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「しゃべっちゃいなよ」★配信あり8月9日(金)20:00~22:00瀧川鯉白 林家つる子 柳家さん花 柳亭信楽 柳家小ゑん #シブラク

文:木下真之/ライター https://twitter.com/ksitam

瀧川鯉白-毛
林家つる子-バック・トゥー・ザ・ベター
柳家さん花-名人と海
柳亭信楽-お馬さん
柳家小ゑん-銀河の恋の物語
プロデューサー: 林家彦いち
 
真打昇進披露興行を終え、すぐに寄席のトリに抜てきされるなど、活躍著しいつる子さんと、しゃべっちゃいなよの常連となったさん花さんの真打2人と、2023年の創作大賞の信楽さんと、独特の落語が癖になる鯉白さん。強力なメンバーが揃いました。タツオさんと彦いち師匠のフリートーク中の19時57分には緊急地震速報のアラームが客席に響き渡り、緊張した空気が張り詰めました。こういう時に情報がないのは不安になりますね。落語中に鳴らなかったのが不幸中の幸い。終わってニュースをチェックしたら、神奈川が震度5弱で、渋谷区は震度2。南海トラフ地震とは無関係のようで安心しました。
 
瀧川鯉白-毛
いつも驚くようなテーマを設定してくる鯉白さん。今回はジャンルでいえば戦争物。戦闘下の極限状態に置かれた1人の日本兵が、心の拠り所にしたのは、恋人の陰毛だったというお話でした。
明日の出征を控えたクボタさん。いいなづけのサチコさんに頼んだお願いは「陰毛が欲しい」。とある事情で自分の陰毛が渡せないサチコさんが苦肉の策で頼ったのは自分のおばあちゃんだった。それを知らずに戦場に赴いたクボタさん。先輩兵士とジャングルをさまよい歩き、ついに食糧も尽きて幻覚を見る中で最後に頼ったのはお守りの中から取りだした例のアレ。クボタさんと先輩の運命は…。という話です。
鯉白さんの創作落語には、狂気じみた人がよく登場しますが、今作は戦場で飢えに苦しみながら幻覚を見ているような過酷な状況と、陰毛に執着していく状況が見事に重なりあって、笑いながらも切ない感情が湧いてきました。
戦場にお守りで持っていくとしたら女性の髪の毛が一般的だったと考えられますが、陰毛を持っていった人がいたとしても不思議ではなく、笑いながらも現実的な話として聞いていました。
 
 
林家つる子-バック・トゥー・ザ・ベター
2021年8月の「しゃべっちゃいなよ」でネタおろしした「ミス・ベター」は、真打昇進披露興行の寄席でもトリを飾り、独演会でも披露される主力選手に育っていきました。「作っていても楽しい、やっていても楽しい」というつる子さんの大好きを詰め込んだ「ミス・ベター」がさらに進化して第2弾の「バック・トゥー・ザ・ベター」が生まれました。
前作でベタ展開の願いが叶った女子高生のミナミの前に現れたのは未来のミナミ。彼女によると、未来の地球は滅亡するという。その原因は、ベタな展開にあこがれるミナミのお母さんが、学生時代に神社で願掛けし「地球の滅亡」を願ったから。お母さんがベタな展開に憧れるのを止めるため、ミナミは未来からやってきたミナミと一緒に1970年代にタイムスリップし、学生時代のお母さんとお父さんのデート現場に忍び込む。ミナミと未来から来たミナミの運命はいかに…。という話です。
話が複雑なので、初めてだとわかりにくい部分もあるのですが、サービス精神あふれるつる子さんが、アイデアを詰め込めるだけ詰め込んだデカ盛り版で、必死についていきました。サプライズは、未来からやって来たミナミは、実は落語家になった林家つる子さんだったということです(つる子さんの本名はみなみ)。微妙にリアルがリンクしていて、そこにベタ愛と落語愛が加わって、奇想天外な最強ストーリーが展開されました。現在のミナミ、未来のミナミ、過去の父、母の4人で落研の寄席を見に行くシーンは滑稽ながらも胸熱の展開。約30分の大作がどのように育っていくのか。オチで見せた続編を匂わせたオチはどのように展開してくのか。次も楽しみになる作品でした。
 
