見出し画像

『日本歯科評論 増刊2020/接着・機能性材料を活用した歯髄保護―痛みのない信頼の歯科医療のために』より―序文

二階堂 徹先生・林 美加子先生 編著『日本歯科評論 増刊2020/接着・機能性材料を活用した歯髄保護―痛みのない信頼の歯科医療のために』を10月5日に発刊しました! 
まだご覧になっていない方々のために「序文」をウェブ版として公開します(編集部)

編著:
二階堂 徹/朝日大学歯学部 口腔機能修復学講座 歯科保存学分野 歯冠修復学 教授
林 美加子/大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子感染制御学講座(歯科保存学教室) 教授 


超高齢社会の歯科医療では,高齢者を治療する頻度が高いことのみならず,人生100年を見据え,長期的視点に立った治療計画が必要です.そして歯の長期保存のためには,歯髄保護が一つの重要な要因であることは疑う余地はないところです.

Dentin/pulp complex(象牙質-歯髄複合体)の考え方が提唱されて以来,象牙質が口腔に露出した時点で,歯髄保護を考える視点が受け入れられてきました.歯髄保護は学術的にはう蝕学, 保存修復学,歯内療法学の接点ともいうべきトピックスであり, 本書の最大の特徴は,この3領域からの複合的な視座で,さまざまなステージの歯髄保護を基礎研究,臨床研究, そして臨床症例から詳細に検討している点です.とりわけ,最新の接着材料と機能性材料を活用した歯髄保護に焦点を当て,象牙質・歯髄を守り,痛みのない臨床のための確かなテクニックを身に着けることを目的としています.

まず,日常臨床で頻繁に遭遇する象牙質歯冠部う蝕や,加齢に伴う歯の亀裂や損摩耗,根面う蝕,知覚過敏処置など, さまざまな病変に対して常に歯髄保護を念頭に対応しなければなりません.いずれの場合にも的確な診断による病態の正しい理解と,病因を根本的に探索する姿勢を大切にしつつ, 生物学的かつ非侵襲的に歯髄保護を実現することが重要です.

また,保存修復学分野において接着歯学が歯髄保護の概念を大きく進化させてきたことは特筆すべきです.象牙質接着の性能が著しく向上したことが,2000年代初めより提唱されてきたMinimal Intervention Dentistryの浸透に大きく貢献してきました.言うまでもなく,わが国の接着歯学研究は世界をリードしており,日常臨床で秀逸な接着性修復材を用いることができる恵まれた環境にあります.
最近では「象牙質レジンコーティング法」が2019年12月に保険収載され,接着は単なる「くっつける接着」から「封鎖する・歯を守る接着」の重要性が高く評価されています.このレジンコーティング法については,その基礎知識と臨床での正しい活用が求められることから,本書では特に詳細に解説をしています.

一方,歯髄が生物活性および再生能力が高い組織であるとの理解が進んだことを背景に,正しい歯髄診断に基づく機能性材料を用いた歯髄保護の可能性が広がっています.すなわち,従来はう蝕が原因で露髄をきたした場合には,即座に抜髄が適応されていましたが,Mineral Trioxiside Aggregate(MTA)に代表される機能性材料の開発により,そのような露髄に対しても直接覆髄あるいは断髄など,従来の適応症の範囲を超えた歯髄保存が実現できる可能性が広がってきました.そこで本書では,歯髄の生物学的特徴,MTAに対する歯髄細胞の反応,さらには臨床症例まで,広い視点で歯髄保護の最先端を考えることを企図しています.

本書の編集に当たって,とりわけ日本歯科保存学会編纂の「う蝕治療ガイドライン」の方針に従って永久歯を対象としています.また,歯内療法分野で最も注目されているう蝕が原因の露髄に対する対応についても系統的に解説することとしました.
くしくも,この「歯髄保護」に関しては,2020年から日本歯科保存学会と日本歯内療法学会が協働して診療ガイドラインを作成する作業が始まっており,広い視野に立って議論が熟成されることは,臨床医と患者の両者に益することは疑いがありません.本書はそれに先立って,これまでに修復・歯内領域で蓄積された科学的な背景と, エキスパートの臨床経験,さらには最新の基礎・臨床研究の知見も加えて総合的に考察するユニークな構成としています.

本書で示した歯髄保護は,客観的かつ総合的な視点に則して結論づけられたものであり,これらが日常の歯科臨床において治療方針決定の一助になることを願っています.

 2020年9月
二階堂 徹 ・ 林 美加子

関連リンク
◆『日本歯科評論 増刊2020/接着・機能性材料を活用した歯髄保護
※シエン社でのご購入はこちらから

月刊『日本歯科評論』のSNS
LINE公式アカウント Facebook Instagram Twitter



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?