見出し画像

世界遺産をまちの文化の学び舎に。ベネディクト修道院ガイドツアー・ワークショップ

カターニャの外れには、UNESCO世界遺産に登録されたもと「修道院」があります。現在はカターニャ大学の人文学部のキャンパスとして利用されている(!)この建物。一般の方もガイドによる内部見学ツアーに参加することができます。私たちもおよそ30分のツアーを体験し、その後、ガイドツアーの企画や運営管理などを行う Officine CulturaliのCEO、Ciccio Mannino氏のヒアリングを行いました。

かつて修道院だったころ、修道士として入門してきていたのは貴族の次男坊がほとんどだったそうです。その家族の(見栄による)寄付によって得られた莫大な資金のおかげで、ものすごい広さ・大きさの建物になったのだとか。修道院の他にも、その広大な敷地を利用し、軍の訓練施設や小学校などとして使われていた過去もあるのだそうです。


見学ツアーを取り仕切る会社、Officine CulturaliはNPOとして当初立ちあがったのち法人化し、今年で設立ちょうど10年。20名のメンバー(うち12名が正社員)の給料を払えるぐらいまで収益を出しているという話に驚きました。

日本の「文化財」とされるような建物を活用して、これだけの収益を出しているところってあるんでしょうか…


おもな収益源としては、ガイドツアーやワークショップの参加費がメイン。
2010年からは併設して書店をオープンし、地元で作った食品・お土産を置くようになり、その売上が全体の28%ほどをしめるようになったとのこと。
この施設以外にも植物園・博物館・遺跡などの別施設でも活動し、同様に併設した書店の運営で収益を得ているのだそうです。

聞けば代表のCiccioさん、「どうしたら地元の人たちにこの場所を愛してもらえるか?」という問いがこの活動をスタートさせる原点だったそうです。
現に、ツアー・ワークショップに参加する顧客の6割以上が地元カターニャおよびシチリア島在住の人たちだとか。その理由はなんなのでしょうか。

イタリアにはGDPだけでなく、実際に市民の幸福度を判断する指標が存在しています。その中のひとつに「Cultual Participation」:文化施設(図書館、公民館など)利用率が存在し、カターニャのそれは28.3%。つまり、7割以上の人たちが文化的施設を利用したことがない、という現実を示しています。

基本的な文字の読み書きはできるけれども、ものごとの背景や文脈、行間を読む、などといったことができない子どもが増加している証拠。
「子どもたちに、遊び楽しみながら、生まれ育った地の歴史文化や、他者と心を通わせることの楽しさを体験してほしくて」Ciccioさんは語ります。

ツアーコンテンツは私たちが体験したオーソドックスな一般向けツアー以外にも、ファミリー(子ども向け)、学校の修学旅行や遠足用など種類がいろいろあります。とくに子ども向けワークショップでは、昔の陶器を作ってみる体験ができたり、子どもの誕生日パーティーの会場に修道院を利用する(ワークショップをして、最後にケーキ出て来る)ことができたり、演劇や時には「脱出ゲーム」のような催しも行われることがあるのだそうです。すべて有料のプログラムですが、人気は上々。

2009年の団体立ち上げ時には、1年で1000人の訪問。2011年には1500人、
その後修学旅行など学校向け団体ツアーの受け入れも行うようになり、2017年には3万7000人(うち1万人は学校で組織したツアー)の来訪がありました。ガイドツアー後にアンケートを取ると、この場所を知ったきっかけのほとんどは「口コミ」なのだそうで、ガイドツアー・ワークショップ参加者満足度の高さが伺えます。

アメリカの財団から寄付をもらったこともあるそうですが、それらは「しんどい」学校の子達に無料でワークショップに参加してもらうのに使用し、それ以外寄付に頼ることはほとんどないのだとか。なぜなら、イタリアでは企業がそもそも文化的活動に対して寄付をする文化がなく、寄付をしたとしても、医療・食糧支援など社会的課題解決に使われる傾向にあるから。とはいえ、ファンドレイジングできる専門の人がいないのも課題としてはあるそうで、専門企業にアウトソースをする予定とのことです。


***

日本とはスケールが全然違いますね…そもそもの考え方や、課題に対する着眼点が日本のそれとは雲泥の差で衝撃を受けました。

「国指定・県指定文化財」になろうものなら、その建物を保護すること、修繕することばかりにお金と労力が向けられてただの金食い虫になって終わる日本の"歴史的資源"を活用したまちづくり。歴史や文化を守りたい、継承したいと想うからこそ、そこでどうやって付加価値を生み出し、そのお金で建物を守るか、というビジネスマインドが必要になってくる。

文化財の保護を目的にするのではなく、文化財を適切に活用し、社会の問題・課題解決に寄与するというビジネススキーム。短いヒアリング時間ではありましたが、十分にインパクトのある事例でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?