忍殺TRPGソロリプレイ【ミッドナイト・チキンレース】

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。当記事はしかながソロシナリオを遊んだ結果をもとに作成したテキストカラテ……一般的にはリプレイと呼ばれるやつになります。気楽に読めるよ。

 今回挑戦させていただくのは海中劣=サンの【ニンジャのカーチェイス】です。

 ビークルルールを適用して行うソロシナリオとなっています。複数名のニンジャでの挑戦が可能なので、複数名のニュービーを派遣することとしました。詳細はオープニングで発表します。

 ではやってみよう。よろしくお願いします。



◇オープニング◇

 トコロザワ・ピラー。スカウト部門オフィスにて。改造ミコー装束のニンジャ、ディスグレイスは自らのデスクにて報告書を片手に思案していた。空調によるものか、右袖が虚しくはためく。隻腕なのだ。

「……野良ニンジャ、ねえ」

 彼女はぼそりとひとりごちた。その前に立っていた小柄なニンジャの少女が頷く。ボディスーツめいた密着型のニンジャ装束。そのバストは平坦である。

「ハイ。最近多発している車およびバイクの盗難、もしくは走行中の破壊事件。おそらくは同一のニンジャの仕業です」

「アリガト、キールバック=サン。……無軌道大学生やらヨタモノやらの行動の延長線。成り立てで調子に乗っているタイプ、といったところでしょうか」

「おそらくは。ですが、ソウカイヤ傘下のヤクザクランにも被害が出ています。放置はできないかと」

「でしょうねぇ……」

 忌憚のない意見を述べる妹分に微笑を向けつつ、ディスグレイスは思案する。上役たるソニックブームに意見を仰ぐべき案件だろうか? そうは思えない。筆頭補佐たる自分が裁量を行っても問題ない些細なマターだ。

 とはいえ。ディスグレイスはキールバックを見やる。自分や彼女が出るほどの事態であるか、と考えると首を横に振らざるをえない。相手がアーチ級ソウル憑依者であればともかくの話だが。

「どうしましょう、お姉さま? 必要であれば私一人で向かいます」

「ンンー……」

 真剣な眼差しで問いかけてくるキールバックの言葉にやや考え込み……ディスグレイスは軽く机を叩いた。

「いえ。あなたはまだ待機していてください。先に新入りに任せましょう」

「……ああ、新たに配属されたあいつら。しかしどいつに任せるにせよ、一人では……」

「せっかく数がいるのです。私のほうで足を手配しますから、適当に三人ほど見繕ってもらってもいいですか?」

「ハイ、ヨロコンデー」

 キールバックはそれ以上口を挟むことなくオジギ。淡々と携帯IRC端末からメッセージを送信し始める。彼女はディスグレイスの秘書の一人でもあり、ソウカイヤに加入したばかりのニュービーへの連絡網を持っているのだ。

 別部署への手配を進めつつ、ディスグレイスは自身の思いつきに笑みを浮かべる。せっかく自由に動かせるオモチャが増えたのだ。選別も兼ねて、少し遊ばせてみるのも、悪くない。


◇◆◇◆◇


 ……数十分後! スカウト部門オフィスの会議室! ディスグレイスとその傍らに立つキールバックの前には、三名のニンジャが席についていた。

「ドーモ。ディスグレイス=サン。ブレイクダウナーです」

 まずアイサツを繰り出したのは、オーバーオールめいたニンジャ装束に金のメッシュが入った髪が特徴的な女ニンジャだ。

ニンジャ名:ブレイクダウナー
【カラテ】:1        【体力】:1/1
【ニューロン】:6      【精神力】:6/6
【ワザマエ】:6       【脚力】:3
【ジツ】:2         【万札】:0
近接攻撃ダイス:1
遠隔攻撃ダイス:6
回避ダイス:6