 
柳家さん花-名人と海
2022年、2023年に続く3回目の登場のさん花さん。前作は「モーゼの十戒」をモチーフに、海に住む魚を描いた「十貝」で、今回は「名人になりたい」をテーマに落語家の師匠と弟子を描いた「名人と海」。さん花さんらしい不思議な雰囲気をまとった作品でした。
真打に昇進して20年の落語家「柳家メカブ」。弟子の「ワカメ」に「オレは名人になれるか?」「一番好きな落語家は?」と尋ねると、「イエス」「一番好きなのは師匠です」という答が返ってきた。しかし疑念を抱くメカブ師匠。「名人になりたいなら本当のことを言ってくれ」と言われたワカメは、入門した時は1番だったが、今は3番だという。再び1番に返り咲くにはどうすればいいと助言を求めるメカブ師匠にダメ出しをするワカメ。落ちぶれていく師匠に対して、次第に人気が爆発していく弟子の成長を見たメカブ師匠が取った行動とは…。という話です。
落語家をテーマにしている時点で、さん花さんの考えが反映されていると考えても間違いはなさそうです。しかし、真打昇進からまだ3年で、弟子を取っていないさん花さんが「師匠目線」で「弟子に一番好きって言ってもらいたがる師匠」の話を作っているのが面白かったです。生きざまを大事にしているのも「芸は人なり」を大切にする柳家らしく、フィクションとノンフィクションの間を行ったり来たりするような興味深い落語でした。
 
 
柳亭信楽-お馬さん
これまでトップバッターや2番手が多かった信楽さんが、2023年のシブラク創作大賞の受賞を経て、ついに4番手での登場です。王者としてのプレッシャーがある中、今回も期待を裏切らない最高の創作落語を聞かせてくれました。
「パッカ、パッカ、パッカ」と子供がお馬さんに乗って遊んでいる。のどかな家族団らんの風景と思いきや、お馬さんは48才のお父さんで、子供は高校3年生のトオルくんだった。トオルくんが3才のときに「あること」がきっかけでお父さんがお馬さんになってから15年。そろそろお馬さんをやめたいと思ったお父さんは、トオルくんにある提案をする…。という話です。
信楽さんの落語は、最初のシーンをそのまま受け取ったら間違いです。お馬さんが48才のお父さんで、息子が18才の高校生という驚くべきサプライズが待っています。このつかみだけで、信楽さんの世界に持っていかれてしまいます。話を追いかけていくと、さらに意外な事実がわかってくる。サプライズの連続で、最後は力ワザでねじ伏せる。堂々、王者の落語でした。
全編ばかばかしさであふれている信楽さんの落語ですが、個人的にはトオルくんの担任の先生として出て来た化学の先生が好きでした。創作落語でなかなか化学の先生は出てきませんし、作品の中でも重要な役割を果たしていて、いい味を出していました。
 
 
柳家小ゑん-銀河の恋の物語
創作落語のレジェンドたちが、代表作やとっておきの作品を聞かせてくれる「この一席」。今回は七夕の夜のある家族の風景を描いた「銀河の恋の物語」でした。
ある家族が短冊に願いを書いています。お父さんは「パチンコが出ますように」、お母さんは「銀のブレスレットが欲しい」、息子は「Windows11が欲しい」。娘のアキコは恥ずかしがって明かしません。一方、はるか離れた宇宙の天の川では、織姫と彦星が手こぎボートに乗ってデート中。デートの合間には、人間の書いた七夕の短冊を読みながら、願い事を叶えるかどうかの意見を戦わせています。アキコの願いは叶うのか…。という話です。
プラネタリウムで寄席を開くほど天体観測に造詣が深い小ゑん師匠の魅力が発揮された創作落語で、唯一無二の作品です。創作時期は不明ですが、アップデートしながら現代にも通じる作品になっています。短冊の願いで、Windows11が出て来たり、バイデンが出て来たり、水原一平氏が出て来たりと、昭和テイストの作品に令和が混じってくるのが愉快です。「ラッキー、ポッキー、ケンタッキー」のキラーフレーズも入っています。全編30分の落語でしたが、ギャグの出し入れ次第で時間調整もできますし、時代にあわせたアップデートもできる。長寿作品のお手本のような創作落語、小ゑん師匠が時間をかけて育ててきた、味わい深い作品を堪能することができました。旧暦の七夕(8/10)の前日に聞けたのもタイムリーでした。



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