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「渋谷らくご」鯉八トリ公演:エポック落語会7月12日(金)20:00~22:00立川談吉 古今亭志ん五 国本はる乃 瀧川鯉八 #シブラク

筆名:miko 
Xアカウント:https://twitter.com/miko_andola
接客と販売が好きすぎるアパレル社員。落語を聴き始めて丸4年とちょっと。怖い噺とジェットコースターは苦手だけど、お化け屋敷とイヤミスは好き。運動神経皆無。ジムで自分がちょっとかわいそうになった。帰りにどら焼き買って帰ったら元気になりました。美味しいどら焼きを年中無休で探し中。

7月12日(金)20時~22時
「鯉八トリ公演:エポック落語会」
立川談吉-ゴメス/持参金
古今亭志ん五-お天気ランド
国本はる乃/沢村道世-若き日の大浦兼武
瀧川鯉八-にきび
 
今回は配信ではなく、会場での観覧。
本当に良い会でした!凄く楽しかったなあ。
 
最初に犯人ネタバレするミステリー小説みたいな感想文になってしまいましたが、会の内容だけでなく、会場全体が暖かな雰囲気につつまれていたのがすごく心地良くて。さらに、「聴くぞ!」という静かな情熱も一緒になって客席からあふれているような最高の環境だったので、それも含めてとても良い会だったんです。
ちゃんとしたレビュー書かないと!という変な使命感と責任感で、最近、シブラクを聴きに行くときには、やたらとピリピリしてしまう私だったのですが、そんな素敵な雰囲気に、使命感も責任感もすっかり忘れて、全力で楽しんでしまいまして…。結果、レビューを書き始めた今、自分の記憶をいくら掘っても「楽しかったー」しか、出てこない。
こらー!もうちょっと頑張れよ!と、あの時の自分を叱っています。
会が始まる前、最初の挨拶でサンキュータツオさんから、個性豊かな面々の回。とのご紹介とともに、「前のめりに楽しんで欲しい」と言われたのを真に受けてしまったのが敗因です。(人のせいにしてはダメ)
 
それにしても、ユーロスペースってどこに座っても高座が見やすい。椅子はふかふか。背もたれが高いから、前の人の頭があまり気にならない。暗いなかに浮かぶ毛せんと座席の赤がとても綺麗でスタイリッシュ。落語をかっこよく聞ける場所だなと改めて思いました。
配信はとても有り難いし、配信ならではの楽しみ方が出来るのも嬉しいんですけれど、行けるときには出来るだけ会場に足を運びたいなと思いました。(あれ?レビュー終わっちゃった!?ダメダメ!まだ落語会の内容、一文字も書いてないよ!)
 
 

■立川談吉さん-ゴメス/持参金


出てきて、挨拶して。その「間」だけで会場に笑いを起こさせちゃう談吉さん。今日はあいにく雨模様だけれど、お天気が良い時よりも、こんな雨の日の方が落語日和なんだそう。なるほど、確かにそうかも。談吉さんは嫌なことを良いことのように変換できる特殊能力がありますね。続いて、後に出てこられる志ん五師匠がとても絵が上手いとのお話から、絵が上手いか下手か?という境界線についてのお話。談吉さん曰く「ドラゴンボールの悟空を画けるかどうか」との事。談吉さんの画いた悟空を拝見してみたくなりました。
今日は短い新作と古典、両方を演って下さるとのことで、まずは新作の「ゴメス」から。
一つ一つの情報は間違っていないのですが、間違った回路で情報同士が合体してしまったのか?謎の知識を披露するお母さんと息子のマサオちゃんとの会話から始まります。もうここからイリュージョン。
マサオちゃんの学校で行われる学芸会で「ロミオとジュリエット」をやる事になったのだけれど、マサオちゃんの役は…というお話。マサオちゃんが演じる役どころ。ロミジュリには絶対出てこないでしょう?っていう役なのに、「異世界転生物なのね。」で終わらせる心の広いお母さん。ここから先の内容は実際に聴いて、楽しんでいただきたいので割愛させていただきますが、ポイントとして私が強く推したいのは、談吉さんの「小学生読み」。(すみません、勝手に名付けました)小学生独特のしゃべり口調と変なところが上がってしまうイントネーションの再現性が素晴らしくて。それが小学生の学芸会らしさを濃く醸し出してくれるから、リアル感とともにノスタルジックな気持ちにもさせてくれます。そして最後のお父さんからマサオちゃんへの一言がとても良い!こんなお父さんとお母さんがいたら、自己肯定感、爆上がりですね。
続いては、謎めいたお祭りの話をまくらに、古典の「持参金」を。
個人的な意見を言わせていただくと、持参金というお話、とても苦手です。理由は女性の意思が尊重されていないように感じるから。その点、談吉さんの持参金に出てくるお鍋さんは、自分の意思をちゃんと言う。それどころか主導権を握っているから、聴いていて嫌な感じがしない。そして、それだけで終わらないのが談吉イリュージョン。古典も普通では終わらない。今までの持参金だと思って聴くと、頭がついていかなくてびっくりしちゃうかもしれないですね。それでも私は、談吉さんのこの噺に対する気遣いや優しさがいいなと思いました。
嫌いな噺が嫌いなままで終わらないで済むこと。それは、これから先、落語を楽しむ上でとても有り難いことなんですよね。
 

