忍殺TRPGソロリプレイ【レッド・ファイト・クラブ】その1
◇前置き◇
ドーモ。しかなです。当記事はしかながニンジャスレイヤーTRPGのソロシナリオで遊んだ記録をテキストカラテナイズした、いわゆるリプレイ記事と呼ばれるものです。気楽に読めるよ。
今回……というより、実は挑戦したのは去年の10月ごろにまで遡るのだが……とにかく挑戦したのはトラッシュ=サンの『ニンジャのカニ工船』です。
ふわふわローンを払いきれなかったサンシタ……本来はふわふわとロストしていく彼らのその先を描いたソロアドベンチャーであり、過酷だ。
そんな試練に命をかけて挑戦したのがこのニンジャ。
ニンジャ名:レッドブーツ
【カラテ】:6 【体力】:6/6
【ニューロン】:4(-1) 【精神力】:2/3
【ワザマエ】:6(+1) 【脚力】:5
【ジツ】:0 【万札】:0
近接攻撃ダイス:6
遠隔攻撃ダイス:7
回避ダイス:7
【特筆事項】:
【装備品】:
カタナ
▶︎ヒキャク
▷内蔵型スリケンボウガン
【スキル】:
○キラーマシーン教育
このシナリオ、特例として【万札】20までのサイバネ/バイオサイバネ装着が許されている。そのためオプションサイバネなどをつけてきた。
それにしてもまた○キラーマシーン教育。またもヒキャク装着。そしてカタナ……以前作ったニンジャの一人に相当似通っている。なので、それを前提とした設定で作中では動いてもらった。
ではやってみよう。よろしくおねがいします。
◇オープニング◇
ボウー、ボウー……暗く寒いドサンコ洋上。木の葉めいて頼りなく浮かぶ一隻の装甲船あり。その名は「ケジメを迫るヴィーナス号」。読者の中にはこの船名を聞いて失禁を免れない者も多かろう。それも無理はない。この装甲船は一種の処刑装置とも呼べる代物であった。
装甲カニキャッチ漁船「ケジメを迫るヴィーナス号」
装甲:6
LAN直結小口径砲(ダメージ1、射撃難易度HARD、ニューロン判定)装備
その目的はカニキャッチ漁である。荒波の中、貴重なカニを収穫し巨額の富を得る。あるいは……海の藻屑になる。その二つに一つ。デッドリーな行為だ。
それに挑むのは屈強なカニ漁師たちか? 否。「ケジメを迫るヴィーナス号」の乗船員はペケロッパ風の男、口元を麻布で覆った男、ブラックメタリスト、無軌道大学生、トレンチコートにハンチングの男、無軌道女子大生、両小指をケジメしたヤクザ、重サイバネの女……詰まるところ、漁はおろか海と縁すらなかった連中だ。ナムサン、なんたる自殺行為か!
だが彼らにはそうせざるを得ない切迫した事情がある。債務だ。しかも、ほとんどは自分たちの力では返済不能と判定されるほどの。
然り。彼らはカニを獲る他ない。そうでなければ全臓器をケジメされた後、ヨロシサンのヤバイ級新薬テスターとなる道しか残されていないのだ。彼らの多くはもはや反抗の意思もなく、互いに慰め合う者か、あるいは支給されたヨロシ・ドラッグで現実逃避する者しかいない。
ここは「ケジメを迫るヴィーナス号」。大手金融企業ネコソギ・ファンドの私有UNIX操作船であり、ネコソギ・ファンドのチェアマンにして暗黒ヤクザ組織ソウカイヤの首領たるラオモト・カンのサディズムを満たすための処刑装置である。
「……フフッ」
負債者たちが詰め込まれた船室の扉一枚向こう側。この「ケジメを迫るヴィーナス号」の頭脳ともいうべきモニタルームにて。夢見るように笑う少女が一人。椅子の前脚二本が浮くほどに深くもたれかかり、真っ赤に塗装されたサイバネ脚をUNIX操作盤の上に載せ、手を天井向け伸ばしている。そのバストは豊満であった。
