忍殺TRPGソロリプレイ【レッド・ファイト・クラブ】その2

◇簡単な前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながニンジャスレイヤーTRPGのソロシナリオを遊んだ結果をテキストカラテにしたものです。リプレイ記事というやつだね。

 そしてこれは続き物です。前回の話はこれ。

 過酷なカニキャッチ漁。果たしてレッドブーツは無事にネオサイタマに帰れるのか。やってみよう。よろしくおねがいします。



◇8日目、朝◇

「……というわけで、一人海に飛び込んだ。物理的に今の立場から下に行く奴が出るとは思わなかったよ。キミたちはちゃんとセイシンテキを保って仕事してくれよな」

「「「アッハイ」」」

 昨夜の出来事の説明を受けても、乗組員たちはマグロめいた目と呆けたような表情で頷くのみだった。ぞろぞろも甲板に向かい、ルーティンワークと化した投網を開始。

「「「ヨイショ! ヨイショ!」」」

カニキャッチ判定(難易度HARD)
7d6 → 3, 4, 5, 5, 5, 6, 6 成功5
【カニ】6 + 5 → 11

 水揚げされたカニの量に、レッドブーツは満足げに目を細めた。かなりの収穫だ。乗組員たちもカニキャッチに慣れてきたか。この漁獲量を維持できれば、期限までに規定のカニを獲ることも決して夢ではないだろう。

「つくづく労働力が減ったのが惜しいな……」

『仕方ないよレッドブーツ=サン。あなたは最善を尽くしてる。ステキ』

「フフ、アリガト」

 隣に立つ朧な少女の幻影にレッドブーツははにかんだ。荒波で揺れる船上にあっても、彼女がバランスを崩すことはない……少なくとも肉体の上では。風に吹かれ掻き消えていく幻影を名残惜しげに一瞥してから、ニンジャは乗組員たちの働きに意識を向けた。


◇二週間経過◇

【カニキャッチ】判定
7d6 → 2, 2, 3, 5, 6, 6, 6 成功4
【カニ】11 + 4 - 3 → 12

「獲れないねぇ」

 明らかに少ない網の中のカニを見て、レッドブーツは他人事のように呟いた。ここしばらくというもの、漁獲量が少ない。とはいえ彼女は乗組員たちに当たるような真似はしなかった。彼らの技術が向上しているのは把握している。単純に今いる水域にカニが少ないだけ。割り切りは大事だ。

 とはいえ。

「ザッケンナコラー! テメェちゃんとカニ見つけてんのかッコラー!? アァーッ!」

「アイエエエ!?」

 それはレッドブーツの所感であり、乗組員たちはそれぞれに不安と焦りを募らせている。レッドブーツの眼前で起こった醜い小競り合いもそれだ。債務者の両小指ケジメヤクザが、債務者のハッカーにつかみかかっている。

『あんまりボーッとしてちゃダメだよ? ハッカーが死んじゃうと船が動かせなくなる』

「……ああ、うん。そういえばそうだった」

 幻影に諭されたレッドブーツは思い出したように片膝を立てて屈み込む。サイバネ脚の膝にスリケンボウガンが展開。そして……ドシュッ!

選択肢3
【ワザマエ】判定(難易度HARD)
7d6 → 1, 2, 3, 3, 4, 5, 5 成功

「アイエッ!?」

 鼻先を通過した鋼鉄の鏃に両手小指ヤクザが仰反る。その間に距離を詰めたレッドブーツは、彼の手からハッカーを引き離した。呆然としていたヤクザは……そこでようやく自分のしでかしたことを自覚し、青ざめた。

「ハイ、そのまま離れてね。ケンカは困るんだ」

「ア……その……」

 後ずさるヤクザ。勢い込んで罵倒を吐こうとしたハッカーをレッドブーツは身振りで止め、睨む。ことをこれ以上大きくしてほしくなかった。虚無的な一瞥を受けたハッカーは静かに失禁。

 不意にヤクザがドゲザ! 彼は元々ソウカイヤ傘下のヤクザクランに所属していた男であり、ニンジャにシツレイを働いたために自分のクランに累が及ぶ可能性に気づいたのである!

