忍殺TRPGソロリプレイ【カッコー・イン・エレクトロニック・スカイ】前編

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながニンジャスレイヤーTRPGのソロシナリオを遊んだ結果を元に作成したテキストカラテ(二次創作小説)となっています。いわゆるリプレイだ。気楽に読めるよ。

 今回挑戦させていただいたのはyuu=サンの【ザイバツ電算室潜入】です。

 コトダマ空間にダイブし、ザイバツの電算機室にハッキング! そのようなスリリングなあらすじとなっています。

 ハッキング……つまり挑戦者はこいつだ。

ニンジャ名:クークーベイビー
【カラテ】:2                【体力】:2/2
【ニューロン】:6           【精神力】:4/5
【ワザマエ】:3           【脚力】:2
【ジツ】:3(マインドブラスト)  【万札】:4(ローン12)
近接攻撃ダイス:2
遠隔攻撃ダイス:3
回避ダイス:6
ハッキング:18

【特筆事項】
 レンタルアジト(トイレなし)使用により【精神力】-1

【アイテム】:
 『ZBRアドレナリン注射器』

【サイバネ】:
 生体LAN端子+++

【スキル】:
 ○実家のカネ

【説明】
ニンジャとなって得た強力な精神干渉能力を悪用し、カチグミ家庭に侵入しては
その一員として振る舞いカネを搾り取ってきた悪徳ニンジャ。
強力なジツを振るう反面、そのカラテは頼りない。

 初登場時、負傷のどさくさに紛れ最新鋭の生体LAN端子とローンを組まされたクークーベイビーである。不幸中の幸いは訪れるのか。

 ではやってみよう。よろしくおねがいします。



◇オープニングな◇

 トコロザワ・ピラー上層階の一区画。巨大な扉な前に落ち着かぬ様子で立ち尽くす小柄な影あり。後頭部に開けられた生体LAN端子を落ち着かなげに撫でたその者は、扉に踊る「総会六門」「六」の威圧的ショドーを見上げ身震いした。

 この者の名はクークーベイビー。ソウカイヤのニンジャであり、最近不幸続きの少年である。ニンジャとなって得た力でカチグミ家庭を渡り歩き、都度遊んで暮らすには充分なカネを得ていた過去を彼は哀愁とともに思い出す。

 狙っていた次の家庭がソウカイニンジャの寄り合い所帯だったことがケチのつきはじめ。あれよあれよといううちに暴走したアーチ級ソウルの憑依者とやらに傷を負わされ、その治療のどさくさで無闇に高価な生体LAN端子とローンを押しつけられた。

 そして極めつきはこれだ。一介のニュービーに過ぎないクークーベイビーは今、ダイダロスの指示によりここを訪れている。ソウカイヤでも屈指のハッカーであり、恐るべきソウカイ・シックスゲイツの一人に。

(シャープキラー=サンは仕事を探しておくなんて言ってたけど……まさかこれのことじゃないだろうな……)

 少女の朗らかな笑顔が脳裏に過ぎる。クークーベイビーは身を震わせた。だとしたらなんたるお節介だろうか。何事にも順序があるだろうに!

 ともあれ、ここで躊躇っていても仕方がない。万が一予定時刻を過ぎればケジメもあり得る。クークーベイビーは覚悟を決め、門を押し開いた。


◇◆◇◆◇


 扉の向こうはシックスゲイツの専用トレーニンググラウンドとなっている。クークーベイビーはそのように聞いていた。しかし内部の光景は思い描いていたものとはかなり違う。

 まず肌を刺すのは冷気。まるで冷蔵庫めいた肌寒さ。だがそれは無数に並べられた巨大UNIXのためであることがすぐにわかった。クークーベイビーは白い息を吐く。どのカチグミ家庭でもお目にかかったことがない、高性能UNIX。

