忍殺TRPGソロリプレイ【ウォッシュ・ハー・フィート】

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながニンジャスレイヤーのシナリオを遊んだ結果をもとに作成したテキストカラテ(二次創作)です。いわゆるリプレイだ。気楽に読めるよ。

 今回挑戦させていただいたのはラブサバイブ=サンの【洗車ドー大作戦!】です。


 ニンジャが出て車を洗う! そのようなシンプルなソロシナリオだ。

 今回の挑戦者はこいつ。名前だけ出ていたニュービーニンジャ、シングルラブルだ。

ニンジャ名:シングルラブル
【カラテ】:3                【体力】:3/3
【ニューロン】:4           【精神力】:4/4
【ワザマエ】:2           【脚力】:2
【ジツ】:3(ブンシン)      【万札】:0
近接攻撃ダイス:3
遠隔攻撃ダイス:2
回避ダイス:4

【アイテム】:
 『オーガニック・スシ』

【スキル】:
 ○テッポダマ
 ◉滅多打ち

【説明】
 小規模ヤンクチームの元チームリーダー。抗争の果てにニンジャとなる。
 ジツを頼りに無鉄砲な殴り込み行為を繰り返していたところをスカウトされた。
 同じジツを操り、自分より高いカラテを持つディスグレイスにソンケイを抱く。

 ワザマエ低めのこのニンジャは、果たしてちゃんと洗車できるのか。やってみよう。よろしくおねがいします。



◇本編な◇

 トコロザワ・ピラー、正面玄関。クローンヤクザめいてきっちりとした待機姿勢を取り、じっと待ち続ける少女の姿あり。ヤクザスラックスにヤクザジャケット。見た目に幼さは残るものの、その年齢にしては体格がいい。そのバストは豊満であった。

 ブロロロロ……重苦しい灰色の雲を無愛想に見上げていた少女の顔がぴくりと動く。彼女が向き直った先に滑らかに停車したのは防弾ヤクザベンツだ。まず降り立った運転クローンヤクザが駆け足で後部座席まで赴き、恭しくドアを開ける。

 そこから降り立った自らの上司に、少女は120度のオジギ!

「ディスグレイス=サン! オツカレサマデス!」

「あら。ドーモ。シングルラブル=サン」

 改造ミコー装束の女ニンジャは、少女の姿を認めて微笑した。右袖から先は失われている……ように見える。

 顔を上げた少女……シングルラブルは改めて上司の姿に背筋を伸ばす。金色の妖光を湛えるヘビめいた瞳。その顔や胸元に浮かぶアザめいた鱗。同じニンジャとは思えない、シンピテキすら感じさせる姿であった。

 ディスグレイス。その肩書は多い。スカウト部門筆頭補佐、グレアリング・オロチ・ヤクザクランのオヤブン、シックスゲイツ候補生……そしてキキコミ社の現社長。自らのカラテとジツでその全てを掴み取った、真のヤクザ。少なくともシングルラブルはそう認識していた。

 カラコロとゲタを鳴らして横を通り過ぎようとしたディスグレイスが、ふとシングルラブルの真横で足を止める。そして防弾ヤクザベンツを見やり、少し考え込んだようだった。

「……シングルラブル=サン。一つ頼まれてくれませんか」

「ハイ! オネエサンの言うことでしたら、なんでも!」

「あら。言いましたね? ではまず一つ。手間をかけて申し訳ないんですけれど、ヤクザベンツを綺麗にしておいてもらえますか?」

 その言葉に改めてシングルラブルは防弾ヤクザベンツを見やる。よくよく見ればいつも輝かんばかりの車体はどことなくくすんでいるように見えた。

「こちらの会議に間に合わせるために急がせたから、少し汚れてしまったようなんです。一応は支給品ですし、綺麗にしておかないと」

「わかりました! オレ、やっておきます!」

「ウフフ! 元気がいいですね。いいことです。……この子に鍵を」

「ハイ、ヨロコンデー」

 運転クローンヤクザに声をかけつつ、ディスグレイスがシングルラブルにそっと握らせたものがある。いくらかの万札だ。

 シングルラブルが頭を下げるより早く、ディスグレイスはトコロザワ・ピラー内へと歩み去っていった。

「ドーゾ」

「あ……ど、ドーモ」

 無表情に手渡されたヤクザベンツのキーを、シングルラブルはどぎまぎしながら受け取った。改めて鎮座する防弾ヤクザベンツを見やる。その輝きを失っている、オネエサンの脚を。

(見ててください、ディスグレイスのオネエサン。ぜってーピカピカに磨き上げてやります!)

