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4月12日(金)18:00~19:00 春風亭一花 三遊亭青森「ふたりらくご」若手筆頭対決

筆名:ベトナム在住Monica(江戸っ子のメキシカンジャパニーズ、落語beginner)
職業:八百屋準備中、イベントプランナー(rakugoon)

春風亭一花-紺屋高尾
三遊亭青森-髪結新三

待ちに待った1カ月ぶりの「渋谷らくご」です!私の北海道の友人が推薦する春風亭一花さんと、東京の落語ファンの先輩が推す三遊亭青森さんの「ふたりらくご」とあって、最強の組み合わせにベトナムからワクワクドキドキ!勝手ながら、青森さんには「落語≒人生、超感動の高座を届ける落語会のイノベーター」というキャッチフレーズをつけた事もあり、どんな高座になるか非常に楽しみです。(一花さんにも後で素敵なキャッチフレーズを勝手に考えたいと思っています。)

「ふたりらくご」をきいた後に最初に感じた事は、「二人とも本当に二つ目なの?信じられない!」という驚きでした。二つ目とは、前座を経て真打に昇進する中間段階の落語家さんなのですが、一花さんも青森さんも二つ目の勢いとフレッシュさを保ちながら、驚くほど巧みな噺を披露してくれました!まさしくサブタイトルの「若手筆頭」と呼ぶにふさわしい。噺に出てくる多彩な登場人物が生き生きしていて、情景が頭の中で鮮明に浮かび上かび上がり、心を深く揺さぶらされました。落語ってやっぱり最高だ!

一花さんが披露した「紺屋高尾」は、染物屋で働く久蔵が主人公の噺です。久蔵は吉原の花魁道中で花魁高尾に一目惚れし、恋に落ちてしまいます。恋の病にかかり仕事が手につかなくなる久蔵ですが、親方から助言を受けて、高尾に会うために必要なお金を稼ぐために一生懸命働きます。三年の努力の末、久蔵は十八両二分を手に長屋のお医者さんの助けを借りて吉原へ連れて行き、花魁高尾と再会します。最終的に、高尾は久蔵のもとへ嫁くというお話です。あらすじだけを読んでみると、表面上単純なラブストーリー(松嶋菜々子さん主演ドラマ「やまとなでしこ」風)の様に見えますが、落語できくと格別に面白い。更に今回は、一花さんの巧みな話術によって、笑わされ、ハラハラ・ドキドキさせられ、感動させられました。
落語におけるマクラ(導入部分)は、一花さんの優しくて明るいトーンでスタートしました。配信での視聴者は60名とのことで、会場のお客さんは少なかったもしれません。私も日本に帰国した際には、しぶらくの会場に是非足を運びたいです。持ち時間が一人30分のためマクラも短かったのですが、一花さんの親しみやすさにすっかり魅了されました。
本編に入ると、一花さん自身の柔らかさを保ちながらも、親方、久蔵、花魁、お医者さんといった異なるキャラクターに見事に変貌しました。それぞれのキャラクターの独自の魅力が、一花さんの声の変化と共に生き生きと伝わってきました。親方役では、ぶっきらぼうながらも「親代わり」としての久蔵への熱い気持ちを、花魁役では花魁らしい艶やかさを、久蔵役ではまっすぐな嘘のつけない性格を、それぞれの豊かな感情とともに見事に表現していました。
また、印象に残っているのは、親方が別の部屋にいるだろう奥さんを「おさき~」と言って呼びかけるシーンです。声のかけ方の仕草から、親方と久蔵がいる空間とは別の部屋に奥さんがいるという、奥行きまで想像力をかきたてられました。この様な細やかな表現一つひとつが、登場人物たちの日常生活や気持ちをよりリアルに感じさせるのかと思いました。さらに、花魁独特の座り方「横座り」など舞台となる江戸時代の文化・風習についてほどよい間で解説もしてくれていたので、落語ビギナーでもききやすいと思いました。

感動の人情噺でほっこりしてところ、登場するだけで会場の雰囲気をガラリと一変させた青森さん。金髪で、二つ目ながらすでに昭和の名匠の様な深い雰囲気を醸し出している話し方(声)が印象的でした。(一花さんのマクラで、青森さんの態度が少しでかい話をしていたので、それにもひっぱられているかもしれません笑) マクラ(導入部分)で、「普通に(落語を)やっただけじゃどうやっても勝てない。一花さんがやらなそうな噺をやろうと思うという事で、「髪結新三」の噺が始まりました。
「髪結新三」のあらすじをちょっこっと。庄三郎は「白子屋」という材木商を立ち上げ、成功を収めますが、一方で彼の姉お熊の家庭生活は複雑。お熊は夫である又四郎に愛情を感じず、店の忠七と不倫関係にある。この状況に髪結いの新三が介入!新三はお熊に惹かれ、彼女を手に入れるために計画を立てます。お熊と忠七の秘密の手紙を発見した新三は、それを利用してお熊を誘拐し、一緒に逃げ出すよう仕向けます。しかし、彼の真の意図はお熊をたぶらかし、利用することにありました。お熊が新三に連れ去られた後、白子屋は彼女を救出するために努力しますが、新三は強硬に立ち回り、状況は一層複雑化していきます。
この噺を初めてきいた私は、その劇的な展開に完全に引き込まれました。この噺は歌舞伎や講談でも有名な演目だそうで、それぞれの形式でどんな描写がされているんだろかと興味深く思いました。青森さんの語り口からは、まるで映画「アウトレイジ」を見ているかのような、何か違法なことを目撃してしまったような圧迫感と緊張感を感じました。また、新三の「永代橋の場“傘づくし”の啖呵」の場面での、鳴り物との見事な調和も印象的でした。
最初は一花さんと青森さんの「対決」の意味がピンときませんでしたが、「ふたりらくご」をきき終えた後、その対決の意味が腑に落ちました。二人ともお互いの能力と強みを知っているからこその全面対決だったのかと。青森さんがこの対照的な題材を選んだのは、勝負をかける意図があったんだなあと感じました。
今回は30分という持ち時間のため青森さんの「髪結新三」は前半のみで「続きは翌日のしぶらくで」と期待を持たながら終わりました。後半が気になった私は詳細を確認するためにしぶらくのホームページを訪れましたが、配信はされていないとのことでとっても残念。落語の一期一会の魅力を実感した瞬間となりました。

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