【ジツ】:
 ★デン・ジツ

【アイテム】:
 家族の写真

【スキル】:
 ○サイバネ賞金稼ぎ

【説明】
 ニンジャとなって得たジツを頼りにサイバネ賞金稼ぎへ
 転向した元ストリートチルドレン。サイバネを軽視し、
 バイオサイバネに特殊な偏愛を見せる。​

「ドーモ。ディスグレイス=サン。カテドラルです」

 続いてアイサツしたのは純白のニンジャ装束を着た女ニンジャ。目を引くのはその体格だ……どう見積もっても8フィートはあろう。その表情は穏やかだ。

ニンジャ名:カテドラル
【カラテ】:3        【体力】:8/8
【ニューロン】:5      【精神力】:5/5
【ワザマエ】:1       【脚力】:3
【ジツ】:3         【万札】:5
近接攻撃ダイス:3
遠隔攻撃ダイス:1
回避ダイス:2

【ジツ】:
 ビッグカラテ
  【体力】に+【ジツ】値、『回避ダイス』に−【ジツ】値の補正

【アイテム】:
 オーガニック・スシ

【スキル】:
 ●頑強なる肉体
 ●突撃
 ●薙ぎ払い
 ○信心深い

【説明】
 ニンジャとなった折の肉体変化を奇跡と見做され、
 弱小カルト団体の巫女として担ぎ上げられていた。
 隔離した生活を送らされていたため世情には疎い。

「ドーモ。ディスグレイス=サン。スムーストーンです」

 最後にアイサツしたのは安物スーツを着こなした女ニンジャ。コケシ・カットにまとめた灰色の髪に、愛想の良い笑顔を浮かべている。

ニンジャ名:スムーストーン
【カラテ】:3        【体力】:3/3
【ニューロン】:4      【精神力】:4/4
【ワザマエ】:3       【脚力】:2
【ジツ】:2         【万札】:0
近接攻撃ダイス:3
遠隔攻撃ダイス:3
回避ダイス:4

【ジツ】:
 ★ヤルキ・ジツ

【アイテム】:
 オーガニック・スシ

【スキル】:
 ○言いくるめ

【説明】
 元サラリパンクスにして営業オーエル詐欺師。
 その活動が小規模ヤクザクランにも及んだため
 ソウカイヤに露呈。一転してソウカイヤ入りを選ぶ。

 集められたニュービーたちを見渡し、ディスグレイスは笑みを浮かべた。この者たちは全員、彼女が見出し、ソウカイヤへと誘われたのだ。

 本来女のニンジャというのは希少である。にも関わらずこれだけの人数が集められたのも、ディスグレイスの持つ一種の性的執念というべきだろうか。それ以上はここでは申し上げられない。

「ドーモ。ディスグレイスです。……キールバック=サンからのメッセージでご存知かもしれませんが、貴方たちにもミカジメ・フィー徴収以外の仕事に取り組んでもらおうかと思いまして」

「我々全員で、ですか?」

 ハキハキと質問を投げかけてきたのはスムーストーン。ディスグレイスは微笑する。

「ええ、その通り。決して貴方たちのニンジャとしての実力を軽んじているわけではないのですよ? しかしながら今回のターゲットもまたニンジャ。念には念を入れて、です。わたくしのお節介と思ってくださいな」

「まあ……御温情、アリガトゴザイマス!」

 カテドラルが深々とオジギ! その頬が上気しているのを見てとり、ディスグレイスは苦笑する。この子はやや物事を大仰に受け取りすぎる嫌いがある。

 タイミングを見計らい、キールバックが説明を引き取った。……即ち、例の推定野良ニュービーについての状況説明である。

 退屈げにそれを聞いていたブレイクダウナーが、説明が終わると同時に口を開く。

「つまり、なんスか? アタシら全員でその野良ニンジャぶっ殺してくりゃいいんスか」

「あら、勇ましいこと! でもそれは最後の手段にしておきなさいな。あなたがたにはその野良ニンジャのスカウトをお願いしたいのです」

 ニュービーたちの間に小さな困惑と動揺が広がる。キールバックも訝しげにディスグレイスへ視線を向けた。

 ディスグレイスは笑みを深める。

「貴方たちはわたくしが見出したニンジャです。無論、全員でかかれば野良ニンジャの一人程度は簡単に爆発四散させることができるでしょう……ですので、わたくしはそれ以上を求めます。質問は?」

