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「アンブローシア・レシピ」第21話

1900年10月18日 ヨハネスブルグ

 ヨハネスブルグからケープタウン行きの列車に乗り込んだ土曜日ディエース・サートゥルニーは、向かいの座席でうつらうつらしている元『名無し』の男から窓の外に視線を移した。
 昨年からトランスヴァールで起きているボーア戦争の影響を考慮し、彼は10年近く住んだヨハネスブルグからケープタウンへ移ることを決めた。ケープタウンであればいまのところ戦渦に巻き込まれる可能性は低いためだ。
 ところが、元『名無し』が「一度ロンドンに行ってみてはどうでしょうか」と強く勧めてきた。
 詳しく話を聞くと、錬金術師『オルダス・マイン』がローマで客死したが、その『遺骸』がロンドンにある『灰の円環アッシュ・サークル』の本部グランド・ロッジに運び込まれたというのだ。フリーメーソン『灰の円環』には錬金術師『オルダス・マイン』の存在が欠かせない。この『オルダス・マイン』は不老不死の霊薬エリキサ『アンブローシア』を作り出した希代の錬金術師であり、『灰の円環』の屋台骨だ。不老不死の霊薬を完成させた錬金術師が死ぬことなどあってはならない、ということで、『オルダス・マイン』の死を秘匿するため幹部たちは奔走しているらしい。
 土曜日が生きていることは『灰の円環』には伝わっていないようだ。もし存在が知られたら、錬金術師『オルダス・マイン』として無理矢理ロンドンに連れていかれたことだろう。
 元『名無し』には「師匠ほど組織の長に向いていない方はいらっしゃいませんね」と揶揄されたほど、土曜日は人付き合いが苦手だ。
 『灰の円環』本部では『オルダス・マイン』の四つの遺品が保管されているらしいが、土曜日はそれらを改めて確認したいとは思わなかった。
水曜日ディエース・メルクリィーの薬瓶、木曜日ディエース・ヨウィスの形見函、金曜日ディエース・ウェネリスの鍵、そして僕の祈祷書。あの四つを後生大事に拝んでいれば不老不死になれるという教義が『灰の円環』にはあるのかな。まぁ、あれもそろそろ効果が切れる頃だろうけど)
 また元『名無し』に視線を向け、土曜日はため息をついた。
 初めてパリで会った頃に比べて、元『名無し』はかなり成長した。
 水曜日が作った霊薬『アンブローシア』は、不老を実現できていなかった。目の前の男は、薬を飲んで100年以上経ったいまも元気に生きているが、ゆるやかに老い続けている。普通の人間に比べれば老化の速度はかなり遅いが、それでも老いた。また、『アンブローシア』はあらゆる病気を治したり防いだりする万能薬でもない。風邪を引くこともあれば、頭痛や腹痛で寝込むこともある。
(『灰の円環』でオルダス・マインを名乗っていた男が死んだということは、水曜日の復讐が終わったということだろう。だとしたら、確かに一度水曜日に会いに行く必要があるな)
 水曜日がいまロンドンにいるのか、それとも他の場所に隠れ住んでいるのかはわからない。なにしろ、連絡先を知らないのだ。かつて「日曜日にウエストミンスター寺院の前で」という約束をしたし、まだロンドンにはウエストミンスター寺院は建っているので、水曜日がいまも生きていて約束を忘れていなければ待ち合わせはできる。
(もしかしたら、スミス商会なら水曜日の居場所の電話番号くらいは知ってるんじゃないか?)
