忍殺TRPGソロリプレイ【イントゥ・ザ・マッポー・スカイ】

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながソロシナリオを遊んだ結果をもとに書き上げたテキストカラテ……いわゆるリプレイというやつだ。気楽に読めるよ。

 今回挑戦するソロシナリオは海中劣=サンの【ニンジャの目覚め】です。

 クリアすることでAoSバースによりケイオスをもたらすことができるソロシナリオです。やるしかないよね。

 性質上、このソロシナリオはニンジャメイクから開始する必要があります。どんなニンジャが解き放たれたかはオープニングで触れられるだろう。

 ではやってみよう。よろしくおねがいします。



◇オープニング◇

 揺らぎが彼女の意識を覚醒させた。空気の揺らぎ……あるいはエテルの揺らぎ。そうしたものは存外雄弁に外の変化を教えてくれる。

「ンン……」

 久方ぶりに目を開ける。カンオケめいた石の壁と鉄格子が視界に飛び込んできた。眠りに入る前と変わらぬ風景だ……ただ一つ、鉄格子の外に立つニンジャを除いては。

「オハヨ」

 冷ややかなほどに奥ゆかしいアイサツを送ってきたのは、血を編み込んだかのような半透明のニンジャ装束を纏う女。まがい物めいた美貌にうっすらと笑みを浮かべ、オジギを繰り出す。

「ドーモ。キセイ・ニンジャです」

「ンン……ンンン!」

 アイサツの前にシツレイを押して伸び。なにぶんこの狭苦しい部屋に閉じ込められて、どれほど長い時を過ごしただろうか? 彼女は腕がわりの翼を大きく広げ、一息ついてからようやくアイサツを返した。

「ンン、待たせてすまない……ドーモ。はじめまして。キセイ・ニンジャ=サン。ヴィナタ・ニンジャです」

ニンジャ名:ヴィナタ・ニンジャ(ニンジャ/リアルニンジャ)
【カラテ】:13    【体力】:23/23
【ニューロン】:10      【精神力】:10/10
【ワザマエ】:14      【脚力】:9
【ジツ】:7(遠隔攻撃)  【万札】:0
近接攻撃ダイス:13
遠隔攻撃ダイス:20
回避ダイス:32

【スキル】:
 『●連続攻撃3』『●マルチターゲット』『●時間差』『●連射3』『●疾駆』
 『●タツジン:ソニックカラテ』『●トライアングル・リープキック』
 『●ニンジャ動体視力』『●ブラスト・トビゲリ』
 『●●死の風』『●●ソニックカラテ強化』
 『★★★半神的存在』『★★★不滅』『★★★電光石火』

【説明】
 半人半鳥めいた異形のニンジャ。気ままに飛び、気ままにカラテを振るう。
 羽ばたきの風を刃とし、無造作に殺す。
 かつてカドゥル・ニンジャと相対し、そのジツによって封印されていた。



◇本編◇

 オジギ姿勢から戻ったヴィナタはまじまじとキセイを眺める……不思議そうに小首を傾げる。

「初対面よな? しばらく眠っておったせいで思い出せぬ……いや、思えば起きていたときから人の顔を覚えるのが苦手でな……」

「世間話はそこから出た後でもよかろう。封印は解かれておるよ」

「……フム?」

 より深く首を傾げたヴィナタは、鉄格子に顔を近づけ鼻を鳴らす。たしかにかつて彼女を封じ込めていたジツの気配はない。であれば。

「キエーッ!」

【カラテ】判定(難易度U-HARD)
(1,1,1,1,2,2,2,3,3,4,6,6,6) 成功

 無造作に翼を振るう。キセイが音もなく飛び離れたコンマ数秒後、けたたましい音を立てて鉄格子が崩れ落ちた。分断された鉄片の切口は恐ろしいほどに滑らかだ。

 ヴィナタは目を瞬かせ、足早に牢を後にする。そしてキョロキョロと周囲を見渡した。ニンジャの気配は自分とキセイ以外になし。静かなものだ。

「寝起きの運動くらいにはなったかね? では行こうか」

「ウム……ウム?」

 なぜついていかなければならないのだろうか。ヴィナタは思考しかけ、すぐに放り出した。今は他にやることもなし。カチカチと蹴爪で音を立てながら、彼女は大人しくキセイ・ニンジャの後に続く。


