司法試験失敗談
0.前書き
(1)私は、令和6年司法試験に運良く合格することができました。
成績は合格者の真ん中くらいでした。
正直に言うと、成績に対しては悔しさしかなく、気持ちはかなり落ち込みました。
偽らざる正直な気持ちです。
(2)他方で、この結果は予測通り、覚悟していたものだったというべきとも考えています。
以下に述べるように、私は試験当日を迎えるまでに、すでに『失敗』や『過ち』をかなり犯していたのです。
問題や状況によっては、すなわち、運に恵まれなければ、不合格も十二分にあり得たと猛省しています。
(3)『失敗』というタイトルには、反感や嫌悪感を抱く方がいるかもしれません。
しかし、以下を読んでいただければ、『失敗』の意味を理解していただくことができ、かつ、令和7年の司法試験に挑まれる方々に、少しはお役に立てるかと思い、記事を書くことにしました。
また、己を顧み、今後も謙虚であり続けるために、苦い記憶を保存することも、目的の一つというべきかもしれません。
1.対象(想定している主な読み手)
予備試験経由、特に可処分時間が限られた方(1週間で30時間程度の勉強時間、しかも、疲労困憊状態、掻き集めの時間が大半の人は、より該当)を主な対象にしていますが、他の受験生のかたにも充分読んでいただく価値はあると思います。
2.失敗1:易きに流れ、膨大な時間を失う
(1)私は、予備試験の論文を運良く1回で合格出来ました。
しかし、突貫工事で間に合わせたため、論文はおろか、短答でさえ、下4法の勉強は不十分で、選択科目である労働法に至っては、予備校の論証集講義(アガルート)だけで挑みました。
結果として、上3法が牽引し、実務に加えて、労働法もそれなりの好評価がついた一方、下4法は、商法を除き、E評価でした。
それでも、合格点に照らし、多少ゆとりある点数で合格できました。
(2)上記を踏まえ、危機感しかなかった私は、下4法と選択科目を0からやり直すべく、新たにKゼミのインプット講義を聴講することにしました。
結構なボリュームがあり、各科目一通り聞くだけで2月〜5月を費やしてしまいました。
また、これは相性の問題ですが、私には全くプラスには働かず、逆にストレスだけが蓄積されていきました。
結局、都度、基本書などを読み込む必要が生じました。(しかも、基本書をGW後から網羅的に丁寧に読むことを始めてしまいました。)
効率よく、もっと言えば楽をするつもりが、膨大な時間を失うだけの結果になりました。
(これは、LEC大塚刑法講義の成功体験を引きずってしまったことが大きな要因です。あの講義は別格で、完成され切っており、耳だけで学べる唯一無二の存在です。)
このため、必要な過去問研究も疎かになり、予備試験合格後は、過去問起案をほとんどできませんでした。
過去問研究と起案をしっかりできたのは、予備論文後〜論文合格発表までで、民法刑法両訴の全年分だけでした。
他の科目は、上記のようにインプット講義の聴講に追われて、直近年しか、しっかり取り組めませんでした。
(3)今思えば、予備試験合格までにこなしきれなかったテキストを深めながら、過去問研究を中心に据え、必要な範囲で基本書を読む、テキストに戻る、これで900点台後半から1000点までは充分だったとも思います。
また、労働法についても、労を厭わず、水町演習を軸に据え、理解しながら進めるべきでした。
3.失敗2:勘違いをして高い目標を立てる
(1)民法、刑法は時間を掛けて重点的に勉強した成果が予備試験で出たため、特に民法で最上位の成績を取りたいという気持ちが強くなりました。
結果として、民法の勉強に割く時間は減らず、他の科目の勉強時間は増えませんでしたし、短答対策もほとんどできませんでした(憲法44点、民法73点、合計155点は運の要素が強かったです)。
(2)しかも、最上位を取るためには、全範囲を網羅的に完璧にすることに加え、最近の学者の問題意識、関心分野も追っておいた方が良い、と考えてしまいました。
これは、司法さんhttps://x.com/55e9c4kzssjtyp2?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGgがnoteで書かれているように、非ロー生の我々にとっては、効率の面でも、効果の面でも得策とは言えず、私のように可処分時間が限られている受験生にとっては致命的になりかねない危険な考えでした。
このことは、基本論点を深く理解する努力とは別物です。
(3)開示されているみなさんの成績を見させていただいた上での、相場観に関する、現状の結論は、以下の通りです。
すなわち、科目、分野に穴を作らない勉強をして、どんなに悪くても、高熱におかされたとしても、Cに留めることができる準備をすることが、『落ちない』ための最低条件ということです。
次に、最上位(1桁〜2桁)を取るかたは、全科目Aを揃えつつ、選択科目と、他に1〜2科目が跳ねている印象です。
万遍なく、どの科目も高いクオリティを揃えるのは現実的でなく、また、これだけでは最上位には届かない印象です。
