忍殺TRPGソロリプレイ【ディスグレイスド・オイナリサマ】

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながニンジャスレイヤーTRPGのソロシナリオを遊んだ結果を元に書き上げたテキストカラテ(訳注:二次創作小説)です。いわゆるリプレイだ。気楽に読めるよ。

 今回挑戦させていただいたのは、ゴルダ=アルカトラス=サンの【カツアゲマンとキツネの影】です。

 キツネいいよね。

 本来は善良なニンジャのためのシナリオなのですが、少しシツレイしてソウカイヤのニンジャで挑みます。挑戦者はオープニングで発表する。

 では行ってみよう。ヨロシクオネガイシマス。



◇本編◇

 カラン、コロン。カラン、コロン。重苦しい灰色の雲の下、ツチノコ・ストリートに響くゲタの音あり。ネオサイタマでも屈指の治安の悪さを誇るこのストリートを、改造ミコー装束の女は悠々と歩く。

【ニューロン】判定(難易度U-HARD)
(1,1,2,3,5,5,5,6,6,6) 成功

「……またやられたんだってよ」

「こんなんじゃ商売あがったりだぜ」

 彼女の耳はたしかに露天商の言葉を捉えていた。カラン、コロン。カラン、コロン。自然に通り過ぎる。嘆きめいた愚痴はまだ続く。

「もうカツアゲマンなんて呼べなくなってるんじゃねえか」

「あんだけ数がいて武装してりゃあヤクザと変わんねえ」

「実際のヤクザ連中はなにしてんだよ」

「奴らもカツアゲされたって話だぜ……」

 カラン、コロン。カラン、コロン。女は歩む速度をやや緩める。そして注意深く耳を澄ました。

「……それもこれも、シグレってやつが悪いんだろうぜ」

「誰だそりゃ」

「カツアゲマンに襲われた連中が言ってたんだよ。やつら、カツアゲしたカネをそのシグレって野郎に貢ぐんだと」

「へえ。どこにいるんだそいつ」

「知るかよ」

 カラン、コロン。カラン、コロン……露天商たちは気づかない。遠ざかっていくゲタの音になど。顔を覆う黒いヴェールの奥で瞳を妖しく輝かせた女、ディスグレイスはそのまま雑踏の中に消えた。

ニンジャ名:ディスグレイス
【カラテ】:8          【体力】:20/20
【ニューロン】:10      【精神力】:12/11
【ワザマエ】:4         【脚力】:4
【ジツ】:7(カナシバリ)   【万札】:1
近接攻撃ダイス:8
遠隔攻撃ダイス:4
回避ダイス:10

【特筆事項】:
【名声】:26
【DKK】:3
風呂により【精神力】+1

【装備】
パーソナルメンポ

【サイバネ】:
▲バイオサイバネ腕(片腕)
▽吸血バイオ器官

【スキル】:
●連続攻撃2、●時間差、●マルチターゲット、●ミネウチ
◉翻弄
★カナシバリ・マスタリー
★ブンシン・ジツ(Lv3)
★レッサー・イビルアイ
★★コブラ・ゲン・ジツ
★★★半神的存在:
このニンジャの【体力】は【ニューロン】×2となる
★★★不滅
★★★アーチ級ノロイ・ジツ
○信心深い

【説明】
 右腕を五本の冒涜的バイオ触手に置換したニンジャ。
 バイオ触手と強力なカナシバリ・ジツで相手を束縛・屈服させることを好む。
 元は自らの性的嗜好を苦に自殺を試みたミコー。現在はもはや堕落あるのみ。


◇本編な◇

 カツアゲマン。繁華街の路地裏やゲームセンターなどでよく見られる。ニボシめいた無軌道学生などをターゲットに、暴力をちらつかせて有り金を奪っていくヨタモノの一種である。

 それはまあいい。ひと気のない路地裏に立ち入りながら、ディスグレイスは考える。ネオサイタマにおける食物連鎖の一角だ。マッポがどれだけ努力しようが根絶することなどできまい。

