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5月13日(月)20:00~22:00 柳亭小痴楽 弁財亭和泉 雷門小助六 古今亭文菊「渋谷らくご」若手真打競演会

文:かわいまりこ

柳亭 小痴楽 堪忍袋
弁財亭 和泉 謎の親戚
雷門 小助六 木乃伊取り
古今亭 文菊 ねずみ

◆柳亭 小痴楽『堪忍袋』
出囃子がなりはじめるまで楽屋で話していたとのことで、『落語をやるモード』には
なってないという小痴楽さん。
そういうモードじゃないというくらいなので、
なんとなく、
『どーしよっかな』と思っているような、
思っていないような、探るような気配もありつつ。
息子さんのうんちトレーニングの話から
ご自身がうんちに救われたという、
本人曰く『とっても素敵なエピソード』を。
この話がまた最高に小痴楽さん(いや、ここは沢辺さんというべきか)らしいというか。
小痴楽さんのやんちゃっぷりを垣間見る話で爆笑してしまった。
小学校のトイレで男の子が個室に入っているとイジられるっていうのは、
時代的にあるあるだったなと思うけど、
小痴楽さんも同じ経験があるようで。
だけど、幼い沢辺少年がここでひと味違うのは、複数人でからかってくる相手に、どうにか戦おうと思ったところ。
たぶん、トイレでそれなりに追い込まれてるし、
どーにかしなきゃって思って、
アドレナリンやらなにやらが溢れまくったんだろうなと想像するけれど、
沢辺少年は、ふと気づくわけです。
俺には『うんちがある!!』(笑)と。
なにもないトイレの個室で、
唯一の武器『うんち』を手にした沢辺少年。
(手にした武器以外はめっちゃかっこいいよね、立ち向かう少年って感じで)
意を決して個室の扉を開け、
『コイツがリーダー』だと思った少年の顔にべちゃっと!!
うんちを!!(破壊力ヤバい)
うんちつけられたリーダーのこと想像したら、
きったないし、とっても可哀想なんだけど、
おかしすぎてめちゃ笑ってしまった。
ここからさらにリーダーの開いた口にうんちを押し込む(!)沢辺少年。
その日以降、
『さわべさん』って呼ばれるようになって安泰の日々を過ごしたそう。
いや、そりゃそうでしょうね!! 
すごすぎますわ。
たとえ、唯一の武器だったとしても、
うんち持つ勇気、なかなか出ないっすよ、
沢辺センパイ。
実生活で落語みたいなことしてるのが
小痴楽さんっぽすぎて、妙に納得。
もし、この話が嘘だったとしても、
本当にやってそうだなって思えるほどの、
やんちゃ感がたまらん魅力だよなぁ。
うんちを顔につけられる経験は絶対したくないけれど。
そんなエピソードをもつ小痴楽パパ。
息子ちゃんのうんちトレーニングも
一生懸命やっているそうです。
なんてったってうんちに救われてるから(笑)
息子ちゃんがお父さんの、このうんちエピソードきいたら、めちゃかっこいいって思うだろうな。
素敵なうんちエピソードのインパクトが強くて、長くなってしまった。
そして、こんなに、うんち、うんちと書くことになるとは思わなかったな。
そんなこんなで、小痴楽さんがやられたネタは『堪忍袋』。
マクラを一生懸命に噺につなげようとしてますよ…と言ってて、それが伝わる勢い、ありました。
おかみさんが亭主にブチ切れて、
気合いの入ったドス声で「我慢ならない!!」って、膝で床をドンと鳴らして言っていたのが、
ヒステリックな感じもあって、たまらなく女性っぽい。
小痴楽さんのドス声、好きだな。
出し慣れてる? って思っちゃうくらい、しっくりくる。
あんなドス声だしても、可愛く泣くのがまた良い。
この夫婦、お互いに言い争ってるけど、
『結局、お互い好きなのよね!』ってなるところが微笑ましい。
身体に良いからと、梅干しを多用するおかみさん。
なんでもかんでも梅干しだらけで、
さすがにしんどくなった旦那さんが、
大根の漬物に変えてっていうの可愛すぎないか!! と思ってしまった。
堪忍袋を縫う仕草のときに、
「コレであってるかどうかわからないのよ…」っていう小痴楽さんも可愛すぎた。
堪忍袋に、それぞれの不満とかを言ったあとの紐を縛るときの顔!
繰り返しやるから、じわじわと笑いが止まらない。
この顔、息子ちゃんも真似してそうだなー、なんて勝手に思って思わず顔がほころぶ。
事前に息子ちゃんの話をされているから、余計にそっちに思いがいってしまった。
こんなにもめちゃくちゃ有用な堪忍袋があったら、どこもかしこも平和だろうな。
最近は『堪忍袋』の代わりになりえるものが、
どんどん減っていってるように感じるし。
落語やお笑いって、いわば『堪忍袋』の役割も担っていて、日頃は口に出せないことを代わりに言ってもらうことで、観客側はそれを見て、聴いて、笑ってスッキリするって部分があったのではないか。なんてことも考えつつ。
開口一番、いーい具合に会場をあっためていった小痴楽さん。
小痴楽さんの、やんちゃな感じって純粋さが多分に含まれていて、その純粋さがめちゃくちゃに伝わってくるからこそ、小痴楽さんの落語は元気をもらえるのかもなぁと思ったのでした。
うんちトレーニングが早く終わって、
お家がうんちまみれじゃなくなりますように。

