忍殺TRPGソロリプレイ【ハウ・トゥ・クック・ニンジャ】

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながソロシナリオを遊んだ際の記録を元に書き上げたテキストカラテ……俗に言うリプレイとなります。気楽に読めるよ。

 今回挑戦させていただいたのはラブサバイブ=サンの【パティシエ・スクールの罠】です。

 数々の罠を潜り抜け、ハンコと権利書を盗み出せ! その横で甘い予感がするソロシナリオとなっております。

 今回の挑戦者はこいつ。いつも明るく貴方のハートをアサシネイト! なシャープキラーです。

ニンジャ名:シャープキラー
【カラテ】:7(+1)      【体力】:8/8
【ニューロン】:5(-1)       【精神力】:4/4
【ワザマエ】:4(+1)       【脚力】:5
【ジツ】:1(カラテミサイル)   【万札】:4
近接攻撃ダイス:9
遠隔攻撃ダイス:5
回避ダイス:9

【特筆事項】:
【名声】:5
**バスタード・カタナブレードツルギ**はアジトに保管

【装備品】:
カタナ

【サイバネ】
▶︎ヒキャク
▷ブースターカラテ・ユニット

【スキル】:
●連続攻撃2
○キラーマシーン教育

 カラテの成長の壁を超え、一端のサンシタになってきた感がある。今回は潜入ミッションのため、遺跡で見つけたバスタード・カタナブレードツルギはお留守番です。

 ではやってみよう。よろしくおねがいします。


◇オープニング◇

 重金属酸性雨がビル前に設置された「カシワザキ・パティシエ・スクール」の大理石看板を濡らしていく。周辺の市民へ向けた手軽な菓子教室から和菓子・洋菓子職人の育成までを手掛けるこの学舎に危機が迫っている……その事実を認識する市民は数少ない。

 今、このパティシエ・スクールは岐路に立たされていた。ネコソギ・ファンドからの出資の申し出が賄賂コーベインとともに送られてきたのである。これを受け入れるということはつまり、ヤクザ組織ソウカイヤの傘下に入ることとなり、市民の憩いの場であるこのスクールの経営方針が完全転換させられてしまうことを意味していた。

 もっともカシワザキ・パティシエ・ハイスクール経営陣はこの申し出を断った。ネオサイタマの事情を知らないのか、あるいは独立独歩の気炎を吐いたか。いずれにせよ、無謀と言わざるを得ない。

 なぜならば、見よ。ネコソギ・ファンドのチェアマンにしてソウカイヤ首領たるラオモト・カンは既に次の一手を打っている。無慈悲なソウカイ・エージェントが既にカシワザキ・パティシエ・スクールへと足を踏み入れているのだ……!


◇◆◇◆◇


「ドーモ! ギソウ社から参りましたイバ・マツガヤです! アポイントあるんですけどー」

 朗らかな笑顔とともに受付のオイランドロイドへ話しかけているのは、新品の安物スーツを着込んだサラリマン……否、オーエルだ。まだ若い。ハイスクールを卒業したばかりのようにも見える。

「しばらくお待ち下さいドスエ。確認を行いますドスエ」

「ハイハーイ」

 無機質とも取れるオイランドロイドの返答にも愛想良く答えたイバは興味深げに周囲を見渡した。そして……隣で入校受付を行なっている少女に視線を留め、目を細めた。オーバーサイズのブラウスにキュロットスカート。ボディバッグをぶら下げている。なんの変哲もない少女だ。外見だけならば。