「……その野良ニンジャのお方というのは車やバイクを狙っているのですよね? 我々としては、その、どのようにその方を見出せば……」

 おずおずと手を挙げるカテドラル。その質問を待っていたとばかりに、ディスグレイスは満面の笑みを浮かべた。

「無論、そのことも考慮済みです。わたくしのほうで乗用車を用意しました。なので今すぐトコロザワ・ピラー駐車場に向かうこと。他に質問は? ありませんね? では行きなさい」

 ディスグレイスの言葉に押されるように、ニュービーたちは揃って席を立ち、ぞろぞろと会議室を後にするのだった。



◇本編◇

 ……さらに数十分後! 重金属酸性雨をボディ全身に受けながら、一台の自家用車がトコロザワピラー駐車場から躍り出た。

「ヤクザカマロとかじゃねーのな」

「ウン? まあ仕方ないんじゃないかな。いくらなんでもそういうのに乗ってたら警戒されるだろうし」

 助手席にもたれるブレイクダウナーの言葉に、運転席のスムーストーンは淀みなく答える。次いで彼女はバックミラー越しに後部座席に身を押し込めるように座るカテドラルを見やった。

「申し訳ないねカテドラル=サン。この車、君を助手席に座らせるにはちょっと狭くてね……」

「い、いえ! お気遣いなく! その……ちょっと興味があっただけですから!」

「ガキかよ……イテッ」

 うんざりと呟いたブレイクダウナーの脇腹に、スムーストーンが肘打ちした。

◆一般乗用車 (種別:ビークル、モービル、大型1x2、乗員限界4人)	
カラテ		3	体力		4
ニューロン    	1	精神力		ー
ワザマエ		1	脚力		8/4/2
ジツ		ー	万札		1
運転手はスムーストーンが務めます

 程なくして彼らの車はターゲット目撃情報重点地点……ツチノコ・ストリートへと到達した。「まあ」路上で黒煙を吐くスクラップ車や、道端で死んだように眠る浮浪者を見てカテドラルが驚いたように声を上げ、静かに両手を合わせた。

「この辺走ってりゃ来んのかな、ニンジャ」

「だろうね……おっと」

 それら障害物を避けながら運転を続けていたスムーストーンが目を細めた。ブレイクダウナーもまた、彼女が見つけた新たな『障害物』を見て舌打ちする。

「なんだ、あいつら?」

「ウォーアアアーー!」「ウォーアー!」

 そこには雄叫びをあげる交通誘導員が二人……否! その背後に掲げられた『悪い政府だ』『分かってほしい』『左』のミンチョ体看板からそうではないとわかる! 無軌道アナーキスト二人が道を塞いでいるのだ。

 スムーストーンは愛想のいい笑顔を崩さない。彼女は……モンド・ムヨーでアクセルを踏み込んだ。

一般乗用車【カラテ】判定
2, 3, 5 成功
【万札】2獲得

 GRRRR! 獣の唸りめいてエンジンが響き渡る! アナーキストたちが異常を察したときにはもう遅い! KRAAASH!「「アバーッ!?」」衝突! 鮮血と残骸が夜空に舞う!

