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「渋谷らくご」一之輔シリーズ:渋谷で一之輔8月10日(土)17:00~19:00立川談洲 春風一刀 柳家勧之助 春風亭一之輔 #シブラク

筆名:miko 
Xアカウント:https://twitter.com/miko_andola
接客と販売が好きすぎるアパレル社員。落語を聴き始めて丸4年とちょっと。怖い噺はちょっと苦手。運動はとても苦手。落語会に着ていこうと新しい浴衣と帯を買ったにも関わらず、いまだ出番無し。落ち込んだ時は落語とあんこで自らを盛り上げる。とても大雑把。

8月10日(土)17時~19時
「一之輔シリーズ:渋谷で一之輔」
立川談洲-水神
春風一刀-大工調べ
柳家勧之助-棒鱈
春風亭一之輔-へっつい幽霊
 
大入り満員!!
隙間無くお客さまで会場が埋まっているー!なぜか嬉しい。わずかに空いていたところを見つけてなんとか着席。ほっと一息ついて、渋谷らくご公式読み物「どがちゃが」を見ると、一之輔師匠は10年前、渋谷らくごの筋道をつけてくれた大恩人なんだそう。やっぱり凄い人ってあらゆる面で凄いなあ。
 
開演後、サンキュータツオさんご出演の渋谷らくごを楽しむ為のポイントコメントが正面のスクリーンに映し出されたので、今日はサンキュータツオさん、お休みの日なんだなと思ったら、ご本人登場でびっくり!
昨日、地震があった事を踏まえ、緊急時の避難経路などの追加説明をしてくださいました。
それで初めて知ったのですが、渋谷らくごの会場「ユーロスペース」は渋谷の避難場所に指定されているそう!それぐらいしっかりした建物だということで、より安心して、落語を楽しむ気持ちを作る事ができました。
 
それにしても、どこに座っても高座が見やすい。これ、多分、毎回言っていると思うんですけれどね。今回は特に、満席のお客さまなのにこんなに見やすいって凄いなって思ったので。
私、かなり後ろの方に座ったのですが、ちゃんと高座が綺麗に見える。座席ガチャで泣くこと、落語会あるあるだったりしますよね。仕方が無いことではありますが、出来たらどこの席でも同じように楽しめたらいいなって思ってしまうので、すっごく嬉しくてお伝えしてしまいました。
 
 

■立川談洲さん-水神


人にどう思われているか?すごーく気になってしまって、何度か足を運んだお店で「いつもありがとうございます」と挨拶されてしまうと、覚えられちゃった!と感じて、もうそのお店には行けなくなってしまうという談洲さん。その気持ち、分かるなぁという方、以外と多いんじゃないでしょうか。逆に、常連扱いされたい方も多そうですけれどね。
凄く丁寧だけれど、謎が深い店員さんのお話から、相手から見た自分はこう思われているんじゃないか?と、勝手に思い込んでしまう事ってあるよね。という流れで「水神」へ。
談洲さんの水神、ネタおろしでお聴きした時から、もー大好きで!
もしも、私が席亭になって、談洲さんをお呼びすることになったら、絶対に演って欲しいお話の一つなんです。ちなみに席亭になる予定は残念ながらないのですが…。「もしも私が席亭だったら妄想」って、らくごファンあるあるですよね。(あれ?私だけ??)
水神の簡単なあらすじを少し。
女房に逃げられ、ちいさな乳飲み子を抱えて途方に暮れていた杢蔵さん。その乳飲み子を見るに見かねて世話をするようなったお幸さんと家族三人、幸せな日々を過ごしていたが、実はお幸さんは水神様お使い姫のカラス。ひょんな事から杢蔵さんに正体を知られたお幸さんは、真っ黒い羽織を置いて、家を出て行く。お幸さんが出て行くと、なぜか杢蔵さん以外の人の記憶からお幸さんの記憶がすっぽりと消えていて。一人、お幸さんの事を忘れられない杢蔵さんは…というような内容なのですが、とにかく談洲さんの水神、場面転換がすごい。
ある表現を入れるタイミングで、場面が入れ替わるんですが、それが繰り返されていく度に、段々と深い森の中に迷い込んだような感覚に陥ります。まるで物語の中にいる自分が、その薄暗い森に放り出され今どこにいるのだろう?とキョロキョロしてしまうような。そして、最初のまくらの意味がここで分かってきます。人は自分が見たいようにしか見ないし、信じたいものしか信じない。そして、それが不幸なのか幸せなのかは本人にしか分からない。
最後は、思うようにならない現実を生きなければならない悲しみの中、思うようになって良かったなとホッとする気持ちに。
でも単純に喜べない気持ちがじわり。
ふと考えてしまったんです。なぜ杢蔵さんの中にだけお幸さんの記憶を残したのだろうという事。それは愛なのか、欲なのか。そしてそれは誰の愛であり、欲だったのか?と。
この落語を聴くと、宮沢賢治の「よだかの星」を思い出すんですよ。星になったよだかは幸せだったと私は信じています。そして、杢蔵さんも。
そう思わなければ、悲しすぎて辛いからかもしれません。
 

