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私と聖なる生き物

突然だが、私にとってカマキリはとても神聖な生き物だ。
他種族のなかで、一番大切な生き物かもしれない。
それは、私が経験した
あるストーリーがあるから。
それを皆様にも共有できたらと思う。


●目次
・飛来
・患い
・慈愛
・未来

●飛来

6年ほど前。
カマキリさんは、どこからともなく現れた。
家の中に現れた。
どこからやってきたのか、どうやって入ってきたのか。
なんてことない休日。
私はアパートで母親とずっと同居しているが、
私が気付くまで知らなかった。
キッチンのシンク、そこにある窓のふち。

じっとじっと、私を見つめていた。

私は他種族に甘い部分があるので
このまま一緒に暮らしてもいいと思ったが
急に現れた、それなりの体格があるカマキリさん
体が小柄で細いのでオスだろう。
母親が少し怯えていたので外に出てもらう事にした。

外に出てもらうとしても
私の頭にはいろいろな事がよぎった。
例えば、体温の違い。
金魚やメダカなら、人間の体温で火傷してしまうので
直接触れるのは好ましくない。
だから私は、失礼かもしれないけれど
割り箸でつまんで移動してもらう事を考えた。

カマキリさんは
「え!?なんでなんで!?」という感じだったから
本当に申し訳ないのだけれど
玄関の扉を開けて、窓のサッシに降りてもらった。
ちょうどシンクにある窓の裏側。
彼は全然攻撃的じゃなかった。
普通だったらこんなピンチの時に抵抗しても良いだろうに。

私の住むアパートは虫たちにとって好都合なのか
廊下を休憩地点として使ったりしている様子。
だからすぐにどこかへ行ってしまうものだと思っていたが、
彼は違ったのだ。

じっとじっと、私を見つめていた。




●患い

それからというもの、カマキリさんはサッシにずっといた。
なぜこんなにも、得体の知れぬ巨大な「人間」という生物のすぐそばにいて怯えないのだろうか。
就職したての私は、毎朝毎夜と顔を合わせたし
母親も同じように顔を合わせていた。
この短い期間で私たちは、まるで家族のように思えていたし
話しかけていた。
話しかけていた、と言っても
日本語を使っての言葉じゃなく。
エネルギー波、波動のような言葉で話しかけていた。
その度に彼はくるっと振り向き、

じっとじっと、私を見つめていた。

それから間もなくして
私は「うつ病」と診断された。

それを伝えても彼は何も答えず、ただ
じっとじっと、私を見つめていた。


●慈愛

虫の寿命とは驚くほどに短い。
彼は、人間の目からしてもわかるほど老いていった。
というか、こんなアパートの一角にずっといて
ちゃんとご飯は食べられているのだろうか
素敵な結婚相手はいないのだろうか。
毎日毎日、顔を合わせては語り合う日々。

ある時、彼は去っていった。
別れも告げずに去って行ったから
母親とも悲しんだし
「時の流れが違うからしょうがないね」と話した。


しばらく経ったある日、
サッシに若いカマキリさんがいた。
私は感動した。
なぜなら、明らかに彼の子孫だとわかったから。
同じ眼差し、他の虫とは違う何かを確かに感じたから。
そして相変わらず、ずっとずっとサッシにいて
「行ってきます」
そして
「ただいま」
時には、人間の世界のお話をしたり。
彼は、彼の父と同じように

じっとじっと、私を見つめていた。


やがて、彼も去った。

また、子供がうちに来た。

その子もやがて去った。

またその子の子供がうちに来た。

世代を越えて何度も
我が家の同じサッシに来たのだった。
そして同じように


じっとじっと、私を見つめていた。



●未来

しかし、こんな時間でさえ有限であった。
時は流れ、私のうつ病も快方に向かい
医者から寛解を言い渡され、新しい部署で再スタートを切った。

ある日、仕事から帰ると
カマキリさんがサッシを降り、アパートの廊下にいた。
彼は振り返って、
じっとじっと、私を見つめていた。

「もう行っちゃうの?なんだぁ、なんか寂しくなるね。」
と笑顔で語りかけた。
玄関を開けて、その事を母親に伝えた。
「カマキリさん、もう旅立つらしいよ」と。

その時、母親が言った。
「私が引き止めたの。」と
話によると
母親が買い物に出かけようと玄関を開けると
もうすでにカマキリさんは廊下にいたらしい。
そこで、クロマトがもうすぐ仕事から帰ってくるはずだから
もう少し待っていなよ、と伝えたらしい。

それを聞いた私はたまらずに玄関を開けた。
1分も経っていないくらいだが
彼はもう姿を消していた。

もしかしたら、
私の精神や命を案じた誰かが
カマキリに宿り見守ってくれていたのかもしれない。
そう思うと涙が出てきた。
人は恐ろしいほどに、失ってから気づく。

それ以来、カマキリさんはうちに姿を現さなくなった。
しかし、私の記憶や網膜には
彼らの温かな眼差しが焼き付いている。
じっとじっと、私を見つめてくれている。

かくして、私にとって
カマキリは神聖な生き物となった。

幼少期、姉の部屋にも突然現れた事があったので
ご縁のある虫さんなのかもしれない。

調べたところによると
カマキリ(英:マンティス)をギリシア語にすると「予言者」という意味になり
良い未来をもたらす神の遣いとして大切にされてきたらしく
スピリチュアル的にも、「新しい希望」を意味するらしい。
また、かつての日本では「拝み虫」と呼ばれていたらしい。
古来より人間とも関わり深い神聖な生き物である事もわかった。


以下、当時撮ってきたカマキリさんの写真を
空白以降に貼るので
虫が苦手な方はここで戻ってくださいね。

2021.7.23 クロマト