ある川崎のバーの思い出
2019年6月4日 初回投稿
そのバーのママは、30代前半、オーナーママだ。バーを開いたのは最近(2018年10月)だがママのこの業界での経験は長い。他のガールズバーのある女性にこの店のママのことを聞いたとき「ああ、あのキャバ上がりのママね」と軽蔑(けいべつ)の色を隠そうともせずに言っていた(じゃあお前は何様なんだと言ってやりたかったが。その子は顔も性格もいまいちなアルバイト店員で、年も結構いっているのに何かを勘違いしているような子で、何故か俺が行くといつも俺についていた(常連になり過ぎると、店側が気を使わなくなり、他の客に人気のない子をあてがわれるということは、よくある。バーあるあるだ)。最近はマネージャーに言って俺の席につけないよう配慮してもらっている)。Anyway、ママは長い間一生懸命働いて金を貯め、やっと念願の自分の店を持ったのだろう。
水商売は一見楽な仕事のようにも見えるが、私は決してそんなことはないと思う。確かに楽に仕事を済ませることも出来るかもしれない。特に20代前半までの容姿が良い子なら、ある程度はどんなやり方をしても人気を保てるだろう。しかし20代後半にもなって、そんなやり方をしていれば、あっと言う間に首を切られてしまうに違いない。それに嫌な客(深酔いしている客はなおさら)でも、ある程度は愛想よく迎え入れなければならない(あんまり泥酔していたら当然店からたたき出されるけど)。想像してみて欲しい。あなたの嫌いな人間が酔っ払って目の前に現れ、好き勝手なことを言うのを何時間も我慢して相手しなければならないとしたら。私だったら5分後にビール瓶で相手の脳天をかち割っているだろう(もっともバーのビールはたいてい小瓶だから、かち割ることが出来るかどうか微妙だが)。
ママはまあ美人と言える。男好きする女性と言うのだろうか、素直でかわいらしい性格の良さも相まってだろう、もっと若い頃はやはり相当にもてていたらしい。聞いた武勇伝のほとんどは忘れてしまったが、かつてママのことが忘れられずに自分の娘にママの名前を付けてしまった熱烈過ぎるママファンの客がいて、それが奥さんにばれてしまい、奥さんからママに直接苦情の電話がかかってきたことがあったとのこと。娘の名前を途中で変えるわけにもいかないし、ママに苦情を言ったところでどうなるものでもないが、その奥さんも怒りの持って行きようがなくて、せめて恨み言のひとつも言いたくて電話をしてきたのだろう。
ママは一言でいうとかわいらしい女性である。男ごころをくすぐる女性とでもいえばよいのか。そしてかなりの天然系でもある。だから一見頼りないようにも見える。しかし当然、実際はそんなことはなく人間を見る目も、経営もしっかりしている。やはり業界経験が長く苦労をしてきたからなのだろう。
店に女性は他にあと8人いる。20代前半から40代までと幅広い。昼間他に仕事をもっている子もいれば、ここ専業でやっている子もいる。ママはもっと女性を雇いたいのだがなかなか人が集まらない、といつもボヤいていた。団体客が2組入れば一杯になってしまう小さな店で、出勤している女性はママを入れて4人くらいの時が多かった。驚くことに店に休みはない。ママは休みを全くとらず日曜も祭日も働いている。休みがあると生活のリズムが崩れる、とも言っていた。
店はエレベーターもない古い小さな雑居ビルの3階にあり、通りがかりにふらっと客が入ってくるような店ではないのだが、いつも繁盛していた。1階のビルの出入り口の前でよくママや他の子が呼び込みをやっていた。
料金は安い方と言える。だが私のように大名気分を味わいたい馬鹿が、いい気になって女性の好き放題に酒を奢っていればそれなりの金額にはなる。
私が初めてこのバーを訪れたのは、5月の始め。たった1か月しか通っていなかったことが自分でも信じられない。もう何年も常連でいたかのように思える(浦島太郎になった気分?いやその逆か)。