 その視線に気づいたのか、少女も不意に顔を上げてイバを見やる。そして不思議そうに首を傾げた。

「あれ。トコロザワ・ピラーで見たことあるような……」

「アッハハ! こんなところでご同業と出くわすとは思わなかった。ドーモ。サードウィーラー=サン。イバ・マツガヤです……この場ではその名前でヨロシクね」

「ドーモ。イバ=サン。サードウィーラーです。……その、ゴメンナサイ。どこかでアイサツしましたっけ? 思い出せなくて」

「あ、気にしなくていいよ。趣味でね、仲良くなれそうなニンジャの名前と顔はだいたい頭に叩き込んでるだけだから」

 こめかみを指で叩き、イバは悪戯っぽく笑いかける。オイランドロイドの確認作業が続いていることを確認し、目を丸くしているサードウィーラーへ気軽な調子で言葉を投げる。

「私はこれから仕事なんだけどさ。サードウィーラー=サンはどうしてここに?」

「あたしですか? せっかくのお休みなので、お菓子作りとか習ってみようかなって。ほら、体験入学は無料なんですよ、無料!」

「お菓子作りかぁー。いいねぇ」

 楽しげにパンフレットを掲げながら説明するサードウィーラーを、イバ・マツガヤは微笑ましく眺める。おそらく彼女が最後の受講生の一人となるだろう。

「そうだ! せっかくですから、美味しく作れるようになったらご馳走しますね!」

「エ、本当? そりゃ嬉しいな。甘いものは好きなんだ」

「エヘヘ、楽しみにしててくださいね。それじゃあ、あたしはこれで! カラダニキオツケテネ!」

「ハーイ、オタッシャデー」

 無邪気な笑みを残して去っていくサードウィーラーの背に、イバ・マツガヤは軽い調子で手を振った。そこにオイランドロイドがカードキーを差し出す。

「お待たせしましたドスエ。このキーで中層営業フロアへ入室できるドスエ。もしも上層フロアへ無断入室した場合の、命の保証はできないドスエ」

「ワー、コワーイ! アリガトネ!」

 おどけた答えを返しつつ、イバ・マツガヤはカードキーを受け取り軽い足取りでエレベーターへ。

 まずはこれで第一関門突破というわけだ。カードキーを通し、28階……上層フロアへのボタンを躊躇なく押す。イバ・マツガヤは大きく伸びをし、ストレッチを始めた。

 察しのいい読者であれば、彼女がオーエルなどではないことを看破していることだろう。そもそもギソウ社などというカイシャは存在しない。ソウカイヤが偽装アポイントのためにでっち上げた架空の存在に過ぎない。

 イバ・マツガヤ……またの名をシャープキラー。ソウカイヤのニンジャ・エージェントの一人である彼女の目的は、このカシワザキ・パティシエ・スクールのハンコと権利書である。楽しげに料理教室へ向かうサードウィーラーを見ても、彼女の良心が呵責に苛まれることはなかった。


◇本編◇

「では、チョコレートを刻んで溶けやすくしましょう。マナイタにチョコレートを置き、包丁で刻んでください」「「「ハイ、センセイ!」」」コックコート装束の講師の示す手順どおり、エプロン姿の生徒達は包丁を手に取った。サードウィーラーもまた、緊張の面持ちでチョコレートを睨む……!

「イヤーッ!」

 28階到着! シャープキラーはフロアへと躍り出る!

……最上位権限を確認できないドスエ。トラップを作動するドスエ。死にたくなければお戻りくださいドスエ

「アッハハハ! コワーイ!」

 無慈悲なオイランアナウンスにも、シャープキラーは笑顔を絶やさない。その頭上に今、作動したギロチントラップの刃が振り下ろされる! ナムアミダブツ!?

「イヤッハー!」

 否だ。刃がその身体を真っ二つにする寸前、シャープキラーはノーモーションから急加速! 色つきの風めいて廊下を走り抜ける! わずか遅れて動作したギロチンが虚しくその残像を切りつけた。

シャープキラー:移動
【脚力】5のため問題なくトラップ突破

 ギロチントラップ地帯を抜けたシャープキラーは急停止。その背後、最後のギロチンが彼女の背中すれすれに振り下ろされる。だが、それだけだった。

「いつぞやのニンジャ要塞と比べたらイージーだよね。アハハ」

 状況にそぐわぬ朗らかな笑みを残し、シャープキラーは軽い足取りで上層階フロアの奥へと歩を進める。


◇◆◇◆◇


「チョコレートを刻んだら、次にそれを温めて溶かしましょう。お湯の上にチョコレートを入れた器を沈め、溶けるのを待ってください」「「「ハイ、センセイ!」」」コックコート装束の講師の示す手順どおり、エプロン姿の生徒達は刻んだチョコレートを器に移した。サードウィーラーもまた、緊張の面持ちで溶けていくチョコレートを睨む……!

