ここが問題! 新しい水産資源の管理 第6章 新しい資源変動理論

 第5章において、再生産関係として、増加、無相関、減少の3つのパターンが出現すること、また、再生産関係の変動を年代順に結んでいくと、時計回り、反時計回りの軌跡が現れることを示しました。従って、再生産関係は3パータンそれぞれに対して時計回りと反時計回り2ケースがあるので、計6パターンに分類可能であることがわかります。

 本章では、なぜ、そのような6つのパターンが出現するのか、そのメカニズムについて説明します。

6.1 再生産関係に6つのパターンが出現するメカニズム

 図6-1 は、マイワシ太平洋系群の0歳魚尾数と親魚量の経年変動を示しています [1]。細い実線が毎年の値、太い実線が3年移動平均を示します。


図6-1 マイワシの0歳魚尾数と親魚量の経年変動

 3年移動平均は、既に、5年移動平均の時に説明した考え方と同じで、ある年の前後1年間、すなわち、計3年間の平均を計算し、その年の値とするものです。親魚量の方は、毎年の変動が小さいので、3年移動平均をとっても、毎年の変動とあまり大きな変化はありません。

 親魚量の変動パターンは、0歳魚尾数の変動パターンをそのまま2-5年、右方向にずらしたようなパターンを示して変動していることがわかります。

 例えば、1965年に0歳魚尾数は最低となり、それ以降増加に転じますが、親魚量は1970年に最低となり、それ以降増加に転じています(①の点線の矢印で示しました)。

 また、1986年に0歳魚尾数は最高となり、それ以降減少に転じますが、親魚量は1988年に最高となり、それ以降減少に転じています(②の点線の矢印で示しました)。2-5年のずれは、マイワシの平均的な成熟年齢に相当すると考えられます。

 第4章の図4-12 で示したマサバ太平洋系群でも、親魚量の変動パターンは、0歳魚尾数の変動パターンが2-5年右側にずれて変動している、という傾向がみられました。

 このような傾向は、他の魚種、系群についても一般的に言えることで、それについては筆者も詳しく調べています[2, 3]。前出のシュワルスキーらも、加入量をどれだけ右にずらせば、親魚量の変動とよく一致するかを検討しています[4]。

 これらのことから、一般に、「加入量が環境変動の影響で周期変動し、親魚量は、成熟年齢分右にずれて加入量と同様の周期変動をする」という仮説が成り立つと考えられます。

6.2 シミュレーションによる検討

 そこで、上記の仮説をもとにシミュレーションを実施することにします。すなわち、0歳魚尾数は環境変動により周期(T)の周期変動し、親魚量は成熟年齢分右方向にずれて、0歳魚尾数と同様の周期変動をする場合を想定します。

 図6-2 はシミュレーションで用いる0歳魚尾数(赤線)と親魚量(青線)の経年変動を示したものです。まず、0歳魚尾数が環境変動の影響を受けて周期8年の周期変動しているものと仮定します。他の周期、10年とか15年とかを仮定しても、定性的な結論は同じです。

図6-2 シミュレーションにおいて仮定された0歳魚尾数と親魚量の経年変動

 成熟年齢については、例として成熟年齢が5歳の場合について説明します。成熟年齢が0歳、1歳、・・・、の場合も、全く同様の説明が可能です。

 図6-2 で、0歳魚尾数aは、成熟年齢分の5年右にずれて、親魚量Aになります。同様に、0歳魚尾数bは5年後に親魚量Bになります。すなわち、0歳魚尾数の曲線をそのまま5年分右にずらしたものが、親魚量を表す曲線になります。

 実際には、0歳魚尾数は尾数であり、親魚量は重量ですからそれぞれY軸の値が異なりますが、話を簡単にするために0歳魚尾数と親魚量のY軸の値が同じになるように調整して示してあるものとします。

 例えば、親魚量50万トン、0歳魚尾数300万尾、親魚量100万トン、0歳魚尾数600万尾、・・・、等の場合は、0歳魚尾数を6で割った値をプロットするということです。

 そうすると1周期8年間は図6-3 に示したように、4つの期間に分かれることがわかります。

図6-3 再生産関係に6つのパターンが出現するメカニズム

ここから先は

7,272字 / 8画像

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?