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②靴下屋 父の日のキャンペーン

本書でも何度か紹介している「空を飛ばせてくれたお父さんの足へ」というキャンペーンを創った時のことです。


「世界で一番大切にしたい、たった1人」

として想定したのは、長野県出身で東京で結婚して、ご主人と幼い子2人の家族4人で東京で暮らしている人。その彼女のお母さん、お兄さんと3人で長野の実家の最寄りの総合病院の1室で最期を迎えようとしているお父さんを見守りながら、家族4人の走馬灯がぐるぐる回っています。その時の家族4人の走馬灯の共通の1コマで、お父さんの足と彼女が一緒に写っているシーンは何だろう? ということを考えていました。

「そのシーンを考えながら年末年始を過ごして、年明けに打ち合わせをしましょう。」と12月27日に、Tabioのブランディングに伴走をしてくださっていたクリエイティブディレクターの武藤雄一さん(武藤事務所)と話をして、その後、私は年末年始はその走馬灯の一コマを見つける「思考の旅」に出るわけです。

12月27日は年内最終出社日ということもあり、ここぞとばかりに同じフロアで一緒に仕事をしていた20代後半から30代前のスタッフにお父さんとの思い出を聞いてみたり、翌日の年末年始休みからは、自分が生まれたころの写真を漁るために横浜の実家に行ってみたり、妻の小さなころの家族の思い出話を根ほり葉ほり聞いてみたり、近くの公園に行って親子を観察したり、豊洲にあるららぽーと(情報感度の高い若い世代の家族世帯が住むエリアのショッピングモール)に行って観察してみたり、上野動物園に行って動物ではなくお役を観察してみたり。そして、まだ幼かった自分の娘と撮った写真を5年間分見たり。ネット上で画像検索をしてみても、いまひとつだったり。そのような感じ追求していくのです。

年明けも、とことん続けていきます。初詣で神社の境内で列に並ぶ親子を観察。初売りの子供服屋さんがたくさんある自由が丘の街をぐるぐると回り観察。IKEA(若い世代の家族世帯の夫婦に人気の北欧発の家具屋さん)に行って親子連れを観察。ららぽーと横浜(若い世代の家族世帯が住むエリアが点在するところにあるショッピングモール)に行って観察。そして、年末年始をハワイや海外で過ごした家族のシーンをテレビのニュースで観て、夏休みに伊豆や館山の海や湖に連れて行ってもらったことを思い出したり、冬休み富士山の近くのスケート場に連れて行ってもらったことを思い出したり、妻と娘と息子と4人と両親兄弟と沖縄や伊豆の海に行った時のことを思い出したり。目に入ることと、記憶の中になることのすべてを引っ張り出してきます。

それでも走馬灯の1コマで「これだ!」というものが降りないで、1月5日の初出社の日を迎えるのです。

初出社の日は、大阪の難波にある本社に出社と決まっていたので、朝イチの新幹線に乗って新横浜駅から大阪に行きます。行きの新幹線は、必ずと言っていいほど睡魔に襲われます。気圧の関係だと思うのですが。

本社に着いてご挨拶や会議などを終え、帰路につきます。新幹線というのは、たった一人で考える空間としては絶好の場です。新大阪駅を20時ごろに出発して京都を過ぎるころまでに駅で買った弁当を平らげ、年末年始に見たこと考えたことを振り返ります。

名古屋を過ぎたころ、ふと、自分が幼稚園年長ぐらいだったころ、父方の祖父母が暮らしていた本家に親族が一同に会して年始会をやっていたことを思い出します。そこでは、9人兄弟だった父でしたので、私と同じような年代の子供がたくさんいます。父は8番目に生まれたこともあり「叔父さん」としては若かったので、子供たちの相手をする係として奮闘していました。その時に、私をはじめ子供たちに大うけだったのが、「飛行機」でした。寝ころんだ大人が足を上げて、その上に腹ばいになった子供を宙に上げるという、あのシーンです。そのシーンを思い出した瞬間、

「飛行機!」

というひらめきが降りてきました。クリエイティブディレクターの武藤さんに「飛行機、どうですか! お父さんの足の上に腹ばいになって両手を広げるやつ」とご連絡すると、彼からは、「 神様、降りてきたんじゃないですか!」とお返事。

多くの仕事を通じて、「人の心に響くクリエイティブ表現を創る際は、超一流のクリエイティブのプロフェッショナルの方々の力を信じながら形にすることで良い結果が生まれる」ということがわかっていました。この時もそうだったのですが、Tabioのブランディングに際して、クリエイティブのことに関しては、クリエイティブディレクターの武藤雄一さんとアートディレクターの安田由美子さん(アイルクリエイティブ)を頼りにしていました。

東京に戻りすぐに打ち合わせを設け、その日から、武藤さん、安田さんの力によって、いろいろなことが具体的になっていくのです。その打ち合わせの場でも、武藤さん、安田さんたちからは、具体的なクリエイティブイメージの話があり、聞いている私たちもどんどんとイメージが膨らんでいきました。お二人の話を聞きながら、一緒にやっていた伊藤さん(タビオ株式会社)も私も、ぐいぐいと引き込まれていき、みんなで大盛り上がりです。

数日後、武藤さん、安田さんとの打ち合わせで、「空を飛ばせてくれたお父さんの足へ。父の日に靴下を贈ろう。」というメッセージと、細部の細部まで考え抜かれたビジュアルのイメージのご提案があり、それを見た瞬間に、「これが形になったら成功するに違いない」と直感するのです。

その後、数日にわたり、武藤さん、安田さんの方で、実際の表現を創っていくために必要な超一流なクリエイティブスタッフの方々(デザイナー、フォトグラファー、スタイリスト、ヘアメイク)を口説いいただいて最高のチームクリエイティブが生まれ、理想的なアウトプットが形になっていくのです。

Tabioの父の日のキャンペーンのキービジュアルとキーメッセージ

青い空でお父さんの足の上で幼い女の子が「飛行機」をしている。青空に羽大きくばたいて飛んでいくように。青い空には飛行機雲もある。そして、女の子はどういう感じで、どういう髪型で、どういう色のどういう服をきていて、、撮影する場所はどこで、何時頃の日差しで、、、など、すべて細部わたって、武藤さん、安田さんを核にしたクリエイティブチームのスタッフの方々ひとりひとりの創意工夫の化学反応からこのクリエイティブが生まれました。「飛行機」のビジュアルと「空を飛ばせてくれたお父さんの足へ。」という言葉が合わさって、多くの方々に共感が生まれることになました。


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