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幼い私を追わないで、と彼女は言った。

その日は雲一つ無い快晴だった。雨はコスの天敵だから、さすが女子に優しいアーティストだなと感心しきり。

待機場所となっている会場の2階にはファンが集まり、思い思いの時間を過ごしていた。私も久しぶりに会えた方や、ついこないだも会った方とお喋りをしながらも、頭の片隅にあったのは「今日のライブで何が起きるのか」だった。

話は遡り、2/25(土)の夜に公式が一つのティザー映像をアップした。それはワンファメンバーの中3時のアー写と、アオハル白書のロケ地で空を見上げる四人の画像が次々に写り、ヒビが入って砕け散り、4/9にライブを行うと言う内容だった。

これには驚いた。青天の霹靂だった。今まで(おそらく)意識的に避けていたさくら学院カラーをここで前面に出して来たから。しかも、ちょうど高校を卒業するタイミングのライブだったから。

誰しも「何かが起こる」と期待した。
「クロスロードか」「卒業式か」と色めいた。
しかし、話はここからだった。

3/25には「髪の長さや色が変わるかも?」と言う画像がアップされ、3/30にはルーズソックスの画像、3/31には4人の後ろ姿の画像、そして4/1には髪色が鮮やかに変わり、制服をモチーフにしたような新曲「Chance」の衣装がアップされた。連日のスピーディな動きだった。

私はと言うと、衣装の色味が気に入った。青緑と言うか錆浅葱(さびあさぎ)と言うか、とにかく好みの色だった。話は変わるが、今は無き欅坂46の最初の衣装の色味やデザインも好きだった(閑話休題)。

髪色も良かった。と言うか、すでにそよちゃんは推し武道で色を変えていたので特に気にならなかったし、私はどうやら「美しければその表現方法に頓着しない」タイプらしかった。

ただ気になったのは「さくらの楽曲は歌わないだろう」と言う事だった。あのティザーはあくまで「さくら学院からの脱却」の直喩であり、ライブの内容とは関係が無かったのだ。その結論は、正直に言うと寂しかった、と同時に、身震いする現実に気付いた。

チーム@onefiveは賭けに出たのだ。

一ヶ月前にある種の禁じ手を使ってチケットを売り、直前に「(そんな事より)今の私達を見て」と言ったのだ。もしライブでそっぽを向かれれば、もう次は無い。だって彼ら(の一部)が観に来たのは名門女子校をモチーフとしたアイドルのステージだったから。ノスタルジィそのものだったから。

「それでもやるのか、やるんだな」とこちらも腹をくくり、時間はこの話の冒頭に戻る。

その時は突然やって来た。BBBの声出しVer.を歌いきり「大学生になった」「友達が出来た」と言う和やかなお喋りの中で、ももちゃんは不意に言った。

過去の楽曲を歌うことは無い
いつまでも昔のままではいられない
私たちは変わり続ける
そんな私たちを応援して欲しい

言葉は強すぎず、弱すぎず、まっすぐ客席を見ながらそう伝えた。

ああ、これが父兄への答辞なんだと思った。なんて誠実な言葉だろうと思った。幼い私を追わないで。ほら、もう行くよ?と言われた気がした。古い湿布のようにへばり付いた憑き物がボロッと背中から落ちたのだ。

私たちに向けて振り返ったのはこれが最後で、彼女たちはもう後ろを振り返らずに駆けて行こうとしている。

或いはここで足が止まるファンも居るだろう。いや、正直に言おう。居た。彼らは違うものが観れると思ったのだ。あのティザーを観て来た彼らに非は無い。そうなる客が居ると分かっていてあれを流したのだ。それでも、そうしなければならなかったのだ。sold out と言う実績のために。このケジメを伝えるために。

やるじゃないかと感じた。そんな手も使えるんだなと口角が上がった。言われるまでも無く、とことん応援するつもりなのだ。好きにしてくれ。鬼でも蛇でも出してくれ。そして、美しい歌と踊りを見せてくれ。

最後に、この話はライブの感想ではありません。私が選んだスターの卵たちの美しい決意の話です。お読みいただき、ありがとうございました。

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