その隣に座る操舵役のハッカーの男……当然のごとく債務者だ……はしかし、彼女に目もくれない。彼は生身の女よりLAN直結とギャンブルに性的興奮を覚える性質の持ち主だ。例えそうでなくても、隣の女に手を出しはしないだろう……なにしろ彼女はこの船の総監督であり、ニンジャであるからして。
「フア……」
少女が欠伸を漏らす。それをきっかけに表情が退屈げなものへと変化した。ハッカーが口を開く。
「オツカレですか、レッドブーツ=サン」
「まあね。キミも同じだろ」
「デスネー」
生温い会話。既に彼らはこうした会話を繰り広げる程度には親しんでいる……ハッカーとしても、この少女がニンジャにしては大人しいことは把握していた。もっとも、話しかけるタイミングさえ間違えなければの話だ。
「どう思うよ。ボクら、ノルマ達成できると思う?」
「賭けます?」
「やめとく。成立しないだろ」
「デスネー」
外の空気と同じく無味乾燥。レッドブーツは物憂げな瞳でハッカーを一瞥した。
「だいたいキミ、ギャンブルのせいでここにいるんだろ? やめとけよ」
「デスネー。でも癖で」
ヘラヘラと笑うハッカー。呆れたように鼻を鳴らしたレッドブーツは再び天井を見上げる。その顔にまたあの笑みが戻ってきた。ソウカイニンジャである彼女もまた債務者であり、ここでしくじれば他の債務者たちと同様の末路を辿るだろう。そんなことを少しも感じさせないほどに、その笑顔は満ち足りていた。
レッドブーツ 【精神力】3 → 2
◇漁場到達一日目◇
「オッ」
「なに」
「カニです。カニ群捉えました! フィーバーですよ!」
「パチンコやってんじゃないんだからさ……」
興奮するハッカーの声に現実に引き戻されたレッドブーツは、ぼやきつつ立ち上がると「イヤーッ!」隣室への扉を蹴り開ける!「「「アイエエエ!?」」」悲鳴をあげる負債者たち!
「ハイハイ、お仕事! お仕事の時間だよ! 今より下に落ちたくなかったらさっさと外に出ろ!」
「アイエエエ!」「アイエエエ!」
キアイとも悲鳴ともつかぬ声を張り上げながら甲板に飛び出す乗組員たち! 彼らがわたわたと慌てながら網を海に投げ入れる様を、レッドブーツは腕組みして監視していた。ニンジャバランス感覚と高級ヒキャクの相乗効果により、揺れる船上でも彼女がバランスを崩すことはない。
「……フン、フン、フフフーン……」
どころか、優雅なダンスめいたステップさえ踏むことができる。くるくると回る彼女を見咎める余裕のある乗組員などいない。それぞれがカニを獲るのに必死なのだ。そしてそれは幸いでもある。仮に今の彼女に水を差すようなものがいれば、その首は即座に胴体と離れているだろう。
カニキャッチ判定(難易度U-HARD)
8d6 → 4, 4, 4, 4, 5, 5, 6, 6 成功2
【カニ】0 → 2
「アイエエエ!」「アイエエエ! ヤッター!」
かすかに聞こえた歓声にレッドブーツは振り向く。水揚げされたカニが、「ケジメを迫るヴィーナス号」自慢のオートメーション装置へと運び込まれていく。収穫されたカニはここで自動的に処理・梱包されるのだ。過酷な捕獲が人力で賄われているのは、当然のごとくラオモト・カンの趣味である。
網の中でうごめくカニを見て、レッドブーツはわずかに眉根を寄せた。初めての収穫としてはやや不足か。
『フフッ。どうするの? もっと働かせれば、もっとカニがとれるかも』
「そうだな……」
耳元の悪戯っぽい囁き声に口元を緩めつつも、レッドブーツは思案する。所詮この乗組員たちはカニ漁業など初経験の連中ばかり。ここで経験を積ませるのもいい。しかし……
>働かせない
「……ウーン。長期的展望を持とうか。人が減って今後の漁獲量が減ってもつまらない」