◇◆◇◆◇


 道すがらに目に飛び込んできたのは、自身が幽閉されていたのとまったく同じ牢獄だ。そしてまったく同じように破壊されている。かたや融解し、かたやねじ曲げられている。興味深げに見やるヴィナタに、キセイはカラカラと笑いかけた。

「カボチャ・ニンジャ=サンとカラクリ・ニンジャ=サンはもうとっくに起きて出て行ったよ。寝坊助殿」

「カボチャ……カラクリ……フーム?」

 ヴィナタは不思議そうに唸る。聞き覚えがあるような、ないような。たしかかつての大戦の折に……

「おお、そうだ。イクサはどうなった?」

「とうの昔に終わっておる」

「なんと」

 無慈悲な答えに目が丸くなる。どうやら不貞寝をしている間に何事も終わってしまっていたらしい。なんたるショッギョ・ムッジョであることか。

 彼女はより深く記憶を掘り起こす。かつての敵……

ヴィナタ・ニンジャは……
1.偉大なる父祖に仕えたワンソー派のニンジャであった

 ハトリ率いる東軍、あれもすべて打ち滅ぼされてしまったというのか。といっても彼女にとってはハトリなどどうでもいい。そもそも決着をつけるべきは東軍に与した、あの……

「左様。思い出したようじゃの」

 キセイの言葉に引き戻される。やや不機嫌に彼女の背を睨んだヴィナタは、すぐに脳裏に浮かんだ疑問の重みで首を傾げた。

「イクサが終わったから、なぜ俺を起こすかね? 自慢ではないが、俺はイクサ以外のことは苦手だぞ」

「そのような話は後でよかろう。ついてまいれ」

 たどり着いた大きな岩扉を押し開けつつ、キセイ。ヴィナタは大人しくその言葉に従った。殺してどうとなるものでもなし。


◆◇◆◇◆


 岩扉の先に広がる光景に、ヴィナタは目を細めた。天井や壁へ縦横無尽に描かれた紋様。魔法陣らしきものもあれば、なにとも知らぬ怪しげな記号も書き込まれている。

 そして壁の前に並べられた老若男女の石像。どれも一様に苦悶の表情を浮かべている。それに対しなにを思うでもないが……これがキセイの作り出した一種の『神殿』であることはすぐにわかった。

「良ければもう少し運動していくか?」

 不意にキセイが振り返る。ヴィナタの視線に気づいてのことか。そしてなにで競うかも検討がついた。

「そうさな。やろう」

「では準備する故、暫し待たれよ」

 言い終えると同時、キセイが石像に手をかざす。すると、ナムサン……石像たちがカタカタと音を立て、緩慢な速度で整列を始めたではないか。小刻みに震える様はまるで恐怖に呑まれたネズミめいていた。

「私も久方振りにやってみよう。お前はいくつかね?」

 ヴィナタは石像の質を見定め……頷いた。

「14だな」

 キセイの動きが一瞬だけ止まった。ヴィナタは構うことなく、整列を終えた石像に翼を振りかざす……!

石像カット 14本
(3,6)(3,4)(2,6)(1,5)(1,3)(1,4)(3,6)
(2,3)(3,4)(1,4)(1,6)(3,3)(1,6)(5) 成功!

「キエーッ!」

 とん、と。ヴィナタの翼が左端石像の首筋を軽く叩く。当然のごとく、この程度のカラテでは破壊できるはずもない。ナムアミダブツ、長き時を眠っていたヴィナタは力配分を誤るまでに耄碌していたというのか? ……否!