 心中でキアイを入れたシングルラブルは、決然と運転席まで向かっていった。


◇◆◇◆◇


 とはいえ、だ。

 クルマを洗うからには洗車場までクルマを移動する必要がある。これは当然のことだ。そしてシングルラブルにクルマを担いで歩くようなカラテはなく、なによりその手にはキーがある。つまり。

「う……ウオオ……」

 自然、この防弾ヤクザベンツを運転していく必要があるというわけだ。運転席に座ったシングルラブルは静かに打ち震えた。座り心地からして違う。

 彼女は深呼吸を繰り返す。罷り間違っても運転中に傷をつけるなどあってはならない。それはソンケイするオネエサンを傷物にするも同然の愚行である。

 ……実際のところ、ディスグレイスはそこまで確立したヤクザ意識を持ち合わせていない。仮にシングルラブルがクルマを傷つけたところで、苦笑と軽い注意で済ませるだろう。今のシングルラブルがそれを知ることもない。

 数分のコンセントレーションを終えたシングルラブルは、ようやくそろそろとクルマを発進させる。なんとしても無事に洗車場にたどり着く。今の彼女はそれしか頭にない。

 ……ゲコクジョ精神を持ち合わせるニンジャであれば、ヤクザベンツのセキュリティを取り外し卑劣なトラップを仕掛けディスグレイスを亡き者にしようと考えたかもしれぬ。だがシングルラブルはそんな思考を過ぎらせる余裕すらなかった。

 仮にこのクルマになんらかのトラップが仕掛けられたところで、それでディスグレイスを仕留められるかは大いに怪しい。彼女に宿るニンジャソウルは強大である。もっとも、今のシングルラブルにはなんの関係もない。

セキュリティ解除はしない

 

◆◇◆◇◆


 そしてシングルラブルの乗る防弾ヤクザベンツはようやく洗車場にたどり着いたというわけなのだ! クルマから降り立ち、静かにドアを閉めた彼女の額には既に汗が滲んでいる。

「スゥー……ハァー……よし! ヤルゾ!」

 キアイを入れ、心機一転! シングルラブルは改めて防弾ヤクザベンツを見やり、その汚れを測る……

初めに6面ダイスを1つ振り、出た目をマイナスとした値が初期の『洗車値』となる。例えば1が出れば『洗車値』は「-1」、6が出れば「-6」となる。つまり、この時の出目が大きいほど不利。現在の【体力】を上回る出目が出てしまった場合は1度だけダイスを振り直しても良い。
1d6 → 3
洗車値:-3

「ンー……これくらいなら水だけでキレイにできっかな」

 しげしげとヤクザベンツの周囲を歩き回り、確認していたシングルラブルはそう結論つけた。砂埃が車体のあちこちにへばりついている程度。洗剤も必要あるまい。状況判断を終えたシングルラブルは腕まくりし、バケツとゾーキンを借りにいった。

【体力】か【精神力】を1支払い、【ワザマエ】で難易度:NORMALの判定を行う。【精神力】を追加で消費することで【精神力成功】もできる。
判定に成功した場合は『洗車値』が+1される。6の出目が2つ以上あった場合は更に『洗車値』を+1。判定に失敗した場合は『洗車値』は上昇しない。
一回目
【精神力】4→3
(5,6) 洗車値:-3→-2
二回目
【精神力】3→2
(4,5) 洗車値:-2→-1

「フンフン……フンフフーン……」

 鼻歌を歌いつつも、シングルラブルは丁寧にヤクザベンツを磨き上げていく。ここで力任せに汚れを拭いとろうとすれば、かえって車体を傷つけてしまうだろう。注意を払い、繊細に。

 と、その時だ!