■春風一刀さん-大工調べ


続いては、春風一刀さん。
「こんばんは!」の問いかけに反応の薄い客席に「あれ?」と再び「こんばんは!」。再度チャンスを下さって有り難い!そして、レスポンス下手くそでごめんなさい!
見る度にほっそりされている気がする一刀さん。以前、一刀さんのブログを見に行ったら、3桁の数字が3つ並んでいるだけの内容で、「え?暗号?怖…。」と思っていたら、現在減量中で、毎日、体重、BMI、体脂肪率を記入しているよう。その継続力や、目的に対して一歩ずつすすんでいける姿勢がすごい。怖いって思ってしまって本当にごめんなさい。
兄弟子が裏で見ているから緊張すると言いつつ、江戸っ子は五月の鯉の吹き流し…というフレーズから「大工調べ」へ。大工調べ…。「大家さん、そんなに悪く無くない?滞納した家賃、ちゃんと払ってくれない上に、お金をぞんざいに扱う棟梁の言葉にイラッとするのわかる。」と、どこか納得いかない気持ちで聴いてしまう事が多い私なのですが、一刀さんの大工調べは、とっても楽しかったし、納得いかない気持ちが沸かなかったんですよ。
それは、大家さんが一瞬、棟梁の言葉に耳を傾け、向き合い、譲歩しそうになるところとか、きちんと丁寧に謝る棟梁の姿に、大家さんそこまで意固地にならなくても良いんじゃないかな?と思えるやりとりなど、どちらかが一方的に高圧的ではなく、二人の会話や態度が、同じようなパワーバランスに感じられたおかげなのかなと。
そして、何よりも与太郎さんの存在が大きかった!一刀さんの演じる与太郎さん、すごく物覚えがいい。棟梁の言葉を一度聞いただけでしっかり記憶。そのままきっちり伝えちゃう。でも、追撃で「おまえもなんか大家に言え!」って棟梁に言われると、ドギマギしちゃって、持ち前の記憶力の良さは保ちつつも、ちょっとへんてこな内容に変換。それがわざとらしすぎず、とても自然なかわいさになっているところは、一刀さんだからこそなんじゃないかなと感じました。
大工調べって、棟梁の言い立てを楽しむお噺だと勝手に思っていたのですが、与太郎さんのかわいさや素直な言葉を楽しめるお噺でもあるんだなあと改めて感じました。思い込みはもったいないですねー。
 

■柳家勧之助師匠-棒鱈


勧之助師匠の高座を拝聴するのは初めて。シブラクで新しい出会いをいただくことが多いのですが、その出会いが素敵すぎて、毎回、出会えて良かった!と思います。
今回もそれをものすごく思いました!
満席のお客様をみて、この瞬間、この場所にいる人達全員が、もう二度とこの場集まることはない。人の出会いは一期一会。というお話から、不思議な糸でつながった感覚を覚えたお客様のお話などを楽しく聞かせていただき。まくらの時点できゅーっと心を鷲掴みされました。楽しい。あかん。やばい。楽しくなると、語彙力無くなるので、ただでさえダメダメなレビューがより書けない!ちょっと落ち着いて、私。
 「棒鱈」も最初から楽しい。男二人で飲んでいるのがちょっとつまらなくなって、芸者を呼びたいけどお金がない熊さん。寅さんに申し訳ないと言いながら、実はとってもお願い上手で、最終的にはしれっと寅さんに奢ってもらっちゃうとこや、熊さんと寅さんのお隣で宴会しているお侍さんの「アカビロビロノショウユヅケ」「エボエボボウズノスッパヅケ」という謎ワードから、「モぉズぅノクツバスぃ」「ジューニガチぃ」「リューキュー」(*私の耳に届いたままを明記。)と、歌が続くのですが、勧之助師匠、お声が良くて、とっても歌が上手い!そのおかげでフツーに楽しすぎて、その歌をずっと聴きたいなあと思ってしまうとことか。そうそう、都々逸が好きな寅さんとお侍さんの歌バトルも!
特に私が大好きになってしまったのが女将!客の意見を全部受け止めて、ほどよく返す。接客業の鏡のような女将。寅さんがはばかりに行く途中に、酔っ払ってお侍さんの部屋に乱入。そこでアカビロビロ祭り?が始まっちゃうのですが、そんな緊急事態にも、素晴らしく冷静な返しをする女将がもう好きすぎます。
棒鱈の女将がこんなに素敵で面白いと感じたのは初めてかも?棒鱈は元々好きなお噺の一つなのですが、新たな魅力を知り、より楽しく聴くことが出来ました。
 