 問題はツチノコ・ストリートにおいてその数が急増していることである。本来、カツアゲマンは群れない。群れれば収穫が少なくなるからだ。しかし最近では四人五人と徒党を組み、無軌道学生のみならず露天商からもカツアゲしていく。

 露天商たちのバックにはおおよそヤクザがおり、このストリートに通う者ならばそれを知らないはずがない。にも関わらず、被害は広がる。だからこそディスグレイスが動いたのだ。小規模ながらも、彼女もこのストリートに巣食うヤクザクランのオヤブンであるからして。


「……ワカル? 有り金、全部出して。シグレ様のため。ワカル?」

「ハヤクシロッコラー! 殴らねえと物もわかんねえのかコラーッ! アァーッ!?」

「手持ちが無くても腎臓あるだろうがコラーッ!」

「アイエエエ!?」

 奥から響いてきた罵声と悲鳴にディスグレイスは目を細める。ちょうどいい情報源を見つけられたようだ。彼女はしめやかに騒ぎの源へと向かう……!


◇カツアゲ現場◇

画像1

 辿り着いた先にいたのは、腰を抜かした無軌道学生を取り囲む三人のカツアゲマンだ。その手には違法改造されたと思しきスタンガンが握られ、時折威圧的に雷光を放つ。コワイ!

カツアゲマン 種別:モータル
カラテ  :3 体力 :2
ニューロン:2 精神力:2
ワザマエ:3  脚力 :2
万札:0
装備:
◇スタンガン
【ワザマエ】NORMAL判定(対ニンジャ攻撃難易度+1)
『ダメージ1』『電磁ショック1』

 ディスグレイスは軽く伸びをした。例の『シグレ』なる名を口に昇らせるカツアゲマン。締め上げるにはちょうどいい。「イヤーッ!

ディスグレイス:連続側転
(3,3,4,6,6) 成功
ディスグレイス:移動後バイオサイバネ
(2,3,4,6) カツアゲマンA気絶!
(1,2,2,4) 失敗!

「グワーッ!?」

 カツアゲマンの一人が横合いに吹き飛ばされ、壁に激突!「ムン」そのまま気絶! ディスグレイスは眉根を寄せ、茫然とこちらを見るカツアゲマンBを見返す。やはり激しく動いたあとだとやや狙いが甘くなる。

「な……ナンテメッオラー!?」

「ドーモ。はじめまして。ディスグレイスです。わたくしの庭に立ち入って騒ぎを起こしているようですので、来ました」

 スタンガンをちらつかせるカツアゲマンに微笑を向け、ディスグレイスはオジギを繰り出す。余裕! カツアゲマンらの顔が怒りに染まる!

「ザ……ザッケンナコラーッ!」

「スッゾコラー前後!」

 そのままスタンガンを突きつけにかかるカツアゲマン二名! 当たればニンジャといえど危ういだろう。……当たればの話だ。

カツアゲマンB:集中スタンガン
(1,1,5)
ディスグレイス回避
(1,2,3,3,4)
カツアゲマンC:移動後スタンガン
(1,2,3) 失敗!

 ディスグレイスは落ち着き払って左手を添えるように動かし、至近距離からスタンガンを突き出すカツアゲマンの攻撃を逸らした。駆け寄ってきたカツアゲマンは無視。元より狙いが甘い。

画像2

 そして次の瞬間、虚しく垂れ下がっていた彼女の右袖が激しくはためいた。

ディスグレイス:集中バイオサイバネ→カツアゲマンズ
(2,3,5,6) カツアゲマンB気絶!
(2,3,4,5) カツアゲマンC気絶!

「「グワーッ!?」」

 右袖の奥から伸びたなにかに薙ぎ払われ、カツアゲマンらは同時に左右の壁へ激突!「「ムン」」そして同時に気絶!「アイエエエ!?」ザンシンするディスグレイスを見て襲われていた無軌道学生が悲鳴!

