忍殺TRPGソロリプレイ【ベビーシッター・オブ・ザ・デッド】その5

 ドーモ。しかなです。当記事はとあるソロシナリオを遊んだ結果をテキストカラテナイズドして生まれたリプレイであり、続き物だ。前作はこれ。

 長く続いたこのシリーズも、そろそろ終わりが見えてきた。ではいってみよう。よろしくおねがいします。



◇これまでのあらすじ◇

 (ノミカイにおいて軽い気持ちでミッションをオネダリしたディスグレイスに回ってきたのは、未熟なゾンビーニンジャを育成するという前代未聞の仕事だった。半月にも及ぶ鍛錬の日々。ブラッディリリーという名を得たゾンビーニンジャは、『性能テスト』に挑むことになる……!)


◇対戦相手選択な◇

 性能テスト。リー先生の口から飛び出た言葉に、ディスグレイスは思わず面食らった。考えてみれば当然の話だ……リー先生とてただの酔狂でゾンビーニンジャの育成を自分に任せたわけではあるまい。資金提供元……すなわちソウカイヤへのリターンだって必要だ。

 ズゴゴゴ……部屋の奥の壁がせりあがり、隠し扉を露わにする。そしてモニターに映し出されたのはメキシコライオン、重サイバネと思しきヤクザ、モーターヤブ、そして……ニンジャ!

『この中から戦う相手を選び、奥の扉からエントリーしたまえ!』

「……またぞろ選択ですか。そのニンジャは何者です?」

「ウン? ああ、彼はレッドコーナー=サンだ。ソウカイヤから実験材料として送られてきてネェー! 最初はゾンビーニンジャにしようかと考えていたが、今はこちらのテストに使うほうが有益だからネェ」

「成る程」

 どうやら遠慮なく爆発四散させてもいい存在、ということらしい。ディスグレイスは思案し……ふと思いついたようにブラッディリリーを見上げた。

「ブラッディリリー=サン。戦いたい相手はいますか?」

「決めていいの?」

「もういちいちわたくしが選んでやる必要もないでしょう。いいですか、これは実戦です。自分の実力をしっかり考えて、適切な相手を……」

じゃあニンジャ! ニンジャがいい!」


対戦相手:レッドコーナーを選択


 ディスグレイスはモニターを見つめ、再度ブラッディリリーを見上げる。どう考えても映し出された対戦相手の中ではもっとも難物だ。赤い影は楽しげに笑い、揺れるのみ。

 思わず再考を促そうと口を開いた彼女を、リー先生の哄笑が遮った。

『なんたる向上心! これは科学的にも貴重な性能テスト間違いなしだネェー! では早速見せてくれたまえ! そのカラテと、ワザマエを!』

「ハーイ。……じゃ、行ってくるね! ママ!」

「アッ、待ちなさい……!」

 場違いなほど明るいアトモスフィアとともに、ブラッディリリーは試験グラウンドへ続く扉を開き、向こう側は。

 扉が閉まるのはあっという間だ。ディスグレイスは自分がその背へ手を伸ばしていたことに気づくと、バツが悪そうに引っ込める。

 ブゥン。モニターが切り替わり、ニンジャと同時にエントリーするブラッディリリーの姿を映し出す……


◇性能テストな◇


「ドーモ。ブラッディリリーです」

「……ドーモ。レッドコーナーです」

 試験グラウンドの中心部にて、二人のニンジャがアイサツを交わす。レッドコーナーと名乗った男は、戸惑ったようにブラッディリリーを見上げ、どこへともなくがなり立てた。

「オイ、リー先生よ! ゾンビーニンジャだかなんだか知らんが、こいつを殺せば俺が組織のアガリをピンハネしたのがチャラになるんだな?」

『イヒヒィーッ! その通りだ! 全力を出したまえ! そうしないと性能テストにならないからネェ』

「ハッ! ゾンビーなんぞ子供のオモチャってことを思い知らせてやるよ。すぐにぶっ壊してやる!」

ニンジャ名:ブラッディリリー
【カラテ】: 7
【ニューロン】 :6
【ワザマエ】:3
【ジツ】:0
【体力】:14
【精神力】:6
【脚力】:3
『ネクロカラテ』
『ゾンビーニンジャ』
『●連続攻撃2』
ニンジャ名:レッドコーナー
【カラテ】: 4
【ニューロン】 :3
【ワザマエ】:4
【ジツ】:2(近接格闘系)
【体力】:5
【精神力】:3
【脚力】:2
『●特殊近接ステップ』
『●タツジン(ボックスカラテ)』(ボックスカラテ連打使用不可)
フルフェイスメンポ

 ブラッディリリーはニコニコとレッドコーナーを見下ろす。モニター越しに感染するディスグレイスは、その笑顔が何を意味するものか捉えかねていた。よく考えればあの子は基本笑っている。

 その表情を嘲笑ととったか、あるいは痺れを切らしたか。レッドコーナーは軽くステップを踏み「シューシュシュシュッ!」数度ボックスカラテ・ジャブで空を切ってみせた。そして挑発的に左手でブラッディリリーを手招き!