■古今亭志ん五師匠 お天気ランド


続いては、志ん五師匠。Xでは美しく繊細な絵と草書をずっと拝見しておりましたが、実は志ん五師匠の落語をお聴きするのは初めて。期待が高まります。赤いお着物に黒の羽織りが、ユーロスペースの配色とマッチしてとても映えていらっしゃいました。
まくらでは、ご自分の師匠との出来事をたっぷりと。それがすごく面白く、あたたかく、可愛くて。師匠の事が大好きだとおっしゃる志ん五師匠がとても素敵だなあと思いましたし、志ん五師匠の師匠の事も、とても好きになりました。
お噺は新作「お天気ランド」。人混みが嫌いなカップルが、人がいなさそうなお天気ランドという天気のテーマパークに遊びに行ったら…というお話。
結構、お家賃が高そうなところにあるお天気ランド。出てくるスタッフの名前はなんかどこかで聞いたことがあるような…。その中のひとり、○○家の次男、次郎さんは働き者で、会場案内だけでなく、いろんなところに出現。おそば屋さんでも働いているため、働き過ぎでお客さまから心配されてしまうぐらい。そのおそば屋さんでのシーンでは、おそばを食べる所作が上手くてそこがなんかまたおかしいという不思議。新作あるあるなのかもしれませんね。サゲはこの時期にぴったり!もしかしたら、今の時期しか聴けない貴重なお話なのかもしれない!!
途中、出てきた懐かしい二人組の歌に会場から拍手が起こり。志ん五師匠が「いいお客さまだー!」と言って下さったのが、なんだかとっても嬉しかったです。そんなやさしい空気にしてくれたのは志ん五師匠なのに。不思議なメニューのお蕎麦、へんてこでしたけど映えそうだし、ちょっと美味しそうだったなー。
 
■国本はる乃さん/沢村道世師匠-若き日の大浦兼武
はる乃さんは、一度シブラクの配信にてお聴きしたことがあったのですが、今回、生で初めてお聴きしました。
 
とにかく、凄かったです。
配信で聴いた時も凄かったんですが、生だとその100倍ぐらい凄い。
 
大浦兼武の出世話。出てくる登場人物それぞれの演じ分けも素晴らしく、お話自体も面白かったのですが、節(歌)がもう、とてつもなく良くて!伸びやかで、広がりがあり、深く心地よい。耳だけでなく、全身ではる乃さんの声を浴びたくて、吸収したくて。体中の毛穴が全部開く感じ。とにかく一分でも長く、この声に埋もれていたいと願うほど。
汗をふく姿さえ落ち着きがあり、ぐいぐいと引き込まれ、どっぷりと浸らせてくれる安心感も相まって、たっぷり楽しませていただきました。
曲師、沢村道世師匠の三味線も素晴らしく、音って耳だけで聴くのではないんだなあと改めて体感。
場所とか時間とか、それぞれのご事情があるからなんとも言えませんが、はる乃さんの浪曲はぜひいつか生で聴いて欲しいなと強く思いました。
落語芸術協会に入られたとの事で、これからは寄席でも聴くことが出来るみたいですよ。
すみません、凄すぎて語彙が完全になくなりました。
 
 

■瀧川鯉八師匠 にきび


鯉八師匠の出囃子、好きなんです。もの悲しくて、やさしくて。出囃子がぴったり合っているなあと思う演者さんは他にもたくさんいらっしゃいますが、ここまでしっくりと、そして素敵な出囃子の方ってなかなかいらっしゃらないんじゃないかと思っています。演台を片付ける時間があったおかげで、いつもより長く出囃子が聴けて嬉しかったです。
はる乃さんの男前な浪曲を舞台袖で聴きながら、膝がガクガク震えていたという鯉八師匠。どちらかというと分類としてインチキな自分や志ん五師匠。談吉さんなんかインチキの極北!って言われてましたね笑。こんな本物の前で落語を演っていいの?というお話をされていましたが、客側としては、この組み合わせだからこその楽しい会だなと思って聴きに来ているので全く問題ございませんよ。鯉八師匠!
ちなみインチキの神髄?鯉八師匠のLPについては、聴けるか聴けないかじゃなくて、持っているか持ってないかだそうです。気になる方はぜひお手元に。
最近、あるお仕事で、落ち込んじゃったりしたそうで、ご自分の事を被害妄想たくましいとおっしゃっていましたが、被害妄想を「たくましい」と表現される鯉八師匠のワードセンスがいいなあと。そして、そんなワードが、ただ面白いだけじゃなく、なんだか余韻として頭の片隅に残るんですよね。
ある物を買うとしたら、どこで売っていたら買うか?という、かなり刺激的なフリから新作のにきび。はる乃さんの浪曲で毛穴が開いちゃった私としてはとてもタイムリーなお噺。にきびが出来た孫がおばあちゃんに、できたてのにきびをつぶそうかと相談するところから物語が始まります。おばあちゃんはすぐに潰さず、外はカリッと中はとろっとするまで待つようにと伝えます。え?カヌレ?たこ焼き?もう、そこから言葉の罠に引っかかっている私。
鯉八師匠の落語は、ちりばめられたワードにふとつまずく場所が、多分人によって違うんだろうなと。私は、「悲しみを知る悲しみと悲しみを知らない悲しみ」というワードに心をふっと持って行かれました。おばあちゃんと孫。たった二人の変な会話にふと哲学的なワードが入る違和感にちょっと立ち止まる感じがしたんですよね。そしてそれがとても良かった。同じ物を見ていても、感じるものは人それぞれ違う。映画を見た後、同じ映画を見たはずなのに、全然違うところを見ていたり、違う解釈をしていたり。人との会話でその違いを気づかされる。そんな楽しみ方が出来そうなお噺でした。
 
 
エポック(新時代)を彩る、4人の演者さん。
ぜひとも聴いていただきたい方ばかりでした!
協会が違う方々を一度に見られるシブラクだからこそ、実現できたこの日の公演。
こんな出会い。最高です。
 
 

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