 電話という文明の利器は土曜日にとって衝撃だった。なにしろ、錬金術でも実現不可能だった長距離間の会話を可能にしたのだ。
(スミス商会は『灰の円環』と同様に霊薬を必要としているようだけど、商会に所属する元『名無し』たちは自分らが最近になって老いてきたことで焦っているのかな)
 かつて『オルダス・マイン』の霊薬の試作を飲まされ、不老不死らしき肉体を得た『名無し』たちは、長く生きる中で得た知識や情報、人脈を活用し現在はジョン・スミスの名で暗躍している。しかし、試作の霊薬の効果が薄れてきたため、不老不死の霊薬の完成品である『アンブローシア』を飲んでさらに世界を牛耳ろうと考えているのだろう。そのために、スミス商会は『灰の円環』に保管されている『オルダス・マイン』の遺品を狙っているらしい。
 元『名無し』によれば「師匠なら『灰の円環』でもスミス商会でも喜んで迎えてくれますよ。なにしろ、オルダス・マイン工房の研究のすべてが頭に入っている人ですからね」ということらしいが、土曜日はどちらにもかかわりたくなかった。
(水曜日に会うことがあれば、これを渡そう)
 土曜日は膝の上に置いてある鞄を手で押さえる。そこには、衣類と一緒に古びた祈祷書が入っている。かつて元『名無し』に渡した祈祷書には、霊薬『アンブローシア』の処方箋を書き写して隠し入れておいた。水曜日ならすぐに偽物だと気づくはずだが、木曜日と金曜日は処方箋が理由を知らない。
(これを手放せば、『オルダス・マイン』とは無関係になれるだろうか)
 パリの工房を出て以降、『オルダス・マイン』と関わらないように生きてきたものの、完全に手が切れているとは言えない状態に、土曜日はわずらわしさを感じていた。
 腕組みをしてため息をついたものの、激しく揺れながら走る列車の中はあまり考え事には向かなかった。記憶力が優れている神童として伯父に絶賛された土曜日だが、線路を走る列車の音で思考がかき乱された。
(あ……なんか列車の揺れに酔ってきた……)
 馬車で乗り物酔いになったことはなかったが、乗り慣れない列車の揺れは身体に堪えた。
(吐く……)
 うっ、と呻いて口元を両手で押さえた瞬間だった。
 外でドンッと爆発音のような音が響いた。
 そこで、土曜日の意識が途切れた。

 土曜日が気づいたときには、列車が横転していた。
 どうやら脱線したらしい。
 車両の一部が燃えているのか、物が燃える臭いと煙が中に充満している。
 辺りを見回すと横転した衝撃で多くの乗客が倒れていた。車体は破損し、車内には乗客の荷物が散乱し、呻き声、叫び声、泣き声がところどころから聞こえるが、死んでいるのか微動だにしない者も多かった。
 なんとか自分の鞄を見つけ出して抱えた土曜日は、自分のシャツにべったりと血が付いていることに気づいた。どうやらどこかで身体を打ったらしい。痛覚が麻痺しているのか、痛みはない。
(これのおかげで、このていどで済んだのかな)
 鞄から祈祷書を取り出しまじないを唱えながら表紙を手でなでると、血が止まり傷が治った。
(彼はどこにいるんだ?)