「そう怖がらないでくださいな。取って食おうというわけじゃないんですから」

「アイエエエ! アイエエエーエエエ!?」

 頭を抱え蹲ってしまった学生を見て、ディスグレイスは眉根を寄せた。混乱のあまり聞こえていないらしい。ため息をつきつつ、適当なカツアゲマンに軽く蹴りを入れる。

「痛えッ!? なにすんだッコラー!」

 起き上がったモヒカンは怒声を撒き散らし……キョトンとした顔で周囲を見渡した。

「……ア? どこだここ」

「寝惚けてるんですか?」

「誰だアンタ? マブだな!」

「寝惚けているんですね」

 どうやらこれまでのことがすっぽり頭から抜け落ちてしまっているらしい。ディスグレイスは左手を腰に当て、カツアゲマンを見下ろした。少し喝を入れ、インタビューだ。


◇◆◇◆◇


 カラン、コロン。カラン、コロン。カツアゲマンたちへのインタビューと簡単な説教を終えたディスグレイスは、その脚でラクシャージ・テンプルへと向かっていた。正確にはその側にある廃神社へ。

 首を捻りつつもカツアゲマンらが答えることには、この辺りでキツネ・オメーンを被った女に遭遇。カネを集めろと頼まれたので集めていたのだという。

 その女には尻尾が三本あったとかなかったとか。日刊コレワでも一笑に付すような証言。だがディスグレイスにとっては重要な手がかりだ。なにしろカツアゲマンたちがジツ……おそらくカナシバリの類……にかけられていたのは一目瞭然。そのいかにも怪しげな女こそ今回の騒ぎの主犯。ニンジャに相違なし。

 ツチノコ・ストリートとは違い、この辺りは人通りが少ない。一種キモダメシめいたアトモスフィアが漂う。ふと、ディスグレイスは孤児院にいた頃のセンセイの言葉を思い出していた。

(廃れた神社に近づいちゃいけませんよ。神さまが機嫌を損ねてらっしゃるのだから)

「まあ、それよりタチの悪いものがいそうですけれど」

 ぽつりと呟き、立ち止まる。廃神社の境内に続くトリイを見上げ、ディスグレイスは小さく一礼した。そのままトリイの端を通るようにして足を踏み入れる。

 空気の感覚が変わるのを感じる。ディスグレイスは目を細めた。本殿の前、賽銭箱に腰掛ける影あり。

「あらあらあら。私に仕えてくれる人がまた来たのかしら?」

 それはミコー・プリエステスめいた女だ。その顔を隠すキツネ・オメーンを見て。ディスグレイスはわずかに瞳を輝かせた。そしてアイサツを繰り出す。

「残念ながら、おいたの過ぎた子を叱りに来ただけです。貴女がシグレ=サンですね? ドーモ。はじめまして。ディスグレイスです」

「ドーモ。ディスグレイス=サン。シグレです」

シグレ(種別:ニンジャ)
カラテ:5 体力:6
ニューロン:7 精神力:8
ワザマエ:6 脚力:6
ジツ:4(キツネ・ニンジャクラン) 万札:30
◇装備と特記事項
キツネ・オメーン(パーソナルメンポ読み替え)
巫女服めいた装束(タクティカルニンジャスーツ読み替え)
●マルチターゲット ●時間差 ●常人の3倍の脚力

☆シニフリ・ジツ:敵の攻撃フェイズ中、自身の【体力】にダメージを受けたタイミングで【精神力】1を消費し発動を試みられる。
判定難易度はHARDである。ただし、自身の【体力】が半分以下である場合は難易度が+1される。
発動に成功した場合、敵の攻撃フェイズはその場で終了する
。術者は【体力】0で行動不能状態となり、敵の攻撃対象に選ばれなくなる。
ただし『ニンジャスレイヤー』は行動不能状態の術者も攻撃対象として選択することができる。
判定に失敗した場合、術者の【体力】は直ちに−1となり、
『★★★不滅』を持っていない限り死亡する。1シナリオに1度のみ使用可能。