ハプニング!
1d6 → 3 ヨタモノ襲来

「ヘーイ彼女! いいクルマ乗ってんじゃん!」

「アア……?」

 横合から飛んできた声に、シングルラブルは顔をしかめた。見れば馴れ馴れしい様子でヨタモノめいた男が近づいてくる。

「まだガキなのに大したクルマ乗ってんじゃん? 生意気」「イヤーッ!」「グワーッ!?

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
(2,3,6) 成功

 ヨタモノがキリモミ回転しどこかへ吹き飛んでいく! 一瞬にしてカラテを叩き込んだシングルラブルはザンシンした。一眼見ればわかる。あれは因縁をつけにきた目だ。ハナから相手にする必要なし!

「オトトイキヤッガレ! ……と、いけねえ! 早くオネエサンのクルマ磨かねえと!」

三回目
【体力】3→2
(3,4) 成功 洗車値:-1→0

「……ふう。こんなもんかな」

 乱暴に額の汗を拭い、シングルラブルは息をつく。おお、ゴウランガ。砂埃に覆われていた車体は今や元の輝きを取り戻すまでになっていた。

 腕組みし、頷いていたシングルラブルは……ふと首を傾げる。たしかに綺麗にはできたが、これで良いものだろうか。

ただ汚れを落とすのではなく、ピカピカに磨き上げる必要がある。【ワザマエ】判定の基本難易度がHARDに上昇する。

(いや、まだだ! もっと磨き上げて、オネエサンを驚かせてやる!)

「イヤーッ!」

 シングルラブルは再びヤクザベンツへと挑む!

四回目
【精神力】2→1
(4,5) 成功! 洗浄値:0→1

 細心の注意を払い、さらにヤクザベンツを磨き上げていくシングルラブル。一度車体に水をかけ、そこからさらに磨き上げればよりよくはならないだろうか。シングルラブルは洗車ノズルを握り……

ハプニング!
1d6 → 5 妙な予感……
【ニューロン】判定(難易度NORMAL)
(3,4,4,5) 成功

「……おっと。いけね」

 不意に力みすぎていたことに気づき、深呼吸をしてリラックスした。力加減を間違えていれば、頭から水をかぶる羽目になっていたかもしれぬ。冷静に、冷静に。

 一通り水をかけ終えてから、シングルラブルは改めて防弾ヤクザベンツを磨き上げにかかった。

五回目
【体力】2→1
(4,5) 洗浄値:1→2
六回目
【精神力】1→0
(6,6) サツバツ!? 洗浄値:2→4

「ハァーッ、ハァーッ……よぉーし、いい感じに仕上がってきたんじゃねえか?」

 慣れぬ細かい作業に汗をかきながらも、シングルラブルは満足げに笑った。そのバストは豊満である。防弾ヤクザベンツはすでに新品同様……あるいはそれ以上の輝きを放っていた。

ハプニングタイム!
1d6 → 6 これは……?

「精が出るねぇ」

「……アァ?」

 すぐ横からかけられた声に、シングルラブルは反射的に顔をしかめて振り返った。そして声の主を見やって目を白黒させる。

 そこにはヤクザカマロ。そしてその傍に立つハッカーめいた派手な女。そのバストは豊満である。それはいい。シングルラブルを当惑させたのは女がPVCビキニ姿だったから……ではない。

