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イタリア版・商店街活性化プロジェクト 〜アートの力でシャッター通りをリノベーション〜

2019年1月6日~13日の1週間、HASEKURA2.0 というイノベーター向けのスタディーツアーを企画する Renata Piazzaさんのコーディネートによるスタディツアーに参加してきました。

飛騨古川で外国人向けのサイクリングやスノーシューなどの体験ツアー SATOYAMA EXPERIENCE を運営する(株)美ら地球の山田拓さんに声がけいただき、日本全国から「観光」文脈での地域活性の最前線をひた走る経営者のみなさんが集結。拓さんファミリーも含めると総勢11名で、シチリア島の「今」を直接五感で感じ、考え、夜な夜な語らうとても刺激的な時間でした。

今回から数回に分けて、現地で見聞きしてきたことをレポートとしてまとめていきます。どうぞ、お付き合いください。

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成田から途中オランダでトランジッットし、計約22時間のフライト。
最初に降り立ったのはシチリア島内で2番目に大きな街、カターニャ。


実はここ、言わずと知れた「夜の街」だったんです。
日中は駐車場として路上駐車する車で溢れ、夜は車が動いたと思ったら乗っている若者たちが思い思いの音楽を爆音で流しながらパレード…
連日連夜続く騒音のおかげで、90年代〜San Michele通りを離れる人が続出していました。


この由々しき事態をなんとかしたいと立ち上がったのが、アーティストのAnna Faro(アンナ)さんとパートナーのAntonio Recca(アントニオ)さん、
友人のフリーランスジャーナリストAlessandro Fangano(アレッサンドロ)さん。

アンナさん・アントニオさんは通りに面したアパルトメントを購入し、自宅兼B&B、アパルトメントとして所有する不動産オーナー。
その友人のアレッサンドロさんと協力して、San Michele通りをアートの力で蘇らせようと奮闘します。

まず3人がはじめたのは、イベント。
土日に通りを歩行者天国にして、広場ではコンサートやマルシェを開催しました。近所のアパルトメントを解放し、オペラ歌手のミニコンサートをしたり、テアトロ(ミニシアター)を開催すると長蛇の列に。瞬く間に評判は広がり、1万人の参加者が来たこともあるのだそうです。
集客のためのフライヤー制作や広報費用は、すべて3人の持ち出し。行政からの支援は一切受けていないのだとか。

3人の情熱はそれだけにとどまりません。

イベントでの集客実績をひっさげ、アンナさんはシャッター商店街と貸していた通りの店舗物件のオーナー1人1人を説得してまわり、格安の家賃でアーティスト仲間をテナント誘致しはじめます。

最初はシャッターが閉まっているお店1軒1軒に「OPEN」とペンキででかでかと書いて回ったこともあったのだとか(笑)。

修繕費はオーナーもち。職人/アート系界隈の人たちのみに限定し、出店希望者を募集したのだそうです。いまでは通りのテナント全てに、個性豊かなお店やアトリエが並んでいます。

現代アートの作家さんがシェアアトリエをしていたり

革製品の工房兼アンテナショップに

シチリアのシンボル・エトナ山の火山灰を使って焼いたお土産品や

マニア絶叫もののレコードを販売しつつ、音楽を介したコミュニティづくりに情熱を燃やすレコードショップ

フィルム写真を現像する暗室をしつらえた写真館

そして、アントニオさんのアトリエ…

などなど
1軒1軒が本当に個性と情熱に溢れていて、みているだけであっという間に時間が過ぎていきます…
しかも通り沿いのお店どうしで協力しあい、お互いの商品を使用したり宣伝しあったりする土壌が自然と生まれているのだとか。

そのうちの1軒、シチリアの本気のお土産を売るお店の店員さんに
「この通りでお店を出すと決めた一番の要因はなんですか?」と尋ねてみると…
返ってきた一言は「ビブラッツィオーネ」。
バイブレーション。波動を感じた、ということです。さすがアーティスト!

アンナさんはB&Bと体験との組み合わせ(暗室体験、レストランでの料理教室など)によって宿泊客の増加につながっているし、アントニオさんは通りにアトリエを置くことでダイレクトに自分の絵が売れるし、アレッサンドロさんは広報活動を頑張れば頑張るほどネットワークが広がり仕事につながっているそうで、無理がないんですよね。それもまたポイントかと。

アレッサンドロさんに至っては、今回のわたしたち日本からの視察団が来たこともプレスリリースにだしているそうで、これをきっかけに道中様々なメディアから取材のオファーが相次いでいました。おそるべき影響力。

街の中心には7万人の大学生が住んでいるそうで、今後はそうした若い世代も取り込んでいきたいとのこと。写真館では18〜35歳の若い人向けのワークショップを実施していたり、カターニャの事例を参考に全国で旧市街のリノベーションプロジェクト組織が立ち上がったりしているそうです。

行政は全く関わっていない、市民によるボトムアップのこのムーブメント。
アートに並々ならぬ情熱を傾け、その可能性を心の底から信じているふたりと、広報のプロ・アレッサンドロさんの3人だからこそ成し遂げられたこのリノベーション。まちに生命を吹き込むとはまさにこのことなんだな、と感じさせてもらう事例でした。

「public(公共)」でも「private (私物)」でもない「commons」という考え方。彼らがつくった”プラットホーム”が今後、どんな進化を遂げていくのかとても楽しみです。


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