「ウーン?」

 シャープキラーは進行を遮るドアを前に首を傾げる。ドアにはUNIXパネルが備えられており、ここにパスワードを入力……あるいはハッキングによって破壊して解錠ができる仕組みとなっていた。

 だが問題はそこではない。シャープキラーは油断なくドアの周辺を見やる。そこから昇り立つ陽炎を。高温を発しているのだ。解錠に手間取ればそのぶん体力を奪われる設計!

「なかなか独創的なトラップだよね」

 誰にともなく呟いたシャープキラーは無造作にドアノブを握り、捻る。パキン、と済んだ音が響いた。

シャープキラー:【カラテ】判定(難易度NORMAL)
1, 2, 2, 4, 5, 5, 6, 6 成功

 シャープキラーは微笑し、そのままドアノブを引く。瞬間的なカラテ開放によりロック機構を破壊されたドアはなすすべなくその役目を放棄した。シャープキラーは軽い足取りで上層フロアの奥へと歩を進める……!


◆◇◆◇◆


「溶けたチョコレートに、卵黄とバターを混ぜましょう。卵を器に割り入れてください」「「「ハイ、センセイ!」」」コックコート装束の講師の示す手順どおり、エプロン姿の生徒達は卵を割る。サードウィーラーもまた、緊張の面持ちで落下する卵黄を見守る……!

「イヤーッ!」

 カラテで捻じ開けたドアから一歩を踏み出したシャープキラーは、トラップ作動の気配を感じとり頭上を蹴り上げる! その革靴から突き出たサイバネ刃が落下物を無慈悲に切り裂いた!

シャープキラー:【回避】判定
1, 1, 4, 5, 5, 5, 6, 6, 6 成功

 カランカランカラン! 両断されたトラップがシャープキラーの両脇に落下し、けたたましい金属音を立てた。眉をひそめて落下物の正体を覗き込んだシャープキラーは、さらにその表情を怪訝なものとする。

「……タライ?」

 然り。シャープキラー目掛けて落とされたのは黄金色のタライであった。バラエティー番組などで使われているものとは違い、相当な質量。まともに受けていれば脳震盪は免れなかったかもしれぬ。

 とはいえ。

「……ここでトラップ設置の資金が尽きたのかな。ギロチンでいいだろ……」

 納得がいかず呟きが漏れる。シャープキラーはやや機嫌を悪くしつつも、上層階フロアの奥へと歩を進めていく……!


◇◆◇◆◇


「以上で、チョコレート生地のできあがりです。なおご家庭では、チョコレートを電子レンジなどで溶かしても良いですよ」「「「ハイ、センセイ!」」」コックコート装束の講師の言葉に、エプロン姿の生徒達は息を吐く。サードウィーラーも緊張の面持ちを和らげた。だがしかし、今日の講座はまだ続くのだ……!

 結局あのタライ・トラップでこの階層のトラップは打ち止めであった。最上階行きエレベーターの中で、シャープキラーは呼吸を整えマインドセットする。第二の関門は突破。だがこれからが楽しい時間。潜り抜けるべきトラップはまだまだ続くのだ……!


◇◆◇◆◇


「それでは、卵の白身を泡立ててメレンゲを作りましょう。これが最も大変な行程です。頑張りましょう」「「「ハイ、センセイ!」」」コックコート装束の講師の示す手順どおり、エプロン姿の生徒達は白身を入れたボウルとハンドミキサーを手に取った。このスクールでは、電動ミキサーの使用は許されていないのである。サードウィーラーもまた、緊張の面持ちでミキサーを構える……!

 『到着ドスエ』淡白なオイランアナウンス音声とともに49階層フロアへの道が開ける。迷信深いものであれば、この階層に一種の不吉さと畏怖を覚えるかも知れない。49は不吉を表す数字だからだ。

 もっともシャープキラーはそのあたりの言葉遊びとは無縁だ。リラックスした様子で廊下を進んでいく……だが、そのとき!