『そっか。ウン、いい考えだと思うよ!』
「フフ、アリガト」
人知れずレッドブーツは微笑する。そして疲労で甲板にへたり込む乗組員たちを一人一人船室に放り込むと、彼女はモニタルームへと戻っていった。時折、優雅にステップを踏みながら。
◇三日経過◇
「カニいた?」「いないです」「ヒマだな」「デスネー」
モニタルーム。いつものように生ぬるい、無味乾燥な会話が繰り広げられている。しばし天井を見上げていたレッドブーツは、思い出したようにハッカーへ向き直った。
「そういやさ、ボクの同期の話ってしたっけ?」
「ソウカイニンジャのです?」
「いや、アシサノ私塾……っつってもわかんないか。アサシン養育機関のほう」
「アー……何回か聞いたかもしれないですけど、覚えてないです」
「正直者め」
「ヘッヘッヘ!」
ハッカーは笑う。少なくともこのニンジャはそうしたことで機嫌を損ねてカラテを振るうタイプではない。幸いなことに。実際レッドブーツは昔を懐かしむように中空を見上げた。
「じゃあ話すけどさ。とにかくカワイイだったんだよ。イアイドーもかなりのワザマエだったし。それにセンスもいい。ボクのヒキャクも彼女がコーディネートしてくれたんだぜ」
「ヘー……あれ、レッドブーツ=サンそのサイバネのローンでここにいるんじゃないでしたっけ?」
「そうなんだよな。気を利かせてオプションも頼んでくれたみたいなんだけど、それにカネがかかるのを忘れてたみたいで。ちょっと抜けてるんだよな。でもそこもカワイイだろ?」
「アー、まあ、そうスね」
「ハァ……思い出すなあ。あの子、ルームメイトの首刎ねたんだよ。イビキがうるさいからだったかな? その切り口がまた鮮やかでさ。それを見ただけでボクもう体温何度になったか」
「アッ、カニです!」
唐突に水を差され、レッドブーツは目を細める。
「キミなあ……」
「いや、自然現象ですよ! 本当ですって!」
「……ハイハイ。ちゃんと運転してろよ」
慌てた様子で自己弁護を図るハッカーから視線を外し、レッドブーツは立ちあがった。そしていつものように隣の船室の扉へ蹴りを入れた。
◇◆◇◆◇
甲板。優雅にワルツめいたダンスを踊っていたレッドブーツはふと動きを止め、顔をしかめた。乗組員たちが原因ではない。今回の漁獲量はこれまでに比べて遥かにいいからだ。
カニキャッチ判定(難易度U-HARD)
8d6 → 3, 3, 4, 4, 4, 5, 5, 6 成功1
【カニ】2 + 3 + 1 → 6
なにか……空気が気に食わない。彼女はインカムに呟く。
「周囲。なんかない?」
『……エッ? いえ、ちょっと待ってください……』
「あ、もういい」
一方的に通信を切る。彼女は7時の方角を見やった。そこに姿を見せたのは……ナムサン! 違法改造されたと思しき装甲船! その甲板上に見えるのはサイバネ海賊たちだ!
「ンー……まあいいか。いいところ見せられるし」
「アイエエエ!?」「アイエーエエエ!」
脅威を目の当たりにした船員たちが我先にと船室に駆け込んでいく。レッドブーツは咎めない。死なれたら困る。大事な労働力だ。
POW! LAN直結砲の死角を縫うように接近した違法改造装甲船が有線ミサイルを発射! 着弾と同時に獲物を巻き取る恐るべき武装「イヤーッ!」
レッドブーツ:【ワザマエ】判定(難易度HARD)
7d6 → 1, 1, 3, 3, 5, 5, 6
レッドブーツはミサイルに背を向け、片脚を高く跳ね上げた。折り曲げた膝から出現したのは内蔵式のスリケンボウガン! 彼女をこの船に乗り込ませる原因となったオプションサイバネである! ドシュッ! KABM! 鏃めいたスリケンが有線ミサイルを撃墜!
