れるよう調整しておきます」

「アリガトゴザイマス……」

◇リザルトな◇
【万札】4→24
【余暇】4
1d6 → 5
【ニューロン】6→7

 殊勝に頭を下げてから、ブライトクロウは事務所を後にしようとし……ドアの前でぴたりと動きを止めた。

 想像してしまったのだ。ドアを開けたすぐそこに、あのテング・オメーンが待ち構えていたらどうしようと。

 あり得ないことはわかっている。だが、しかし。ブライトクロウは泣き出しそうになるのを堪え、ディスグレイスへと振り返った。

「……スミマセン。今日、泊めていただいてもいいですか……」


【ライク・ア・サンドストーム・ブロウイング・イン・エジプト】終わり



◇後書きな◇

 かくして此度の聖戦はニンジャに軍配が上がった。だが心せよ。第二、第三のヤクザ天狗がいつしか……

 現れるかはともかくとして、ブライトクロウ無事生存。サンシタ相手なら倒せるヤクザ天狗の強さが十二分に実感できるシナリオであった。

 最終的なパラメータはこう。

ニンジャ名:ブライトクロウ
【カラテ】:5        【体力】:5/5
【ニューロン】:7      【精神力】:7/7
【ワザマエ】:4       【脚力】:3
【ジツ】:3(遠隔攻撃系)  【万札】:24
近接攻撃ダイス:5
遠隔攻撃ダイス:7(ソニックカラテ)
回避ダイス:7

【アイテム】:
 ZBRアドレナリン注射器
 余暇:4

【スキル】:
 ○下劣なパパラッチ
 ●時間差、●マルチターゲット
 ●タツジン:ソニックカラテ
 ●タクティカル移動射撃
 ●ニンジャ動体視力

【説明】
 カゼ・ニンジャクランのソウル憑依者。
 地力は決して低くないものの、半ば趣味となった盗撮で日銭を稼いでいる。
 ちょっとしたハプニング撮影のためならばソニックカラテの使用も辞さない。

 天狗にトラウマを負っていたような気もするが、きっと克服してニューロンの壁を突破したんでしょう。

 ここまで読んでくださった皆様方、そして楽しいシナリオを書いてくださった海中劣=サン! ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!


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