「ヘイ! ビビリあがってんのか!? 今すぐドゲザすれば許してやらなくも、」

 威勢のいい言葉は途中で飲み込まれた。ブラッディリリーが一瞬にして眼前に滑り込んできたからだ。ドレスの裾めいた仮足を床に薄く広げ、重心移動の要領で移動したのである。

 レッドコーナーのニューロンはしかし、相手の次の一手に向けて高速処理を開始していた。あの巨体でほぼワン・インチ距離。むしろ自分の得意な間合いに踏み込んできたイディオット「イヤーッ!」

 「イ、イヤーッ!?」顔面に飛んできたのはカラテチョップ突き! レッドコーナーはかろうじてバックステップ回避! 鋭い爪が彼のフルフェイス・メンポに傷をつけた。数秒して、彼は不可解な攻撃の正体を知る。ドレスめいた胴体に装飾めいて絡めれていた細い腕!

「キャハハッ! あなたは素早いニンジャなのね!」

「チィーッ……! ナメルナヨ! シューッシュシュシュ!」

 手を打って笑うブラッディリリー向け、レッドコーナーは踏み込みカラテジャブを見舞う!「イヤーッ!」ブラッディリリーは後方にスライド移動しこれを回避! お返しとばかりに長い右腕を振るい、レッドコーナーを狙う!

「イヤーッ!」

 レッドコーナーは姿勢を低くしこれを回避。頭上を通過する質量に舌打ちする。今のはアブナイだった。致命的打撃と言ってもいい。彼は一気に反撃に転じようと「グワーッ!?」

 左側面から衝撃を受け、レッドコーナーはブザマに転倒! ナムサン! いったい何が起こったのか!? ……モニターから観戦するディスグレイスの視点から見れば、読者諸氏もその謎めいた二撃目の正体がわかるだろう。レッドコーナーに回避されたブラッディリリーの右腕は、そのまま自身の身体に巻きつくようにして一回転。油断しきっていたレッドコーナーの左頬に痛烈な一撃を与えたのだ。ワザマエ!

「ひっかかった!」

「テ、テメェーッ! シューッシュシュシュ!」

 目を血走らせ、レッドコーナーが再びブラッディリリーのワン・インチ距離! そしてボックスカラテ! 一撃目こそ滑らかな外皮の上を滑ったものの「アバーッ!」二撃目はその胴体にクリーンヒット! 赤い影がわずかに揺らぐ!

「アッ……!」

 観戦するディスグレイスは無意識に拳を握る。無論のこと、一撃もらった程度で倒れるほどブラッディリリーがヤワなニンジャではないことはよく知っている。しかし楽観視はできない。今までの立会いでわかる。ゾンビーニンジャの回避反応は鈍い。このまま連打を受け続けてしまえば……!

「……ビックリしたじゃない! イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 ブラッディリリーが左腕を振るう。その指は鉤爪めいて曲げられ、かつナイフめいて硬質化していた。レッドコーナーは右腕を縦にし防御の構え!「ナメルナヨ……!」その目が怒りと闘志に燃える!

 彼はボックスカラテのタツジンである。このふざけたゾンビーの特徴もおよそつかめた。まずこのカラテをいなし、あとはワン・インチ距離に潜り込んで徹底的に痛めつけ殺す!

……グワーッ!?」

 だが、おお、ナムサン。それでもレッドコーナーはまだ眼前のゾンビーニンジャを侮っていたのだ。彼のガードに激突した左腕は、彼の想定以上の威力でもってその腕をへし折り、かつ彼の頭を揺らした。彼は知らなかったのだ。肉体制御の脳リミッターが外れたゾンビーニンジャが振るうネクロカラテの威力を!

 レッドコーナーの首が120度回転!「ナ……」だが、見よ! 真っ赤に染まったその目には依然として殺意の光が灯る!「ナメルナヨーッ! シューッシュシュシュ!」なんたるヤバレカバレか! 彼はそのままブラッディリリーの懐に潜り込み、闘争本能のままにボックスカラテを繰り出したのだ!