「おっと」

 足を止めた直後、タタミ3枚分前方に轟然と落下する棒状の物質あり! いくつもの剣呑な刃が備えられたそれが高速回転を開始! 廊下を遮る人工竜巻めいた様相となった。殺人ミキサートラップである!

 たとえニンジャであっても巻き込まれればネギトロ必至のトラップを前に、シャープキラーは……満面の笑みを浮かべた。

「そうそう、こういうの! 俄然ヤルキが出てくるね! イヤーッ!

 そしてスリケンを投擲! 狙いは天井、ミキサートラップの基部だ。いかに殺人的回転速度を誇るミキサーであっても、根底を破壊すれば問題がない!

 無論、設計者もそこは考慮していたのであろう。スリケンに基部を傷つけられてもなおミキサーは回転続行! さらに基部の真横から展開したのはマシンガントラップ! BLATATATATATA!

イヤッハー!

 シャープキラーはこれを側転回避! 踵から展開したサイバネ刃を壁に食い込ませて姿勢を固定し「イヤーッ!」再度スリケン投擲! 鋼鉄の星は吸い込まれるように基部へと突き刺さり……KABOOOM! 無慈悲に爆発せしめる! 真横のマシンガントラップも誘爆、無力化!

シャープキラー
【ワザマエ】判定
1, 1, 2, 3, 5 成功
【回避】判定
2, 2, 3, 4, 4, 4, 5, 5, 6 成功
【ワザマエ】判定
1, 4, 4, 5, 5 成功 突破!

「よし。うんうん、今のは歯ごたえあってよかった!」

 壁から回転跳躍し、廊下へと着地したシャープキラーは朗らかに笑う。そして昨日を停止したミキサートラップの横をあざ笑うかのように通過し、ハンコと権利書の待つ執務室へと向かった。


◇◆◇◆◇


「グワーッ! 腕グワーッ!」「アバババーッ!」「お菓子作りがこんなに大変だったなんて……!」

 息も絶え絶えの受講生たちを見渡し、コックコート装束の講師は苦笑する。手作りの温かみを重視するためとはいえ、ここの工程の後はいつもこうだ。

「イヤーッ!」

 とはいえ、今日は例外もいる。あの少女は依然としてミキサーで卵白をかき混ぜ続けており、見事なメレンゲへと昇華させていた。そこから伝わる気迫とカラテに、講師は目を細めた。

「皆さん、お疲れさまでした。最後にチョコレート生地とメレンゲを混ぜ合わせたら、型に流し込んでオーブンに入れましょう」

「「「ハ、ハイ、センセイ!」」」

 十分に時間を取り、仕上げの指示。各々の生地を型に流し込む生徒たちを観察。少しでも手助けが必要なものがあればサポートする姿勢だ。手厚いサポート態勢こそがこのパティシエ・スクールにカネをもたらしているのだから。

 RRRRR。講師は怪訝な顔をする。講義中に教室の備え付けIRC電話が鳴る。よほどのことがなければ控えるよう、指示はしてあるはずなのだが。

「ハイ、モシモシ。……なんですって?」

 だが伝えられた事態は、彼の想像を超えて火急であった。強いて笑顔を作り、講師は受講生たちに声を掛ける。

「えー、皆さん。申し訳ありませんが、私は急用のため席を外します。代わりの講師は、専用にチューンしたドロイド達が引き続き行いますので……」

「ヨロシクオネガイシマスドスエ」

「「「ヨロシクオネガイシマス!」」」

 生徒たちがオジギ。彼女たちが顔を上げたときには、すでに講師の姿はない。

 ヘラを手に取っていた少女……サードウィーラーはふと手を止め、訝しんだ。一瞬、カラテシャウトが聞こえたのは気のせいだろうか?


◆◇◆◇◆


「さて、と」

 49階、執務室! シャープキラーはリラックスした様子で部屋の中を見渡した。隅に設置されているアナログ金庫。おそらくはあの中に目当てのハンコと権利書があるのだろう。

 だが、彼女がまず調べ始めたのは書類に埋もれた執務机だった。(ズボラなやつなら、この中に金庫の鍵とか入れてるかもしれないしね)そんなことを考え、鼻歌を歌いつつ引き出しを調べていく。

 読みは当たった。時間こそかかったものの、執務机の中に放り込まれていた金庫の鍵を発見したのである。「ンー……」だがシャープキラーは煮え切らない。なにか他に重要なものが隠されている気がする。金庫はいつでも開けられるのだから、もう少し調べてみよう……そう考え、執務机漁りを続行!

