忍殺TRPGソロリプレイ【ベビーシッター・オブ・ザ・デッド】その3

 ドーモ。しかなです。当記事はニンジャスレイヤーTRPGにてとあるソロシナリオを遊んだ結果をテキストカラテナイズドした、いわゆるリプレイ記事というやつだ。気楽に読める。

 そして続き物だ。前回はこれ。興味が出たらその1から追ってもいいかもしれないよ。

 では早速行ってみよう。よろしくおねがいします。



◇育成中盤な◇

 ディスグレイスがこの『子供部屋』に投げ込まれてからはや一週間。今日も今日とて"それ"と過ごす日々が始まった。

「ウ……、ュ、ヘミ、ァー……」

 "それ"はゆらゆらと揺れながら何事か呟いている。あるいは歌っているのかもしれない。この間、戯れに子守唄を聴かせてやったのだ。それ以来、なにか言葉を発する機会が増えたような気がする。

 ディスグレイスは改めて"それ"を観察する。全体的なフォルムはそのままに、おおよそ自分の胸ほどには身長が伸びている。顔は相変わらずのっぺりとしたままだが、髪を模したのであろう触手……というか、細すぎる腕というべきか……をだらりと垂らしている。

 どうやら"それ"は今の姿がお気に入りらしい。これ以上の変質は望めないか。

「……では、そろそろレッスン2といきましょうか」

「ィ?」

 思わず漏れた独り言に、"それ"が不思議そうに振り向く。ディスグレイスは微笑んだ。


◇◆◇◆◇


 ドスン。目の前に積み上げられた本の山に、"それ"が文字どおり目を丸くした。ディスグレイスの山の一番上から一冊取り、"それ"の目の前でぱらぱらとめくって見せる。カートゥーン。『サムライ探偵サイゴ』だ。

「レッスン2。……と言っても、今回はカラテはなしです。あなたにはこの本を読めるだけ読んでもらいます。いや、読めなくてもいいですね。だいたい絵を見れば中身が判断できる代物ばかりなので」

「ュー……?」

「あなたが今の『形』を好んでいることはわかりました。大いに結構。ならば次にすべきは『突き詰める』ことです。これらの本に出てくる登場人物に目を通し、あなたがモデルにしたいものを探し出しなさい」

「ケ、ォ!」

「なお、これらの本はわたくしが寝る頃にはすべて破棄します」

「!?」

 こくこく頷いていた"それ"は小さく飛び跳ねた。驚いたらしい。そしてディスグレイスの手からカートゥーンを受け取ると、猛然とページをめくり始めた。

 (ま、ひとまずはこれでよし)彼女は四苦八苦しながら読み進めている……のだと思う……"それ"を眺める。大まかな形が決まったのなら次は細部。当然の話だ。参考にできる資料は多ければ多いほうがいいし、時間制限を設ければそのぶん必死に情報を取り込もうとするだろう。記憶に努めるかもしれない。

選択肢2:【ニューロン】を育てる
選択肢3:ビシバシ鍛える

 ……ディスグレイスとてわかっている。この本がなくても、"それ"がモデルにできそうな人間はすぐ近くにいる。すなわち、自分だ。

 だがそれではせっかくの伸び代を無駄にしてしまう。様々な可能性を提示することで、"それ"になんらかのエゴが芽生えるのではないか。彼女はそう考えていた。決して、目の前の"それ"が日に日に自分を模倣していく様を思い描いて不気味に感じたことだけが理由ではないのだ。

 ディスグレイスが思案に耽っている間にも、おお、見よ! "それ"は早くも5冊目の本に手を伸ばしている。読んだ本は二つに分けて置かれている。その基準までは定かではないが、なんらかの取捨選択を行っていることは想像に難くない!

 そののっぺりとした顔がさざなみめいて波打った。ように見えた。ディスグレイスはしばし確認したから、自分用にとっておいた本を手に取る。しばらくは"これ"も静かにしているだろうし、こちらも情報を摂取するとしよう。

【ニューロン】判定(難易度U-HARD)
 前回休みを選択したためダイス+3個
 8d6 → 2, 2, 3, 3, 3, 4, 6, 6 成功
成長な
ニンジャ名:???
【カラテ】: 5 → 6 
【ニューロン】 :3 → 5
【ワザマエ】:3
【体力】:10 → 12 
【精神力】3 → 5
【脚力】2
『ネクロカラテ』
『ゾンビーニンジャ』



◇中盤の特別育成な◇

 ……レッスン2からさらに数日後! 『子供部屋』に隣接する控え室にて、ディスグレイスはほとんど日課となっているアジトへの通信を行っていた。通信相手はいつものようにキールバックだ。

「シャープキラー=サンが戻ってこない?」

『はぁ。といっても、私たちが寝てる間にここへ立ち寄ってはいるみたいです。たまに冷蔵庫からスシだのチャだのが減ってますから』

「……まあ、あれはあれで好きにさせておけばいいでしょう。フィアーレス=サンが事情を知っているかもしれませんし」

『あいつもあいつで必要最低限なことしか言わないですし……旧友が戻ってきたらしいだの、ほとぼりを冷ましに行くだのなんだの』

 なにかしでかしたのだろうか、あの小娘。ディスグレイスは額に手を当てる。ほとんど愉快犯のような性格の持ち主とはいえ、さすがにソウカイヤに楯つくようなことはしないだろう。そう思いたい。なにか別のベクトルで面倒ごとに片足を突っ込んだのか。

「あれのことです。そのうち戻ってくるでしょう……他に変わったことはありませんか? トラブルは?」

『いたって平和です。例のニュービーが、ときどきリビングに出てくるようになりました』

「チョージョー」

 思わず微笑が浮かぶ。ようやく慣れてきたか。自分が戻ってこない間に、あのマンションの一室を新しい家だと思ってくれればだいぶやりやすくなる……KNOCK! KNOCK!