「アバーッ!?」

 痛烈な一撃が胴体に入る。ブラッディリリーの苦悶の声に、レッドコーナーは首を捻れさせたまま獰猛に笑った。あとはフットワークで翻弄し、ワン・インチ距離を保ったまま削って殺すのみ……!

「……ア?」

 ふと、脚に何かが絡みついた。レッドコーナーは視線を下に向ける。ドレスの裾めいたブラッディリリーの仮足が、彼の脚へまとわりつき、飲み込んでいた。

 ……そして、ナムアミダブツ。彼にはもう、そんなことを確認する時間すら残されてはいなかったのだ。

「ア……」

 両腕を掴まれる。ブラッディリリーの胴体から伸びた装飾腕だ。レッドコーナーの主観時間が泥めいて鈍化する。彼の脳裏に、ソウカイニンジャとなってからの日々が再生された。ソーマト・リコール。

「……ニンジャと戦えば、もっと強くなれる。そうしたらもっとママを喜ばせられるかな、と思ったんだけど」

 降ってきた言葉に顔を上げる。人形めいた美貌の赤い顔が見下ろす。眼科の奥に灯る白い光が、無慈悲に輝いていた。

「でももういいや。お前、弱い」

 死者の両手がレッドコーナーの顔を包み込む。「ヤメ……」彼は叫ぼうとした。だが、それは叶わなかった。

 ゴギン。「アバーッ!」レッドコーナーの首が回転させられた。骨がへし折れる音が試験グラウンドに響く。ブラッディリリーは無言で彼の首を回転させ続け、最終的に捻り切った。

サヨナラ!」

 レッドコーナーの生首が爆発四散! 残された胴体はブラッディリリーの胴体にもたれかかるように崩れ落ち……そのまま沈み込むようにして赤い肉体に飲まれていった。ナムアミダブツ。おお、ナムアミダブツ。

ブラッディリリー:
【カラテ】(1, 5, 5, 6)(2, 2, 6)
レッドコーナー
【回避】(3, 6, 6)(1, 4)
【カラテ】(1, 3, 3)(4, 4, 6)
ブラッディリリー
【回避】(1, 1, 2, 2, 2, 3, 5)
【カラテ】(2, 4, 6, 6)(2, 2, 5)
レッドコーナー
【回避】(5, 6, 6)(1, 1)→レッドコーナー【体力】5→3
【カラテ】(4, 5, 5)(2, 5, 5)
ブラッディリリー
【回避】(1, 2, 3, 4)(1, 4, 5)→ブラッディリリー【体力】14→13
【カラテ】(2, 2, 5, 6)(2, 4, 6)
レッドコーナー
【回避】(1, 2, 3)(1, 4)→レッドコーナー【体力】3→1
【カラテ】(1, 3, 5)(3, 4, 6)
ブラッディリリー
【回避】(2, 6, 6, 6, 6)(2, 3)→ブラッディリリー【体力】13→11
カウンターカラテ発動! レッドコーナー【体力】1→0 爆発四散!



◇リザルトな◇


イヒヒァアーッ! アーッ! アーッ! これだけの教育で! ニンジャを! アーッ!

 モニターから届く狂気めいたリー先生の喜びように、ようやっとディスグレイスのニューロンは復帰した。勝利した。あの子が。自分以外のニンジャに。……当然のことだ。彼女は内心でそう考え、緩む頬を引き締めることに専念した。

「タダイマ! ママ!」

「! ンン……オカエリ、ブラッディリリー=サン。よくやりました。ええ。及第点です」

「ヤッタ!」

 戻ってきたブラッディリリーが両腕を上げて喜ぶ。「ンン」ディスグレイスは再び緩みそうになった頬を苦心して引き締めた。厳格に振舞わねば。

 抱きつこうとしてくるゾンビーニンジャをバイオ触手で遠ざけつつ、彼女はモニターの向こうで踊っているリー先生へと声をかけた。

「性能テストとやらも終わり。つまり、わたくしの仕事は」

『アーッ! ……ンン? ああ、そうだ! これで終わりだネェ。あとで報酬を振り込んでおこう! ……と、言いたいが!』

「は?」

『別観点からの確認を手伝ってもらわなければネェ! ディスグレイス=サン! 迎えをすぐやる! こちらの研究室まで来てくれたまえ!』

「え」

 急に変わった風向きに、ディスグレイスは青ざめた。絶対にロクなことではない。ガコン。そうこうしているうちにやってきたのは、オレンジのボブカットの白衣女性だ。そのバストは豊満である。