●シニフリ・アンブッシュ:【体力】0以下で行動不能となっている際、手番開始時に発動を宣言できる。
術者は直ちに【体力】1で復活し、その手番中、通常通り行動できる。
その手番で『近接攻撃』『遠隔攻撃』を行った場合、不意を突いたとみなされ、攻撃難易度が-2される。
1シナリオに1度のみ使用可能。 『★★★アーチ級ニンジャ第六感』とは併用不可。

★キツネ・ヘンゲ・ジツ:手番開始フェイズに【精神力】を1消費し発動を試みられる。
判定難易度はHARDである。
発動に成功した場合、術者は一時的に以下の効果を得る。
この一時的強化は術者が行動不能状態となるか、【ジツ】値と同じターン数が経過するまで持続する。
維持したい場合は、効果が切れるターンの手番開始時に
【精神力】を1消費することで、自動的に【ジツ】値と同じだけのターン延長できる。
また、このニンジャは『不屈の精神』を自動獲得する。

◆キツネ・ヘンゲ◆
:【ニューロン】+3、【脚力】+2、『カナシバリ・ジツLv3』
:近接武器スロットが「ヘンゲ←→ヘンゲ」に変化。ただし『大型武器』は装備できない。
:遠隔武器スロットが「スリケン←→スリケン」に変化。
:行動順を決定する際は素の【ニューロン】を用いる。
:『ヘンゲ』による近接攻撃の際『タツジン(イアイドー)』と同様に強化された
『戦闘スタイル:フェイント』が使用可能。
:『スリケン』による遠隔攻撃の際『タツジン(スリケン)』と同様の『フェイント投擲』が可能。

 アイサツを終えたシグレは揶揄うようにディスグレイスを見やる。そしてゆったりとカラテを構えた。

画像3

「ニンジャなのね。ちょうどよかったわ……非ニンジャのクズども、仕事が遅くて困ってたの。貴女、いい信者になってくれそうね」

「成る程。まともに他のニンジャとイクサをしたこともないと」

 ディスグレイスは断定し……シンピテキなサインを刻む。リー先生の協力(ソウル逆行催眠だの、理屈はまるでわからないが)により引き出せた力、少し試してみるか。

「……イヤーッ!

ディスグレイス:アーチ級ノロイ・ジツ
【精神力】12→8
(1,1,2,2,3,3,3,3,3,3,3,3,3,4,4,5,6) 成功
『心停止攻撃』開始

「……!?」

 シグレの髪がやや逆立つ。ディスグレイスは眉間にしわを寄せてそのキツネ・オメーンの奥の瞳を凝視した。ディスグレイスの身に宿るカドゥル・ニンジャが振るったというノロイ・ジツ。こうまで負担が大きいとは。

ディスグレイス:ブンシン・ジツ
【精神力】8→6
(1,1,1,2,3,3,3,3,4,4,4,4,5,5,6,6,6) 成功

画像4

「イヤーッ!」

 カラテシャウトと同時、ディスグレイスの周囲が揺らぎ彼女の似姿を浮かび上がらせる。額に汗が滲んだ。ノロイを行使しながら別種のジツを使う。不可能ではないが、負担が大きい。

「イヤーッ!」

 シグレが目を輝かせると同時、その背後に巨大な三本の尻尾が広がった。ディスグレイスは目を細める。ヘンゲヨーカイ。否、少し風味が違うか。

シグレ:キツネ・ヘンゲ・ジツ
【精神力】8→7
(2,2,3,4,5,5,5,5,6,6,6) 成功
【ニューロン】7→10 【脚力】6→8
シグレ:移動後スリケン
(1,1,5,5,6,6) ブンシン一体消滅

「イヤーッ!」

 驚くべき速度でシグレは接近! その尾が揺れた次の瞬間、ディスグレイスの額にスリケンが突き立った。それはそのまま宙に溶け崩れる。ブンシン!

