6月14日(金)20:00~22:00 柳家花ごめ 春風亭昇咲 林家きよ彦 三遊亭青森 玉川太福「うーる」創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」24年 第3回大会
文:木下真之/ライター https://twitter.com/ksitam
柳家花ごめ-作ろう!建てよう!
春風亭昇咲-大罪
林家きよ彦-免許皆伝
三遊亭青森-スタッフルーム
玉川太福/玉川鈴-うーる
プロデューサー: 林家彦いち
彦いち師匠とタツオさんのオープニングトーク。「地方公演でも創作落語が受ける時代がやって来た!」と熱弁する彦いち師匠が、6月上旬、落語協会の仕事で行った北海道10日間落語ツアーでの話を披露しました。同行した文菊師匠に映画「マッドマックス」を薦め、頑なに拒否していた文菊師匠がついにホテルで「マッドマックス」の配信を見て感化されてしまうエピソードで大爆笑。彦いち・タツオによる「文菊ものまね合戦」も繰り広げられ、異様な盛り上がりを見せました。
「しゃべっちゃいなよ」6月の演者は、渋谷らくご大賞2023の青森さんを筆頭に、昇咲さん、きよ彦さん、真打間近の花ごめさんという強力な布陣。ゲスト枠では浪曲の太福さんが、普段の高座ではなかなかお目にかかれない「うーる」を披露してくれました。
柳家花ごめ-作ろう!建てよう!
創作落語の会でのトップバッターという打順に戸惑いながらも、思い切ったアッパースイングでホームランを狙いにきた花ごめさん。趣味を活かしたホラーテイストの作品に、ぞわっとしながら大笑いしました。
人気の子供向けテレビ番組「作ろう!建てよう!日本の建物」のアシスタントに配属された新人のユキちゃん。しかし、発泡スチロールでどんな建物も再現してしまうというメインMCのユウタお兄さんは失踪中。番組収録が迫る中、ユキちゃんは先輩アシスタントと2人で代案の建物を考えないといけない。ユキちゃんのアイデアは「首塚」。なぜ、祟りを避けるための首塚なのか? といぶかしがる先輩。するとテレビから「千葉県の山中で首なし死体が見つかった」というニュースが流れてきて…という話です。
「首塚」を中心としたがっつりめのホラーながら、中身は4コママンガ『OL進化論』のようなほんわかした給湯室雑談の雰囲気。祟り流れを、家具がガタガタ動いて、ポルターガイスト、恨みを持った霊が出てきて、「一族郎党根絶やし」と表現。祟りの一連を「Aメロ」と「サビ」で表現するユキちゃんのセンスが抜群です。発泡スチロールで日本の建物を作るという設定から派生するギャグもピタリとはまっていって本当に面白かった。
親しみのある万人向けの題材で共感を呼んでいく落語も楽しいですが、今作のように作者・演者が面白いと思うことをとことん突き詰めていく噺は、熱量が高いだけにのめり込んで聞いてしまいますね。前作の「インタビューウィズマーメイド」でも花ごめ色が強く出ていましたが、今作ではさらに進化して濃くなっています。創作が中心の落語会なら間違いなくトリが取れる堂々とした作品。何よりネタおろしながら、楽しそうに高座を務めている花ごめさんが素敵でした。
春風亭昇咲-大罪
昇咲さんは2022年10月に続いて2回目の「しゃべっちゃいなよ」登場です。前回の「つるの中の人たち」は、古典落語の「つる」の中に昇咲さん自身が登場する、いわゆるメタ構造の落語でした。今回は昇咲さん自身が主人公で、落語会(落語界)にまつわる3つのタブーを実録風にしゃべっていくドキュメントタッチの作品です。
とある落語会に出演するために会場に向かっている昇咲さん。しかし会場の名前が難しすぎてたどり着けない。どんどん進んでいくとトンネルが現れ、中を抜けると江戸時代にタイムスリップしていた。野次馬の固まりを見つけた昇咲さんが目撃したのは、3人の罪人が「落語会で携帯電話を鳴らした大罪」で裁かれようとしているところだった。3人にはさらなる「余罪」があり、そのひとつひとつが明らかになっていくという話です。
昇咲さんの体験らしきエピソードをベースに、「落語会あるある」を次々と繰り出していくのですから、面白くならないわけがありません。1人目の罪人の「落語会でひっそり隠れてメモを取るお客さん」のエピソードは共感しまくり。さぞかし困っただろうと同情笑いをしながら、それをネタにして笑いを取るしたたかさにも感心しながら聞いていました。3人の大罪を羅列するのでなく、フィクションとしてひとひねり効かせているのも印象的でした。昇咲さんの芸歴が今年で8年目ということで、これからさらなる「試練」が待っているかもしれません。同時にエピソードも増えていくわけで、このネタの進化も楽しみですね。
林家きよ彦-免許皆伝
きよ彦さんも2022年8月に続いて2回目の登場。昨年出場予定もインフル休演となってしまったことから、満を持しての「しゃべっちゃいなよ」です。とはいえ、先月まで2カ月近くにわたって林家つる子さんの真打昇進披露興行を手伝い、6月上旬には札幌の「YOSAKOIソーラン祭り」に通い詰めていたきよ彦さん。かなり忙しかったと思われる中で、渾身の一席を創作し、披露してくれました。