「ンッフフ……ポイント倍点。社会貢献も大事だよ。そう思わない? ブレイクダウナー=サン」

「アー、そうね」

 ブレイクダウナーは興味なさげに外を見渡す。ややあってから目を丸くしたカテドラルに気づいた彼女は、それとなく付け加えた。

「勝手な思想と暴力で善良な市民を脅かしてた奴らだもんな。まあ、バチくらい当たるよな」

「ア……そういうものなのですね? びっくりしてしまいました」

 穏やかな笑みを取り戻したカテドラルは、窮屈そうに両手を合わせ小さく呟いた。「ナムアミダブツ」と。


◇◆◇◆◇


「……やっぱサイバネティクスよりもバイオサイバネだって。機能的だし、より生物的だ。変に鉄の塊くっつけるよりよっぽどオーガニックなんだよ」

「ハハ、そういう見方もあるねぇ」

 その後もニュービーたちは表通りをドライブする。今は退屈凌ぎにブレイクダウナーが話し始めたサイバネとバイオサイバネ談義だ。

 やや饒舌になったブレイクダウナーは、後部座席で興味深げに耳を傾けているカテドラルへと振り向く。

「だいたいさ、高度なサイバネってのは装着のためにLAN端子開ける必要があるんだぜ? こめかみだのうなじだのに穴だぞ、穴。死んじまうよ」

「まあ!」

「それで苦労してつけても脆弱性ってのが出てくるしよ……ほれ、サイバンブーいるだろ。あの貧弱サイバネナード。ああいうのにニューロン焼き切られちまう。怖いぜェ」

「ま、サイバンブー=サンはあれが持ち味みたいなもんだしね。君と組んだら相性がいいんじゃないのかい」

 何気ない様子で言葉を挟みつつ、スムーストーンはハンドルを切る。表通りではこれ以上収穫がないと判断し、裏通りへ車を走らせようというのだ。

自家用車【ワザマエ】判定
6 成功

 キュイイイ……車はスムーズなカーブを描き、狭い通りへと入り込んでいく。その間にも上機嫌なブレイクダウナーのサイバネ談議は続いていた。

「……だいたい、ディスグレイス=サンやキールバック=センパイを見てみろ。あの二人だってバイオサイバネユーザーだぜ? あれくらい強いニンジャだってバイオの力でもっと強くなるんだ」

「ああ、あれがバイオサイバネなのですね。ディスグレイス様の右腕……初めて見たときは驚いてしまいましたが、よく見るとシンピテキで……」

「アタシもカネモチになったらバイオサイバネ入れてみてえなあ! カテドラル=サンも一緒にやんねェ?」

「そうですねえ……」

 二人の会話をBGMめいて聞き流しつつ、スムーストーンは裏通りを駆ける。こうしてリラックスしてミッションに打ち込めるというのは、悪くない。


◆◇◆◇◆


 ……それからさらに数十分後。ニュービーたちは自動車から降り、とある自動販売機前にたむろしていた。ここまでターゲットであるニンジャの影すら見いだせていない。

「どれも美味しそうですね……」

「迷うのも程々にしとけよ、カテドラル=サン」

 カテドラルとブレイクダウナーのやりとりを微笑ましく見守りつつ、スムーストーンはザゼンドリンクライトを飲み干す。ドリンク休憩が終わったら、また探索だ。

 と。

「……ん?」

 何気なく自動車を見やったスムーストーンは眉をひそめる。いつの間にいたものか、黒いレザージャケットを羽織ったスキンヘッドの男が自分たちの車にしがみついている。「ヌゥゥゥーッ……」どうやら力づくで動かそうとしているらしい。スムーストーンは頭の横で己の人差し指を回した。

 ガコン。カテドラルがなんらかのドリンクを購入。その隙にブレイクダウナーも推定車泥棒に気づいたらしい。バリキドリンクの空き缶を握り潰す。その掌に不穏な雷が閃いた。

「ゼェーッ! ゼェーッ!」

 息を切らしていたスキンヘッド男は、思い出したようにジャケットからLANケーブルを取り出す。そして後頭部の生体LAN端子と車の外部UNIX端子を直結!

