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【書評】MTA アップデート 2021-2022―生体材料としての現状と展望

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2022年9月号掲載分の「HYORON Book Review」を全文公開いたします(編集部)

阿部 修/東京都武蔵野市・平和歯科医院


MTAの開発によって私たちの臨床は大きく様変わりした.従来は困難であった歯髄保存療法をはじめ,穿孔封鎖や根尖開大症例等に対して,高い予知性を持って対応できるようになったことはいうまでもない.

その一方で,MTAは常にその操作の難しさや術後の変色が問題視されてきたことから,近年はバイオセラミックスとして総称されるMTAと同様の効果を期待した新しいMTA系材料の開発が進んだ.
それらはペーストやパテ等のプレミックスタイプのように操作性が格段に向上したものや,術後の変色に対しても対策が施されたものも多く,すでにわが国においても多種類が利用可能となっている.
しかしながら,そうしたMTAと似ているが同じではない新材料が本当に有効なのか,MTAと同様な効果が得られるのか,さらにはどれをどのような症例に応用すればよいのか……,などというような疑問を抱えている臨床医は決して少なくないだろう.

そのような状況において,本書は2016年に発刊された「MTA その基礎と臨床」から6年の歳月を経て,その間に発表された研究論文や新しいMTA系材料の最新情報をエビデンスベースで整理し,その臨床応用について実際の症例を交えて解説したものである.
名実ともにわが国の歯内療法を牽引し,そしてMTA研究における第一人者である興地隆史教授が編者となり,第一線の研究者と臨床医とともに集成された現時点におけるカッティングエッジの書である.

まず第Ⅰ章に「MTAの現状を再検証する」として,2022年現在までに明らかにされた研究からMTAの生体機能性と生体反応が詳しく解説され,まさにMTAの現在像が示されている.
その上で近年販売されたさまざまなMTA系材料について,粉液タイプやレジン添加型,2ペーストタイプ,そしてプレミックスタイプという,材型別にそれぞれの主成分や用途を具体的に示しつつ,それぞれの材料の利点や問題点,そして臨床応用時の注意点等が示されている.
さらにそれらを踏まえた編者による製品選択時のヒントは,明日の臨床に直結する内容として特に参考になるものである.

そして第Ⅱ章にはMTA系材料について造詣の深い執筆者らにより,適応症例別に「歯髄保存療法」,「逆・正根管充塡」,「穿孔封鎖」,そして「根未完成歯への再生歯内療法」における臨床活用ポイントが解説されている.
内容はシステマティックレビューをはじめとした論文をベースに,最新情報がわかりやすくまとめられている.臨床症例は多数の大きな写真で示されており,細かい手技や臨床上の勘所がハンズオンをみているかのようなわかりやすさで伝わってくる.
特に近年,大きなパラダイムシフトの中にある歯髄保存療法においては,二次元バーコードから臨床動画に簡単にアクセスすることができるため,より詳細な手技を学ぶことが可能となっている.

MTAは膨大な研究と臨床報告によって,そのすぐれた生体親和性と封鎖姓,硬組織誘導法等が示されていることから,得てして「魔法の薬」のように扱われがちであるが,編者はMTAが決して「万能」ではないとして,あくまでも歯内治療の基盤的事項の遵守,つまり感染源の除去等の歯内療法の基本操作が適切に行われることの重要性を強調している.
われわれは今,改めてその言葉を重く受け止め,これらの素晴らしい材料を適切に臨床応用しなければならないということを再認識した.

歯科医学がいかに進化しようとも,人間が本来有する天然歯,そしてその歯髄の保存は,いつの時代にも変わらず患者が真に求めるものである.
MTAをはじめとした新しいMTA系材料は,困難な症例に陥った歯,歯髄を保存するために私たちが応用できる,現時点における最良の武器であると考えられる.
本書はその最新情報と臨床の実際を一冊で網羅できるものであり,若手から経験豊富なドクターまで,すべての歯科医師に必携の書である.

関連リンク
『MTA アップデート 2021-2022―生体材料としての現状と展望』(興地隆史 編著)
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