 一瞬遅れ、翼が風を巻き起こした。それは石像たちの首筋をカタナめいてまっすぐ吹き抜け……さらにコンマ数秒後、一斉にその首を落としたのだ! タツジン!

(((((((アバーッ……!)))))))

 首が落ちる瞬間、たしかに声なき悲鳴が神殿を満たした。だがヴィナタにとってはどうでもよい。彼女はザンシンし、キセイを見やった。

「ハハ。俺も鈍ってはいないだろう。さて、お前はいくつだ? キセイ・ニンジャ=サン」

「むう」

 キセイはわずかに口を尖らせ……不承不承といった様子で頭を下げた。

「オミソレシマシタ」

「ふふん! クルシュナイ」

 ヴィナタは胸を張る。そのバストは平坦であった。もとより、キセイのカラテをある程度見切っての挑戦だった。相手が本気かどうかはさておき……よい意趣返しにはなったということだ。


◇◆◇◆◇


「なんだね、これは」

 さらにキセイに案内された先……すなわち神殿のもう一つの岩扉を潜り抜け、警護用のグレーター・ケンドー・オートマトンの前を通過し、上階に登ったところで待ち構えていた不思議な扉に、ヴィナタは目を丸くした。

 どこか得意げに微笑したキセイが口を開く。

「幾星霜を経て、モータルの技術も進んでおる。中には我らのジツと区別がつかぬような現象まで起こすものさえある。ショッギョ・ムッジョよな」

「ほほう」

 ヴィナタは素直に感心した。モータルを顧みることなどほとんどなかった彼女ではあるが……いや、だからこそ。そうした技術を編み上げた彼らに初めて関心を向けたのだ。

 キセイが鉄製フスマめいたその扉の前でなにかした。直後、フスマがひとりでにスライドし道を開ける。「おお」ヴィナタの小さな歓声に、キセイがこっそりとほくそ笑んだ。

 その先に広がっていたのは談話室と思しき場所。しかしその調度品はどれも見たことのない様式だ。ヴィナタは身体の向きごと傾斜を変え、観察する。キセイが奥に進み、長椅子の一つを指し示した。

「さあ、座るがよい。……現代の調度品はお気に召してもらえたようだな」

「ウム。大いに面白い」

 ヴィナタは遠慮なく腰掛け……沈み込んでいくような柔らかさにわずかに驚いた。目敏くそれを悟ったキセイが楽しげに微笑する。

「さて。なにから話そうか」

 木目調のテーブルを挟み、まがい物めいた美貌の女がヴィナタを覗き込む。

談話:【ニューロン】対抗判定
キセイ
(1,1,1,2,2,2,2,3,3,4,5,5,6) 成功5
ヴィナタ
(1,1,3,3,4,5,5,6,6,6) 成功9 勝利!

「やはりまず現代の、」

「カドゥル・ニンジャ=サンはなにをしておるかね?」

 話題を一瞬にして遮られ、キセイはやや鼻白んだ。その間にもヴィナタは絵画や本棚のマキモノへと興味深げな視線を送っている。

「……知らぬ。仮に私が知っておったとしたらどうする気だ?」

「そりゃアイサツに行くとも。仮にも俺を欺き抜いた女だからな、奴は! ところで他の連中はどうしておるのだ」

「それは……」

 ナムアミダブツ。キセイの笑みがわずかに引きつったことに果たしてヴィナタは気づいただろうか? 無論、否だ。彼女は単純に自分の聞きたいことしか聞かず、自分の興味のあることしか覚えていない。キセイは情報を引き出す相手を間違えたのだ!

 そして数十分後!