◆弁財亭 和泉 『謎の親戚』
続いての登場は、
本日の紅一点の和泉さん。
着眼点がいつも本当に秀逸。
女性ならでは! の視点でもあるし、
日常でありそうでなさそう、
いや、でもありそう。っていうような、
そーゆーあるあるラインで攻めてくるのが、
ほんとにすごい。
今回のメンバーの中では一番遅い入門とのことで、『人事課』のOLから『噺家』になったとは驚き。
だいぶ大きめの転機。
何がきっかけで、どう決断したんだろうかと生き様にも大変興味が湧きつつ、今日の落語にはどんな濃いキャラが飛び出してくるのか、わくわくである。
親戚づきあいのなかで、『謎の』親戚っていう着眼点。
名前わからないけど、
むこうはこっちの小さい頃のことをよく覚えていて、話しかけてくる親戚って確かにいる。
だれなんじゃ? って思いつつも、
誰なの? って聞けない状況っていうか。
日本人の奥ゆかしさが発生させる謎なのかも。
最終的に、謎の親戚がもうひとり増えちゃった!っていうのに、『ぐおおおぉ』となってしまった。
ひとつの謎が解明しそうかと思いきや、
ますます深まるばかりだし。
なんだったら、
解決の糸口かと思っていたことが、
新たな謎になっていくので、
無限ループみたいで、ちょっとイライライラっとするというか。
「うぅぅぅぅ、スッキリしたいよ…」って気持ちになるけど、
もはやそう思わせてる時点で、
和泉ワールドにつれこまれた(いや、引き込まれた)ってことなんだと思うと、『恐るべし、弁財亭和泉』って思うのでした。
話すだけ話して、笑うだけ笑って、
さいごになにも続かなくて、ふぅーってため息ついてから無言ってなるの、ホントあるある。
盛り上がったけど、その後は特に話が続かないっていう時にどう終わらせるか問題の、なんともいえない『その場』の再現が素晴らしかった。
謎が増えて終わるので、からだじゅうに
スッキリしたい気持ちが充満して、
ジタバタしたくなる感じが残っている。
このモヤモヤを抱えたまま次にはいけないと思っていたら、2分間のインターバル!
この2分間がこんなにありがたいと思ったことはない! ってくらい。
お茶を飲んで、少しモヤモヤも落ち着いてからの小助六さんへ。