 オハカめいて並ぶUNIX郡の間を忙しなく防寒服クローンヤクザが巡回。機器の点検を行なっているのだろう。周囲を見渡したクークーベイビーはふと眉をひそめた。これほどの規模であれば、並列直結して処理を行うとハッカーが十人単位でいてもおかしくはないのだが……

「必要無いんですよ。直結クローンヤクザなど使わずともタイプ速度は足りています」

「え」

 見透かされたかのような一言……否、突然背後に生じた気配にクークーベイビーは振り返ろうとした。それより早く生体LAN端子に異物が潜り込む。

「……アッ、アバッ!?」

「あなたには可能性がある、速く、とにかく速く、限界を越えて速くタイピングしてください。『見える』域まで来たら私が導きましょう。依頼内容はその時話します」

 言葉の内容を聞き返す余裕はなかった。突如としてニューロンに雪崩れ込んできたのは膨大な量の単純データ! うかうかとしていれば間違いなくニューロンを焼き切られる!

 痙攣していたクークーベイビーは、奥歯を噛み締めた。その鼻から一筋の血が垂れる……!

【ハッキング】判定(難易度HARD)
(1,1,1,1,2,2,2,2,3,4,4,5,5,5,5,5,5,6) 成功
(1,1,2,2,2,2,2,3,4,4,5,5,5,5,5,6,6,6) 成功

 彼は論理タイプを加速させた。永遠に続くカラテラリーめいて、本流めいた情報を高速で処理していく。最新鋭の生体LAN端子が大いにその作業をアシストした。

 しかし、それでも限界は訪れる。クークーベイビーは目を見開いた。脳が熱い。このままでは。彼は天井を仰ぐ。その目に黄金の立方体が10011100001001


◇本編◇

 001001001110「い、イヤーッ!」

 無意識のうちに発していたカラテシャウトに、クークーベイビーは正気に戻る。周囲を見渡せばそこは変わらぬトレーニンググラウンド……否!

「ここは……!?」

「おめでとうございます。あなたはコトダマ空間へ無事足を踏み入れました」

 01の緑光帯が壁や扉の上を滴り落ち、頭上にはゆっくりと黄金の立方体が回転する。異質な風景の中、頭部からいくつものLANケーブルを垂らした痩身のニンジャがアイサツを繰り出した。

「ドーモ。はじめまして。クークーベイビー=サン。ダイダロスです。先程はシツレイしました。この方が早かったものでして」

「ど、ドーモ。ダイダロス=サン。クークーベイビーです。その……ここはいったい……?」

「優れたハッカーのみが至れる場所……とでも言っておきましょう。ここの定義説明は今回の本題ではありません」

 その言葉にクークーベイビーは背筋を伸ばす。自分がここに呼び出された意味をようやく知る時がきたのだ。

「シンプルに済ませましょう。あなたに依頼したいのはハッキングの補助。対象は……キョートのどこかに存在するザイバツ・シャドーギルドの電算機室」


◇◆◇◆◇


 きっかけはブリガンドという、キョートに潜伏していたソウカイニンジャの死なのだという。ザイバツの本拠地を発見したという彼は、その詳細を誰に伝えることもできず爆発四散した。

「……ですが、彼は手がかりを残してくれました。文字通りのね。彼は情報取得に際してザイバツ本拠地へIRC端末を接続していたのです」

「そ、それを元にハッキングを行うと?」

「一刻を争うシチュエーションではあります。これまでの電子戦の経験から言って、ザイバツのニンジャで私に勝てるハッカーは存在しません。が……足元を掬われてはつまらないでしょう? そこであなたです」