■春風亭一之輔師匠 へっつい幽霊


 すべての演者さんに対して言えることですが、書きたい気持ちは山ほどありつつも、落語初心者の私なんぞがレビューなんて書いていいんだろうか…という気持ちがどうしても拭いきれない。それを今回は特に感じました。だって、今をときめく一之輔師匠のレビューなんて恐れ多い。
落語界だけじゃなく、「どがちゃが」に書いてあるとおり、シブラクとしても特別な師匠ですし。
 
書きますけれど。(書くんかい。)
 
落語を浴びて帰って下さい。という言葉とともに、この回の後にある柳家緑太さんの「おしゃべり緑太の会」も見ていってと宣伝。優しいなあ。
一之輔師匠は基本、振り返りの人生なんだそう。人の揚げ足取りながら生きているともおっしゃっていましたが、いろんな人に積極的に関わっていかないと揚げ足って取れないから、揚げ足という名の応援もあるのだろうなーと勝手に思ったりしていました。
夏らしい噺を…と「へっつい幽霊」。実はこのお噺、初めて聴きました。へっついとは簡単に言うと昔のかまどのことなんだそう。雪でつくるかまくらみたいな形でその上に釜を置いて煮炊きする。へっついを漢字で書くと亀という字にギザギザがついたみたいなやつ!という表現から、親子の会話でそれをさらに深掘りして説明してくださり。それが、面白すぎて頭に残る!
気になった方はぜひ「へっつい」をスマホやパソコンで変換してみてください。私は実際にやってみて、「おー!」とひとり盛り上がりました。
*めんどくさい方は、このレビュー最後にへっついの漢字を記載しておきますのでご覧下さいませ。
 
道具屋さんが売りに出しているへっつい。一旦売れても、幽霊が出るという事で毎回返品になってしまう。その風評被害で他の物まで売れなくなり、困った挙げ句、一円をつけて誰かにこのへっついをもらってもらったらよいのでは?と、道具屋さんのご夫婦が話していたところ、たまたまそれを塀越しに聞いた熊五郎が、その一円付きのへっついをもらいに行こうと考え、それを運ぶために、鼻歌をうたいながら通りかかった若旦那の銀ちゃんを仲間に入れようと呼び込むんですが、その銀ちゃんの鼻歌がディープ過ぎるー!こういうレアポイント、楽しすぎるんですけれども!
その歌の題名が思い出せず、帰ってからすぐ検索してしまいましたよ!検索したついでに、そこら辺の情報がたくさん出てきちゃって、ずっと楽しんじゃいましたよ!なんですかこれ。落語会の後の楽しみ方として合っていますか?へっついの漢字表記と合わせて、お土産付きの気分なのですが。
もちろん、そういったレアポイントだけでなく、一之輔師匠の落語に出てくる人達の会話を聞いていると、とても楽しそうで、それだけで顔が勝手にふにゃふにゃとにやけてきちゃいます。
熊五郎と銀ちゃんの会話を聞きながら、友達っていいなーと、しみじみしちゃったりして。
わがまま言ったり、泣いたり、お願いしたりと、距離感はとても近いのに、それぞれの好きな事にお金をごっそり使っちゃう事に対しては何も言わない。そういった、人のダメさの中にあるかわいさとか、素直な自由さ、それをまるっと受け止める空気をお噺全体から感じさせてくれるからでしょうか?
二人の会話にずっとにまにましてしまう中、さらにへっついについていた幽霊がまたとても人間っぽくて(いや、元々人間なんですけれど)、さらに笑っちゃう。
もう楽しすぎました。帰りは、もちろん銀ちゃんが歌っていた歌を、心の中で歌いながら帰りました。
 
 
四席とも全然タイプが違っていて、フルコース食べたみたいな満足感がありました。
こんな贅沢な時間、いろんな方に味わって欲しいなあ。
 
★へっついを漢字で書くと、竈もしくは竃と変換されました。確かに亀がギザギザしている感、あります。



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