なお、労働法で『跳ねている』受験生を現認できておらず、よく考えもせずに労働法を選択したことも失敗のうちに含まれると思います(労働法は各予備校のエース(伊藤塾は伊関講師、Aは渡辺講師(現在は独立)、加藤ゼミ加藤代表)がそろって担当していますが、皆さん大の「勉強家」です)。
(4)以上より、最上位を狙って取りに行けるのは、予備試験合格時点である程度全科目が仕上がっており(結果、予備試験上位合格ということになる)、専業に近い時間を確保でき、学者にアクセスできる環境にあること、上位合格者を定期的に排出している個別指導講師(泉谷先生https://x.com/nao_izumiya?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg、福田先生等)に師事している、これらの全部かいくつかの条件が揃っているひとであると思います。
4.失敗3:独りで勉強し続けた
(1)これには二つの意味があります。
ひとつは、①個別指導を受けなかったこと。
もうひとつは、②情報交換をできる受験仲間をつくらなかったことです。
(2)①については、検討した時期もありましたが、手持ちの具体的な情報も少なく(これは②に起因します)、また、予備試験に(事実上)一発合格したことで自分の勉強の方向性は間違っておらず、これまで同様に自力で情報を集めて対策をしていけば足りると考えてしまいました。
予備試験後に、X上で(優秀かつ、あるいは、それゆえに)有名な予備試験最上位合格者の方々が概ね、個別指導を受けていた事実を知り、これに大変な衝撃を受けたにもかかわらず、なお、自分には必要ないだろうと判断してしまいました。
今思えば、過信としか言いようがないです。
個別指導を受けるメリットは、主に二つで、③添削指導、④スケジューリングだと考えます。
私の場合は個別指導を受けなかったことが、③④においてディスアドバンテージになってしまいました。
④スケジューリングに関しては、正直、予備試験受験時から終始一貫、思いつき、その時々に間に合わせる勉強でした。
予備試験時は、週2通のコンプリ答練、週1通の過去問起案をペースメーカーにしていた分、まだ「まし」だったかもしれません。
予備試験論文後はそれすらなくなり、とりあえず、口述に必要な科目の過去問起案と、口述対策を進めていくだけでした。
ここで、予備試験と司法試験の違いに関する情報収集や、予備上位短期合格者が司法試験に落ちるという事実を目の当たりにして、予備試験に合格すれば司法試験は楽勝だとかいう感覚は全く持てませんでしたし、違う試験であるという意識は強く刷り込まれていました。
それにもかかわらず、③個別指導による添削指導を受けることをしませんでした。
そもそも、予備試験論文の成績が返却され、自身の成績に向き合い、他人の成績や力量を知るまで、点を取りやすい書き方や意識について意を払うことは皆無でした。
そして、このとき初めて、点数を取るための訓練が必要であると知ったにもかかわらず、③個別指導で学ぼうとはしませんでした。
ここにも大きな過信がありました。
知っていること、わかっていること、実践できることはそれぞれ次元が異なります。
③添削指導を通じて実践する力を養成することを怠ってしまいました。
(3)②受験仲間をつくらなかったことについて
この点については、各々の考え方は異なりますし、時期や性格にも左右されます。
Xでもポストしている通り、私は勤務先や友人はもちろん、家族(同居は妻のみ)にすら告げずに勉強を開始し、継続しました。
学生でもないので、こうなるとSNS等で知り合いをつくるしかありません。
しかし、私が人生で初めて旧Twitterに登録し、利用し始めたのは、令和4年短答初受験の翌日でした。
もっとも、この時点では恐る恐る使い始め、主な目的は情報収集でした。
他人と絡むなど恐ろしく、また、短答合格もしていない社会人の私など誰も相手にしてくれないだろうという思いもありました(今もその思いは大して変わりませんが)。
1年ほどは見る専門で、自ら誰かをフォローすることもありませんでした。
この間、情報収集はある程度進みましたが、所詮一般的抽象的な次元で、具体的で身体にすっと入ってくるような生々しい情報を得ることはできませんでした。
令和5年予備試験論文受験後、ようやくポストし始め、論文合格発表の際に、現在交流ある方々の大半とのそれが始まりました。
特に、パンダさん(https://x.com/libertadleven?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg)は唯一無二で、口述対策以後、今日に至るまで、最も絡ませていただき、また、助けていただきました。
パンダさんとの出会いがなければ、令和6年司法試験に合格できていなかったかもしれません。
具体的で活きの良い、身体にずっと入ってくる情報は、ある程度近いレベルで、同じ目標に向かって、同じスケジュール感で動いている人からしか得ることは難しいと考えています。
上述のように、令和6年2~5月の勉強の進め方において、大きく失敗したことを自覚し、同時に答案作成方針も迷い、定まっておらず、焦燥感をいだいていたところ、相談に乗ってくださったのは、パンダさんを筆頭に、