 あっさりと言われ、クークーベイビーは当惑する。ダイダロスは淡々と言葉を付け加えた。

「一人くらいは私と同じ世界の見方ができる助手が欲しかった。そしてそれは今用意できました。なので、仕掛けます」 

「……よ、ヨロシクオネガイシマス」

 クークーベイビーはぎこちなくオジギ。自分がこれから挑むミッションが想像より遥かに危険なものだと、ようやくニューロンが理解したのだ。

 ダイダロスはその様を笑いもしない。ただ無造作に指を鳴らす。それと同時、部屋の壁が消失。ただ01ノイズの踊る暗黒が二人のニンジャを包んだ。

「この空間ではニンジャもモータルも関係なく、タイプ速度の速い方が勝利します。そして、ここでは物理法則や自身の存在さえ自分自身で定義し続ける必要があります」

 次いでダイダロスは後方を指し示す。その指の先に一筋の道が出来上がっていく。

「足場があると思えば足元にタタミが現れますし、飛びたいと思えばどこまでも飛翔できる。それがコトダマ空間です」

「お、オオー……」

「この道はブリガンド=サンが接続したUNIX、そしてその先にあるザイバツの電算室に繋がっています。私は先に行って電算室の本体に接続しておくので、この道を辿ってついてきて下さい」

 容易い調子で言い放ったダイダロスの身体が浮遊する。驚きの目を向けるクークーベイビーを他所に飛び去ろうとした彼は、ふと思い出したようにクークーベイビーへ手を差し伸べた。

 次の瞬間、虚空から生成されたロープがクークーベイビーの腰に巻きつく。

「わわっ!?」

「それはあなたとUNIXの繋がりを可視化した命綱です。万一帰り道がわからなくなった場合は、この命綱を辿って行けば現実世界にログアウトする事ができます」

 ダイダロスは軽く指を一振り。ロープが01ノイズとなって消えていく。

「くれぐれも取り扱いは慎重に。あなた以外には見る事も触る事もできないよう偽装してありますが、もしも千切れてしまったら肉体に帰る事は出来ないと思ってください」

 クークーベイビーはごくりと唾を飲み、頷いた。こっそりと腰回りを触ると、たしかにロープの感触が返ってくる。魔術めいていた。

「それでは、愚鈍なザイバツの本拠地で会いましょう。あまり遅いと私が全て蹂躙してしまいますよ?」

 その言葉だけを残し、ダイダロスは今度こそ飛翔した。流星めいたその速度にクークーベイビーは目を見張る。次いで……疑念が湧いてきた。自分にも本当にできるのだろうか?

 空を飛ぶ様をイメージする。途端、本当に自分の身体が浮き上がり悲鳴を漏らしそうになった。それと同時に、脳の奥がわずかにチリチリする感覚。ニューロンへの負荷か。

 クークーベイビーはしばし視線を彷徨わせてから……覚悟を決めたようにダイダロスが向かった方角を見据える。

【ハッキング】判定(難易度NORMAL)
(1,1,1,1,2,2,2,3,3,4,5,5,5,5,6,6,6,6)

「イヤーッ!」

 彼は弾丸めいて急加速! キリモミ回転する身体を難なく制御し、さらに加速! 悠々とクークーベイビーは翼を羽ばたかせ……いつの間にか自分の腕が変化していることに気がついた。人間の腕に切り替え、無意識に取っていた翼に戻す。

「ハハッ……慣れてきた! 慣れてきたぞ!」

 01ノイズと闇の中を飛びながら、クークーベイビーは快哉を叫んだ。生まれて初めて味わう開放感に酔いしれる。

 もっとも、先程のダイダロスを思い出してややクールダウン。彼は自分よりずっとハヤイ。それに比べれば自分はまだ雛鳥同然なのだ。

 とはいえ、勝手は覚えた。この世界であれば自分は並のニンジャよりも遥かに強かろう……!