自家用車【ニューロン】判定
4 成功
【万札】2獲得​

「グワーッ!?」

 直後、激しく痙攣! UNIXのカウンターハッキングを受けたのだ! 甘お酒をちびちびと飲んでいたカテドラルが驚いたように振り返る。その視線の先、スキンヘッド男が路上でのたうち回っているではないか!

「大変!」

 茫然としている同僚二人の間をすり抜け、カテドラルはスキンヘッド男の元へ。屈み込んだ彼女はひとまず男を落ち着かせようと片手でその身体を押さえつける!

「グワーッ!?」

「お、おとなしくしてください。身体に障りがあるかも……!」

「グワーッ!」

「……おい。あれ潰しちまうんじゃね?」

「そこまで力加減が分かってないわけじゃないだろうさ」

 ブレイクダウナーに肩を竦めつつ、スムーストーンが気つけに向かう。ついでなので治療費をいただいておこう。そう考えながら。


◇◆◇◆◇


 ……路上駐車盗難トラブルより数分後! ニュービーたちはとある一区画へと向かっていた。酔っ払った蜘蛛が作ったかのような無秩序な道路網を、ブレイクダウナーとカテドラルが用心深く探る。

 きっかけは他でもない。先ほどのスキンヘッド男が泣きながら車を盗もうとした理由を教えてくれたことにある。なんでもストリートレーサーなる男に自身のバイクを盗まれてしまったからなのだとか。

 ストリートレーサーの外観情報の聴取、およびカテドラルによるアフターケア(といっても、悩みを聞いた上で許しの言葉を与えてやる程度のものだ)を終えてから、彼女たちは再びミッションへ戻ったのである。

 周囲に見えるのはヨタモノたちに破壊され、悪趣味オブジェと化した道路標識の数々。例のニンジャは今夜は別の区画で暴れているのか? スムーストーンが状況判断しようとしたそのときだ!

……ゥゥゥウウウウン!「イヤーッ!」

「来ました! 後方!」

「ようやっとおでましかァ……!」

 ブレイクダウナーが歯を剥き出しにして笑う。スムーストーンはサイドウィンドウを全開にした。ほぼ同時、滑り込むようにして横につけるライダーの影!

「ハハッハーーッ! ドーモ! ストリートレーサーです!」

【ニンジャネーム】:ストリートレーサー
【カラテ】:3        【体力】:5/5
【ニューロン】:3      【精神力】:3/3
【ワザマエ】:4       【脚力】:2
【ジツ】:2         【万札】:5
近接攻撃ダイス:5(バイク騎乗時)
回避ダイス:5(バイク騎乗時)(※本人の回避ダイス数であってバイクの回避ダイス数ではない)

【ジツ】:騎乗系ニンジャソウル:
     ビークル騎乗時、近接攻撃ダイス+2、回避ダイス+1、●タツジン:バイカー取得

【スキル】:●『タツジン:バイカー』

【装備】:フルヘルムメンポ:【体力】+1
     タクティカルニンジャスーツ:【体力】+1。

【サイバネ】:▶︎生体LAN端子:
【ニューロン】判定時にダイス+1個、ハッキング時にさらに+2

 黒塗りバイク騎乗のライダースーツニンジャ装束の男がアイサツを繰り出す! その顔はフルフェイスのヘルメットで覆われ、表情は窺えない!

「ドーモ。ストリートレーサー=サン。私たちはソウカイヤです」

「ソウカイヤァ……? ニンジャのドライブチームかよ?」

 併走するストリートレーサーが怪訝な声をあげる。だがすぐに彼は笑い出した。

「ハハハーッ! なんだか知らんがノロイノロイ! ただでさえ最速最強の俺のワザマエはニンジャになってもはや前人未踏だ! 追いつけるもんなら追いついてみやがれ!」

 ブゥゥゥゥン! ストリートレーサーの駆るバイクが急加速! どんどんとニュービー車を引き離していく! 逃走の算段か? 否! スムーストーンは理解した! これは闘争の誘い!

