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【書評】『アドバンスドデンチャーテクニック―長期使用を目指した義歯の製作とメインテナンス』

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2023年2月号に掲載する「HYORON Book Review」を発刊に先がけて全文公開いたします.(編集部)

山下秀一郎/東京歯科大学 パーシャルデンチャー補綴学講座 教授

超高齢社会に突入したわが国

わが国は世界最速で超高齢社会に突入し,その後も高齢者の割合は増加の一途を辿っている.
その結果,健康寿命の延伸と健康格差の縮小を基本的な方向として,口腔の健康と全身の健康の関わりがうたわれるようになってきた.
口腔の健康は,口から食べる喜び,話す楽しみを保つ上で重要であり,生活の質の向上にも大きく寄与している.

このような時代背景の中で,本書は生まれるべくして生まれた一冊といえよう.

口腔内の状況は千差万別である

有床義歯を用いた補綴治療の目的は,失われた口腔機能の回復,外観の改善,残存組織の保存などがその代表的なものとなる.その治療が適用となる歯の欠損様式は,1歯欠損から無歯顎までと非常に幅広い.

したがって,欠損歯列の咬合を再構成するといっても,一律同じように考えればよいというものではなく,欠損様式や対合接触関係を考慮しながら治療方針を考える必要がある.
さまざまな臨床経験を積んだ著者であるからこそ,このような多様性をうまく一冊にまとめられたのではないかと感心するばかりである.

義歯の設計原則

有床義歯による欠損補綴治療を難しくしているのは,固定性の補綴装置と大きく異なり咬合圧に対する負担様式として粘膜支持を求める点である.
もともと支持機能を有していない粘膜組織に機能力を負荷し,さらに粘膜の被圧変位量は歯根膜のそれと比べてはるかに大きいことから,正しく機能する義歯を実現するためにはさまざまな工夫がなされなければならない.

有床義歯,特に部分床義歯の設計原則は,「動かない」「汚れない」「壊れない」+「生体追従性」である.
本書はこの原則に基づいた著者の一貫したポリシーが十分に盛り込まれている.表紙に載っている4つの義歯の写真を見れば一目瞭然であろう.

義歯の設計に関する著書は数多く存在するが,その多くの使われ方は,目の前の患者さんの欠損様式と同じ症例を見つけて,その設計を当てはめるといった症例集であるように感じる.
本書は全く違う次元から構成されている.
個々の症例にみられる問題点に対して,どのように解決策を見つけていくかという著者のアイディアがふんだんに盛り込まれているのが大きな特徴である.
著者は特に「壊れない」に重点を置いている.義歯の構造設計,つまり「患者固有のデンチャースペース内で最適なフレームワーク構造を計画,計算すること」という一文が,著者のポリシーを最も端的に表現している.

デジタル技術

金属積層造形の技術が歯科医師国家試験の出題基準に掲載されているのをご存じだろうか?
CAD/CAM技術は,これまでクラウン・ブリッジの臨床の中で広く普及してきたが,近年この流れは一気に有床義歯の臨床にも押し寄せている.
著者は,このようなデジタル技術の有床義歯への応用に関しては第一人者である.
それでこそ,上述の義歯の構造設計に関して,三次元的な構築という発想が可能になるのである.

まとめ

本書のタイトルに「アドバンス」と付いているが,決して難解ではなく,むしろ写真が豊富でわかりやすい構成である.
これから臨床を深く勉強しようという先生方には,まさにうってつけである.
経験のある臨床医にとっても目から鱗となるところが少なくないであろう.読みやすく,わかりやすい好書である.

関連リンク
『アドバンスドデンチャーテクニック―長期使用を目指した義歯の製作とメインテナンス』(大久保力廣 著)
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