【コトダマ空間の作法】
以降、いかなる能力値の判定においても以下の方法を選択可能となる。

1.判定する能力値で振るダイスに【ハッキング】判定のダイスの半分(切り上げ)を追加する
2.代わりに【ハッキング】で判定する
(ウイルス入りフロッピー及び*キーボード・オブ・ゴールデンエイジ*適用可能)また、回避ダイスの算出も上記1.2.のどちらかで行う


 ◆◇◆◇◆


 クークーベイビーはネオサイタマを飛び出し、セキバハラの空を飛び、アッパーガイオンに到着。そして歴史ある五重塔へ飛び込むと、半人半鳥めいた姿から元の姿へと自己を再定義した。

「お待たせしてスミマセン。ダイダロス=サン」

「成る程。コトダマ空間の動き方には慣れたようですね」

 ダイダロスは淡々とクークーベイビーを出迎える。周囲を覆う紫色の網目と目玉……即ちザイバツのエンブレムを目の当たりにしても、その余裕は崩れない。

 クークーベイビーは周囲を見やり、目玉模様の奥に見える五重塔めいた古めかしいセキュリティを捕捉する。実に脆そうな代物、だが。

「なんというか……少し調子が……」

「ザイバツのトラップか、あるいは何かのジツか。接続を維持するだけでもかなりのタイプ速度を要求されています」

 クークーベイビーの疑問に答えつつ、ダイダロスもまた五重塔の木造扉を眺める。

「私が蹴破ることは容易い。ですが、その先でアンブッシュを受け接続を断たれてしまう可能性は拭いきれません。接続維持に専念しますので、あなたが突破してください」

「……わかりました」

 クークーベイビーは深呼吸し、カラテを構える。

1.【カラテ】で蹴破る(ハッキング代用、難易度NORMAL)
(1,1,1,2,2,2,3,3,3,3,4,4,5,5,5,5,6,6) 成功

イヤーッ!

 音速を超えたクークーベイビーの飛び蹴りは容易く木造扉を破壊! 反動を利用して着地し、タツジンめいてザンシンする!

イヤーッ!

【回避】判定
(1,1,2,2,2,3,4,4,4,5,5,5,5,6,6,6,6,6) 成功

 そこへアンブッシュを仕掛けてくる影あり! クークーベイビーのニューロンはすぐにその事実を知覚!「イヤーッ!」超自然的スライド移動でその飛び蹴りを回避した。

「ザイバツのハッカー……!? ドーモ! クークーベイビーです!」

 彼は先手を打ってアイサツする。アンブッシュ者……サラリマンにメンポと頭巾をつけたような出で立ちのニンジャがojigiコマンドを返した。

『ドーモ。ザイバツ・グランドマスター、ヴィジランスです』

「グッ……!?」

 クークーベイビーは言葉を詰まらせた。以前講習で学んだ知識を思い出す。ザイバツは奇怪な位階制度を確立しており、その最上位に位置するニンジャこそグランドマスター。噂によれば、ソウカイヤ頭領たるラオモト・カンに匹敵するカラテの持ち主……!

 クークーベイビーは即座にダイダロスへと向き直る。無論、撤退を進言するためだ。が、彼は余裕の表情のまま。クークーベイビーは訝しんだ。

「あの……」

「知っておきなさい、クークーベイビー=サン。電子戦において、コトダマ空間が見える者と見えない者の間には0と1ほどの格差があります。ヴィジランス=サンは見えていない側。この会話さえ感知するのは数秒後のことでしょう。あなたでも軽く倒せますよ」

「エエッ!?」

 やってみろ、と視線で促されたクークーベイビーは……仕方なく向き直る。そしてヴィジランスと向き合い、その動きが妙なことに気がついた。アーケードゲームめいて数個の動作パターンを組み合わせているような不自然極まりない動き。

「成る程」

 思わず納得したクークーベイビーは、気持ちを切り替えカラテを構えた!

【カラテ】判定(ハッキング代用、難易度NORMAL)
(1,2,2,2,2,2,3,4,5,5,5,5,5,6,6,6,6,6) 成功!

「イヤーッ!」『グワーッ! サヨナラ!』

 コンマ数秒後! ヴィジランスの首をイアイめいてチョップで跳ねたクークーベイビーはザンシンする。その背後でヴィジランスは爆発四散!