「ドーモ。フブキ・ナハタです。お迎えにあがりましたわ」

「ええ……」

 その女性の美しさを目で楽しむ余裕もない。ディスグレイスの額に冷や汗が滲む。ブラッディリリーは不思議そうに、育ての親と外への出口を交互に見やっていた。


◇◆◇◆◇


 ……そして数十分後! リー先生の研究室にて、ディスグレイスは手術台に寝かされ、謎めいた装置を装着させられたというわけだ。装置から伸びた色とりどりのLANケーブルを不安げに眺め、彼女は側にいたフブキ助手へと話しかける。

「あの、これは……」

「心配されることはありませんわ。先生特製のニンジャソウル測定器ですの」

「はぁ……?」

 状況が飲み込めない。ディスグレイスは反対側を見やる。そこには猛然とした勢いでUNIXにタイピングするリー先生と、それを不審げに見下ろすブラッディリリーの姿。そう、ブラッディリリー。どういうわけかここにまでついてきてしまったのだ。

 誰にともなくリー先生は独り言を呟き続けている

「ゾンビーニンジャの育成テストは当然これが初! 今回は知性を持ちげニンジャを爆発四散せしめるカラテを得た! 実に興味深くかつ驚くべき結果だ! これは追加試験の実施が重点!」 

「その通りですわ、先生」

「ですがいいですか、この育成に考えられる要因は大きく二つ! 育成者側と被育成者側のニンジャソウル! もし今回の育成者がディスグレイス=サン! 君ではなかったら当然これも別の特性、姿を得ていた可能性は極めて高い!」

「これ……ああ、私」

 ブラッディリリーが頷き、胡乱なものを見る目つきでリー先生を見下ろす。リー先生は気にせずタイピングと独り言を続行!

「育成者側の人格、実力ももちろん考慮すべき! ですがこれはもはや育成者を超えたカラテを見せていることは明白! つまりニンジャソウル間でなんらかの共鳴現象が発生することにより想定以上のカラテが引き出された可能性すらある! わかるかネェ、ディスグレイス=サン!」

「え、ええと……それとこの装置の関係は……?」

「つまりこれから君のニンジャソウルを測定するのだ! 誇りに思いたまえ! ソウカイヤのニンジャが誰でも受けられるわけではない……ムムッ!?」

 リー先生がタイピングを停止! そのままモニターに顔を近づける! それを覗き込まんとするフブキ助手とブラッディリリー!

「この波長は……コブラ・ニンジャクランのものですわね、先生!」

「然り! 彼女のバイオ触手の使い方にはダイジャ・バイトを彷彿とさせるものがあったからネェー! さもありなんといったところか! ダイジャ・バイト……フゥーム……」

 目を細めて画面を覗き込み、首を傾げるブラッディリリーを気にしない様子で思考を開始したらしいリー先生は、ふと思い出したように席から飛び跳ねる!

「フブキ君! コッカトリス=サンに使用したあの試験薬はまだ残っているネェ!」

「もちろんですわ、先生」

投与したまえ! ヘビ・ニンジャクランとコブラ・ニンジャクランは近縁だ。なにかしらのケミストリによりソウルの力が解放される可能性が高い!」

「え」

 試験薬、なる言葉にディスグレイスが青ざめる。そしてフブキ助手が持つ怪しげな色の液体入り注射器を見て絶望の顔を浮かべた。フブキ助手が笑う。

「安心してくださいな。痛いのは一瞬だけですから」

「いえ、痛さを心配しているわけでは……ちょっと、ちょっと待って……アッ、アアアアーッ!?」

 秘密ラボに、悲痛な叫びが木霊した。


【万札】10獲得。これを代金として【ジツ】値を拡張
ディスグレイス
【ジツ】3(カナシバリ)→4(カナシバリ)
『★カナシバリ・マスタリー』習得な



◇エンディングな◇


 ……その日のウシミツ・アワー! マンション「せなまし」413号室!