 シングルラブルは数秒迷ってから、オジギを繰り出した。

「ドーモ。シングルラブルです」

「ドーモ。シングルラブル=サン。ライトニングウォーカーです」

 ハッカーめいた女もまたオジギを返す。ナムサン! ニンジャなのだ! 警戒するシングルラブルに、ライトニングウォーカーは気さくな様子で笑いかけた。

「そんなコワイ顔しなくてもいいのに。あれでしょ、あなたも上司のクルマ洗ってるクチでしょ?」

「エッ……ナンデ」

「だってそのヤクザベンツ、ソウカイヤの支給品じゃない。つまりあなたもソウカイニンジャ。私と同じ!」

 ビッ、と勢いよく自分を親指で指し示し、ライトニングウォーカーはウインクを決めた。唖然としていたシングルラブルもようやく事情が飲み込める。

「エッ、アッ……その、スンマセン。オレ、ソウカイヤ入ったばかりで、他のニンジャあんまり知らなくて」

「いいって、気にしなくて。最近ニュービーすっごく多いもんねー。で、あなたは誰のクルマ洗わされてるの?」

「あ……洗わされてるんじゃなくて自分から洗ってンスよ! なんてったってディスグレイス=サンのクルマッスから!」

「あー、ディスグレイス=サン! 私も昔お世話になった! 最近会う機会ないんだけど、どう? 元気にしてる?」

「エッ……ト」

 何気ない質問に、シングルラブルは思わず言葉を詰まらせる。不意に脳裏によぎったのは少し前の出来事。リムジン護衛任務前夜の……

「……その、めっちゃ元気です……よ?」

「……ゴメン。普通にデリケートなところ踏み抜いちゃったね」

「あ、いや! そういうんじゃ……!」

「今さらごまかされても」

 シングルラブルは顔が熱くなるのを感じる。ディスグレイスが『そうした』嗜好の持ち主というのはもはや公然の秘密のようなもの。その手の噂は多い。オネエサンの悪口を聞けばすぐ殴りかかるシングルラブルも、そうした噂に関しては曖昧に見逃す他ないのだ。

 ともかく。

「アー、なんかゴメンね? お詫びといっちゃなんだけど、これ使う?」

 そう言って差し出されたのは使いかけの洗剤とワックス。シングルラブルは目を丸くしてライトニングウォーカーを見つめた。

「いいんスか?」

「うん。そろそろ私は切り上げようと思ってたんだけど、余っちゃって。それなら他の人に使ってもらうほうがいいじゃない?」

「おお……! アリガトゴザイマス! ライトニングウォーカーのオネエサン!」

「オネエサン!?」

 なぜか驚くライトニングウォーカーからありがたく洗剤とワックスを受け取ったシングルラブルは、ヤクザベンツに向き直り……グゥゥゥ……

「あ」

「なに、ご飯食べてないの?」

「アー……ずっとやってたから……手持ちのスシがあるんで平気ッス! スンマセン!」

「ならいいけど。……私もなんかスナック買ってこようかな……」

 改めて一礼し、立ち去っていくライトニングウォーカーの背を見やるシングルラブルは、ふと気になって言葉を投げかけた。

「……あのー! なんでそんな格好なんスか!?」

「エッ? 洗い物するんならこの格好の方が効率よくない……?」

「あっ、そっスね」

 なぜそんな当たり前のことを聞くのか、とでも言いたげな顔で見返され、シングルラブルはなぜか決まりの悪い気分になった。去っていくライトニングウォーカーに再度頭を下げてから、ヤクザベンツの中に置いていたスシを持ち出す。

 それにしても。と、スシを頬張るシングルラブルは思う。自分もああいう格好をすれば、オネエサンは喜んでくれるのだろうか。不意に恥ずかしくなった彼女は、慌てて頭を振ってその考えを振り払った。

『洗剤』『ワックス』獲得
『オーガニック・スシ』使用 【体力】1→4
七回目
【体力】4→3
(1,3) 失敗
八回目
【体力】3→2
(2,5) 洗浄値:4→5
ハプニングタイム
1d6 → 4

「ハァ……マジでライトニングウォーカーのオネエサンの真似したほうがいいかもしんねぇ……」

 汗で身体にへばりつくシャツを鬱陶しげに剥がしつつ、シングルラブルは休憩を取る。ワックスのおかげもあり、ヤクザベンツはもはやピカピカだ。ディスグレイスのオネエサンもきっと褒めてくれるだろう。

「……おっと!」

 シングルラブルは慌ててヤクザベンツを飛び越え、飛んできた野球ボールをキャッチ! 申し訳なさげに頭を下げる子どもの姿を見つけてから、そちらへと投げ返した。

「ハァーッ……よし! 最後の仕上げといくか!」

九回目
【体力】2→1
(3,5) 洗浄値:5→6
十回目
【体力】1→0
(4,5) 洗浄値:6→7
ハプニングタイム
1d6 → 5
【ニューロン】判定
(2,3,6,6) 成功

「ゼェ……ゼェ……も、モウダメダー……」

 洗車ノズルを元に戻し、シングルラブルは荒い息を吐く。スシで取り戻したカラテも使い切った。だが、見よ! ヤクザベンツに宿った輝きはもはや宝石めいている!