「……ふう、少し話過ぎてしまったな」

「そうかね?」

 ぐったりと背もたれに身を預けるキセイに、ヴィナタは目をぱちくりとさせた。彼女としては現代の情報を仕入れられたため、時間の流れを気にする暇もなかったのだ。

 キセイは溜息をつき、言う、

「何か飲むかね。現代の酒も適当に集めさせたが。それともスシでもつまむか」

「おお!」

 ヴィナタは素直に目を輝かせた。


◆◇◆◇◆


「ウム! 珍味よな!」

「そうか。喜んでもらえたようでなによりだ」

 テーブルに並べられたスシや、見慣れぬ料理……ネオサイタマのカチグミ用のものだ……を次々に頬張るヴィナタを眺めながら、キセイはオチョコを傾ける。

 味よりもその見た目や舌触りを楽しみつつ、ヴィナタは一通り食べ終える。そしてふと気づいたようにあらぬ方角へ首を向けた。

「客か」

「余興だ。現代の事は現代の世に生きる者から見聞きするのが最も良い。楽しんでもらえれば幸いだ」

「成る程!」

 ヴィナタは牙を剥き出して笑った。とかくこの世は飽きる暇がない。


◇◆◇◆◇


 キセイに案内された先、タタミ敷の大広間にてヴィナタ・ニンジャはニューロンを研ぎ澄ませる。床に転がるのは首だけとなったドラゴンの石像彫刻。封印のスタチューであったそれは、核となるマキモノと宝石を失った今、もはや単なる石ころにも等しい。

「……フム?」

 ふとヴィナタは首なしとなった方のスタチューに顔を近づける。気のせいか、どこか懐かしいソウルの痕跡が……

「おい! ロイコクロリディウム=サンよ! 本当にこの先に宝があるんだろうな!」

「アッハッハ! その質問何度目だい? 僕の目を見てくれたまえよ! これが嘘つきの目に見えるかい?」

「胡散臭え詐欺師の目だな」

「オーノー! 本当かい!? オシャレなサングラスでもかけようかな!」

 その思考を遮るように、開かれた鉄扉の向こうから三人の男の声。ヴィナタは目を細める。いずれもニンジャではあるが……微妙に舌触りが異なる。現代のニンジャは、モータルにソウルが宿ることによって成るのだという。これらが、それか。

「さ! そろそろ到着だ! この先に君たちの待つお宝が「イヤーッ!」グワーッ!?」

 騒がしい男の声がカラテシャウトによって中断。ヴィナタは首なしドラゴンスタチューに寄りかかり、興味深げに耳を傾ける。

「アウチ! 何をするんだい! 鼻血が出てしまったじゃ「イヤーッ!」グワーッ!?」

 どうやらロイコ……なんとかいうニンジャが他二人に殴られている。あまりに騒がしかったのだ。そういう気分にもなるだろう。ヴィナタは納得した。ついで「ムン」ロイコ何某の気絶したような声。

「ンキキ! 気絶しやがったぜ!」

「ハッハー。案内さえ終わったらコイツは用済みだ。お宝とやらは俺達が頂くぜ」

「プリンセスビー=サンもな! ンキキ!」

「そういうこった。行くぜドゥームラット=サン」

「おう、ゲインソウ=サン」

 成る程、とヴィナタは思う。現代のニンジャが二人、舌触りは異なるが、果たしてカラテはどうか。待ち構えていた矢先、例のニンジャたちが大広間に足を踏み入れた……!

「何だここは……タタミが敷いてあ……アイエッ!?」

「あ……アア……」

 ヴィナタは観察する。かたやビッグニンジャ・クランの者。その片腕は鉄の義手となっている。先の鉄フスマめいたモータルの技術であろうか。

 かたや小柄なニンジャ。クランの特定はできぬ。どこぞの木端。その頭に興味を惹かれる。生き物めいているが、まがい物めいた風味もある。あれもまた、モータルの知恵か。

 面白い。ヴィナタ・ニンジャは片翼を大きく広げ、煽ぐように振り下ろしつつアイサツを繰り出した。

「ドーモ。はじめまして。ヴィナタ・ニンジャです」

「ド、ドーモ。ゲインソウです」

「ド、ドゥームラットです……に、逃げろーッ!」

「アイエエエ!」

 ナムアミダブツ! アイサツを終えた瞬間、二人のニンジャは踵を返した。彼我のカラテ力量を理解してしまった彼らは一瞬で逃走を選択したのだ。だが!