日本一のタンス職人に弟子入りした男。3年間の厳しい修行に耐え、免許皆伝を許される。「ありがとうございます」と感謝を述べるも、「こちらの書類に合格のサインをお願いします」と切り出す弟子。「????」と戸惑う師匠に弟子の男が明かしたのは、自分は修行代行サービスの担当者で、あるお客さんから依頼を受けて修行を代行しただけだという。その依頼者とは誰なのか。依頼者が代行を立ててまで弟子になりたかった理由は何なのか。という話です。
落語の中でも触れられていましたが、古くは家事代行や結婚式の出席代行、最近は退職代行などのサービスが花盛り。それをモチーフに取り込んで、さらにジェンダー問題と弟子の育成システムにも切り込んでいく。よく考えれば(考えなくても)ナンセンス炸裂なのですが、現実にあり得るかもしれないと思ってしまうのが現代の怖いところ。“落語界の田嶋陽子”を自称するきよ彦さんの、中身も田嶋陽子なりきったかのようなキレキレの創作落語でした。「タイパ」、「YouTuber」といった現代のキーワードも散りばめられていて、今を生きている私たちにも「わかりみ」が深いものばかり。オチ間際に出てくる「おかみさん」の扱いも上手く、初演の時点で完成度の高い作品でした。
三遊亭青森-スタッフルーム
「ゾンビ」を青森さん流に料理すると、親友2人の友情ものになりました。後説でもタツオさんが言っていましたが、ゾンビは映画や小説等でも確立されている一大ジャンル。観客、読者のすべてが「噛まれたら感染する」というお約束を理解したうえでみんなが楽しめる極上のエンタテインメントです。
青森さんの今作は、ゾンビを題材にしたというより、友情をテーマにするためにゾンビのお約束を活かしたのかもしれません。ある地方都市にあるショッピングモールのスタッフルーム。28歳のキヨシが金属バットで素振りをし、中学時代からの親友のユウジがそれを見ている。どうやらA市にゾンビが発生し、多くの人が噛まれたらしい。ショッピングモールに逃げ込んだ2人だが、ユウジはすでに「何者か」に噛まれた後だった。あれはゾンビだ!と言い張るキヨシに、そうじゃない!と否定するユウジ。金属バットを握りしめて離さないキヨシは、親友のためにどんな答を導き出すのか。という話です。
ユウジはゾンビになるのか、ならないのか。キヨシはユウジを助けるのか、助けないのか。その会話の攻防がみごとで、スリリングな状況が伝わってきます。それでありながら、笑いどころが随所に散りばめられていて、親友同士の馬鹿話にも聞こえてきます。寂れゆく地方都市の中で暮らす男と、都会に出ていった男の対比も隠れていて、いろいろいな方向から楽しめるゾンビ落語でした。最近の青森さんはどんな落語をやっても青森さんらしさが出ていて、ものすごい速さで進化が進んでいて本当にすごいと思います。
玉川太福/玉川鈴-うーる
太福さんの「うーる」は、「ソーゾーシーTOUR2021」でネタおろしされた作品です。「地べたの二人」や、北海道旅行の顛末を描いた「北の国へ」、少しマニアックな「サウナ探訪」など、おなじみのシリーズ作品がある中で、太福さんは第一回の創作大賞王者として、「一番のチャレンジネタ」「実験ネタ」で、熱い創作魂を見せてくれました。特に今回、ソーゾーシーでのネタおろし時に勝るとも劣らないお客さんの反応で、しゃべっちゃいなよファンは大満足の一席となりました。
マザー牧場で羊の飼育を担当しているミカミは、「羊の毛刈り世界選手権」の優勝に向けて日々訓練を重ねている。ついに師匠のお墨付きを得て、ニュージーランドの世界選手権へ旅立つことに。しかし、師匠には心配ごとがあった。よそ者のミカミに世界一の称号を渡したくないため、羊の皮をかぶったニュージーランドの大男が出てきて妨害するかもしれない。そこで師匠が密かに温めてきた最後の特訓を開始する。という話です。
浪曲は本来、立って演じるため、落語と比べて動きの自由度は高いのですが、シブラクやソーゾーシーでは座りが基本で動きが制限されています。その構造を逆手にとった羊の毛刈りのアクションが、コミカルでダイナミックです。どんな羊も座らせてしまえばおとなしくなる。そんな羊の姿が愛橋があって可愛らしいです。
ストーリー展開も、太福さんの作品の中ではかなり破天荒でぶっ飛んでいます。師匠の試練を乗り越えるためには「あるモノ」をつかまないといけない。師匠の愛情に応えようとするミカミの姿に、浪曲ならではの人情を感じました。
それに加えて、節の部分を羊の「メーメー」と唸るバカバカしさ。それに必死についていく曲師の鈴さんもみごとでした。浪曲界に若手が増えてきましたが、こんな浪曲ができるのは現時点で太福さんただ一人だけですね。今回のしゃべっちゃいなよでは、「この一席」の枠で呼ばれたことに対する心意気と、彦いち師匠の前で全力を尽くしたいという太福さんの思いがあふれていて、感動すら覚える一席でした。
後説で彦いち師匠が「二ツ目時代の文芸座ルピリエでの新作落語の会の雰囲気を思い出した」とおっしゃっていましたが、まさにそんな熱気を感じる6月のしゃべっちゃいなよ。皆さんがリミッターを外して全力でぶつかってきて、それを受け止めて楽しむお客さんがいる。こんな落語会が2カ月に1回開催されることが本当にうれしいですね。
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