 シングルラブルは笑みを浮かべる。疲労こそ見えたが、充実した笑みを。後はこのヤクザベンツをトコロザワ・ピラーへ送り届けるだけだ。


◇◆◇◆◇


 その道中、運転席に座ったシングルラブルは苛立たしげにハンドルを指で叩いた。こんなときに限って渋滞。オネエサンの会議もそろそろ終わる頃だというのに。

 自分にカラテがあれば、前のクルマを投げ飛ばしてでも急ぐのだが……疲れからかそんな突拍子もない想像が脳裏を過ぎった。そのとき!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

「な、なんだァ!?」

 聞き間違えようもないカラテシャウトに、シングルラブルは慌てて目を凝らす。クルマの屋根から屋根をハッソー・リープめいて飛び渡り接近する影! 疑いようもなくニンジャ!

 その片方の装束にはクロスカタナのエンブレム。そしてもう片方は……赤黒の……

「……ってオイ!」

 シングルラブルはそこにきて眼前に迫る非常事態に気づく! このままではあのニンジャたちはこのクルマを踏み締めていくだろう。せっかく磨き上げたオネエサンの脚を!

【回避】判定
(1,2,4,5) 成功

「ザッ……ケンナコラー!」

 シングルラブルのニューロンが急速回転! 彼女は手元のハンドルを勢いよく切り、無理やりニンジャたちの進行ルートから逃れる! そのコンマ数秒後!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 すぐ横のクルマを踏み締め、遠ざかっていくニンジャたち。車窓から顔を出し罵声を飛ばそうとしたシングルラブルは黙り込む。赤黒のニンジャが、一瞬こちらに視線を向けていた気がしたからだ。

「……チェッ! こっちの迷惑も考えろってんだ!」

 ぶつぶつとこぼしながらも、シングルラブルは運転に集中する。ようやく道路の流れが元に戻ろうとしていた。


◇エンディング◇

 ……数十分後! トコロザワ・ピラー正面ロビー前で待つ改造ミコー装束の女を見て、シングルラブルは青ざめた。その眼前にヤクザベンツを横付けし、慌てて運転席から降りてオジギ!

「おっ、お待たせしてスンマセン! オネエサン!」

「ああ、いえ。大して待ってません。……あらまあ。ずいぶんと張り切ったのですね」

 後半の言葉は、ヤクザベンツを見てのもの。感嘆の声だ。オジギ姿勢のまま、シングルラブルは心中で快哉を叫んだ!

