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【書評】歯科クリニックで見逃してはいけない 口腔粘膜疾患―経過観察・院内検査・専門医への紹介その判断ポイント

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2022年5月号掲載分の「HYORON Book Review」を全文公開いたします(編集部)

下野正基/東京歯科大学名誉教授

このたび,『歯科クリニックで見逃してはいけない 口腔粘膜疾患』がヒョーロン・パブリッシャーズより上梓された.著者の田中陽一先生は1974年に東京歯科大学を卒業し,同大学病理学教室に在籍した,私とはいわゆる同じ釜の飯を食った仲である.

1977年,先生はイタリア政府奨学金奨学生として,2年間ミラノ大学医学部薬理学研究所に留学された.帰国後は慶應義塾大学医学部附属病院専任講師を経て,2006年からは東京歯科大学市川総合病院臨床検査部の教授として臨床検査,特に病理組織診ならびに細胞診の診断業務を精力的にこなしてきた.
先生の守備範囲は口腔病理にとどまらず,広く全身疾患の病理診断にも携わり,膨大な数の症例を経験されてきた.このように豊かな学識経験を有する田中先生による「口腔粘膜疾患」を扱った書籍の出版には,かねてより少なからぬ期待を寄せていた.

本書は,「Ⅰ.口腔粘膜疾患をどうみるか?」「Ⅱ.歯科クリニックで見逃してはいけない口腔粘膜疾患」「Ⅲ.早期がん発見のために」の3部構成となっている.

「Ⅰ.口腔粘膜疾患をどうみるか?」では,形や色などの口腔粘膜の変化の捉え方が総論的に解説されているとともに,院内検査としての口腔細胞診が早期がん発見のために有効なスキルであることを強調している.

「Ⅱ.歯科クリニックで見逃してはいけない口腔粘膜疾患」では,口腔粘膜疾患の代表的ともいえる39の症例を選択し,それぞれについて統一した流れで,①初診時所見,②歯科クリニックではどこをみる?,③院内検査(細胞診)する? しない? ここがポイント!,④病理医の眼(顕微鏡でみると),⑤患者さんへの説明は?,⑥放っておくと?,⑦口腔病理(口腔外科医)からの一言,と歯科医師にとっては“至れり尽くせり”の臨床に即した説明となっている.
貴重な口腔粘膜疾患を39症例もまとめることができるのは,おそらく著者をおいて他にはいないであろう(実際にはこの10数倍の症例の中から選ばれたものと推察している).

「Ⅲ.早期がん発見のために」では,口腔がんの早期発見に造詣が深い庵原明倫先生,岡 和雄先生,野村武史先生の協力を得て,臨床に口腔細胞診を取り入れる意義,そして光学機器および細胞診を実際の歯科クリニックで使用するための具体的方法が紹介されている.

4先生による座談会では,地域歯科医師会による口腔がん検診事業,光学機器による口腔がん早期発見,光学機器と口腔細胞診の使い分けなど,各先生の経験談がなかなか興味深い.

本書の特徴は,
❶口腔粘膜病変の症例が,非常に明瞭な口腔内写真(マクロ)として適切な倍率で示されていること,
❷細胞診および組織診の顕微鏡写真が部位と倍率を変えて提示されていること,
❸免疫染色,組織化学的染色,エックス線写真も必要に応じて配されていること,
❹多くの症例が丁寧に検索・記録されており,その情報量が圧倒的に多いこと,
❺口腔内写真や顕微鏡写真と文字(本文)とのバランスが秀逸で,非常に読みやすく仕上がっていること,
❻クオリティの高い写真が揃っているのでアトラスとしても使うことできること,

などである.

多くの歯科医師,研修医,歯学部学生,歯科衛生士の皆さんに読んでいただきたい必読の書である.
特に,歯科衛生士の方々に本書を強く推薦したいと思う.歯肉と同じように口腔粘膜全体をみる習慣・観察力が身につけば,皆さんの患者さんに対する口腔ケアのクォリティが間違いなくワンランクアップするからである.
常にチエアサイドに置いておき,いつでも気軽に手に取って読めるのが本書の魅力である.

関連リンク
『歯科クリニックで見逃してはいけない 口腔粘膜疾患―経過観察・院内検査・専門医への紹介その判断ポイント』(田中陽一 著)
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