「……飛ばすよ、カテドラル=サン! ブレイクダウナー=サン! しっかり掴まってな!」

「ハハハーッ! イイゼ、イイゼ! ぶっ飛ばせーッ!」

「アワワワワーッ!?」

 ニュービー車もまた急加速! こうして真夜中のカーチェイスが幕を上げたのだ!

イクサ開始
運転者の【ニューロン】値より、ニュービー車先行

「ブレイクダウナー=サン。そっちの窓開けておいて」「オウヨ」「カテドラル=サン。私が合図したら体重を思いっきり右にかけて」「アワワ……エッ? わ、わかりました!」

 滑らかに指示を下しつつ、スムーストーンは眼前の調子に乗ったニンジャを見据える。自分とて全能感を味わったことはある。だがそれは所詮ひとときの幻に過ぎない。続けば割れる泡めいた夢に過ぎない。わからせてやる。

 GRRRR! 唸りを上げたニュービー車が黒塗りバイクに並ぶ! ヘルメットの奥、ストリートレーサーが不適に笑った。

「今!」「ハイ!」

 スムーストーンがハンドルを切ると同時、カテドラルが体重移動! それによって生み出された加速力は、ストリートレーサーの想像を上回る!

「グワーッ!?」

 避け損ない、バランスを崩しかける! ニュービー車はその間に黒塗りバイクの左側面へ移動!「イヤーッ!」事前に開け放していた窓からブレイクダウナーがスリケン投擲!

「……イヤーッ!」

 ストリートレーサーは急減速でこれを回避! 「チクショ……!」歯噛みするブレイクダウナー!「い、イヤーッ!」後部ドアを開け身を乗り出したカテドラルがスリケン追撃! しかし車上のためかその狙いは大きく逸れる!

「無理すんな、カテドラル=サン! ドア閉めろ!」

「ご、ゴメンナサイ!」

「どうしてもスリケンに頼らざるを得ないからな……! シングルラブル=サンがいればまた違ったのかもしれないけど」

「アア? 冗談じゃねえよ! こんなところであいつのジツ使われてみろ、スリケンどころじゃなくなるだろうが! ンアーッ!?」

 ニュービー車が大きく揺れる! 後方から急加速したストレートレーサーがバイクを衝突させたのだ! そして、おお、ナムサン! それだけではない!

「イヤーッ!」「「「ンアーッ!?」」」

 並走したストリートレーサーは、己の身体をハンドルを握る両腕だけで支えドロップキックめいた一撃を見舞ったのだ! 大きくへこむ車体! スムーストーンは思わず舌打ちする。どうあっても機動力では向こうが上! このままでは回避もままならずジリー・プアー(徐々に不利)!

「……次で決めるか! カテドラル=サン!」「は、ハイ!」

 カテドラルが身体を傾ける! スムーストーンはそれと同時、ハンドルを急回転! 体勢復帰直後のストリートレーサーは、やはりこの不自然な加速を伴う体当たりを避けきれぬ!

「グワーッ!?」

 黒塗りバイクが火花を散らす。ストリートレーサーは運転席を睨み……目を見開いた。車窓から身を乗り出した金メッシュのニンジャが、冷酷に己のバイクを見据えている。スリケンを手に……!

ストリートレーサー戦
『1ターン目』
自家用車:轢殺攻撃
バイク回避
1, 3 失敗 バイク【体力】3 → 2
ブレイクダウナー:スリケン
1, 2, 2, 4, 6, 6
バイク回避
4
カテドラル:スリケン
3 失敗
バイク轢殺 自家用車回避せず【体力】4 → 3
ストリートレーサー:カラテ
3, 4, 5, 6, 6
自家用車:回避
3 失敗 【体力】3 → 2
『2ターン目』
自家用車:轢殺攻撃
バイク回避
2, 2 バイク【体力】2 → 1
ブレイクダウナー:スリケン
1, 2, 3, 4, 5, 6
バイク回避
2 失敗 【体力】1 → 0 撃破

「しまッ」「イヤーッ!」「グワーッ!?」

 鋼鉄の星は吸い込まれるようにバイクの機関部へ。もはや操縦不能! ストリートレーサーは転倒寸前に跳躍、ウケミをとって道路に転がる。さすがのワザマエであった。しかし肝心のバイクはもはやスクラップ同然!