「アッハッハ! せっかく来たんだ! すぐお帰りってんじゃつまらないだろう?」

 その鉄扉に片手で寄りかかり、笑いかけた煌くスーツ姿のニンジャあり! つまり彼こそがロイコ何某だ。気絶は演技か。立ち竦む二人に、彼はウインクを送った。

「楽しんでいってくれたまえよ! 死ぬほどね! チャオ!」

 そして無造作に鉄扉を……閉める! DOOOM……大仰な音が、取り残されたニンジャ二名を現実へと引き戻した。

「ウ、ウオオーッ! ザッケンナコラー!」

「アケロー! アケロー!」

 罵詈雑言とともに鉄扉を激しく叩く両者。ヴィナタは小首を傾げ、足早に彼らの側まで忍び寄った。そして。

「キエーッ!」

ヴィナタ:強化ソニックジャブ→ドゥームラット
(2,3,5,6)(3,4,4,6)(1,2,6)(3,4,5)(1,3,3)(1,2,2)
ドゥームラット回避
(2,4)(2,6)(5)(6)

「アイエエエッ!?」

 ニンジャ第六感が働いたか、ドゥームラットが頭を抱えてワーム・ムーブメント退避! ガガガガガガッ! 音速の見えざる刃が鉄扉に傷痕をつける。

 翼を振り抜いたヴィナタは、嗜めるように言った。

「しゃんとせよ。イクサであるぞ」

「う……ウオオーッ!」

 タタミに転がったドゥームラットがデスパレートに跳んだ! そのまま飛び込むようにタタミへ……穴を開け、潜り込む! ドトン!

「ほう」

 ヴィナタは目を見張り、数歩横へと体をずらす。直後、彼女の立っていた場所に穴! そして!「イヤーッ!」

ドゥームラット:ドトン
【精神力】6→5
(1,1,2,3,3,3,3,6) 成功
移動時攻撃
ヴィナタ回避
(1,1,2,2,3,3,4,5,6) 成功
ドゥームラット:バイオサイバネ
(3,4,4,6)
ヴィナタ回避
(1,2,3,3,4,5,5,6,6,6)
カウンター! ドゥームラット【体力】4→3

 穴から飛び上がったドゥームラットがヴィナタ向けて文字通り牙を剥いた! そこから滴るはバイオ毒液! だが「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 反対に蹴りを叩き込まれ、ドゥームラットは吹き飛び悶絶! 片足上げの姿勢のまま、ヴィナタは首を巡らせた。

「動きは悪くないが、遅い。さて」

「ヒッ……い、イヤーッ!」

 一瞥を受けたゲインソウが鉄の義手を突き出す。BLATATATA! そこから展開した鉄筒が火を吹いた!

ゲインソウ射撃
(2,4)(2,3)(3,6)
ヴィナタ回避
(1,1,1,2,2,4,4,5,5,6)

「ほう!」

 ヴィナタはその機構を興味深げに見やった。そしてゆっくりと迫ってくる弾丸へ無造作に片翼を振るう。巻き起こった風刃がことごとくを切り裂き、タタミに落とした。

「それはジツではないな? なかなかに面白いオモチャを使うな」

 ちょうど自分を挟み込むような位置どりのニンジャたちをぐるりと見渡し、ヴィナタは獰猛に笑う。ぎちり、とタタミが軋んだ。

「褒美に俺も芸を見せてやる。とくとご覧あれ……キエーッ!