しまださんhttps://x.com/yobi_shihou_2?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg
しまのさんhttps://x.com/killthebarexam?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg
しゅんさんhttps://x.com/killthebarexam?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg
それに、まるちゃんさんhttps://x.com/pr_ba_ex?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg
でした。
上記に鑑みれば、冒頭の「受験仲間をつくらなかったこと」は、正確に言えば、「受験仲間を作るのが遅すぎた」というべきかもしれません。
司法試験終了後は、現在絡みがある方で、司法さんをはじめ、学部生の方もお相手をしてくださり、この方々からもっと早い段階で学びたかったと後悔していますし、「飛翔ダービー」を通じて、これらの方とつなげてくださった飛翔さんには感謝しかありません。
5.失敗4:答案作成を急ぎすぎた
(1)令和6年の問題は、商法の一部問題を除き、基本的には、比較的準備をしっかりしていた内容ばかりで、問題文を一読して、すぐに迷うことなく論述し始めることができました。
商法ですら、周囲の六法をめくる音が響く中、開始10分後には独り書き始めていたと思います。
これには、明確な意図があり、上記のように、準備と仕上げに完全に失敗した私は、開き直り、とにかく落ちないことを優先する答案作成を心掛けました。
そのためには、⑤早く決断すること、⑥勝負しないこと、⑦⑤⑥の結果として実質的途中答案を絶対に出さないことを、徹底遵守しました。
この点については、全科目において遵守でき、結果として、最もぎりぎりまで書いていた刑法(8ページフル)ですら5分以上余りました。他の科目はおおむね10分~15分余っていました。
(2)他方で、急ぐあまりに、説得的で力強い文章を書く意識は低く、また、民事系では、もしかしたら検討すべき要件の書き落としがあったかもしれません(これらのことが思っている以上に点数が伸びなかった原因になったと考えています)。
万年筆やボールペンで書き、かつ、特定答案の疑いを回避する必要がある論述試験の特性上、一度書き終わったモノに手を加えるのは容易ではない側面もあります。
(3)上記についても起案を通じた訓練不足によるところが大きく、また、これを指導していただく機会を持たなかったことに起因しています。
つまり、失敗1~4は、当然ながら、相互に密接関連しています。
(4)予備試験合格者の合格率が圧倒的に高い理由の一つに事務処理能力の高さがあると思います。
これは、司法試験会場にいけば容易に感じることができるはずです。
論文にしても、短答にしても解くスピードが全然違います。
また、私が知る限り、予備試験合格者の多くが同じ感想を持っています。
つまり、この強みを最大限生かす受験戦略を立てるべきでしたが、本試験会場にいくまではこのことを全く知りませんでした。
予備試験合格者の大半は、高評価につながりやすい、あるいは前提となる、量を書くという点ですでに大幅なアドバンテージがあるのですから、難しい理論を漁ったり、こねくり回す必要は全然大きくないと知るべきです。
6.最後に
以上は総論になります。
上記の情報をどの程度理解でき、納得して役立てることができるかは、読み手の現在の能力と、これまでの経験によるところが大きいと思います。
また、読む人によっては、惨敗した私の「言い訳」の羅列と取る方もいるでしょう。
X等で発信するようになり、それなりにFFさんが増えたところで、某板等において、私の発信内容やその意図と全く異なる理解を前提に、根も葉もない発言や、誹謗中傷がなされ、私のなりすましまでいるとも聞いています(ちなみに、私は人生で1度たりとも某板に書き込みをしたことはなく、閲覧したのも、ある人が誹謗中傷されている事実を知らせてくださった際に1度確認したのみです)。
それでも、この度、このような記事を作成したのは、人生をかけて厳しい境遇で真摯に努力している方の役に少しでも立ちたいという思いと、飛翔ダービーに入れてくださり、司法さんはじめ、優秀な学生さんとのつながりをもたせてくださった飛翔さんhttps://x.com/norikhisyou3601?s=21&t=x-qoc0AcUmFZ0fR4ROTpGg、パンダさん、その他、Xを通じてさまざま教え、助けてくださった方への感謝の思いを込めました。
私は、引き続き、会社員としてのフルタイム勤務がありますし、指導する能力も意欲もないので、成績開示はX上でのみ、限定的に行うにとどめています。
しかし、連載(?)しているロープラ民法の答案例等については、うれしいことに、参考にし、また応援してくださいっている方がいるということで、今後の成長に向けた、自学自習のモチベーションのためにも継続していくつもりです。
長くなりましたので、いったん、ここで筆をおきます。