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「防災省」(仮称)への思いなど

石破 茂 です。

今週は多くの方が総裁選挙に向けた発表をされ、告示前から議論が熱を帯びています。
すべての方の会見内容を仔細に検討する余裕はないのですが、河野太郎大臣が日本の原子力潜水艦保有の可能性について言及されたことには注目しております。

農林水産大臣在任中、日本の原潜保有の是非について雑誌「世界の艦船」に寄稿したことがあるのですが、ほとんど誰にも関心を示していただけませんでした。この問題は日本の安全保障政策の根幹に関わるものであり、この問題を敢えて提起された河野大臣に敬意を表します。

私の提唱している「防災省」について、「屋上屋を重ねるものだ」との批判がありますが、私は全くそうは思いません。

近年これほどまでに災害が頻発し、災害大国と言われる日本にあって、全国の防災体制を一元的に取り扱う専門省庁の必要性は論を俟ちません。
2011年の東日本大震災において、菅直人首相は「阪神淡路大震災の時も復興庁を作らなかったのだから、今回も創設する必要はない」と言い放ちました。当時野党であった我々自民党は、「阪神淡路大震災は主に神戸という大都市に被害が集中した大災害だった。今回は北海道から東京まで広く被害が及び、財政に困窮している過疎地も多く含まれており、阪神淡路にはなかった津波や原発の被害もある。阪神淡路で作らなかったから今回も要らない、というのは全く間違っている」とし、設置法を書き、これが今日の復興庁に繋がりました。

東日本大震災発災後の4月、野党自民党の政務調査会長であった私は無理をお願いして宮城県女川町で避難所にあてられた体育館に泊めて頂いたのですが、その時に被災者の方々が「なぜ各省庁をたらい回しにされなければならないのか。一つの役所ですべてが片付く体制がなぜできないのか。陳情するのが我々の仕事ではない」と口々に言っておられたことが忘れられません。
避難所は基本的に101年前の関東大震災の時のまま、シェルターや国民保護体制が十分に整備されていないのも79年前の東京大空襲の時のまま。これは一にかかって政治の責任です。
私の考える防災省は、強力な指揮命令権限を持つ巨大な官庁ではありません。地方創生大臣在任中、アメリカの連邦危機管理庁(FEMA)長官を訪ねたとき、「FEMAの主たる役割は、全米のどこで災害が起こっても同じ対応が出来る体制を構築することであり、首長や議員などに対する教育が大事なのだ」と述べていました。国民保護を主眼とする防災専門の官庁の設立に向けたプロセスは、来週火曜日の政策発表会見でお示しできると思います。 

もし、「今の防災の体制はうまくいっている」と認識している人があるとすれば、それも早急に改める必要があります。現在、内閣府防災担当の人員は100人程度、予算は74億円。職員がどんなに懸命に働いても、災害発生後の事態対処はパンク寸前で、事前防災の取り組みも度重なる災害発生で中断してしまうのが現状です。人員も国交省や厚労省などの各省庁からの出向者が多く、2年経ったら元の役所に帰っていきますので、せっかくの知識や経験の蓄積も出来ません。
既に関西広域連合や全国知事会は防災省創設の提言を行っており、全市町村長の約6割がこの必要性を認めています(反対は約2%)。災害対応は基本的に基礎自治体の任務となっているのですから、市町村長たちのこの声は現場の悲痛な声と捉えるべきではないのでしょうか。仮にも霞が関流の理屈でこれを無視するようなことがあってはならないのです。
私の考えが足りないところは、今回の総裁選においてむしろ補強していただき、防災省(仮称)創設についての議論が深まり、実現に近づくことを心より期待しています。

出版元から著者謹呈の形で送って頂いた「火を吹く朝鮮半島」(橋爪大三郎著・SB新書・近日刊行)からは貴重な示唆を受けました。橋爪先生は小室直樹博士の直弟子であり、折に触れご教導頂いてきました。まさしく碩学であった小室直樹、色摩力夫、佐瀬昌盛、吉原恒雄各氏の安全保障に関する著作なくして、今日の私はありません。佐瀬先生以外はすべて故人となってしまわれましたが、碩学の著作から、政治家とは何のために存在しているのか、政治家のなすべき国防とは何か、を教えられたこともまた、有難い出会いだったと心から感謝しております。
今は読書の時間も返上し、少しでも同士の皆様の期待に応えられるよう、あらゆる努力を重ねたいと思っております。

67年生きてきましたが、結婚記念日、父母の命日、最初の国務大臣拝命など、9月は何かと思い出深い月です。
来週木曜日から総裁選が始まります。最後の戦い、全力を尽くして参ります。何卒よろしくお願い申し上げます。
少しずつ涼しくなりつつはありますが、まだまだ残暑が続いております。
皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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