 元『名無し』の姿を探したが、似たような背格好の乗客がたくさん倒れているため、見つけられない。
(ひとまず、なんとかここから脱出するしかないか)
 祈祷書を鞄にしまい、彼は壊れた窓のガラスを靴で割って這い出ようとした。
 そのとき、足元で子供の泣き声が聞こえた。
 普段であれば他人に手を差し伸べることなどしない彼だったが、泣き声の主を抱き上げたのは無意識だった。すぐそばで自分以外に生きている者がいることに驚いたからかもしれない。
「大丈夫か?」
 よく見ると、それは赤毛の幼女だった。怪我をしている様子はない。
「かあさん! かあさん!」
 泣きながら母親を呼ぶ幼女のそばには、家族らしき大人の姿があったが、薄暗い中でいくら目を凝らしても、彼女の家族が生きている気配はなかった。血と煙の臭いで吐き気がこみ上げてきたため、彼はひとまず幼女を抱えたまま窓から外に這い出た。
 しばらく泣き続けていた幼女は、自分を抱き上げている男が家族ではないことに気づき「だれ?」と尋ねてきたが、彼は返事ができなかった。
 土曜日は、人に名乗る名前を持っていなかった。
「おや、嬢ちゃん。怪我をしているね。血が出ているよ。儂は医者だから、嬢ちゃんの治療をさせてもらっても良いかね」
 黙り込んだ土曜日の窮地を救うように、壮年の男が幼女に話しかけてきた。
 元『名無し』の男だった。彼も土曜日と同じように服に血が付いているが、すでに傷は治っているようだ。
 男の手には医者が持つ診療用の鞄のような物がある。事故のどさくさで、落ちていた鞄を拾ってきたようだ。
 幼女はぐずぐずとべそをかきながらも、男をじっと見つめている。
「痛いかい? ほら、飴をあげよう」
 男は羽織っていた外套のポケットから紙に包まれた飴を取り出すと、幼女の目の前に差し出した。
「あぁ、嬢ちゃんの服に血が付いているから怪我をしたのかと思ったが、どうやら嬢ちゃんは腕にかすり傷があるだけのようだ。これはすぐ治るよ。ところで、嬢ちゃんの名前は?」
 穏やかな口調で男があれこれと喋って尋ねると、幼女は小声で「ミリィ」と答えた。
「ミリィか。素敵な名前だね。いくつかな?」
 男がさらに尋ねると、ミリィと名乗った幼女は右手を出して親指だけを折った。
「四つか。じゃあ、ミリィは自分のフルネームを言えるかな?」
「ミリセント・グレイ」
 まだしゃくり上げていたが、ミリセントはしっかりと答えた。
「じゃあ、嬢ちゃんはお父さんとお母さんと三人で列車に乗っていたのかい?」
 男が尋ねると、ミリセントは首を横に振った。
「にいさんたちとねえさんたちもいっしょ」
「お兄さんとお姉さんもいるんだね。何人かな?」
「さんにんずつ」
「三人ずつ? お兄さんが三人と、お姉さんが三人?」
 男が確認すると、ミリセントは首を縦に振った。
「じゃあ、一番上のお兄さんの名前は?」
「ウェイン」
「いくつだい?」
「ウェインは十八なの。いつもいばってる」
「次のお兄さんは?」
「レスター。十四さい。ミリィのかみをひっぱったりしていじわるするの」
「それじゃあ、三番目のお兄さんの名前は?」
 男は次々とミリセントの家族の名前を聞き出し、さらに姉三人、両親の名前を彼女が答えられることを確認すると、相手の目をしっかりと見つめながら尋ねた。
「ミリィ。いま君を抱き上げているのは一番上のお兄さんのウェインじゃないのかね?」
 ミリセントの口にもうひとつ飴玉を入れながら、言い聞かせるように男は告げた。
 まだ涙に濡れている榛色の大きな瞳をしばたたかせながら、ミリセントはゆっくりと自分を抱いている土曜日を見つめた。
「お父さんとお母さんと他のお兄さんやお姉さんはまだ列車の中だろうね。でも、列車の一部は燃えていて危ないから、一番上のお兄さんがミリィを連れ出してくれたんだろう?」
 口の中で飴が溶け出して甘い味に気持ちが落ち着いてきたのか、ミリセントはしばらく考える素振りを見せてから――こくりと頷いた。
「一番上のお兄さんは、ウェイン・グレイという名前だったかな?」
 男が確認するように尋ねると、ミリセントは改めて頷いた。
「いつもいばっているお兄さんも、ミリィが怪我をして泣いているときはいばってないだろう?」
