忍殺TRPGソロシナリオ【ベビーシッター・オブ・ザ・デッド】その2

 当記事はニンジャスレイヤーTRPGのとあるソロシナリオを遊んだ結果をテキストカラテナイズドした、いわゆるリプレイというやつです。

 そして続き物であり、前作はこれだ。

 さて、ディスグレイスと"あれ"の関係はどうなっていくのか。早速見てみよう。よろしくおねがいします。


◇これまでのあらすじ◇

(ディスグレイスはソウカイニンジャである。突発的ノミカイに参加し、酔った勢いで上司にミッションをオネダリした彼女に回ってきたのは、ゾンビーニンジャを育てるという前代未聞の仕事だった……!)


◇育成開始な◇

 どこから手をつけるべきか。結局その思考に戻ってくる。屈み込み、血塊めいた"それ"の目をじっと見つめていたディスグレイスは眉根をしかめた。"それ"の目……と思しきもの……には光がない。しかし、たしかに視線は感じる。

「……反応を見なければどうしようもありませんね」

 呟き、彼女は立ち上がる。"それ"は不思議そうにミコー装束の女を見上げた。ディスグレイスは優しく微笑みかけ……

イヤーッ!」

「パャッ!、!?」

 右袖を振るうと同時、中から迸った縄めいた「なにか」が容赦なく"それ"を打ち据えた。たまらず吹き飛び、床に数回バウンドしてから壁に激突! ナムアミダブツ!

「……!? ェ、タサ……!?」

「ああ、うまく防いだんですね。上手、上手」

 微笑したまま、ディスグレイスは爪先で床を叩いた。拍手の代わりだ。右袖から伸びたものを見れば、彼女が拍手などできないことが見て取れるだろう。ナムサン! それは悍しき濃緑色のバイオ触手だ!

「とどのつまり、ゾンビーというのは既に死んでいるのですから……少しばかり激しくしても問題ないですね。ええ」

 一人頷いた彼女は、壁から床に滑り落ちた"それ"に声をなげかける。

「さて、レッスンその1です。まず自分がなにをできるのかを知りなさい。さもなければその小さい身体がさらに小さくなることになりますよ?」

「……! ゥ……モ……!?」

 ぐにゃぐにゃと揺れる"それ"に「イヤーッ!」容赦ない触手の一撃が飛ぶ!

選択肢1:カラテを教える
選択肢3:ビシバシ鍛える

 「イヤーッ!」「!」「イヤーッ!」「!?」「イヤーッ!」「ッ」「イヤーッ!」「……!」「イヤーッ!」「ィ……!」な、ナムアミダブツ……ディスグレイスのバイオ触手は無慈悲に"それ"を打ち据える! いかにゾンビーといえど、直撃を受け続ければ死ぬ!

「……ふぅん」

 ……直撃であれば、だ。ディスグレイスは一瞬だけ攻撃の手を緩め、目を細めた。手応えでわかる。"これ"は成す術なくカラテを食らっているのではない。手応えでわかる。防御している

 正確に言えば硬質化だ。先ほど爪先でつついたときに感じた柔らかい感触ではない。張りが出ている。それで受け止めて……あまつさえ弾き返そうと試みている?

「思ったよりも見込みがあるかもしれません……ね! イヤーッ!」

「イ……!」

 飛来する触手に対し、"それ"はボールめいてまるまって見せた。その一側面、触手の向かう部分が見てわかるほどに凝縮、硬化!

 触手が"それ"に激突……しなかった。頭上を過ぎていく質量に、"それ"の目と思しき場所がわずかに大きくなる。

「ウフフ……イヤーッ!」

 いじましい努力と工夫に微笑したディスグレイスは、右袖からもう一本の触手を射出! がら空きとなっていた"それ"の顔(だと思う。目があるのだから)へ突き立てんとす!

「ア……ゥ……イヤーッ!」

 "それ"が発したのは、明確なカラテシャウトだった。もはや球体じみたその身体から、突如一本の細い……腕? 触手?……とにかくなにかが伸び、危うくバイオ触手を払い除けたのである!