「タダイマ……」

「おかえり」

 玄関を開け、返ってきた声にディスグレイスは顔をしかめた。リビングのチャブ・テーブルに座り、サイバネ脚をぶらつかせているのはセーラー服の少女だ。

「ドーモ。シャープキラー=サン。……今日に限って戻ってきているとは。どこをほっつき歩いてたんですか」

「アハハ! キールバック=サンから聞いてた? いや、私のほうにもいろいろあったんだけどさ」

 朗らかに笑った少女は、ディスグレイスに続き上がり込んできた"それ"に目を丸くした。

「……ワオ。ディスグレイス=サン、あの噂本当だったの? リー先生のとこで……」

「あの人の名前はしばらく出さないでくれません? 紹介しておきます。こちら、ブラッディリリー=サン。いろいろあって引き取りました」

「ドーモ! ママの妹さん!」

「アッハ! 妹はちょっと困っちゃうな……ドーモ。ブラッディリリー=サン。シャープキラーです」

 シャープキラーは平然とアイサツを返し、物珍しげにその赤いゾンビーニンジャを見上げた。天井に頭をぶつけそうになりつつも、ブラッディリリーは部屋の中を楽しげに見渡している。

 なぜブラッディリリーがここにいるのか? おおよそ読者諸氏も想像に容易いのではないのだろうか。教育と突然の実験を終えて帰ろうとしていたディスグレイスに対し、ブラッディリリーが大いに駄々をこねたためだ。

 これにはディスグレイスはもちろん、リー先生も困惑した。このゾンビーニンジャがここまで親愛の情を見せることなど想定外だったのだろう。いくらなだめすかしても言うことを聞かないブラッディリリーに、ついにリー先生が根負けした。ディスグレイスを秘密ラボの特別研究員という立場に置き、その世話を引き続き依頼したのである。

「ママ、ママ! 部屋の隅になにかある!」

「静かになさい? もう他の子たちは寝ているでしょうし……ああ、触らないの! で、今までなにをしてたんですかあなたは」

「ん、私? えーとね……クークーベイビーってニンジャをスカウト部門に連れてったのと、昔の友人を追い払ってたくらいかな」

「はあ、友人?」

 長コケシ椅子に腰かけ、ディスグレイスは眉をひそめた。外面だけはいいシャープキラーのことだ。友人の一人や二人、いてもおかしくはないだろうが……

 シャープキラーは肩を竦めてみせる。

「アシサノ私塾時代のね。まあ、あいつが勝手にそう言ってたからそういうことになっちゃってたんだけど……」

「追い払うとは具体的にどこへ?」

外洋。ディスグレイス=サンが使ってた手を真似してさ。あー、めんどくさかった……」

 珍しくうんざりとした様子で溜息をつくシャープキラー。ディスグレイスはわずかに口元を引きつらせる。シャープキラーが真似したのは『それとなくローンを組ませ、ぎりぎりまでその事実を隠し、ふわふわローン回収部門にローン滞納ニンジャとして密告する』手段だろう。

 ……他ならぬディスグレイスが、他ならぬシャープキラーを放逐したときに使った手である。案の定、把握しているか。つまるところ、本当は自分が行くはずだった場所にその「旧友」とやらを送り込んだのだろう。カニキャッチ工船へ。

「まあ、私のことはどうでもいいよ。しばらくはゆっくりするんでしょ? ディスグレイス=サンも」

「……ええ」

 ディスグレイスは小さく頷く。今更ながらに眠気が襲ってきた。シャープキラーは笑い、チャブ・テーブルから飛び降りる。

「じゃあフートンしかないとね。ほら、ブラッディリリー=サン。ここでの生活にもルールがあるんだ。教えるからちゃんと覚えなよ」

「……センセイ?」

「アッハ! そんな大仰なもんじゃないって……」

 二人の声が遠ざかる。ディスグレイスはうとうとと、机の上に突っ伏した。


【ベビーシッター・オブ・ザ・デッド】おわり



◇後書きな◇

 というわけで、"それ"ことブラッディリリーを引き取り、かつ【ジツ】値の限界を突破したディスグレイスでした。

 最終的なパラメータはこんなです。

ニンジャ名:ディスグレイス
【カラテ】:5
【ニューロン】:5
【ワザマエ】:4
【ジツ】:4(カナシバリ・ジツ)
【体力】:6
【精神力】:4
【脚力】:3
【万札】:15
【名声】:5
【余暇】:5
持ち物など:
『★カナシバリ・マスタリー』
オーガニック・スシ
▲バイオサイバネ腕(片腕)
▽吸血バイオ器官
○信心深い

 なんと念願の【ジツ】値4突入。一番最初に成長の壁を突破したニンジャとなった。ブラッディリリーという『センセイ』もできたので、次はカラテを高めてもいいかもしれない。

 さて、次やるとしたらシャープキラーの旧友が出てくるアレかな……もうトゥギャッターにまとまってるやつなので、新鮮味はないかもしれない。

 ここまで読んでくださった皆様、そして楽しいソロシナリオを書いてくださった海中劣=サン! ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!


 





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