 男はゆっくりと言い聞かせるようにミリセントに確認する。
「うん」
 ミリセントがはっきりと頷いた。
「じゃあ、儂がミリィとウェインの怪我の手当てをしてやろう。かすり傷でも放置しておくとばい菌が入って傷口が膿んでくることがあるからな。ちゃんと消毒しておかなければいけないよ」
「かあさんはいつも、なめとけばなおるっていってる」
「おや、それは豪快なお母さんだね」
「とうさんはほっとけばなおるっていってる。とうさん、たんこうではたらいてるの」
「炭鉱夫か。それはきっと力持ちで強くて頑丈なんだろうね」
「とうさん、ひとりでトロッコをおしてるんだって」
 ミリセントは男が自分に悪意を持っていないと判断したのか、飴を貰ったからか、次々と家族のことを喋り出した。
「そうかい、そうかい。そういえば儂は名乗っていなかったね。儂は医者のダニエル・プリーストだよ。よろしく、ミリィ。ウェイン」
 男は診療鞄の中から出てきた旅券に記載されている名前を読み上げながら名乗った。
「おじさんのこと、ダニエルってよんだほうがいい?」
「先生と呼んでくれると嬉しいな」
「じゃあ、せんせいってよぶね」
 ミリセントは手の甲で涙を拭うと、土曜日に顔を向けた。
「ウェイン。せんせい、いいひとだよ」
「…………あぁ」
 いつのまにかウェイン・グレイという名前を得た格好になった土曜日は、渋々話を合わせた。なりゆきで幼女を助けただけなのに、なぜか彼はミリセント・グレイの一番上の兄という役割まで与えられていた。
「師匠は十八歳というにはすこし年を食いすぎているように見えますが、十八歳の息子がいる父親にしては若いですからな」
 元『名無し』であり、ダニエル・プリーストという名を手に入れた男は、意地の悪い笑みを浮かべながら彼に小声で告げる。
「ところでミリィ。今日は家族みんなで列車に乗って、どこへ行く予定だったんだね?」
 土曜日がミリセントを地面に下ろすと、元『名無し』は鞄の中から消毒液と脱脂綿を取り出しながら尋ねる。
「いんぐらんど。とうさんのおじさんがすんでるんだって」
「イングランドのどこかな?」
「どこ? きしゃにのって、そのあとおふねにのって、またきしゃにのっていくところってとうさんはいってた」
 細かい都市名まではミリセントは聞いていないらしい。
「なるほど。イングランドか」
 元『名無し』はミリセントの手当てをしながらしばらく考え込む様子を見せた。
 自分たちがいまいる場所がどこかははっきりとしないが、まずは次の駅までは歩くかバス、もしくは乗合馬車を探し、ケープタウンへ向かう必要がある。
「どうやら、この列車はボーア人の民兵に襲われたようですよ」
 元『名無し』は小声で土曜日に説明する。
「線路に爆薬が仕掛けられていたみたいです」
 土曜日は黙って顔をしかめた。市街地でゲリラ戦が繰り広げられているとは聞いていたが、まさか一般人ばかりが乗っている列車が狙われるとは予想もしていなかった。
「では、ミリィ。ひとまずウェインと一緒に先にイングランドのロンドンへ行くのはどうかな。ミリィのお父さんやお母さんも無事なら後からロンドンへ来るだろう。ロンドンで待っていれば家族と落ち合えるかもしれないぞ」
 元『名無し』の提案にミリセントはこくりと頷いた。
 土曜日はミリセントを助け出した際の周囲の様子を思い出し、胸が苦しくなった。
 あの惨状の中、ミリセントが奇跡的に助かったのは身体が小さかったからであり、家族の誰かがうまく彼女をかばったからだ。下手をすれば大人の体重に押しつぶされていたはずだ。
「かあさんもあとからきてくれるかな?」
「無事なら、来てくれるさ」
 元『名無し』は安請け合いはしなかった。
 ミリセントもなんとなく状況がわかっているのか、目には不安げな色が浮かんでいたが、兄ウェインとふたりでイングランドへ行くという元『名無し』の提案に納得した様子だ。
 元『名無し』が暗示をかけたのか、彼女は目の前の『ウェイン』が兄であるとすっかり思い込んでいる。
「うん。じゃあ、ウェインといんぐらんどにいく」
 ミリセントはしっかりと答えた。
 一方の土曜日は、立ったまま元『名無し』の頭を睨み付けた。
(なにを考えている?)