「成る程、その尾でスリケンを投げられると。器用な真似をしてくれますね」

「あなた……グッ!?」

 シグレが胸を押さえ、膝を突きかけた。ディスグレイスは微笑する。効いてきたか。ノロイが。

2ターン目
『心停止攻撃』
シグレ【体力】6→5 【回避ダイス】10→6
ブンシン消滅:ディスグレイス攻撃ダイス+3

画像5

「イヤーッ!」「い、イヤーッ!」

ディスグレイス:移動後バイオサイバネ
(2,4,4,5)(1,3,4,5,6)
シグレ回避
(1,3,5)(1,6,6)

 踏み込み、仕掛ける。反射的に身を反らしたシグレの鼻先を颶風が通過した。彼女は小さく嫌悪の声をあげる!

「なにそれ、触手!? 気持ち悪ッ!」

「ウフフ……その通り。これで蹂躙させていただきますので、悪しからず」

 ディスグレイスは微笑する。その右袖から伸びた複数のバイオ触手がのたうつ。遅ればせながら彼女はその右腕をおぞましきバイオ触手に置換した恐るべきニンジャなのだ!

ディスグレイス:ブンシン・ジツ
【精神力】6→4
(1,1,1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5,5,6,6) 成功

「イヤーッ!」

「ええい、また……!」

 シグレが舌打ちする。相手の焦れる様を、ディスグレイスはどこかうっとりと眺めた。そのニューロンが熱くなっている。ノロイ行使と並行した度重なるジツの行使は、彼女といえど長く続けられるものではない。

シグレ:集中カラテ
(1,2,3,5,6)

「イヤーッ!」

 ボッ! シグレの繰り出したケリ・キックがブンシンの一つを掻き消した。それだけだ。周囲で目を光らせるディスグレイスは、よりノロイの波動を強めていく……!

3ターン目
シグレ【体力】5→4 【回避ダイス】10→6
シニフリ・ジツ発動
(1,1,2,2,3,4,4,4,5,5,5,5,6,6) 成功
【体力】4→0
​ディスグレイス:ノロイ解除、ブンシン解除

「ウッ、グッ……アバッ」

 そのまま胸を押さえたシグレは苦しげに血を吐き……力なく倒れた。「え?」ディスグレイスは思わず目を丸くしジツを解除。用心深く耳を澄ます。心音なし。

「……シマッタ。わたくしとしたことが」

 ディスグレイスは悔しげに顔をしかめた。カドゥル・ニンジャの記憶から引き出し再現したノロイ・ジツ。それを行使するのは今回が初めてだ。勝手を間違え、衰弱死させてしまったというのだろうか。

 ディスグレイスは悲しげにシグレの骸を見下ろし、とぼとぼと賽銭箱の探索へと向かう。弱らせたところでネンゴロついでにソウカイヤへスカウトする計画はご破算。彼女といえど、冷たい骸をどうこうする趣味はないのだ。

 ……そのとき!

4ターン目
シグレ【体力】0→1
シグレ:シニフリ・アンブッシュ、集中フェイント
(2,3,4,5,6)
ディスグレイス:回避
(1,1,2,2,3,4,6,6,6)

イヤーッ!

「なッ……イヤーッ!」

 背後からの強襲に、ディスグレイスは反射的ブリッジ回避! 鋭い爪がすれすれを過ぎる! 荒い息を吐きつつ悔しげにディスグレイスを睨んだのは、衰弱死したかと思われたシグレだ!

「チィーッ、しくじった……! 心臓を抉り出してやるつもりだったのに!」

「心臓を自分で止めてジツを脱した? これはこれは!」

 ディスグレイスは笑みを零す。この者を侮っていたかもしれない。大したじゃじゃ馬だ。逃すわけにはいかぬ!