「ほう!」

「……ェ? セュ……?」

 ディスグレイスは思わず手を止めた。"それ"もまた不思議そうに体から伸びた細いなにかを振る。試すように、ゆっくりと。どうやら無意識に行ったことであるらしい。

 ディスグレイスは数秒考え込み、オジギした。

「どうやらそれがあなたの『できること』のようですね、見つけたのならば、レッスンは終わりです」

「タ……?、リォー……?」

 言葉を理解しているのかしていないのか。なんにせよ、"それ"は小さく震えた。本能的にアイサツを返したか。

 アトモスフィアでもはやディスグレイスが襲ってこないことを悟ったのだろう。ずるずると這い寄ったそれは、初めて生み出した『手』でディスグレイスの脚に触ろうとする。

 ディスグレイスは微笑し、屈み込むと、その『手』に左手を合わせてやった。それから頭(と思しき場所)を撫でてやる。

「それは並のニンジャではできないことですよ。もっと伸ばしてみなさいな」

「……ゥ!」

 明確に反応を返してきた"それ"に苦笑しつつ、ディスグレイスはおもちゃ箱から適当に取り出した積み木を渡してやる。"それ"は興味深そうに渡されたものを撫で始めた。

【カラテ】判定(難易度U-HARD)
5d6 → 3, 4, 4, 4, 6 成功
成長な
ニンジャ名:???
【カラテ】:3 → 5
【ニューロン】2 → 3
【ワザマエ】3
【体力】6 → 10
【精神力】2 → 3
【脚力】1 → 2
『ネクロカラテ』
『ゾンビーニンジャ』


◇序盤の特別育成な◇

  ……マンション「せなまし」413号室! 電算機室!

『……そういうわけで、そちらに戻るのは少し遅くなりそうです。ごめんなさいね、キールバック=サン』

「い、いえ! お仕事なら仕方ないです!」

 UNIXのモニターに映るディスグレイスの寂しげな笑みに顔を赤らめつつも、キールバックは慌てて首を横に振った。寂しくないといえば嘘になる。が、ディスグレイスは『お姉様』である以前にソウカイニンジャだ。自分と同じように。そこは弁えなくてはいけない。

「それにしても泊まり込みだなんて……そんなに下準備のいる仕事なのですか?」

『下準備というか……ンン……守秘義務です。守秘義務』

 それとなく聞いてみてもはぐらかされる。『お姉様』は公私を分けるタイプなのだ。かくあるべきだ、とキールバックは思う。

『……そういえば。チェインドッグ=サンとはうまくやれていますか?』

「あー、あの子ですか……まあケンカはしてないです。今も引きこもってるんで」

 唐突にやってきたあのニュービーニンジャを思い出し、キールバックは眉根を寄せる。今も同居中のフィアーレスやらシャープキラーのやつやらとは違い、非常に大人しい。

 ただどうやら他人との交流に慣れていないようで、捨てる間際だったダンボールで部屋の片隅に即席の自室を作り、その中に閉じこもっている。いったいどんな生活をすればあんな風になるのか、キールバックには見当もつかない。

『そう。いきなり任せてしまって申し訳ないけれど、あなたがきちんと面倒を見てあげてくださいね。頼りにしていますよ』

「は……ハイ! お任せください!」

 信頼を向けられている。その認識がキールバックを高揚させた。立ち上がり、90度のオジギ! それと同時、背後のドアが微かな音を立てて開いた。覗き込んだのは長身の少女……フィアーレス。

「キールバック=サン。ご飯」

「あの、今お姉様と話してるところなんですけど? 先に食べててくださいよ」

「いや、新入りに差し入れしようと思ったんだけど。ちょっと」

 珍しく歯切れが悪い。キールバックはディスグレイスに断りを入れ、リビングの状況を確認する。部屋の片隅に設置された即席ダンボールアジト。入り口の前にはスシ・パックが置かれている。

 ……そして、それを見守るかのごとく手前にしゃがみ込み、微動だにしないセーラー服姿の少女が一人。キールバックはため息をつき、音もなく接近すると

「イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 躊躇なくその側頭部に回し蹴り! だがセーラー服少女もさるもの、垂直回転跳躍でこれを回避! ワザマエ!

 着地と同時にキールバックへ向き直った彼女は、朗らかな笑みを浮かべていた。

「アッハハ! ビックリした! 急になにするのさキールバック=サン」

「お前が何してるんですかシャープキラー=サン! そんなところで見てたら出るにも出られないでしょう!?」

「エー? だって私、新入りの子まだ見てないんだもん」

 ケラケラと笑うシャープキラー。言い争いの気配を感じたのか「アイエエエ……」ダンボールの中から弱々しい悲鳴。キールバックは口をつぐむと、シャープキラーの襟首をつかんで引き寄せた。

