忍殺TRPGソロリプレイ【ウェン・ユー・カースド・サムワン……】その2

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながソロシナリオを遊んだ結果をテキストカラテナイズした読み物となります。お気軽にどんぞ。

 そしてこれは続き物であり、前回はこれだ。

 ノロイ野郎をぶちのめすため、妹分のキールバックとともにキョートの荒野へ降り立ったディスグレイス。謎めいたヘヴィドランカーとともに、彼女らはノロイの源を目指すのだった……

 というわけでやってみよう。よろしくおねがいします。



◇朽ちたジンジャにて◇


 荒野を征くこと数時間。ディスグレイスらはついに目的地へと到達した。ガイオン近くの山奥にぽつねんと座するジンジャ・カテドラル。もはや朽ち果てて久しく、この地に立ち寄る参拝客の姿などありはしない。

 ディスグレイスは後方を見やる。整然と並んだアッパー・ガイオンの街並みが一望できた。美しいと思うより先に説明し難い不気味さとおぞましさを覚えるのは、あそこが敵の本陣であるという先入観からか。

「シバラク」

 ヘヴィドランカーの抑えた声にディスグレイスは我に返る。カテドラルの入り口たるトリイ・ゲートの前。揃いのヤクザスーツを囲む、双子めいてそっくりなヤクザが両脇を固めている。クローンヤクザ。

「……隠すつもりもない、というわけですね」

「お姉さま。ここは私が」

 キールバックが前に出る。小柄な見た目に似合わぬ鋭い眼光でクローンヤクザを見据えるその横に、ひょいとヘヴィドランカーが並んだ。

「お手伝いさせていただいても構わんかな?」

「……私一人でも充分ですけど」

「いや、もちろんそうであろうとも! だが敵は二人。一人で狙撃しようとすれば必ず一人余り、こちらに気づく。こちらとて数がいるのだから、なに、一人ですべてやることはあるまい!」

 屈み込み、キールバックと目線を合わせて熱弁を振るうヘヴィドランカー。ちらりと視線を向けられたことに気づいたディスグレイスが溜息をつく。

「……まあ、役に立てるときに役に立ってもらいましょう。二人とも。ヨロシクオネガイシマス」

「ヨロコンデ」「任された!」

 ヘヴィドランカーは鷹揚に頷き、自身の装束をつるりと撫でる。次の瞬間、その手には一枚のスリケンが握られていた。

 対するキールバックの手には何もない。茂みから顔を出した彼女は目を細め、小さく口をすぼめる……!

【ワザマエ】判定
ヘヴィドランカー:2, 2, 4, 4, 6 成功
キールバック:2, 3, 3, 3, 5, 6 成功
【万札】4獲得な

 「イヤーッ!SPIT!「「アバーッ!?」」かたや額にスリケンを突き立て、かたやサングラスを割られて右目ごと脳を穿たれたクローンヤクザ二体が同時に倒れ死亡! ナムアミダブツ!

 ザンシンしたヘヴィドランカーは、驚いたようにキールバックを見やる。彼女はだらりと手を垂らしたまま。クローンヤクザを射抜いたときも、その体勢に変化はなかったのだ。

「いやはや、これは……結構なオテマエで……」

「お世辞はいいです。……行きましょう、お姉さま」

「ウフフ! ええ、そうですね。アリガト、キールバック=サン」

 にこりと笑いかけて、その肩を優しく叩いてからディスグレイスはぶらりとトリイ・ゲートへと向かう。顔を赤らめていたキールバックも、小走りでその後を追った。

「ハハァー、成る程」

 ただ一人。ヘヴィドランカーだけが何事か納得したかのように頷いている。

「成る程、成る程……成る程なあ……ウム、見初められるのもわかるというもの……ウム、ウム……」

 然りに頷いていたニンジャは、やがて思い出したかのように二人の後に続いてカテドラル境内へとしめやかにエントリーするのだった。


◇本殿前◇


 クローンヤクザ死骸の懐からは、予想通り菱形の中に収まる瞳の意匠のバッチ。即ちザイバツのエンブレム。もはや疑いようもなし。ノロイの主はここに潜んでいるのだ。ディスグレイスらは風めいて石階段を駆け上がり、本殿前へと辿り着いた。

 カラテ警戒するキールバックを横目に、ディスグレイスはぐるりと周囲を見やる。放置され、埃を被る色褪せた賽銭箱。その奥には朽ち果てた本殿があり、そのさらに後ろにはそびえ立つ巨大な樹木が見える。神木だろうか。

「ディスグレイス=サン。本殿の扉なのですが」

 ヘヴィドランカーの声に、彼女は目を細める。打ち捨てられて相当な時が経っているだろう本殿そのものに対し、それを閉ざす扉がやけに真新しい。どう見ても中になんらかの重要物品が隠されている。