「ちょっとばかり無茶だったけれどね。あんなジツ、そうそう何度も使えない……」

「イヤーッ!」

「い、イヤーッ!?」

5ターン目
ディスグレイス:カナシバリ
(1,1,1,1,1,2,3,3,4.4,4,4,4,5,5,6,6)
シグレ回避
(1,3,5)

 金の妖光が境内を照らし出す。ディスグレイスの放ったカナシバリ・ジツだ! シグレは反射的に目を瞑りこれを回避! そこへ「イヤーッ!

ディスグレイス:集中ミネウチ
(1,1,3,6)(1,6,6,6)
シグレ回避
(2)(1,1,3) 【体力】1→0 気絶

「ンアーッ!?」

 次の瞬間、シグレの鳩尾に叩き込まれる素手のカラテ!「ムン」「おっと」気絶し、崩れ落ちる彼女はディスグレイスは受け止めた。今度は上手くいったらしい。微笑が漏れる。

 オタノシミは後に取っておくとしよう。手早く彼女を縛り上げ木陰に寄り掛からせたディスグレイスは、改めて本殿の調査に取り掛かるのだった。



◇エンディング◇

 賽銭箱から見つかったのは、カツアゲマンに集めさせたと思しき金品の数々。下手にソウカイヤのテリトリーで狼藉を働いたらどうなるか、その授業料として徴収。

 そして本殿に踏み入ったディスグレイスは眉を潜める。そこに鎮座していたのは、古めかしいキツネ・オメーンとオイナリサマ像。いかにも霊験あらたかといった様子。

 それらを持ち上げたディスグレイスは訝しんだ。おそらくはシグレの持ち物なのだろうが。なぜこんなものを?

「もし」

 不意に背中から声をかけられる。突然生じた気配に、ディスグレイスは愕然として振り返った。そこにいたのはシグレ……否。よく似たアトモスフィアを持つミコー装束姿の女ニンジャ! その頭頂部にはキツネめいた耳!

「お待ちください。イクサに来たのではないのです! ……ドーモ。ディスグレイス=サン。シヅキと申します。此度は愚妹がご迷惑を」

「ドーモ。シヅキ=サン。ディスグレイスです。……愚妹とは、メタファーでなく?」

「ええ。あの子は私の実の妹なのです」

 訝しむディスグレイスへ、シヅキは訥々と説明を始める。彼女とシグレは姉妹にして、同じキツネ・ニンジャクランのソウルを宿すニンジャであること。元々はタマチャン・ジャングルでオンセン宿を経営しつつオイナリサマを祀る一族の出であること、などだ。

「……つまり、このオイナリサマ像とキツネ・オメーンは貴女方にとっても重要なものと。理解はしました。けれど、なぜシグレ=サンはそれを持ってネオサイタマへ」

「ええと……その……身内の恥を晒すようで、申し訳ないのですが……」

 シヅキの纏うシンピテキ・アトモスフィアがやや崩れた。ディスグレイスは首を傾げる。

「エット……シグレは……どうも、オイナリサマ違法オイランパブの開店を目論んでいたようで」

「成る程。オイナリサマ違法オイランパブ」

 ディスグレイスは納得したように頷く。そのまま数秒間考え込み、真っ直ぐにシヅキを見つめた。

「申し訳ありません。もう一度お願いできますか」

「は、ハイ……オイナリサマ、違法、オイランパブ、です」

 オイナリサマ違法オイランパブ。ディスグレイスはニューロン内でその言葉を反芻し、改めて怪訝な表情を浮かべた。

「オイナリサマ違法オイランパブ?」

「ハイ、オイナリサマ違法オイランパブです……その、スミマセン……」

 顔を真っ赤にして俯いてしまうシヅキ。両者の間に気まずい沈黙が広がる。それを押して、ディスグレイスは口を開いた。

「それは具体的にはどういう」

「わ、私に聞かれても困ります! あの子が勝手に言い始めたことなんですから!」

「はあ。そうですか」

 ディスグレイスは首を傾げた。どういう代物にせよ、由緒正しいキツネ・オメーンとオイナリサマ像は必要なものとはとても思えない。

 その間に気を取り直したのだろう。コン、と小さく咳払いしたシヅキは、どこか悲壮な決意すら感じさせる表情でディスグレイスを見据えた。

「金品は……この際、自由になさってください。ですがそのキツネ・オメーンとオイナリサマ像はお返し願えないでしょうか?」

「いいですよ」

「その、お望みとあらばなんでも……エッ?」

1.普通に返す(何も起こらない)