「……いいですか。どうにもあの子、極度の人見知りのようです。慣れるまでに時間がかかりそうですから、あまりイジめないように」

「えぇー? イジめたつもりなんてないんだけどな……」

「なお悪いです。……チェインドッグ=サン。お昼、そこに置いておきますから」

 ダンボールの向こうに声をかけつつ、キールバックはセーラー服の少女を引っ張る。ひとまずトレーニングルームを臨時の食事場所とするべきか。

 ……電算機室の向こう。フィアーレスが扉を閉めてディスグレイスに報告する。

「とりあえず、なんとかなると思う」

『なら、よし。私が帰ってくるまでよろしく頼みます。そちらでなにか変わったことは?』

「ン……」

 フィアーレスは数秒間思考を巡らせる。変わったことといえばシャープキラーが捕まえた『アレ』くらいだが、まあ本人に報告させたほうがいいだろう。

「私からは特にない」

『左様で。ではヨシナニ』


◇◆◇◆◇ 


 通信を終えたディスグレイスは大きく伸びをする。控え室にUNIXが備え付けられていたのは不幸中の幸いだった。リー先生から許可を得て(というより、ほとんど素通りで許してもらえた。興味がないのだろう)アジトで留守番している少女たちと通話ができる。

 ガン! ガン! 唯一の出入り口である鉄扉から衝突音。ディスグレイスは大きく伸びをして立ち上がる。そして衝突音が途切れる瞬間を見計らって扉を開けた。

「……! ォ……ォ……!」

「はいはい。オハヨ」

 ぱたぱたと腕を振るわせ……然り、腕だ……アイサツしてくる"それ"へ、ディスグレイスは微笑とともにアイサツを返す。足元にまとわりついてくる"それ"を蹴飛ばさないよう細心の注意を払いながら、部屋の中央へと向かった。

 ふと、追いすがってくる"それ"へと振り返る。ここに来てまだ数日程度だが、"それ"は大きく変貌していた。成長、と言い換えてもいい。

 それは漠然とした人型を模しているようだった。背丈はディスグレイスの腰ほどにまで到達。全体的なシルエットは強いていうならばスカートを履いた赤いハニワめいている。……要は脚を生み出せるほど器用ではなかったか、あるいはそこまで必要としなかったのだろう。

 のっぺりとした顔には、二つの丸い目と小さな口だけがついている。特徴的なのはその腕だろう。非常に短い左腕と、それに反するように伸びた、二対の右腕。床に引きずらんばかりの長さ。……どうやら自分を真似しているらしいと気づいたときには、ディスグレイスはやや面食らってしまった。

「ア……ゥ」

「そうですねえ。今日は何をしましょうか……」

 ディスグレイスは思案する。相当に厳しくしたのは初日のみ。今はただ、姿を変え、様々なものに興味を持ち始めた"それ"と気まぐれに戯れているだけだ。そうした時期も必要であろう。

 と。

『イヒヒーッ! どうやら順調に育成は進んでいるようだネェー!』

「!…!?」

 壁に埋め込まれたモニターが突如点灯! 驚いたのか、"それ"はディスグレイスの背に隠れ、恐る恐るといった様子でモニターを見上げた。ディスグレイスは"それ"の好きなようにさせたままで、モニターの向こうのリー先生を見やる。

「ドーモ。最初は半信半疑でしたが、着々と成長しているようです。……この子、もとはどういう死体だったんですか?」

『死体は死体だネェ。ソウルを移植したらそうなった! 興味深い反応ではあったが……いや、それよりもだ! そろそろステップアップが必要かと思ってネェー!』

「ステップアップ、とは」

『具体的には以下のプランから選びたまえ! 君が! "それ"のために!』

 ブゥン、と画面が切り替わる。映し出されたのはサイバネやバイオサイバネ、そしてトレーニング器具だ。器具はともかくとして、残り二つは……埋め込む、ということだろうか。

 ディスグレイスは未だすがりつく"それ"を見やる。目があった。軽くバイオ触手で頭を撫でてやってから、彼女は"それ"のスカートめいた下半身を見やる。脚を与えてやれば、また新しい刺激が取り込めるだろうか。

 十数秒間の黙考。ディスグレイスは決断した。

選択肢4:今は休ませる

「不要です」

『不要!? ほう! 不要ときたか! 興味深い! 理由を聞かせて欲しい!』

「先生もご覧の通り……この子は粘土めいています。自身で自身の形を定義することができる。今のうちからこちらで型にはめてしまうよりは、しばらく自由に遊ばせて己のあるべき姿を探らせるべきかと」

『フゥーム……ではトレーニングで技術を取得させるという選択肢もあったのではないかネェ?』

「今は土台を固める時期でしょう。小手先の技術はその後でも」

『成る程! いいだろう! しばらく"それ"と遊んでやりたまえ! イヒヒィーッ!』

 ブツン。点灯したときと同様、狂笑を残しながらモニターが暗転した。ディスグレイスは深く溜息をつく。ようやく自分から離れた"それ"に、彼女は微笑を向けた。今日はなにで遊ばせるか。たまには、この子に決めさせてもよいだろう。


【ベビーシッター・オブ・ザ・デッド】その2おわり。その3へ続く




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