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もの作り大国日本の電化製品の質が落ちた

私はかつて複数の産業用電子機器製造メーカーの開発部で働いていた。専門はソフトウェアで電子回路の設計などは出来ないが、新製品開発のプロジェクトリーダーをやっていたこともあるので、大まかなところは理解しているつもりだ。だから一般の人よりは電気電子機器の内部構造や開発工程などに詳しいと思う。
そんな私の実体験として、最近の日本の電化製品の質や耐久性の低さには驚かされることが多い。

日本の電化製品は、かつては戦後の高度成長期の稼ぎ頭の1つで、世界中で愛され使われていた(現在は韓国、台湾、中国製品に完全にシェアを奪われてしまった)。日本の電化製品は、もの作り大国日本の力と繁栄の象徴であった。そして高品質で壊れにくいというのが売りだった。ところが最近のものは、低品質で壊れやすく、しかも使い勝手の悪いものが多くて驚く。一体開発現場はどうなっているのだろうと思ってしまう。上司の指示と顔色だけを気にしてユーザーのことを考える余裕のない技術者ばかりになってしまったのだろうか。

うちにある日立製の掃除機は、ほぼ1年前の4月末に買ったのだが、買って1か月後に充電が出来なくなった。メーカーに修理させ使っていたが、1年の保証期間が切れる直前のこの4月には、吸い込み部の回転ブラシのモーターが壊れて動かなくなった(分解して確かめたのでモーターが壊れているのは間違いない。しかし長寿命で知られているモーターが壊れるなんて一体どんな設計をしているのだろう)。コロナ禍で販売店が休業だったのでメーカーの言うままに3千円を払って宅配修理サービスと言うやつを頼んだ。そして保証期間が切れた今現在、吸引力が激落ちして買い換えを考えている。つまり購入から13か月で本来の基本性能が失われ実用に耐えないガラクタになりつつあるということだ。
おまけに取扱説明書に消耗部品として購入可能と書かれている物の1つは、生産中止で在庫もないと言われた。それは購入からたった11か月後のことであった。買って10年で部品がなくなるというのは分かるが、たった11か月でなくなるというのは理解できない。
このような問題にあたってしまった場合いつも思い出すのは、結婚時代に使っていた今はなきサンヨー製の電子レンジだ。それは前妻が独身のときに買ったものだったが、購入から20年が過ぎても特に不都合なく毎日の使用に耐えていた。そのうち壊れるだろうから、壊れたら多機能でコンパクトな最新機種に買い替えようと話していたが、結局最後まで壊れることがなかった。頑張っている老電子レンジには気の毒だったが、引っ越しを機に新機種に買い替えてしまった。

電子機器の寿命は設計段階、開発段階でわりとはっきり分かる。しかしカタログや取扱説明書に製品の寿命が記載されることはまれである。また製品個々のバラつきがあるから、偶然なかなか壊れない物に当ることもあれば、反対にすぐ壊れる物に当ることもある。だからここで言う寿命は平均的な目安ということになる。
何故寿命が分かるのかというと、1つには製品に使われている部品の多くについては耐用時間が公表されているからである。そして同じ仕様の部品の場合、耐用時間の長い部品ほど価格が高くなる。だから先のサンヨー製電子レンジの場合、高くて質の良い部品が使われていることが想像できる。反対に日立製掃除機では相当にコストを削って設計したのだろうということが想像できるのである。

もう1つは、どのようなメーカーでも開発が完了すると(開発の途中で行うこともある)完成した製品の耐久実験を行うことである。温度などの環境条件を厳しくし、稼働部にかかる負荷や頻度を通常使用よりきつくすることで、製品を早く壊して、そこから通常の使用条件での耐用時間を計算する。あれだけ故障が多く、劣化の早い日立製掃除機の製品寿命はせいぜい2、3年なのではないだろうか。

とにかく金をケチって国産メーカーの掃除機を買ってしまったことを後悔している俺は、次こそは吸引力が落ちないことをうたい文句にしているダイソンの掃除機を購入しようと思っている。