『お姉さま?』

「……ああ、スミマセン。仕事の時間です。では」

 慌ててディスグレイスは通信を終え、大きく伸びをしてから立ち上がる。どうやら"あれ"はすっかり学習したらしく、特定の時間になるとこうして呼びに来るようになった。

 鉄扉の前に来ると、ぴたりとノックの音が止む。こちらの気配を感じ取れる程度にはニューロンが鋭くなったらしい。良いことか悪いことかは別として。鉄扉を押し開ける。

「オハヨ! ママ!」

 隙間ができたと同時に滑り込んできた細く長い右腕がディスグレイスの腰に巻きついた。そのまま引き寄せられ、抱きつかれる。思わず苦笑が漏れた。

「はいはい、オハヨ。……ずいぶんとまあ、舌が回るようになりましたね」

「お話、タノシイ!」

「それはよかった。ほら、もうハグはいいでしょう? 離しなさい?」

「ヤダ!」

「離し……」

「ヤダ!」

 絵に描いたような笑みのまま"それ"は言った。ディスグレイスは諦め、"それ"の肩を叩く。"それ"の方も慣れたもので、彼女を抱きかかえたままで『子供部屋』へと移動し始めた。ドレスめいた脚部で、這うように。

 わかっていたことではあるが、"それ"の成長は恐ろしく早い。もはや身長はディスグレイスと並ぶほど。なにより目を見張るのはその変貌ぶりだ。赤一色であることを除けば、まるで童話に出てくるお姫様じみた姿となっていた。

 その顔もまた人に近くなっている。中性的な美貌……だが、それよりも特徴的なのは目の奥に輝く白い光だろう。"それ"に瞳はない。ゾンビーであるゆえ、腐り落ちたのか。それでも、その光がたしかな視線と知性を伝えていた。

 部屋の中央まで進み、ようやく"それ"はディスグレイスを解放する。改めて"それ"を眺め、思わず感心してしまった。あのなんだかわからなかった初対面の頃と比べて、なんと艶やかな姿になったことか。これがニンジャ成長力だろうか。

「……それにしても、ママはやめなさいと何度も言ってるじゃないですか。あなたを産んだ覚えはないですよ」

「でも、本には、産んでなくても、ママって呼ばれてる人間、いた!」

「それは……コホン。他にも呼び方があるでしょう? センセイとか」

「……センセイって、変な人の、こと、だよね?」

 小首を傾げられた。ディスグレイスは思わず顔を覆う。これは読ませたカートゥーンやら絵本やらから学んだ知識ではあるまい。おそらくは……

『イヒヒーッ! なかなかいいデータが取れている! 実に興味深いネェー!』

「あ。センセイだ」

 噂をすればなんとやら。またも唐突に点灯した壁埋め込み式モニターに、リー先生の顔がアップで映る。……やたら淡白な"それ"の反応から、ディスグレイスは自分の推論が当たっていることを思い知らされた。特に嬉しくもないが。

「……ドーモ。リー先生。本日はどのようなご用件で?」「ごよーけんで?」

『会話! 知性の片鱗! 実に素晴らしいィーッ! ……というわけで、次のステップに進もうと思ってネェ。それに道具を与えてやりたまえ!』

「はぁ。道具」「どーぐ」

『然り、道具だ! 神話でヒトへ最初に火を与えたニンジャのように!』

 リー先生がその熱狂さを増す! 一方、"それ"は不思議そうにディスグレイスを見つめた。「そうなの?」とでも言いたげに。「知りませんよそんなの」と口に出す代わりに彼女はこっそり首を横に振る。

 その間にモニターに映し出されたのは、メンポやカタナ、銃器などの装備品。実験台となった誰かの遺品なのか、それとも選ばれた品を購入するのか。後者だとしたらずいぶんと資金が豊富でいらっしゃるらしい。あやかりたいものだ。

(道具、ねぇ……)

 ディスグレイスは横目で"それ"を一瞥してから、モニターの中の道具を物色し始める、

「……メンポ。まあ悪くはない気もしますね」「しますねー」「ニンジャ装束。もしものときに役に立つかも」「立つかもー」「カタナも捨てがたい」「がたいー」「銃もいいですね」「ねー」

 "それ"は絵に描いたような笑みを浮かべ、一定の相槌を打っていた。ディスグレイスは数秒ばかり沈黙し、決断した。

「あえて何も与えない」を選択

「不要です」

『またかネェ!?』

「そうは言いますが、この子の反応を見てくださいよ。特に興味を示していません。興味のないものを押しつけたところで持て余すだけでしょう」

『フゥーム……しかたあるまい! 他に欲しいものはないのかネェ』

「センセイがなにか買ってくださるそうですよ」

ご本が読みたい! ママが、読んでた、文字の、多いやつ!」

 キャバァーン! モニターの向こうから鳴り響く電子音! ディスグレイスはやや目を丸くする。もう購入を決定したということだろうか。なにを買ったのだ。モニターが暗転する。

「ご本、いつ来るの?」

「ウフフ……楽しみに待ちましょうね」

 果たしてこの子の気にいる本が届けられるのだろうか。一抹の不安を覚えながらも、ディスグレイスはまた"それ"との一日を始めようとしていた。


【ベビーシッター・オブ・ザ・デッド】その3終わり。その4へ続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?