1ターン〜4ターン:机を調べる
1, 3, 4, 5 成功
1d6 → 1 【万札】4 → 9
1, 2, 3, 5 成功
1d6 → 1 はずれ
1, 1, 2, 6 成功
1d6 → 3 金庫の鍵
1, 3, 4, 5 成功
1d6 → 4 はずれ

 だが、そのとき!「イヤーッ!」カラテシャウトとともに連続側転で執務室に飛び込む白い影! シャープキラーはほくそ笑み、顔を上げた。タタミ数枚分の距離を取りアイサツを繰り出したのは、コックコート装束にコック帽頭巾、衛生マスクめいたメンポの……ニンジャ!

「ドーモ。ブルベドマイトリスです」

「ドーモ。ブルベドマイトリス=サン。シャープキラーです。……アッハハ! まさかニンジャがいると思わなかった!」

 アイサツを返したシャープキラーは楽しげに笑う。一方のブルベドマイトリスは彼女を睨み、菓子作り用のボーを構えた。

「我が城にこそ泥とは片腹痛し! トラップを潜り抜けたことは褒めてやるが……生かしては返さぬぞ!」

「アハッ、気が合うね! 私も貴方を生かして返す気はないよ」

 シャープキラーが無造作にスーツに隠していたカタナを取り出し、イアイを構える。彼女は笑っていた。眼前のニンジャは油断ならぬカラテの持ち主と見た。そういう相手とのイクサ……己の命が失われるかもしれない瞬間の連続……それこそが無味乾燥な人生への最大のスパイスだ。少なくとも、今の彼女にとっては。

 数秒の睨み合い。「「イヤーッ!」」そしてほぼ同時、両ニンジャが跳んだ。


◇◆◇◆◇


チーン! タイマー音を合図に、エプロン姿の生徒達はこぞってオーブンを開け自分のケーキ型を取り出した。サードウィーラーもケーキを取り出す。「ケーキの粗熱を取るドスエ。急に冷蔵庫に入れると傷んでしまうドスエ」
「センセイ! ケーキはウチワで扇いでもいいんですか?」「良いドスエ」その言葉を聞いたサードウィーラーはバッグからペン状の何かをを取り出した。そして勢いよく振る。バサム! それは一瞬にして広がった!こんなこともあろうかと持ち歩いていた扇子である!

 ……重金属酸性雨はカシワザキ・パティシエ・スクールのビル屋上にも平等に降り注ぐ。「イヤーッ!」その一角が蹴り開けられる。そして現れたのは……シャープキラーだった。安物のスーツはところどころ損傷し、白のシャツには赤い血が滲む。息も荒い。満身創痍だ。

「ゲホッ、ゲホッ! ハァー……ハハハ。ちょっとは自信ついたかな、うん」

 血混じりの咳をしつつも、シャープキラーは自身の背負ったバイオフロシキの包みを思い微笑する。その中には目的のハンコと権利書。さらにはカシワザキ・パティシエ・ハイスクールの象徴ともいうべき黄金のミキサー。さらに執念深く執務机を漁りついに見つけた『あるもの』が詰め込まれていた。

 ブルベドマイトリス。油断ならぬ強敵であった。その生首は今、奪取された重要書類の代わりにアナログ金庫の中に収められている。

ブルベドマイトリスとイクサを3ターン
【体力】8→2 【精神力】4→1  【万札】9→23
その後、7ターンかけて『菱形のバッチ』獲得
最後に金庫よりハンコ、権利書、『黄金のミキサー』獲得

「エート……このあたりに……ああ、やっぱりあった」

 シャープキラーは屋上の片隅の非常ボックスに気づいた。それは折りたたみ式の強化カーボンフレームと白い布だ! 彼女は一瞬のうちにこれを背負った。そして紐を引く。バサム! それは一瞬にして大型の背負い式凧となった! 非常脱出用カイトである!