 CRASH! 踏みしめられたタタミが大きく裂け、周囲に亀裂を走らせた。同時にヴィナタの姿が掻き消え、一陣の風がゲインソウの頭上を通過。

「エ……」

 ゲインソウは反射的に振り返る。泥めいて鈍化する時間の中、鉄扉を踏み台にビーンボールめいた軌道で戻ってくるヴィナタ・ニンジャが映った。その猛禽めいた脚には緑色のオーラ……!

ヴィナタ:ブラスト・トビゲリ
【精神力】10→9
(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5,6,6,6)

「い、イヤーッ!」

 ゲインソウはブリッジ回避! その鼻先を鋭い風が切り裂いていった。逆さまになった視線の先に呆然とするドゥームラットが映る。ヴィナタの放った飛び蹴りが衝撃波を散らし、彼の足元を崩した。そして。

「キエーッ!」「アバーッ!?」

ゲインソウ回避
(1,2,2,3,6)
ドゥームラット回避
(2,3) 【体力】3→2
ヴィナタ:カラテ→ドゥームラット
(2,2,3,6)(4,4,4,6)(3,5,6,6,6)
ドゥームラット回避
(6)(3)(2,3)
サツバツ判定6 心臓摘出
ドゥームラット爆発四散
残虐ボーナス 【万札】4

 一瞬だった。防御のためにかろうじて掲げた腕は翼のカラテで崩され、そこに強烈なケリ。蹴爪がドゥームラットの胸板を貫く。器用に掴み取られた心臓が無造作に握りつぶされた。

「サヨナラ!」

 ドゥームラットは爆発四散する。怪物がゆっくりとこちらを振り向く。ゲインソウは叫び、内蔵式サブマシンガンを乱射する。何故、当たらない。

ゲインソウ射撃
(4,6)(1,4)(3,5)
ヴィナタ回避
(1,2,4,6,6,6)

「次はお前か。フム」

 あっさりと弾丸を吹き散らしたヴィナタは大きく両翼を広げた。込められたカラテがためか、ゲインソウの目には視界を埋めるほどに巨大に見えた。

「少し派手にやる。避けてみよ……キエーッ!

「い、イヤーッ!」

ヴィナタ:ソニックダブルチョップ
【体力】23→22
(1,2,2,3,3,4,4,6,6,6)(2,3,4,4,4,4,4,6,6,6)
ゲインソウ回避
(3,5)(1,4,6)
ゲインソウ射撃
(6,6)(1,2)(3,3)
ヴィナタ回避
(3,5,5,5,6,6)

 ゲインソウは迷わず身を横に投げ出した。直後に通り過ぎた風に悪寒を覚える。先ほどとはまるで桁が違う。一撃でも受けていれば、今頃は……!

 BLATATATA! 必死の形相で放つ弾丸も無造作に吹き散らされる。あまりにもカラテが違う。ゲインソウは悟った。もはや逃れることなど……!

キエーッ!

 緑色のオーラを纏ったヴィナタが迫る。かろうじてその衝撃を踏み堪えたゲインソウは振り返り、カラテを振るおうとした。ドゥームラットと同じようにカラテを挑んでくると予想したからだ。

 そうではなかった。やや離れた場所に着地した怪物は、翼を広げ……

ヴィナタ:ブラスト・トビゲリ
【精神力】9→8
(1,1,1,2,2,2,2,3,4,4,4.5,5,5,6,6,6)
ゲインソウ回避
(2,5)
ヴィナタ:ソニックジャブ
(1,2,3,3)(1,3,6,6)(2,2,6)(1,4,5)(1,5,6)(4,5,5)
ゲインソウ回避
(5)(3)(2)残り三発回避不可、直撃
サツバツ判定 5「手も足もでまい!」
ゲインソウ 【体力】5→-1 爆発四散
残虐ボーナス:【万札】4→5