 ディスグレイスの右袖がはためく。本来あるべきところに腕がない。彼女が一歩踏み出そうとしたところ、その前に長身痩躯の影が割り込んだ。

「あいや、シバラク、シバラク!」

「……なんですかヘヴィドランカー=サン。邪魔ですよ」

「いや、いや! ディスグレイス=サンがカラテを振るうほどのものでもあるまいと思いましてな。つまり、そのう、手前におまかせあれ! 御身は来たるイクサに備え、ほれ、ごゆるりと」

 愛想のいい笑顔を向けられ、ディスグレイスは毒気を抜かれたような心地を味わった。口元を歪める彼女に構わず、ヘヴィドランカーはスキップめいて軽い足取りで扉の前へ。

「いやはや、これは、ウム! カラテで押し壊すにもやや手間がかかろうというものであることよなあ。いや、もちろんディスグレイス=サンのカラテを疑う気持ちなど一片たりともないが……」

「余計なおしゃべりは不要です」

「これはしたり! では、ウム! ご笑覧あれ!」

 自らの額をぴしゃりと叩いたヘヴィドランカーはぺたぺたと扉のそこかしこを触り、おもむろに両手で扉を掴むと「……イヤーッ!」渾身の力で引き始める!

選択肢3:扉をこじ開ける(【精神力】判定:難易度HARD)
1, 2, 2, 3, 4, 4, 6 成功!

 ゴゴ、ゴゴゴゴ……重い音とともに少しずつ、本殿の扉が開かれていく。物理錠前が抵抗しようとするも、結局は引きちぎられた。ゴウランガ。なんたるニンジャ筋力であろうか!

「フゥー……ドーゾ!」

「ハイハイ、ドーモドーモ」

 額の汗を大仰なそぶりで拭い、内部を手で指し示すヘヴィドランカー。冷淡な返事とともに本殿に踏み入ったキールバックが「……これは」気圧されたように後ずさる。その背後からひょいと覗き込んだ長身痩躯のニンジャが頓狂な声を上げた。

「なーんともまぁ! 今のカンヌシ殿は悪趣味極まりないようで!」

 その無作法を咎めるものはいないだろう。なんといって、本殿の中は凄まじい有様であったからだ……壁という壁に打ち込まれたのは大量のワラニンギョ。そのどれもが赤く錆びた五寸釘で胴や頭を打ち抜かれている。ニューロンの細い者であれば即座に失禁しかねないアトモスフィア!

「アイエエエ……アイエエエ……」

 三人のニンジャの動きが止まる。本殿の隅から聞こえるのは女の啜り泣きだ。手振りでディスグレイスらをとどめたヘヴィドランカーが、姿勢を低くし、しめやかに本殿の中へ忍び込む。

「アイエエエ……ニンジャ、ニンジャナンデ……アイエエエ」

 すぐに泣き声の主は見つかった。傷だらけのキモノを着た若い女。どうあってもニンジャとは見えぬ。ヘヴィドランカーは数秒黙考し、唐突に己のメンポを撫でた。その手が顔から離れると同時、メンポは消え失せ、どこかのっぺりとした細面の素顔が露わとなる。

「モシ。そこのご婦人」

「アイエッ!?」

選択肢1:インタビューを試みる
【精神力】判定:難易度U-HARD→『●交渉能力+』により難易度HARDへ
2, 3, 4, 4, 5, 5, 6 → 成功

 怯えたように壁に背をぶつける女。ヘヴィドランカーは低い姿勢を保ったまま、ニッと笑いかけた。奇妙な愛嬌のある笑顔であった。ニンジャは己を指差し、言った。

「そう怖がらないでおくれ。ほれ、よく見てくれたまえよこの顔を。周囲のこの……不気味極まりないワラニンギョどもより、手前のほうがよほど和やかに見える。そうじゃないかね?」

「ア……アッハイ……?」

「それにしてもご婦人、なぜこのようなところに? 見たところ、ミコーにも見えぬ……アッ、よもやここの住人であるのかな? もしやこのワラニンギョは貴女が? だとしたらシツレイをしてしまったな! スマヌ!」

「ア、いえ、その……違います。エット、頭を上げてください」

 唐突にドゲザめいて頭をさげるヘヴィドランカーに、女は困ったように言った。

「その……私はイノリといいます。アンダーガイオン第五階層の生まれです」

「アンダーガイオンとな! 手前はネオサイタマの生まれでな。キョートのことは風の噂でしか聞いたことがないが……あれは地下にあるのだろう?」

「は、ハイ。そうです。けど……恐ろしいニンジャに連れてこられて……」

「ニンジャ! なんと痛ましい」

 沈痛な表情を浮かべるヘヴィドランカー。イノリの目に涙が浮かんだ。お思わぬ同情を寄せられたためか、それとも攫われた当時のことを思い出したのか。そこまでは判然としない。彼女自身にもわからぬだろう。

