ここが問題! 新しい水産資源の管理 第4章 水産庁が提案する「新しい水産資源の管理」とはどんな方法か?

 改正漁業法の成立を受けて、水産庁は2019年7月「新たな水産資源の管理について」を公表し、優先的に検討を開始するマサバ太平洋系群など4魚種7系群について、「資源管理目標案と漁獲シナリオ案」等を公開しました[1]。第4章では、第2章と第3章で述べた資源管理学の基礎事項をもとに、「新たな水産資源の管理」に記載されている管理手法について解説することにします。

4.1 再生産モデルの決め方

 第2章の図2-11 に示したように、代表的な再生産モデルは3つありますが、「新たな水産資源の管理」で用いられている再生産モデルは、ほとんどがホッケースティックモデルです。既に述べたようにホッケースティックモデルは2つの直線で表されますから、比例する部分の直線の傾きと、0歳魚尾数が一定になる(折れ曲がる)点の親魚量水準の2つが決まると決定されます。

 図4-1 は、マサバ太平洋系群の再生産関係のデータに、ホッケースティックモデルをあてはめた場合を例として示したものです[1]。直線の傾きと折れ曲がる点の親魚量の値を求める方法は簡単です。「この再生産関係のデータに、最もあうような直線の傾きと折れ曲がる点の親魚量の値を求めよ」とコンピュータに命令すると、コンピュータが勝手に計算してくれるからです。実際にどのような命令をすればいいのか、その手順の説明は割愛します。

図4-1 マサバ太平洋系群に当てはめられたホッケースティックモデル

 後ほど、図4-14 で示すように、実際には、折れ曲がる点の親魚量を、強制的に(自分たちの都合がいいように勝手に)決めてしまうというようなことが行われています。これはもちろんやってはいけないことなのですが、それについては、また、4-9節で述べます。

 ホッケースティックモデルが決まると、「もし、親魚量が○○になった時は、0歳魚尾数は△△になる」という計算が可能になりますから、ホッケースティックモデルを使って、資源量の将来予測が可能になります。

 しかし、当然のことながら将来の値を予測するというのはとても難しいことです。なぜなら、将来の環境変動が予測できないからです。そこで、将来の環境変動を仮定して、0歳魚尾数の予測を行います

 例えば親魚量が80万トンの場合、ホッケースティックモデルから計算される0歳魚尾数は60億尾となります(図4-1 に赤丸で示しました)。しかし、その時の環境条件がたまたま悪くて、実際の0歳魚尾数が50億尾になってしまったり、40億尾になってしまうようなことが起こります。

 反対に、その時の環境条件がたまたま良くて実際の0歳魚尾数が70億尾になったり、80億尾になるような場合もあるでしょう。すなわち、環境状況の良し悪しのパターンをいろいろ想定して、0歳魚尾数を予測します。

 どれぐらい上にずれたり下にずれたりするか、その変動の幅は、マサバ太平洋系群の場合であれば、実際のデータがある1970年から2017年までの0歳魚尾数の変動の幅と、同程度になるように調節します。

 変動のパターンをいろいろ変えて、1000回のシミュレーションを実施して、その結果を調べるという方法を用います。

 2021年から2030年までの10年間の将来予測を行う場合について説明します。1回目のシミュレーションでは、設定した環境変動のもとで、2021年から2030年までの10年間の0歳魚尾数が、1セット決まることになります。

 上記の10年間の環境変動の設定を変えて、2回目のシミュレーションを実行すると、それに対しても同様に、2021年から2030年までの10年間の0歳魚尾数が1セット決まります。

 このような計算を1000回繰り返します。すなわち、2021年から2030年までの10年間の0歳魚尾数を、1000セット計算します(図4-2)。

図4-2 水産庁が実施している将来予想の方法


ここから先は

11,480字 / 14画像

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?