「キエーッ!」

 羽ばたきから生まれた風がゲインソウを襲う。それは無造作に彼の身体を削り取った。両肩から分断された腕を、ゲインソウは他人事のように見た。視界が、断たれる。

「サヨナラ!」

 ゲインソウは爆発四散した。後にはただ、ザンシンするヴィナタ・ニンジャが残った。



◇エンディング◇

 ヴィナタはザンシンを解き、切り落とされた鉄の義手への歩み寄った。拾い上げ、興味深げに覗き込む。現代のニンジャもまた違うイクサの仕方を身につけている。面白い。

「どうだったね?」

「フム? ああ、うん。これはもらってもよいか」

「好きにするといい」

 鉄扉と反対側、通路の奥から現れたキセイは鷹揚に頷いた。そして鉄扉の向こうへと声を投げかける。

「ロイコクロリディウム=サン。扉を開けよ」

「はい、マインドチェンジ=サン」

 命令通りに、重い音を立てて鉄扉が開いていく。それは、どうでもよい。ヴィナタは興味深げにキセイを見た。

「マインドチェンジ?」

「ああ、現世での私の名前だ。お前も気が向けば名乗るがよかろう。カボチャ・ニンジャ=サンはジャック・オ・ランタンと、カラクリ・ニンジャ=サンはオーバーキルと名乗っておるよ」

「ほほう!」

 ヴィナタは興味を惹かれた。新たな名。新鮮である。あのカドゥルはどのようなニンジャネームを名乗っているのだろうか?

 思いを馳せるヴィナタの横をキセイは通り抜け、跪いていたロイコクロリディウムを立たせる。そして扉の外へ。

「では私はオイトマさせてもらおう。ここでお別れだ」

「……フム? そうなのかね」

「ああ、それとな」

 踵を返して戻ってきたキセイが、無造作に紙束を突き出す。興味深げに覗き込むヴィナタ。しばらくしてから、キセイが痺れを切らしたようにそれを翼に握らせた。

「いつまで見ておる。……先立つものもいるであろう。とっておくがよい」

「フム? 現代のコーベインかね、これは」

「概ねそのようなものだ。それとな、ここはお前が自由に使ってよいぞ。1人で気ままに暮らすも良し。誰ぞ連れてきて共に過ごすも良し。愛玩動物を飼うも良し」

「ほう!」

 ヴィナタは目を丸くした。なんとフトッパラなことか! その行動の裏になにが隠されているか……というところまで彼女は思考を巡らせない。面倒だからだ。

「ではオタッシャデ。縁があれば再び会うこともあろうよ」

 キセイが去っていく。従僕めいてロイコクロリディウムを引き連れながら。その背を見送り、翼のうちの紙コーベインを見やっていたヴィナタは、とりあえず譲り受けた部屋へと戻っていった。


◇◆◇◆◇


「あら、おかえりなさい!」

 談話室に戻ってきたヴィナタは顔をしかめる。そのソファに先客あり。童話めいたニンジャドレス装束の少女。綺麗な金の髪。緑に輝く瞳。人形めいた美貌には人懐こい笑みが浮かんでいる。

「キセイ・ニンジャ=サンは出て行ってしまったのね? 残念だわ。もう少し出発を遅らせてくれればお顔合わせができたのに」

 ヴィナタは答えず、カラテを構える。謎めいた少女は困ったように微笑し、長椅子から飛び跳ねるように立ち上がり、優雅なカーテシーを繰り出した。

「そうね、あたしってばシツレイだったわ! ごめんなさいね。ドーモ。はじめまして、ヴィナタ・ニンジャ=サン。アリス・ニンジャです」

「ドーモ。アリス・ニンジャ=サン。ヴィナタ・ニンジャです」

 アイサツを終えてもヴィナタはカラテ警戒を解かない。当然だ。この者は自分はおろか、あのキセイにすら存在を悟らさずここに潜り込んでみせたのだ。油断ならぬ手練れ……!

