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トボトボよみち(備忘録)

2020/10/11 午前10時頃、鳴り響く着信音で目が覚める。
電話に出ると祖母がお世話になっている施設からの電話だった。

「重田さんのおばあちゃん、昨日から熱があります。
 でも意識ははっきりしてるので恐らく安静にしていればまた元気になると思います。ですが、もし万が一悪化した場合は救急車を呼びますので、その際は連絡します。」とのこと。

若年性認知症になってしまった母の代わりに祖母の身元引受人となっていた僕に連絡が来るのは自然な流れ。
覚醒した僕は、昼からバイトがあるのでバイト先の電話番号を伝えて電話を切った。

少しだけ、いろんな覚悟をしながら最近買った原付でバイト先へ。
出勤して30分も経たない内に店の電話が鳴る。
もしやと思い、他の従業員に仕事を任せて、急いで電話を取る。

「お医者さんから、ご家族に病院に来て欲しいとのことです。
 お孫さん。どうにか来ていただけないでしょうか?」

心拍数上昇、脳内はてんやわんや。
チーフには前もって祖母のことを伝えていたので、
「早く行ってきなさい。その代わり私の時はちゃんと駆けつけてや!」
「御意!!」

病院は原付で行くには遠いので一旦帰宅し、車に乗り換えできる限り落ち着いて運転。
病院に着くと祖母とともに救急車に乗ってくれた施設の職員さんと合流。
職員さんが処置室に設置されたベッドを指差して僕に教えてくれた。
「お医者さんが今、おばあちゃんの容態を確かめてくれています。」
廊下から処置室を覗くと、一つのベッドに集まる看護師さんたちの体の間から点滴用の針を打たれた腕が見えた。顔が見えずともわかる。おばあちゃんだ。

1番最初に思ったことは容態の心配よりも、久しぶりに会ったなぁという感想。
母のことで手が一杯だった僕は、何年も祖母に会いに行っていなかった。
まだコロナになる前の今年の頭に本当に久しぶりに面会した以来。

そこからもう何時間経っただろうか。
緊急入院が必要ということ。
手術担当の医師が到着次第手術の説明をするということ。

その二つを聞いてからもうとにかく沢山待った。
その間にバイト先に今日はもう帰れないことを伝え、職員さんと雑談をし、
とにかく、とにかく待った。

手術担当の医師が到着。ガタイの良い熟練の風格漂う男。
手術の説明も素人の僕にもとても解りやすい話し方だった。
おばあちゃんは今、胆石が詰まっており、今すぐにでも手術をしないととても危険な状態。その手術も成功率は高いが、詰まりどころによっては生死に関わってくること。
とにかくあまりにも説明が解りやすいものだから、不安が少しずつ大きくなっていく。
気を逸らすため下を向くと、その医師の履いている靴が僕が持っているのと同じ緑のスタンスミスだった。

結果的に手術は無事に終了。
経過が良好であれば一週間で退院できるという。
手術の手続きを済ませ、病院側が手術後の祖母と特別に面会を許してくれた。

「ばあちゃん元気か?大変やったなぁ」
「ほんまやなぁ。もう疲れたわ。」
「お疲れさん。ところで入れ歯してないから何言ってるかあんまわからんわ。」
「そうかぁ」
「てかほんま久しぶりやな。孫やで。わかるか?」
「元気してたか?わかるわかる。」

祖母は89歳。すでに認知症。
本当は僕のことをわかっていない。おそらく昔の記憶から僕を判断している。
と 施設の方が教えてくれた。今年の頭に面会した時に教えてくれた。
それでも嬉しいもんです。
そして祖母は認知症ではあるが、はっきりと喋ることができる。
母はもう全然喋らなくなってしまった。
認知症にも色々な症状があるということがここでよくわかる。

「今ちょっと大変な時期やからあんま会いに来れへんけど、
また落ち着いたらすぐ会いにくるから。元気しといてや。」
「わかった。気をつけてな。」

「………うん。ほなまたな。」



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