 これはキンボシ・オオキイでは? 多少拍子抜けの感はあるものの、グランドマスターを倒したのは事実。報酬も期待できるのでは……!

『オミゴトだ。だが私のニューロンを焼くことは不可能だよ』

「何ッ!?」

 降ってきた声にクークーベイビーは顔を上げ……絶句する。屋根に立っているのは先ほど爆発四散させたはずのヴィジランスの姿! しかも一人ではない。その数、五人!

『私は物理タイプ派でね』『この私たちも単に複数のUNIXでログインしているだけだ』『UNIXが爆発したところで代わりはいくらでもある』『繋がっていない物を焼き切るのはたとえシックスゲイツでも不可能だろう?』

 ヴィジランスたちはほとんど同時に言葉を投げかける。一度に複数のキーボードをタイプしているとしか思えないレスポンス速度! 彼らは一斉に眼鏡を光らせた。

『そしてお前たち相手に正面から戦うほど馬鹿ではない』

『『『電算室の防壁用プログラム、存分に味わってもらおうか!』』』

 唱和した三人のヴィジランスが突如バラバラに分解! その破片一つ一つが無数のミサイルに変形する! 指示役と思しきヴィジランスが指を振ると同時、ミサイルは分裂を繰り返しながらクークーベイビーらへ降り注ぐ!

「こ、この程度……ウワッ!?」

 クークーベイビーは危うくバランスを崩しかけた。なぜか? 地面を見られたし! そこから伸び、足首を掴むのはヴィジランスの手だ。ミサイル分裂に紛れ、潜伏していた最後の一人である!

 このままでは避けきれぬ。クークーベイビーはニューロンを回転させ、迫り来るミサイルの雨を睨んだ。

【回避】判定(難易度HARD)
(1,2,3,3,4,5,5,5,6) 成功
(2,3,4,4,4,5,5,5,6) 成功

イヤーッ!

 キィィィィン……クークーベイビーの瞳に渦が巻く。それと同時、虚空に開いた01の渦が降り注ぐミサイルを飲み込んだ。爆発が空気を揺るがせる。しかしそれはクークーベイビーに届かないのだ!

「大丈夫ですか、ダイダロス=サン……!? ウワッ」

 慌てて上司の無事を確かめようとしたクークーベイビーは思わず呻く。ダイダロスは腕組みし、仁王立ちしていた。そして自分の数倍以上の量のミサイルを淡々と01分解している。無論、その足はヴィジランスの片手が掴んでいるが……それに何の意味があるというのか?

「地面に渾身のカラテを。それで邪魔な手は消えます」

「エッ……アッハイ。イヤーッ!」

【カラテ→ハッキング】判定(難易度NORMAL)
(2,2,2,3,4,4,4,4,4,4,5,5,6,6,6,6,6,6)

 平然と指示を下すダイダロスに面食らいつつも、クークーベイビーは粛々とコマンド実行! 五重塔そのものが揺れるような衝撃!

『グワーッ!』

 地面から飛び出したのはヴィジランス一体……それに女ハッカー! サメめいて尖った歯をむき出しにし、クークーベイビーに掴みかからんとす!

 地面に攻撃を誘ってのアンブッシュ。体勢を戻しかけていたクークーベイビーは目を見開く。避けきれない。……通常ならば。

「偽装するならもう少し上手くやることですね」

 女ハッカーの動きが止まる。ダイダロスがその頭を無造作に掴み止めていた。彼は冷徹に言った。

「普段ならファックして楽しむところですが、今日は時間がない。死んでください」

 そして無造作に女ハッカーを粉砕! 爆発四散すらできず、首無し死骸が日本庭園へ倒れこむ。クークーベイビーは青ざめた。反応速度の違いを間近で目撃したためだ。

「さて、ザイバツのハッカーはこれで終わりですか? ならばこれからは蹂躙の……」

『舐めるな! ソウカイヤァァアッ!』

 首無し女ハッカーが起き上がり、クークーベイビーに突進! のみならず地面から飛び出したヴィジランスが大槍に変形、恐るべき勢いで飛翔! クークーベイビーの主観時間が泥めいて鈍化した。