「何者だ。俺も物覚えが悪いほうだが、少なくとも貴様のようなニンジャは東西のどちらにも見たことがないぞ」

「あたしはただのアリスよ、ヴィナタ・ニンジャ=サン。かのニンジャ大戦なんて、あたしにとっては絵巻物の上のお話だわ」

「……俺が寝ておる間に生まれたニンジャか。成る程」

 ひとまず敵意のないことを見てとり、ヴィナタは翼を納めた。そして視線で相手の質問を促す。問いを投げかけたのならば、向こうの問いにも答えねばなるまい。

 ほっとした様子を見せたアリスは気楽な様子で歩み寄ってくる。その輪郭から01の泡が立ち上り、溶けるように消えていく。

「次はあたしの番ね? ねえ、ヴィナタ・ニンジャ=サン。あたしとお友達になってくださらない?」

 思いがけぬ質問……というよりも要望に、ヴィナタは面食らう。反射的に疑問を投げかけようとした彼女はかろうじて口を閉じた。答えもなしに追加の質問はシツレイにあたる。

 キラキラと目を輝かせて見上げてくる少女をじっと見下ろしていたヴィナタは……溜息をついた。面倒だ。

「構わぬ。許す」

「ヤッタ! アリガト、ヴィナタ・ニンジャ=サン!」

 飛び跳ねて喜ぶアリス。訝しみながらも、ヴィナタはさらに質問を投げかけた。

「貴様がここを訪れた理由はなにかね?」

「ナカヨシのために決まってるわ! あのね、きっとあたしはあなたより現代に詳しいと思うから教えてあげる。今はそこかしこで企みが起こっているのよ」

「フム?」

「手近な場所だとキョートかしら。最近あそこは目玉模様に見張られて落ち着けもしない。キョジツテンカンホーっていうのかしら」

 気楽な調子で明かされたジツの名に、ヴィナタの表情がやや険しくなる。知らぬジツではない。ハトリの六騎士の一人が用いると噂された秘術。

 アリスは歌うように続ける。

「そして遠く離れた東の地! ネオサイタマでは多くのニンジャが遊んでいるわ。エテルの乱れなのかわからないけれど、最近はキンカクから溢れるソウルが多いのよ」

「キンカク?」

「あたしも詳しくはわからないけれど、かつて爆発四散したニンジャのソウルが集っているのよ。それはそれで楽しいのだけれど」

 アリスの身体が01変換され、消える。次の瞬間には彼女はソファに座り、テーブルに頬杖をついていた。

「……あたしがなんとかしなきゃと思ってるのはネオサイタマのほうなの。どうにも嫌な方向に舵を切ってる子たちがいる。たまたまそいつらのドージョーの所属者にあたしの友達のソウルが入ったから、気配は察知できたのだけど」

「潰せばよかろう」

「それができれば苦労しないわ。あたし、こっちにはあんまり長居できないんだもの。だからいざというときにお手伝いしてくれる人がいると本当に助かるのよ。……キュムロニンバスって子ともお友達になったんだけど、あの子は荒事が好きじゃなさそうだし」

 ヴィナタは対面のソファに座る。知らぬうちにアリスの話に耳を傾ける気になっていた。新鮮だからだ。

 しばし考え込んでいたアリスは、思い出したように顔を上げた。

「そうそう! 手伝ってくれたらいいことを教えてあげられる。カドゥル・ニンジャ=サンのソウルが誰に宿っているかとか」

「……詳しく聞かせてもらおうか」

 ヴィナタは目を細め、獰猛な笑みを浮かべた。まったくもって、この世界は退屈しない。後で散歩がてら空に飛び立つとしよう。このマッポーの空へ。


【イントゥ・ザ・マッポー・スカイ】おわり


◇あとがき◇

 というわけで新たなリアルニンジャがしかなバースに解き放たれた。そのうちNPCとして出てくるかもしれない。備えよう。

 【万札】50については彼女の所持金とし、撃破報酬とするのがよさそうだ。アーチ級スキルのおかげで、なかなか出しづらい相手だが……

 さて、ここまで読んでくださった皆様方。そして楽しいシナリオを書いてくださった海中劣=サン! ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!




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