『アドバンスドデンチャーテクニック―長期使用を目指した義歯の製作とメインテナンス』より―はじめに
多くの歯科医師から「義歯は難しい」「義歯の設計がわからない」との声を聞きます.
部分欠損の分布様式や組み合わせだけでも無数に存在することに加えて,支台歯や粘膜,対合歯の状態,骨隆起や粘膜の被圧変位性などの解剖学的要因も千差万別です.
それでも,私たちは個々の患者の口腔内に最適と思われる義歯設計を考え,機能回復を具現化する義歯を製作しなければなりません.
では一体,口腔内の何を手掛かりにして,義歯設計,義歯製作を行えば良いのでしょうか?
難しいことに,充塡処置や固定性補綴に比較して義歯は可撤性であるために嫌なら装着さえしてもらえません.
ところが,一度気に入られれば予想外に高い患者評価が得られる治療であり,多大な感謝と高額な費用を受け取ることもできます.ある意味,歯科医療としてこれほどごまかしが効かず,技術の差を判断されやすい治療は他にないかもしれません.
加えて,義歯の得意な歯科技工士は減少傾向にあり,患者の要求も高度化していることから,旧来の技術だけに頼るのではなく,義歯の審美と機能向上を目指した多様なアプローチが必要となるでしょう.
特に超高齢社会の進展に伴い,インプラントを義歯の支持,安定に役立てたインプラントデンチャーが注目されています.
しかしながら,義歯の基本事項がマスターされていなければ,患者の満足度も低いはずであり,インプラントの早期脱落を招くことにもなりかねません.
そこで本書では,私自身が日常臨床で実践,適用している義歯設計や義歯構造,製作術式を提示し,理想的な義歯像とは何かについて再考したいと思います.
また,本当に患者に好まれる満足度の高い義歯とはいかなる義歯なのかを症例を通して検証したいと思います.本書が先生方の義歯臨床に少しでもお役に立てれば幸いです.
2022年10月
大久保力廣
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