【回避→ハッキング】判定(難易度HARD)
(1,2,3,4,4,5,5,5,6,6,6,6) 成功
【回避→ハッキング】判定(難易度EASY)
(1,3,4,4,5,6) 成功

「……イヤーッ!」

 カラテシャウトが目の前の空間に波紋を起こした。それに突入した女ハッカーの動きにラグが生じる。「イヤーッ!」その間にクークーベイビーは大槍をブリッジ回避! そして波紋を突破しかけた女ハッカーを「イヤーッ!」投げ飛ばす!

 女ハッカーはくるくると回転、その途中で頭を01再生させ着地! アイサツを繰り出す!

『ドーモ、ストーカーです。小汚いネオサイタマのネズミども……貴様ら全員、ニューロンを汚染し尽くしてやる……!』

「ドーモ、ストーカー=サン。クークーベイビーです。今のザマじゃ、ボクがアンタをドロドロにするほうがよほどハヤイだろうね」

 クークーベイビーはアイサツとともに挑発を返す。その程度の余裕が生まれていた。数秒後、ストーカーが顔を怒りで赤く染める。口汚く罵しろうとした彼女の横にヴィジランスがpopした。

『あまり頭に血を昇らせないように。次に賦活薬を打ったら恐らく死ぬぞ』

『ええ、わかっていますよ室長。ZBRとザゼンのカクテルはもうごめんです』

 クークーベイビーは訝しむ。話を聞くに、ニューロンを焼き切られたストーカーへ誰かが劇薬めいたドラッグを打ち込んで蘇生させたらしい。しかし……

「『こっち』が見えていないのに、そんなギリギリで投薬ができるとは……?」

「おそらくはヴィジランスでしょう。にわかには信じがたいですが、我々を応戦している一方で部下を助けたに違いありません。物理的に」

「……ええと、タイピングしながら飛び回ってるってことですか? それ。確かに目で見てれば間に合うかもしれませんけど、本当にそんな芸当が?」

「論理的に考えてそれしか答えがない。まあ……」

 ダイダロスが目を細める。次の瞬間、ヴィジランスが変形したミサイルの雨が彼の全方位から降り注いだ。慌てて離れるクークーベイビーは、ミサイルに紛れて致命的飛び蹴りを放つストーカーを捕捉。彼は警告の声を上げようとした。

 不要だった。

「電子戦において我々が圧倒的に有利なのは変わりありません。その証拠に、ほら」

 初めて出会った時と同じ、冷静な調子でダイダロスは呟く。その周囲で01ノイズが渦を巻き、ミサイルを無力化。その間にダイダロスは片手に作り出した何かをストーカーへと無造作に投げつけた。

「このように無力化できます。ずっとループ処理に勤しんでいてください」

 カラカラカラカラカラ……軽い音を立てて回り続けるのはげっ歯類のケージでよく見る回し車。ストーカーはいつの間にかその中で走っており、その行動変化に気づいた様子もない。

 真横に出れば抜けられるんじゃないのか。そう考えたクークーベイビーは即座に理解した。不可能。ストーカーは『こちら』が見えていない。自分には『見て』わかることも理解できないのだ。だから死ぬまで回り続けるほかない。今更ながらにゾッとする。

「では行きましょう。私がガイドするので逸れないように」

 その恐怖を知ってか知らずか。ダイダロスは悠々とした足取りで五重塔へと向かっていく。クークーベイビーも慌ててその後を追った。


【カッコー・イン・エレクトロニック・スカイ】前編終わり。後編へ続く





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