「す、スンマセン! セプク、セプクさせてください! こんなことしたらヤクザの誇りが、」

「何言ってるんだお前。バカか?」

 周囲の海よりなお冷たい一言に、ヤクザはおろか周囲で遠巻きに見守っていた乗組員たちですら凍りつく。レッドブーツは無表情に彼を見下ろした。

「ヤクザだの誇りだの、この船の上でなんの役に立つ? 本当に謝罪したいんならカニで詫びろ。くだらない理由で死んで労働力を減らすな」

 ぎり、と鈍い音が響く。ソンケイを踏みにじられたヤクザが歯を食いしばった音だった。レッドブーツはもはやドゲザするヤクザへの興味を失い、モニタルームへ戻っていく。

 ぽつぽつと船室へ戻り始める乗組員たち。ヤクザは一人、甲板上で蹲っていた。

レッドブーツ:【DKK】0 → 3


◇三週間経過◇

「カニフィーバー来た?」「いえ」「パチンコだったらクソ台だな」「いえ、これよりひどいのざらにあるんで」「マジかよ」「マジです」「キミそれに引っかかったの?」「腹立ってハッキングしようとしたらここにいました」「バカ」「デスネー」

 モニタルームに会話の花が咲く。造花めいて乾き切ってはいるが、レッドブーツとハッカーのセイシンテキをギリギリで保つ役には立っていた。

 ハッカーが背もたれに体重をかける。

「しかし、なんです。不幸中の幸いはアレですよ。レッドブーツ=サンがいてくれたことです」

「なに、ポイント稼ぎ?」

「いや、お世辞なんかじゃないですって。いろきろあったじゃないですか今まで。あの嵐の日だって落ちかけたヤクザのやつ助けてたでしょ」

 レッドブーツは天井を見上げる。そんなことがあっただろうか? 彼女にとってこの船上で大事なのはあの少女の幻影との淡いひとときであり、それ以外の記憶はどうでもよかった。そういえばあの子にいいところを見せるためにそんなことをした気もする。

「あとは……そっスね……ああ、あの巨大バイオガニ退治! マジ映画めいてましたよ。ニンジャってやっぱスゴイ」

「ンー……」

 ハッカーの賛辞にもレッドブーツの反応は鈍い。そういえばカニ処理装置に入りきらなかったカニがいたような、いなかったような。あの子が興味津々といった様子で近づいて……ああ、そんなこともあった。レッドブーツは納得したように頷く。

「あとこないだのサイバネ海賊とか……」

「ああ、アレ。久しぶりにいい運動になったよな」

『格好良かったよ、レッドブーツ=サン』

 耳元で囁かれる声にレッドブーツは微笑した。海賊のことは覚えている。あの子とのダンスの邪魔だったので斬り捨てた。覚えている。

 ハッカーは珍しく楽しげに言葉を続けた。

「実際、乗組員の連中もレッドブーツ=サンのことはありがたがってますよ。カニキャッチにも慣れてきてますし。恩返ししてくれるんじゃないです?」

「それは素直にありがたいよな。あとはカニが取れりゃよかったんだけどなあ……」

「アー、そうッスねェ……」

【カニキャッチ】判定(難易度NORMALの
7d6 → 1, 2, 2, 2, 3, 4, 5 成功2
【カニ】12 + 2 → 14

 弛緩した空気が流れる。ハッカーはレッドブーツのアトモスフィアの変化を感じとり、運転に専念し始めた。レッドブーツは椅子に奇跡的バランスを実現しながら、中空を見て夢見るように微笑する……

革命!」「進歩!」「闘争!

 その気怠いアトモスフィアを粉砕する破壊的メガホン音声! レッドブーツは低く唸り、目を細めた。

「……なんだ?」

「さ、さぁ……」

我々は進歩的革命闘争連帯"イッキ・ウチコワシ"の洋上欺瞞資本主義漁業粉砕同胞団である!

 続く攻撃的宣言! そして闘争精神を感じさせる雄叫び! レッドブーツは立ち上がり、隣室を覗き込んだ。手振りで「外に出るな」のジェスチャー。恐慌に陥りかけていた船室のアトモスフィアが急激に和らぐ。

ブルジョワ傘下漁業者諸君! 我々は諸君ら退廃的漁業船舶を徹底的に世界より撃滅総括打破するために……!

「ウッザ……要約しろよな。こっち来るか死ぬか選べって言いたいんだよな? たぶん」

「デスネー」

「キミ、向こう行く?」

「いいえ」

「だよな。仕事してくる」

 散歩にでも向かうような足取りでレッドブーツは一人甲板に立つ。すぐに騒音の源である赤塗りのコルベット艦を発見。その上に立ち並ぶ全身赤備えの男たち。

 その光景は意外なほどにレッドブーツのニューロンを逆撫でした。

「……被ってるのムカつくな。せっかくキミが選んでくれたヒキャクなのに」

『気にしなくていいのに。あなたのほうがよほど似合ってるよ?』

「アリガト」

 柔らかな表情は一瞬で消えた。無表情に赤いコルベット艦を見据えたレッドブーツは、簡潔に答えを返す。首を親指で掻き切る、誰にでもできるしわかる宣戦布告。

 BLATATATA! イッキ・ウチコワシの返答は重機関銃の音に掻き消された! レッドブーツは船のへりに片脚を乗せ、そのまま内臓スリケンボウガンで銃撃者をスナイプ。POW! LAN直結砲の援護射撃がそれに続く!