 ギャリギャリギャリ!「「イヤーッ!」」急ブレーキしつつドリフトするニュービー車から飛び出したブレイクダウナーとカテドラルがストリートレーサーの前に着地! 威圧的アイサツを繰り出す!

「ドーモ! ブレイクダウナーです! まだやるか、エエッ!?」

「ドーモ。カテドラルです。その……数の利はこちらにあります。おとなしく投降していただければ……」

「ク……!」

 ストリートレーサーは周囲を見渡す。その視線の先、車を止めたスムーストーンが彼に愛想のいい笑顔を向け、手を振った。もはや戦力差は歴然。

「ググググ……!」

 しばらく悔しげに唸っていたストリートレーサーは……やがて観念したかのようにアグラをかき、深く頭を下げた。

「オミソレ、シマシタ……!」

「ああ、恭順? いいことだね! ドーモ。私はスムーストーン。これでもソウカイヤでは下っ端でね……でもまあ、君よりはいい暮らしができてるんじゃないかと思うんだよ」

 スムーストーンは屈み込み、ストレートレーサーの顔を覗き込んだ。愛想のいい笑顔とともに。

「君も無軌道にやるよりは、ソウカイヤで働く方が似合うかもしれないよ。いいバイクも買えるかもね……」

 セールストークを始めるスムーストーンの背を眺め、ブレイクダウナーはカテドラルに向け肩をすくめてみせる。いずれにせよストリートレーサーにこれ以上の抵抗の意思はなし。任務は文句なしの成功だ。

 どこか遠く、車のエンジン音だけが夜空を切り裂いていった。



◇エンディング◇

「ではまずこの書類に記入を。得意事項、ジツなどあれば素直に書いてくれ。希望の配属先につけるかもしれないからな」

「ハイ、ハイ……しっかしなんだな、ニンジャもこういうお役所仕事やんのかよ……」

 スカウト部門オフィス! くたびれたヤクザスーツのニンジャの前で、ライダースーツニンジャ装束のニンジャが億劫そうに書類作業を始めている。それを横目で眺めていたディスグレイスは、すぐに眼前の三名へ視線を戻した。笑顔とともに。

「オツカレサマデシタ。みなさん、見事に期待に応えてくれたようで。わたくし嬉しい限りです」

「「「ドーモ!」」」

 スムーストーン、ブレイクダウナー、カテドラルは揃ってオジギ! 満足げに彼女らを見下ろしていたディスグレイスは、穏やかな調子で言葉を続けた。

「複数名のニンジャチームであれば、ニュービーであってもスカウトは可能……貴方たちはそのよき一例となってくれました。ですが、油断はしないように。例外はいつでもいます。慢心はいけませんよ?」

