あの音楽を聴きたくなる短編小説4
ドゥ・ユー・リメンバー・ミー? (トム・ウェイツに捧ぐ)
-Do you remember me?-
重たい赤褐色のドアを押し開くと、開店直後の店内はまだ前日の淀んだ空気をはらんでいた。薄暗い照明、天井で回る大型ファンのめまいにも似た振動。ほこりをかぶったエアコンはハーモニカのような吹き出し口から、生ぬるく、ヤニ臭い息を吐き出している。
男は足を引きずるように店内へ入ると、カウンターの店員に一瞥をくれ、何を言うでもなくその前を通り過ぎ、入口から一番遠い角の席を今夜の