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『歯内療法Next Step 樋状根とRadix Entomolarisへの対応―日本人に多い解剖学的形態への臨床アプローチ』より―はじめに

『歯内療法Next Step 樋状根とRadix Entomolarisへの対応―日本人に多い解剖学的形態への臨床アプローチ』を2月21日に発刊しました! まだご覧になっていない方々のために「はじめに」をウェブ版として公開します.ぜひ,ご一読ください.(編集部)

根管治療の難しさは歯の形態,根管の形態にあるといっても過言ではない.
学生時代に口腔解剖学で学んだ歯の形態について,歯科医師ならば知識は持っている.しかし,その知識は基礎的な知識であって,専門的なものではない.
以前の研究は抜去歯からのデータがほとんどであり,資料の性別,年齢や既往歴等詳細なデータがないものもあった.
近年はCTを使用した検査が行えるようになり,デンタル写真ではわかりえなかった歯根形態,根管形態,病変の大きさ等がわかるようになった.そのため,医科用CT(MDCT)や歯科用CT(CBCT)を使用して検査を行い,診断がより正確なものとなってきた.

これまでの教育で基本的には,ヒトの上下顎前歯部は通常1根であり,1根管を有するとされた.
しかし,下顎前歯においては側切歯の2根管が人種によっては50%,日本の集団では25%程度であることも報告されている.
上顎小臼歯は第一小臼歯で2根・2根管,第二小臼歯で1根・2根管といわれているが,日本の集団では第一小臼歯は1根・2根管が一番多いと報告されている.
さらに,上顎大臼歯については数十年前までは第一大臼歯,第二大臼歯ともに3根・3根管と教育機関でも教えていたが,第一大臼歯に関しても欧米人と同様3根・4根管であることが一般的となり,大学教育でも近心頰側(MB)根のMB1,MB2の2根管の存在が常識的であることを教えている.

下顎大臼歯では第一,第二大臼歯ともに2根・3根管というのが一般的にいわれていた.
さらに,第二大臼歯では樋状を呈する樋状根がモンゴロイドに多く発現し,発現頻度は約3割であると考えられてきた.
しかし,CTを使用しての研究から,日本の集団における女性の樋状根の出現率は50%以上であることがわかった.
また,樋状根における根管形態はさまざまであり,デンタルエックス線写真からの情報では構築できないものであることも確認された.
加えて,下顎第一大臼歯ではモンゴロイドに多く出現する遠心舌側根の存在もこれまであまり注目されていなかったが,これまでの基本的知識であった2根・3根管から,Radix Entomolarisが存在する歯については3根・4根管であり,根管治療が難しいこともわかってきた.

本書では,樋状根の根管治療,Radix Entomolarisの根管治療がなぜ難しいのかを理解し,根管治療を成功させるための知識や治療法を歯内療法分野で活躍中の先生方に解説していただいた.
さらに,偶発症や通常の根管治療では回復できない場合の外科的対応のほか,樋状根については根管治療後の支台築造時の注意点についても解説を加えていただいた.
本書が,先生方の日常臨床で苦労している根管治療の改善に役立つことを祈念する.

2023年1月
編著者 辻本 恭久

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