◆雷門 小助六 『木乃伊取り』
猫が好きという情報と入門が17歳という情報だけ手にいれて、はじめましての小助六さん。
入門の年齢が早いことに驚く。
小痴楽さんも16歳の入門とのことだから、
この世界では普通なのかもしれないと思いつつも、自分の16、17歳の頃は、まだまだお子さまで将来についてしっかり考えてなかったなと、チラッと思っている間に小助六さんご登場。
今日のメンツは、
小助六さん以外みんな世帯持ちとのことで、
そんなに地獄に行きたいもんですかね、的なことを言っていた(笑)
ひょんなきっかけで、ご近所のガールズバーに独演会のチラシを貼ってもらうことに。
そのチラシのおかげ(チラシのせいか?)で
お店の女の子たちにも顔をおぼえられているそう。
呼び込みしている女の子に、
「ししょー、寄っていってよ、ししょー」と
声をかけられるらしい。
普段はスーツにネクタイという姿らしく、
まわりからいったいどんな遊び方してるんだ!? って思われていそうとおっしゃっていた。
たしかに、スーツ着てたらどこぞの社員なのかな、とか思うよなぁ。一般的なイメージだと。
「部長!」「社長!」 っていう声かけになりそうなところに「ししょー」って呼びかけは確かに謎かも。
しかし、日頃の格好がスーツでネクタイなことになんかとっても驚いてしまった。
スーツ姿を想像して、妙に納得できたけれど。
そんな話から、『木乃伊取り』。
歓楽街渋谷できくってこともふくめて、
すごく良かった!
なんという単純な感想かと思うけれど、
楽しいこと、快楽ってものには、抗いがたいものがあるんだよなぁ。
どんなに清廉潔白だったとしても、
旨みを知っちゃうと、すぐに抜け出せなくなるという『人間の性』みたいなものが、
軽快に、いやらしくなりすぎずに。
飯炊きのおじさんの訛りが急になくなるのとか、
シュッとしたくなる(カッコつけたくなる)の、すごいわかる。
誰もが「ミイラ取りがミイラになる」可能性を秘めてて、サラッと堕ちていくのがいいなぁ。
今回のネタをきいて、違うネタもきいてみたくなった小助六さん。
こういう出会いがあるから、やめられなくなってゆく…。

◆古今亭 文菊 ねずみ
本日のトリを飾るのは文菊さん。
登場からものすごい異彩を放つなぁ。
見た目の印象に引っ張られちゃって、悟り開いた人かしらん? って思ってしまう。
ありがたい説法をこれから聴くのかしら、
なんていう錯覚に陥りそうになるくらいのインパクト。
でも、おそらく本来のお坊さんにはないであろう、色気的なものがダダ漏れておられますけど。
噺に入る前まではやさしーい、囁くような声で話すのに、ネタにはいるとガラッと変わって、一瞬でひきこまれる。

ちょっとだけ図々しいけど、憎めない愛嬌のある子がそこに現れるし、少し頼りないけど人の良い父親も、本当に人が良いんだろうなと思わせる説得力。
声の出し方、仕草、表情。
どれくらい研究したんだろうかと思う。
研究して、稽古して。
それぞれの人物像がはっきりと文菊さんのなかにあるのだろうなと感じる。
彫られたねずみが動くっていう、そんなまさかの状況ではあるけれど、
それすらも、そりゃ動きますよ、甚五郎が魂込めて彫ったものですから。
という説得力があるのがすごい。
最後の、「ネコかと思った」っていうネズミのアイロニカルな気配まで抜かりなく、素敵でした。

いやはや、素晴らしい2時間。
若手真打という括りだったけど、本当にそれぞれの個性が爆発してて、まさに競演って感じ。
充実の2時間。
それぞれが、たっぷり30分の持ち時間だからこそ、より一層個性がわかって贅沢だなぁ。
とんでもなく良い会で、これからの彼らから目が離せなくなりました。
こうやってハマっていくんだなと身をもって実感。
今夜もまた、じつに愉しい渋谷らくごでした。


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