 かつてニンジャ要塞を攻略した経験から、シャープキラーはこのカイトが備えられていることを予測していた。……もっとも最大の脅威をこの手で仕留めた以上、これを使う必要はないといえばない。ただ、帰還の手間は省ける。

 やや足をふらつかせつつも、カイトを背負ったシャープキラーはビル屋上から飛び立った。トコロザワ・ピラーの方角へ。



◇エンディング◇

チャイムの音が、体験入学の終わりを告げる。エプロン姿の受講生は、冷蔵庫から取り出したケーキを取り出すとナイフで切り分けていく。「冷たくてオイシイ!」「アマーイ!」「交換してみませんか?」サードウィーラーも自分のケーキを切り分ける。
「ウーン! 美味しくできたかな?」


◇◆◇◆◇


 ブッダ・テンプルから一日の終わりを告げる鐘の音が響く。ラオモト・カンの前を辞したシャープキラーは大きく息をついた。

 ハンコと権利書を持ち込んだだけではなく、油断ならぬニンジャを爆発四散せしめたこと……さらにそのニンジャが敵対組織ザイバツ・シャドーギルドであることが判明したこと。それがラオモト・カンを上機嫌にし、彼女へさらなる報酬をもたらしたのだ。

■リザルトな■
【万札】23→37 【名声】5→7 【余暇】4獲得

「ザイバツ。ザイバツか……これで私もディスグレイス=サンと肩を並べられるかな? アハハッ……イタタタ……」

 笑った拍子に痛みに苛まれ、シャープキラーは顔をしかめる。客観的に見れば、自分のカラテはまだまだ至らないということか。目指すべき場所は、予想以上に高いところにあるのかもしれない。

 いずれにせよ、今日はゆっくり寝よう。シャープキラーはわずかに足をふらつかせながらも、エレベーターへと向かおうとした。

 そのときである!

「いた! 見つけましたよ!」

「ウン?」

 騒々しい声に、シャープキラーは思わず足を止めた。そこへ駆け込んでくる小柄な少女を見て、彼女は目を丸くする。

「エート……サードウィーラー=サン? どうしてここに?」

「イバ=サン、お仕事だって聞いてましたから。この時間ならまだいるだろうと思って!」

「ア、アー……成る程ね……あと、ここで『イバ=サン』はやめてね。シャープキラーで通ってるから」

「そうなんですか? じゃあ、改めて……ドーモ! シャープキラー=サン! サードウィーラーです!」

「ドーモ。サードウィーラー=サン。シャープキラーです」

 改まった様子のアイサツに、なんだかシャープキラーはおかしくなった。それと同時に訝しむ。彼女が自分に声をかけてきた理由がわからない。

「それで、ええと……何の用?」

「ハイ! あたし、学校でチョコレートケーキ作れるようになったんです! なので約束通り、シャープキラー=サンにご馳走させてください!」

「へ?」

 思わず間の抜けた声が漏れた。シャープキラーは記憶を辿る。たしかにあのとき、そのような会話をしたような。

「……アレ、社交辞令とかじゃなかったの?」

「? なんですかそれ。とにかく、ドーゾ! 感想聞かせてくれるとうれしいです!」

 呆然とするシャープキラーに、サードウィーラーは笑顔でリボンのついた箱を押しつける。「それでは!」そして笑顔で走り去っていった。

 残されたシャープキラーは、戸惑ったように箱を見やる。そしてサードウィーラーの走り去っていった方角を見やり、また箱を見下ろした。

「……ちょっと予想外だな、これ。お返しどうしよ……」

 降って湧いた問題に頭を悩ませつつも、シャープキラーは帰路につく。その頬はわずかに緩んでいた。

【終わり】


◇後書き◇

 ブルベドマイトリス=サンとの激闘を制し、無事ネコソギ成功! 思わぬところでチョコももらって万々歳だ。

 かなりのカネも入ったことだし、いろいろと組み合わせを考えたい。正直ノダチを持たせたいものの、まずはタツジン習得を目指すべきかなあ。

 それはさておき。ここまで読んでくださった皆様方! そして楽しいソロシナリオを提供してくださったラブサバイブ=サン! ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!




 


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