 土曜日の不機嫌な気配に気づいたのか、元『名無し』が視線を上に向けた。
「おやおや、ミリィのお兄さんが怖い顔をして睨んでいるよ。本当にミリィが言うとおり、威張っているね」
「馴れ馴れしくミリィなどと呼ぶな」
 土曜日は腹立ち紛れに言い捨てた。
「大体、私は子供の世話など――」
「兄さん。幼い妹の前ではもうすこし優しく喋るべきだ。嬢ちゃんが怖がっているじゃないか」
 元『名無し』がもっともらしく指摘したので、土曜日は口籠もった。
「おまえさん、父親が炭鉱夫だからと言って、そのぶっきらぼうな喋り方はやめたまえ。その地方訛りの英語も、だ。これまでは妹の世話をしなかったのだろうが、これからはおまえさんが兄として嬢ちゃんの面倒を見るんだ」
 強い口調で元『名無し』は土曜日に指示する。
「あなたは、この嬢ちゃんのおかげで立派な名前が得られたんですからな。家族は助け合って生きていくものですよ」
 最後の一言は、ミリセントに聞こえないくらいの小声で元『名無し』は伝えた。
 土曜日と元『名無し』は旅券のような身分を証明する物を所持していなかった。アフリカ大陸に渡る際はほぼ密航同然に船に乗り、トランスヴァールでは名前などなくても生活はできていた。しかし、幼女を連れてイングランドに渡るとなれば、名前が必要だ。身分証明書がなくても実在する者の名を名乗れば、事情によっては身分証明書を手に入れられる。
 元『名無し』の言うとおり、土曜日がウェイン・グレイという名前を得られたのは、ミリセントのおかげだ。
 幼い彼女を騙しているという良心の呵責はない。これまでだって様々な嘘をついたり、人を騙したりして生きてきたのだ。相手が大人か子供かの違いなど、些細な問題だ。
 どちらかといえば彼が気にしているのは、この状況でミリセントの世話をするのが元『名無し』ではなく自分であるということだった。イングランドに渡っても、ミリセントの父のおじがどこで暮らしている誰なのかがわからない以上、土曜日が兄ウェインとして面倒を見続けなければいけない。親類が見つかれば適当な理由をつけてミリセントを預けられるだろうが、トランスヴァールで炭鉱夫として働いていたグレイ氏、というすくない情報からミリセントの親族を探し出すことは簡単ではない。
「私に人の世話ができないことは、君がよく知っているはずだ」
 土曜日が小声で言い返すと、元『名無し』は鼻で笑った。
「人間、誰しも初めて取り組む際は不安になるものです。しかし、やらないうちから投げ出すのは無責任ですよ」
 なにが無責任だ、と土曜日は心の中で腹を立てたが、ミリセントが不安げに兄を見上げてきたので、彼はぐっとこらえた。

 土曜日はミリセント・グレイの兄ウェイン・グレイとして、ダニエル・プリーストという名を手に入れた元『名無し』と一緒に線路沿いを徒歩でケープタウンへ向かい、そこからイングランドへと渡った。
 イングランドでは元『名無し』がミリセントの素姓を調べ、彼女の父がポーツマスの出身であることがわかったが、親族はすでにポーツマスにはいなかった。それ以上は詳しく調べることをせず、土曜日はロンドンでミリセントとふたり、兄妹ということで暮らすことになった。
「嬢ちゃんを救貧院に入れるのは忍びないでしょう?」
 仕方なくミリセントの世話を焼く土曜日を見ながら、元『名無し』は情に訴えるような言葉を吐く。
「別に……これは名前を貰った礼の代わりだよ」
 土曜日はぶっきらぼうに答えつつ、朝食用の目玉焼きを焦がして落ち込んだ。


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