「準備運動にはなるな……さて! って、アレ?」
宙返りして違法改造装甲船に向き直り、イアイを構えたレッドブーツは間の抜けた声を上げた。乗り込んで処刑しようと考えていたサイバネ海賊たちが、泡を喰った様子でその舵を切り離れていくからだ。どうやらこのような小船にニンジャが乗っているとは思っていなかったらしい。
「……エー……」
『ガガッ、ダイジョブですかレッドブーツ=サン!?』
「いや、平気だけどさァ」
インカムから響くハッカーの声に答え、レッドブーツはザンシンを解いた。なんとも拍子抜け。申し訳なさそうな一瞥を虚空に向けてから、彼女は踵を返してモニタルームへと向かう。
『あの、船員どもが脅えてるんで……』
「ああ、今日はもういい。さっさと休ませて明日に備えさせて」
『デスネー』
モニタルームに戻ったレッドブーツは、自分の椅子に座ると重心を後ろにかける。奇跡的バランスで静止した椅子の上、彼女は天井を見上げた。手を伸ばし、虚空を撫でる。
その手が降ろされるのを待っていたハッカーが、しみじみと呟いた。
「……この船に乗り込んでたのがレッドブーツ=サンでよかったですよね、船員どもにとっても」
「ボクはその分あいつらがカニを獲って恩返ししてくれりゃそれでいい」
◇一週間経過◇
「もうカニいないか」「いや、わかんないです」「だよな」「デスネー」
深夜。しょぼしょぼと目を瞬かせながら、レッドブーツとハッカーはいつものごとく不毛な会話を繰り広げていた。ボウー、ボウー。眠気覚ましとばかりに汽笛が鳴る。
重くなる目蓋と格闘していたレッドブーツは、ふと思い出したように目を見開く。
「ああそうだ、同期の話なんだけど」
「エ? アー、そういえば途中でしたね。ドーゾ」
「ドーモ。まー、なんといっても笑顔が素敵な子でさ……うちの塾、やたらキビシイだし授業も専門的なことばっかでつまらないし、大変なとこだったんだけど、その子いっつも笑顔だったんだよ。太陽みたいでさ」
ハッカーとは反対側の空間にレッドブーツは笑顔を向ける。その目に憧憬じみた色が満ちた。
「やっぱり笑顔が素敵な人って魅力的だよなァ。笑顔。笑顔って大事だよ……別に相手が女だってさ、笑顔が素敵なら問題ない。だろ?」
「……グゴー……」
「ア?」
振り向くと、ハッカーはUNIX操作盤に突っ伏して寝ている。レッドブーツは呆れ、カタナを抜こうとする。キリステ……ではもちろんない。鞘で小突いてやろうというのだ。
そのときである。バタン! 勢いよく扉が開く! 入ってきたのはやつれきった重サイバネ女。その背後にはマンゲキョめいた煌き!
「ねぇ見てちょうだい! 私たち、ネオサイタマに帰ってこられたのよ!」
【ニューロン】判定(難易度EASY)
3d6 → 1, 4, 5
レッドブーツは……冷ややかな視線を向けた。笑顔が大事と語っていた彼女とはいえ、薬物でハイになった女性の笑顔は特に素敵と思わないのだ。狂ったようにネコネコカワイイ・ジャンプを繰り返す重サイバネ女に声を投げかける。
「……あのさ、それキミのサイバネのホログラフィーだろ? 潮風に当たりすぎて誤動作してんじゃない?」
「ヤッター! ヤッター!」
「……ダメかなこりゃ」
レッドブーツはそろりと立ち上がる。その手には鞘。これで殴って気絶させようというのだ。だが!
「キャホーッ!」
「エッ? アッ、バカ!」
重サイバネ女は突如として甲板へ! 慌てて後を追ったレッドブーツのニンジャ聴力は、ボチャン、と女が海に飛び込む音をしっかりと捉えていた。
唖然と立ち尽くした彼女は、力なくその場に崩れ落ちる。
「嘘だろ……こんなことで貴重な労働力が……!」
『ダイジョブ? レッドブーツ=サン』
優しげな声に顔を上げる。そこには朧なセーラー服の少女の姿。その朗らかな笑みを見て、動揺していたレッドブーツのニューロンが急激に凪いだ。
「ウン……ウン。ダイジョブ。カッコ悪いところ見せちゃったな」
『アハハ! でもあれは仕方ないよ。だいぶガタが来てたみたいだし、今助けてもいつかああなってたんじゃないかな』
「……そう、かな」
『そうそう! むしろ、軟弱ニューロンの他の連中を巻き込んで海に身投げしてたかも! なーんにも気にすることないよ!』
慰めの言葉が身に染みる。「アリガト」レッドブーツは立ち上がった。その頃にはあの夢見るような笑みが口元に浮かんでいる。朧な少女の幻影が差し出した手を取ったレッドブーツは、そのまま船の揺れなど気にすることなく緩やかに踊り始めた。
彼女はもはや、狂気に足を踏み入れていた。
【レッド・ファイト・クラブ】その1おわり。その2に続く
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