訪れたきっかけは、川崎に一軒だけおかまバーがあると聞き、訪ねてみたのだが空いていなくて(そのおかまバーは結局一回も訪れるチャンスがなく、最近ひっそりと閉店してしまった)、しょうがなくその向かいにあるバーに入ったのだった。それがこのバーだ。初めてのバーに入るときの期待と小さな不安は、子供の頃によくした冒険ごっこを思い出させる。その時扉を開け、暗い店内にいる女性に話しかけたまでのことは覚えているが、それが誰だったのかよく思い出せない。多分ママが出てきたのだと思う。そしていつものあの笑顔と甘ったるいハスキーボイスで招き入れられたのだろう。
初日はその店の私の一番のお気に入りの子がついてくれた。とてもかわいい子でカバンに入れて持って帰りたいと真剣に思わせるほど魅力的な子なのだが残念ながら私と縁がなく、結局あれだけ通ったにもかかわらず、その子と2人だけで過ごせた時間は本当に少ない。すれ違いを含めて店で会ったのはその後数回だけだった。もっとゆっくり一緒の時間を過ごしたかったと本当に残念に思っている。彼女も大変私のことを気に入ってくれたらしく、会うたびに今度絶対にギターを聞かせてくださいとか、セカオワのあの歌がもう一度聞きたいですとか、、ああ、もういくら彼女のことを書いてもキリがないからここでやめる。
私の相手を一番してくれたのは、その店の最年長の40代のお姉さん(私はこの店では22才という設定だったから、ほとんどの女性がお姉さん)。彼女はこの店でママの右腕的存在だ。彼女の男性遍歴はなかなか凄いものがあって、詳細をまとめれば、かなり面白い一冊の本が出来上がるのではないかと思わせるほどだ。そして彼女はこの店の歌姫でもあり、ときどき私と朝までカラオケバトルを繰り広げたものだった。
しかし、最後の日にケンカになった one of themも彼女だった。勢いにまかせて相当酷いことを言ってしまった。私が本当に怒った別の初対面の女性が彼女の隣にいなければ、彼女も調子に乗り過ぎて私の怒りを買うこともなかったろうにと思う。
最近私は団体客がいる間はフロアではなく、出入り口に近いウナギの寝床のようなカウンターにいることが多かった。午前1時を過ぎると団体客がひける。そして多くの場合それから少しすると客は私一人だけになる。フロアの一番広いテーブルにママと残っている女性全員が集まる。そして、ここからが我々の本当の時間だ。It's time to begin the party! パーティーが始まる。ママ「シグさん、お願いがあります」「なんでしょう?」「出前を取ってもいいですか?」「はい、どうぞ」。食べて飲んで歌って(とくにママの機嫌がよい時はママの可愛いダンスを見せてもらえる)、冗談を言い合っては笑いながら、ときに順番にお互いのいろいろな体験談を披露しあったりして、自分が最高のもて男になったかのような気分にさせてもらっているうちに、いつしか朝を迎える。
「この店の女の子はみんな、シグさんのことが大好きだよ」がママの口癖だった。このところはよく「最近シグさんがよく笑ってくれるのでうれしい」とも言っていた(なんだか思い出したら泣けてきた(お馬鹿なカバちゃんだこと))。
最後の日、私は最近始めた英語の勉強があまり進まないことなどにストレスを感じ気分がいらだっていた。また前の店で結構な量の酒を飲んでめずらしく酔っていた。そこに先日私の男友達のために入れたウイスキーのボトルを女性たちに半ば無理やり勧められてさらに酔いがまわっていた(それなりに高価なブランド力のあるウイスキーだったので女性たちが飲みたがって、私にも結構しつこく勧めてきたのだ。私は普段このような店で強い酒を飲むことはめったにない。女性と親しくなるために来ているのに泥酔するほど酒を飲む奴の気がしれない)。女性たちのテンションも普段と違って少し上がり過ぎていたようだった。それでもママがいればそんなことは起きなかったのだが、そのときママは一人で洗い物や店の事務などをしていた。もう何がきっかけだったのかも思い出せないし、思い出したくもない。ただもう一人の初対面の女性の態度に結構長い時間いらだっていたのは確かだ。それで余計にウイスキーが進んでしまった。半ばヤケになって店で一番高いウィスキーのボトルも入れて飲みだした。完全に悪循環だった。私は暴れたりわめいたりすることはないが、一たび切れると相手が男であろうと女であろうと、相手の非をどこまでも追及し追い詰め、相手が泣き出すまで口撃を止めないという悪いくせがある。酔っていようといまいと、キレたときの私は、自分で言うのもなんだが、さながら狂犬のようだ(ただし奥さんや彼女と一緒のときはキレないように、非常に気を使っている。私がキレると、いかに私が正しくても、彼女たちが嫌な思いをするということが良く分かっているからだ。それから理不尽な理由をつけてキレたり、弱い者いじめも絶対にしない(そんなことする奴は人間のクズだ)。だから怖がらないでね💖)。