「そりゃもう! オネエサンと思って丹念に磨き上げましたから! エット、ライトニングウォーカーってオネエサンが色々融通してくれたりもして」

「まあ、ライトニングウォーカー=サンが? それはそれは……日を見つけてお礼にいかないといけませんね」

 微笑したディスグレイスは、胸元からサイフを取り出し万札を数枚取り出す。そしてシングルラブルの手に握らせた。

洗浄値:7
【万札】3→10

 嬉しげに顔を綻ばせたシングルラブルは、ふと帰りに遭遇したトラブルを思い出し姿勢を正す。

「あの、オネエサン。戻る途中、イクサしてるニンジャと出っくわしまして」

「……ほう。どのような」

「一人はソウカイニンジャだと思います。オレの知らないニンジャですけど……もう一人は赤黒の」

「アーレアヤクタエスト=サン」

「エッ?」

「そのソウカイニンジャの名前です。……先ほど、バイタルサインが途絶えたばかり。成る程、死神と出くわしていたというわけですか」

 ディスグレイスが目を細める。先ほどとはまるで違う、静かな威圧感さえあった。シングルラブルはおずおずと尋ねる。

「その……強かったンスか。アーレア……エット」

「アーレアヤクタエスト=サンは古代ローマカラテの使い手。スカウト部門筆頭補佐にも選ばれるほどの実力者です」

 シングルラブルは息を飲む。スカウト部門筆頭補佐といえば、ディスグレイスと同じ立場ではないか。ミコー装束の女は沈痛な溜息をついた。

「キールバック=サンとシャープキラー=サンが筆頭補佐に昇格したばかりだというのに……あの二人にも注意するよう言っておかなければ」

「……その、オネエサン」

「ん?」

「お、オネエサンも気をつけてください……あ、いえ! あんな赤黒いだけの奴にオネエサンが負けるはずはないンスけど!」

 慌てて言い繕うシングルラブル。きょとんとしていたディスグレイスは、すぐに口元を緩ませた。

「ええ、ありがとう。シングルラブル=サン。……さて、もう一つお願いがあるのですけれど」

「ハイ! なんですか!?」

「貴女は丹念にクルマを磨き上げてくれました。わたくしの代わりとして。だとすると、わたくしも貴女を磨き上げてあげねばと思うのです」

「ハイ! ……はい?」

 なにか嫌な予感がする。ディスグレイスは左手だけでシングルラブルを担ぎ上げると、そのままヤクザベンツ後部座席へと乗り込んだ。いつの間にか運転席に戻っていたクローンヤクザが滑らかにクルマを発進させる。

「ああ、こんなに汗で汚れて。戻ったらお風呂ですね。一緒に」

「ああ、あの」

「心配しなくてもいいですよ? 明日は休暇とします。なので今夜はゆっくりと楽しみましょうね」

「あの、エット……」

「前回は翌朝に任務を控えていましたからね。少し抑えめになってしまったから……」

「エッ、アレで抑えてたンスか?」

 思わず口をついて出てしまった言葉を、シングルラブルは押さえ込もうとした。当然間に合うはずもない。ディスグレイスはにっこりと笑った。愉しげに。

 今夜は果たして寝かせてもらえるだろうか。ヘビに睨まれたカエルめいて震えるシングルラブルは、ただそれだけを考えていた。


【ウォッシュ・ハー・フィート】終わり



◇後書きな◇

 シングルラブル、【ワザマエ】2にしてはかなり頑張ってクルマを磨き上げる。彼女はノーサイバネだが、仮にローンを組んでいてもなんとか首の皮一枚繋がっていただろう。

 さてこのソロシナリオで得られる余暇は1日。少し卑怯だが、彼女もグレアリング・オロチの一員なので模様替えをする。

 前回オイランとハッカーが稼いだプール金を使い、オイランドロイドを一体購入。つまり、こうだ。

ヤクザクラン資金【万札】41→11
オイランドロイド導入

画像1

 それはそれとしてシングルラブルはカラテトレーニング。つまり、こうだ。

【万札】10→7
1d6 → 2 振り直し
1d6 → 4 成功

 最終的にこうなる。

ニンジャ名:シングルラブル
【カラテ】:4                【体力】:4/4
【ニューロン】:4           【精神力】:4/4
【ワザマエ】:2           【脚力】:2
【ジツ】:3(ブンシン)      【万札】:7
近接攻撃ダイス:3
遠隔攻撃ダイス:2
回避ダイス:4

【スキル】:
 ○テッポダマ
 ◉滅多打ち

【説明】
 小規模ヤンクチームの元チームリーダー。抗争の果てにニンジャとなる。
 ジツを頼りに無鉄砲な殴り込み行為を繰り返していたところをスカウトされた。
 同じジツを操り、自分より高いカラテを持つディスグレイスにソンケイを抱く。

 カラテが伸びた。たぶんディスグレイスにつきっきりでトレーニングしてもらったのではないか?

なお、アジトプール金はこう。

オイラン:(1,2,2,3,4,5,6) 【万札】17
ハッカー:(1,3,3,4,4,5) 【万札】20
プレジデントルーム:37÷4→【万札】10
グレアリング・オロチ資金【万札】11→59

 ミニオンが稼いだお金は基本的にアジトのリフォーム代に使われることだろう。

 では、ここまで読んでくださった皆様方。そして楽しいシナリオを書き上げてくださったラブサバイブ=サン! ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!


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