レッドブーツ:【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
1, 1, 2, 2, 3, 4, 6 成功 コルベット艦【体力】10→9
ケジメ号:LAN直結砲 コルベット艦【体力】9→8
コルベット艦:重機関砲
ケジメ号 【体力】6→5

 BLATATATA! イッキ・ウチコワシ側は即死した砲手と入れ替わった新たな戦闘員が砲撃を続行! それは着実に『ケジメを迫るヴィーナス号』の船体を削り取る。レッドブーツは眉をひそめた。このままではジリー・プアー(徐々に不利)か?

「……ン?」

 レッドブーツは不意に目を細める。赤尽くしのコルベット艦にぽつんと目立つ別の色彩を見つけたからだ。朧なセーラー服の少女。一瞬の驚愕は、すぐに高揚と納得に取って代わる。

「ああ……ああ、そうだね。その方がずっとハヤイや」

 夢見るような微笑を浮かべ、レッドブーツは唐突に跳躍した。

【脚力】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 2, 3, 3, 6 成功

 ヒトットビ! レッドブーツの周囲が無音となる。赤づくめの中に消えた少女を探すための極度集中によるものだ。着地を狙い、ウチコワシ戦闘員の一人がゲバ棒を持って突進してくる……

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
6d6  → 2, 2, 3, 3, 4, 5 成功

 レッドブーツは軽やかにステップを踏む。マイめいた動作。ゲバ棒が空を切る。レッドブーツが一回転を終える頃には、ゲバ棒戦闘員の首が胴から離れて宙を飛んでいた。

 怒号とともにウチコワシ戦闘員たちが迫る。レッドブーツは周囲を見渡し、朧な少女を探す。邪魔だな、と思った。最小限の動作でゲバ棒打撃や銃撃を回避。戦闘員たちの間を縫うようにステップを踏む。彼女が通過すると同時、戦闘員たちが首や心臓から血を迸らせ即死!

「まったくもう、お茶目なんだから」

 微笑まじりに呟く。あの子は上手く隠れているらしい。昔からそういうのが得意な子だった。怒号が悲鳴へと変わる。うるさいな、とレッドブーツは感じた。あの子の声が聞き取れやしない。

 回る。回る。ダンスめいて回る。目を凝らし、耳を澄まして少女の痕跡を探す。有象無象を斬るのはそのついでだ。人体の急所など飽きるほどに教えられたし、非ニンジャ相手であればカラテシャウトなど発さずとも充分に殺せる。回る。回る。回る……

 ……「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」……

 レッドブーツはステップを止める。ようやっと周囲が静かになったからだ。見渡せば、赤い船上が血で再塗装されている。カタナの血を払い、納刀。少女を探すため船内を歩き回る。

 少女の姿はないが、先ほどの連中が溜め込んだと思しき物資が目についた。カニコンテナ。他のカニキャッチ船から略奪したものか。魅力的だが持ち帰るのが面倒だ。無視。

 剥き出しのままに山となった貴金属類もあった。だがこの海の上でなんとなる? まだ無事に帰れると決まったわけでもない。無視。

 船長室と思しき場所に踏み込んだレッドブーツは、その卓上に奇妙な品を発見した。真っ赤なアタッシュケースである。多少興味を惹かれた。彼女は迷うことなくそれを掴む。

 ……「「「ワオオーッ!」」」帰還したレッドブーツを出迎えたのは歓声であった。いつの間にか甲板上にまで様子を見に来ていた乗組員たちのものだ。おざなりに手を挙げて答え、レッドブーツは早々にモニタルームへ。

「オツカレサマデス!」

「ドーモ」

 わざわざオジギするハッカーに適当な返事をしてから、レッドブーツは赤いアタッシュケースを投げ置いた。そしてそれを無造作に蹴り開ける。中には濃緑色の地に金の渦巻き模様のフロシキ。

 興味深げに覗き込むハッカーを余所目に、レッドブーツはフロシキを開け……中に入っていたものに眉をひそめた。ハッカーが首を傾げる。

「なんです? それ」

「……バイオインゴットだと思う。なんでこんなもん持ってたんだあいつら?」

 緑色のヨーカンめいたインゴットを掲げ、レッドブーツは訝しげに呟いた。無論のこと、ハッカーには答える術がない。すぐに興味を失ったレッドブーツは、それを無造作にアタッシュケースへと仕舞い込む。そして座席へと座り、中空を見上げて微笑するのだった。


【レッド・ファイト・クラブ】その2おわり。その3へ続く

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