2つ目の例は、数ヶ月前に買ったヤマハのオーディオアンプ。音質は確かに良かった。しかし音質を追求してこだわりのアナログ部品と回路を満載したハイエンド機器でもないくせに筐体がバカでかく、一体内部はどうなっているのだろうと不思議に思った。しかしまあ大きいのは我慢できる。我慢できなかったのは、スマホなどから無線で送った音楽を受信する機能の酷さである。
この無線通信の規格はBluetooth(ブルートゥース)と呼ばれるものでWifi同様今やスマホやパソコンには必ず搭載されている機能である。うちにもそれ以外に風呂でも聞けるハンディタイプのスピーカーやワイヤレスイヤーフォンなどのBluetooth機器がある。私の普段のオーディオアンプの用途はスマホに保存した音楽を高音質で再生するというものだから、このBluetooth機能はマスト要件である。
ところがスマホから接続して音楽を再生している最中に突然切断されて音が止まってしまうのである。これが頻繁に起こる。正確にデータを取ったわけではないが感覚的には20〜30分に1度の頻度で起こる。これでは実用にならない。

私はエンジニアだった時代にBluetooth製品を開発したことはない。しかし有線での様々な規格の通信インターフェースを持った製品の開発を行ってきた。だからBluetoothが製品内部でどのように実装されているのか、そのメカニズムについてはおおよそ察しがつく。このような通信インターフェースは、デジタルICとソフトウェアによって実現される。それの意味するところは、アナログ回路と違って完全なコピーが行われるデジタル回路及びソフトウェアでは製品個別の不良というのはまず発生せず、不具合があった場合はほぼ100%開発の不備である。
そして通信インターフェースの開発を行う際にネックになるのは、たいていの規格書が英語で書かれており、開発の参考になるような関連情報も英語であることがほとんどだということである。英語が苦手な日本人エンジニアにとってこれは結構辛い。製品開発をする場合、さまざまな使用条件を想定しなければならないので、規格を表面的なところだけでなく、深いところまで完全に理解しなければならないのである。そこをまたいで、中途半端な理解のまま開発を行うと不良品を作り出してしまう。よもやヤマハのような一流メーカーでそんなことはないと思うが。。
とにかく実用にならないバカでかくて重い箱を家に置いておく趣味はないので購入元のAmazonに返品した。

またこのヤマハ製オーディオアンプは、Amazon製のスマートスピーカー、アレクサとの連動をうたい文句の一つにしているくせに、実際にアレクサから行えるのは電源のオン/オフくらいで、どこかの投書欄にも虚偽広告であるとの怒りの意見がのっていた。ユーザーインターフェースも非常に使いづらく、リモコンには極小文字のラベルと共に数多くのボタンが無秩序に並んでおり、触る前からこちらを憂鬱な気分にさせてくれた。

日立の掃除機、ヤマハのオーディオアンプを購入する前から私は日本の電化製品と電子機器で似たような体験をしており、日本製品に対する不信感はかなり強い。だから随分前から、新規に購入を検討する際は、外国メーカーが第一候補なのである。しかし掃除機については、ダイソンのものが高価格でつい安価な日立で妥協してしまった。安物買いの銭失いである。
ヤマハ製オーデイオアンプについては、かなり時間を使って探したが、手頃な外国製のものを見つけられず、しぶしぶヤマハ製にした。返品後はAmazon製のものを購入した。ほぼ同価格だが筐体ははるかに小さく、当然だがBluetoothが音楽再生中に突然切断されるということもない。

とまれ、もの作り大国ニッポン!は数十年前の昔の話になってしまったのである。

日本の家電の凋落がどのように起き、その原因は何なのか、以下の書籍が参考になると思います。
 
  「電子立国は、なぜ凋落したか」西村吉雄著

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「過激なまでにオープンであれ!」を自分のポリシーとしている私としては、やはりここで事実を吐露すべきであると思い至った。
先ほど日立の掃除機が1ヶ月後に充電出来なくなり「メーカーに修理させた」と書いた。しかしこれはかつて仕事上のお客様でもあった日本を代表する大メーカー日立様への忖度からの事実隠しであった。事実は「新品と取り替えさせた」である。むろん通常日立様はこういうことはしない。日立の修理担当の人に電話で他言無用と言われたような気がしないでもない。
何故俺にだけ特別なサービスを提供してくれたのか。それは、まず嫌がる販売店(ヨドバシカメラ)のサービス担当者を脅して、もとい説得してメーカーの修理担当者に電話させ、恫喝して、もとい掃除機のない生活の不便さを切々と訴えたからだと思う。
訂正してお詫びいたします。
m(_ _)m

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(関連)
「日の丸家電、米アップル、中国ファーウェイなどの話」