「イ、イケニエが必要だと……モータルの恨みと……ソ、ソウカイヤ? に縁のある者が必要とか……」

「……成る程。だとすれば畢竟、それは手前らが討たねばならぬニンジャかもしれぬ。頼む。他に覚えていることはないかね? 辛いのはワカル。しかし、手前らもまた少しでも情報が欲しいのだ。それが貴女の助けにつながるやもしれぬ!」

「……し、神木がどうのと……シリンダーを背負ったニンジャが……アイエエエエ……」

 両手に顔を埋めるイノリ。もはやこれ以上は語れるまい。「スマンな。本当にスマン。もう少しの辛抱……」ヘヴィドランカーはドゲザめいて頭を下げ、彼女の元をそっと離れるのだった。


◇◆◇◆◇


 一方、本殿入口に留まっていたディスグレイスらにもその会話は聞こえていた。神木。ディスグレイスとキールバックは静かに目配せし、頷きあう。次なる目標はそこだ。

 だが、油断はしていられない。シリンダーを背負ったニンジャ。そのニンジャがここへあのオイランを連れてきたというのであれば……!

イヤーッフィーヒヒヒ!」

【回避】判定(難易度NORMAL)
キールバック:1, 2, 3, 5, 5, 5 成功

「イヤーッ!」上空から降ってきた笑い声混じりのカラテシャウトに、キールバックは側転退避! 数秒後、彼女の立っていた場所に入れ違いで着地したのはガスマスクめいたメンポの痩身ニンジャ!

「フィーヒヒヒ! 惜しい! 紙一重で直結相互循環失敗! ……薄紙一枚隔てて! フィーヒヒヒ!」

 痙攣するような笑みをこぼし、アンブッシュ者はディスグレイスを、そしてその背後に退避したキールバックを見やる。そしてさらにクスクスと笑った。

「それにしても……ソウカイヤのミコー! それに……ソウカイヤの……女子小学生! あ、甘し!」

「そんな小さくありません! もうジュニア・ハイスクールに行ける歳ですから!」

「つまりソウカイヤの女子中学生? ……成る程。ポエム」

 怒鳴り返すキールバックに、アンブッシュ者は腕組みして深く頷いた。ディスグレイスは仕掛けない。まだアイサツが済んでいないというのもあるが……その者が背負うシリンダー。それにニンジャ第六感が警鐘を鳴らしている。

「イヤーッ!」

 その横に連続バック転でやってきたヘヴィドランカーが並ぶ! 最後に捻りを入れて着地した彼女は中腰姿勢となり、掌を上に差し向けアイサツを繰り出す!

「ドーモ! 手前、生まれも育ちもネオサイタマ! 故あってソウカイヤに助太刀しておるヘヴィドランカーと申します!」

「……アー……ドーモ。はじめまして。ソウカイヤのディスグレイスです。こちらはキールバック=サン」

 思い出したかのようにディスグレイスがアイサツを繰り出す。キールバックもアンブッシュ者から距離をとりつつオジギした。

 いまだ腕組みを保つモスキートは、怪訝な目でヘヴィドランカーを見やる。そしてクネクネとした動作でオジギを返した。

「丁寧なアイサツ、痛み入る。しかし俺はその流儀には詳しくない……ので、こちらの流儀で返させてもらう! ドーモ! 俺はモスキート! 所属はザイバツ・シャドーギルド、階級はアデプト! ……と言っても、ネオサイタマの諸君には伝わらんだろうが」

「……キョートのニンジャというのは、もう少し上品かと思っていましたが」

 ディスグレイスがゆらりと構える。その目に妖光が煌めいた。ヘヴィドランカーやキールバックらも同様にカラテを構え臨戦態勢!

「単刀直入に聞きます。ツーオクロック=サンはどこです?」

「フィーヒヒヒ! さてね? 俺は今、彼の使い走りで忙しいのだ。アンダーガイオンから婦女子……もとい、モータルをこのゼンめいたジンジャ・カテドラルにエスコートする役得……違う、任務! わかるかね?」

「ええ。よくわかりました。ザイバツのニンジャの程度が」

「フィヒッ、俺だけを見てザイバツニンジャを判断するのは実に早計! それにソウカイヤの皆様はキョートの土地にも不慣れだろう? 僭越ながらこの俺がガイド役を務めさせていただこう……もっとも、アノヨまでの道のりになるがね!」

 ディスグレイスが顔をしかめる。なんともやりにくい相手ではあるが……この場を切り抜けなければノロイを解くどころの話ではない。早急にカラテで殺す。本殿内の空気が渦巻き、凝縮した。


【ウェン・ユー・カースド・サムワン……】その2終わり。その3へ続く  

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