 呆気にとられた様子のシヅキの手に、ディスグレイスはキツネ・オメーンとオイナリサマ像を押しつける。そして嗜めるようにその顔を覗き込んだ。

「ネオサイタマで『なんでもする』は避けた方がいいですよ。特にわたくしのようなニンジャの前では。その躊躇いようからして、ある程度のことは調べてからきたのでしょう?」

「いや、その……エット……アリガトゴザイマス!」

「お構いなく。その手の代物を事務所に飾る趣味はないというだけですから」

 呆然としていたシヅキは、思い出したように頭を下げる。その横を通り過ぎたディスグレイスは「イヤーッ!」「ンアーッ!?」縄抜けを試みていたシグレを触手で捕らえ、引き寄せる!

「代わりといってはなんですが。妹さんをお預りしても?」

「ち、チクショ! 放せ! お姉ちゃんも見てないで助けてよ!」

「ええ、ヨロシクオネガイシマス」

「ちょっと!?」

 愕然と姉を見つめるシグレ! 対するシヅキは冷たい視線を妹に向ける。怒りと呆れが篭った眼差しを。

「いいですか、シグレ。率直に言います。もし貴女がまだあのくだらない騒動を続けるようであれば、私の手で爆発四散させるつもりでいました」

 シグレが小さく息を呑む。シヅキが冗談を言っているわけではないと悟らされたからだろう。実のところ、ディスグレイスも思わず身構えるほどの気迫だった。

「命が繋がったことを幸運に思いなさい。頭を冷やして反省した頃に迎えに来ます。いいですね?」

 そのあけすけな言いようにディスグレイスは苦笑した。仮にもソウカイヤのスカウトを前に『迎えに来る』とは。相当カラテに自信があるようだ。実際、油断ならぬニンジャなのだろう。わかる。

「では行きますよシグレ=サン。ところで、貴女にとっておきの情報なのですが」

「な、なによ!」

「わたくしの事務所は違法オイランパブを経営しています」

 その一言に、シグレの動きがぴたりと止まった。じっと見つめてくる彼女の眼差しをディスグレイスは正面から受け止める。その横で、シヅキが目を丸くしていた。

「……本当?」

「こんなときにそんなくだらない嘘をつくとでも? オイナリサマ違法オイランパブの構想とやら、興味があります。わたくしの趣味に合うようでしたら支援してもいい」

 シグレは瞬きし、数秒間考え込んだ。そして満面の笑みを姉へ向ける。

「じゃあねお姉ちゃん! 私、ディスグレイス=サンについてく!」

「本気でくだらないことをし始めたら、即刻その素っ首刎ねにいきますからね」

 顔をしかめるシヅキを残し、ディスグレイスはシグレを触手で捕らえたまま廃神社を後にするのだった。


【ディスグレイスド・オイナリサマ】終わり


◇後書き◇

 違法オイランパブ経営者かつミコー装束同士として、どうしてもディスグレイスをこのミッションに向かわせたかった。本来は爆発四散するシグレ=サンが生き残っているが、まあそっと見逃して欲しい。

 シグレ=サンに宿ったキツネ・ニンジャクランの技・ジツは古矢沢=サンのファンメイドプラグインを使用したものです。ありがとうございました。

 さて、ここまで読んでくださった皆様方。油断ならぬニンジャクランを作り出した古矢沢=サンに、楽しいシナリオを書いてくださったゴルダ=アルカトラス=サン。ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!

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