あの音楽が聴きたくなる短編小説7
黄昏は朱く燃えて -Sunset Glow-
(1)
私の父、ハワードのことを振り返って真っ先に思い出すのは、バンパーの曲がった車から漂う油の匂いと、彼のさみしそうな笑顔のことだ。
父は結婚する前からずっと土木現場で働いていたのだが、私が小学校の高学年になったあたりで体調を崩し、仕事を休みがちになっていた。月に何度かは病院へ通い、朝、元気に出勤したかと思えば、青い顔をして昼過ぎに帰ってきたりした。夕飯前に仕事から戻った母が、ポーチに脱ぎ散らかされた泥だらけの作業ブーツ