「「「ハイ!」」」

「……と、説教がましくなっていましたね。ゴメンナサイ。報酬は後で各々の口座に振り込まれますので、しっかり確認するように。では解散」

三名:【万札】15および【余暇】獲得

「あ、あの!」

 そのまま仕事に戻ろうとしたディスグレイスを呼び止めたのはスムーストーン。怪訝な顔で振り返る彼女に、オーエルめいたニンジャは揉み手をしつつ言った。

「そのう、差し出がましいのは承知なのですが……ディスグレイス=サン、夕食の予定などはおありで?」

「……いいえ? 仕事を済ませたら帰宅しようとしていたところです。それがなにか?」

「で、でしたらですね! 良い機会ですので、その、食事会などいかがかなと! 今回の経験のフィードバックもさせていただければ……!」

 ディスグレイスは目を細める。その瞳はヘビめいており、わずかに金の輝きを放っていた。数秒後、彼女は微笑した。

「構いませんよ。貴方たちはどうするのですか? カテドラル=サン、ブレイクダウナー=サン」

「エッ……そ、その! いいですか、スムーストーン=サン!」

 カテドラルが頬を紅潮させスムーストーンに詰め寄る! 家庭の事情で監禁めいた生活を送っていた彼女にとって、ディスグレイスはそこから自分を救い出した憧れのニンジャであった。故に、スムーストーンを頷かせるほどの熱意がある。

「……みんな行くンなら、アタシも。いいよね?」

「ああ、もちろん。ワリカンにするけどね」

「いいですよ、わたくしが払いますから。ほら、貴方たちは先に準備でもしていなさい」

 ディスグレイスの言葉を最後に、ニュービーたちはぞろぞろと会議室を後にするのだった。


◇◆◇◆◇


 休憩スペース。カテドラルは道路に瞬く無数の車のテールランプを眺めている。その背を見やりながら、ブレイクダウナーとスムーストーンはくつろいだ調子で時間をつぶしていた。

「……にしても食事会ねぇ。カイシャ勤めしてたやつはマジメだよなぁ」

「ウン? ああ、言ってなかったっけ? 私カイシャなんて入ったことないよ。このスーツもただのファッション」

「エ? そうなの?」

「そう。……フフ、けど今日はいい機会だった。ちょっとヒヤリとしたけど、ディスグレイス=サンとお近づきになるチャンスだな」

 楽しげに笑うスムーストーン。ブレイクダウナーに訝しげな目を向けられた彼女は、どこか得意げに続けた。

「まあ組織っていう枠組みに入った以上、やっぱり上は目指したいじゃない? そうなるとまず、目上の存在とネンゴロになっておくのが大事かなって」

「……アー、ゴマスリ? 別にいいけど、アタシらの手柄横取りにしようとすんのはやめろよな」

「しない、しない! 自分のカラテのほどは理解してるって。今回だって二人がいなかったら無理だった。……そうじゃなくてさ、ほら、ディスグレイス=サンはアレじゃない? そういう趣味の人じゃない?」

 悪戯っぽい表情を浮かべる同僚。ブレイクダウナーはやや考え、いつも彼女の傍らにいる自分のセンパイ……キールバックを思い出し、眉をひそめる。

「……言いたいことはなんとなくわかるけど」

「つまりさ、そこにネンゴロ・チャンスがあると思うんだよ」

「オイランの真似事する気かァ、お前? なに、そういう趣味なの?」

「別に。けど、利用できるものはしないともったいないじゃない」

 あっさり言い放つスムーストーンに、ブレイクダウナーは遠慮なく呆れた視線を向ける。ふとカテドラルの背中を見やる。あいつも別の思惑でネンゴロになりたいのだろうか。

(変なやつしかいねぇ)

 ブレイクダウナーは溜息をつく。まだ自分の方がマシだ……あのバイオ触手を全身で体感したいだけなのだから。

 ……ディスグレイスは知る由もない。今後、このニュービーたちに別の意味で手を焼かされる未来のことなど。これもまた、ひとつのインガオホーである。


【ミッドナイト・チキンレース】終わり



◇後書きな◇

 というわけで無事ストリートレーサー=サンのスカウトに成功した三人のニュービー。今後も顔を出す機会があるかもしれないし、ないかもしれない。

 私はわりとニンジャを軽率に生み出して放置するタイプなので、そろそろ(NPCとして使うために)見やすいデータをまとめる必要があるかもしれないと思ったのだなあ。

 それはともかく! ここまで読んでくださった皆様方、そして楽しいソロシナリオを書いてくださった海中劣=サン! ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!

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