怒りを爆発させて、ブチキレた瞬間から、もう二度とこの店には来るまいと決意していた。
ママに取りつくしまをあたえず会計を急がせる私に「なにがあったんですか」と聞く、ママの寂しげな声が耳に残っている。
今、目の前にあるそのバーのライターを見ながら、あの楽しかった日々を振り返ると、最初に店を訪れたあの日に戻ることが出来たらどんなに良いだろうかと思う。
ーー
このバーの実際の情報が知りたかったら、私にDMをくれれば教えてあげます。ただ店を訪れた際には私の名前は出さず、インターネットで見つけたとか適当に言ってください。私の大好きなママの大事なお店を応援してやって下さい。
ーー
2019年6月6日 追記
もう隠す必要がなくなったので公表すると、この店は川崎にある「ちゃちゃ」という店だ。実はこれを書いた後、あまりの喪失感で本当にうつがぶり返しそうな程気分の落ち込みが続いて、これはもう駄目だと観念し、昨晩思い切ってギターを担いで平謝りに謝って店に入れてもらって皆と和解した(誰も怒ってなんかいなかったけどね。まあ謝罪は自分自身に対するケジメというか)。本当に心の底から安堵した。もちろんうつは一遍に吹き飛んだ。バーで女性と話すことはうつの最大の効能薬という持論をまた証明する結果となった。大騒ぎして泣きわめいていた自分が恥ずかしいが、まあカバのポリシーやプライドなんてその程度のものさ。心の底から思う。この世界に女性ほど素晴らしい存在はない。
ママ、みんな愛してるよ。
by ガールズバー・ジャンキーのカバ
ーー
2019年6月12日 追記
なんと驚くことに、私がこの店を訪れるきっかけになった、おかまバーのママがここで働くことになったと言う。私は今週末会うのだが今からドキドキしている。
それからこのノートは、少しずつ加筆・修正しているが、ママをほめるような記述を増やしている。店に月に10回以上通ったら、その後月の残りは料金を50%引きにしてくれるように提案してみようと思っているからである。そのときにこのノートがいい働きをしてくれることを期待している。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
ーー
2019年7月30日 追記
なんかあやしげなWEB広告雑誌に、ちゃちゃママのインタビュー記事が載ってます。それから、たまたま居合わせた私まで記事に載っちゃってます。でも誓って言いますが、私は記事に書かれている『今日誕生日の子がいるんで、これで落とそうとおもって((´∀`*))ヶラヶラ』なんて言っていません。あのクソ記者の作った完全なフェイクニュースです。せっかく山崎の水割りをごちそうしてやったのに、もし次会ったら、ただではおかない。覚えてろよ!!
https://www.snack-guide.com/kanagawa/mama/detail.php?shop_id=20948
あと動画も撮られて、Youtubeにアップされました。
https://youtu.be/s06MpROEFmk
わーい、うれしいな
(●´Д`●)
それから、7月18日の東京スポーツには、ちゃちゃの紹介記事が載りました。ママはちょっとだけ嬉しそうにしてたけど、東スポって言えば、日本で一番馬鹿な新聞だよな。本当に嬉しいか、そんなのに載ったところで。
https://note.mu/shig_matsuoka/n/nfc46473b9713
あと、ちゃちゃ閉店後の午前4時(いつもは5時までだけど、暇だと早く閉める)にジョナサンに朝ご飯食べに行く途中で、ママが突然「シグさん動画撮って」と言われたので、言われるままに撮った動画をYoutubeにアップしておいた。一応ママに了解はとった。
https://www.youtube.com/watch?v=Swy6BeWDuuM