角野隼斗×亀井聖矢 2台ピアノコンサート

はじめに

自分と公演のチケットが手に入らなかった2人の友人に伝えたくて書いたnote。盛大にネタバレしていますので気にされる方・目にされたくない方はお手数ですがこのまま閉じてください。ただこちらの公演の振替が数ヶ月先であること、お二人が日々著しく進化されていることを考えると、同じプログラムといえそちらの公演では、かなりこなれて精度を増したものを提示される可能性は高いと思われ、私的には支障ないかとも考え公開に踏み切ることにしました。。

※文章中の言葉などは断片的に残したメモから組み立てているので、そんな感じのお話ととってください。内容自体は違わぬよう気をつけて書いたつもりです。抜けていたり言葉がちがうものがあるかもしれないことをまずはお詫びしておきます。




2022.08.04 今日も暑い。朝方ざっと降った雨が嘘のようにギラギラと太陽が照り付ける。昨晩のぞいたインスタのストーリーのマンハイムの夕刻の景色に続いてあがった今日の公演のホールと38℃の気温予想とゼーハーする絵文字が思い出される。もう数日前のコンサートもフジロックも過去のこと。そう思ったらなんだか残しておかなければ後悔するような気がして、仕事から帰ってくるやいなやパソコンに向かっている。

むろん公開するつもりはなく、ほぼ自分のための文章。だから気楽に書いてみる。当日とったメモと薄れゆく記憶が頼り。。

HAYATO SUMINO × MASAYA KAMEI   2022.07.30

愛知県芸術劇場

その日は朝からまぶしいほどの太陽が顔を出し、暑い日になることは容易に想像できた。テレビから今日の最高気温予想は35度超えと流れてきて、いつもの休日の自分なら外に出かけるのが億劫になりそうな天気。だがこの日はそんなことはどうでもよかった。雨具が必要かどうかそれだけの確認のための天気予報。

少し遡る7月8日、オフィシャルサイトより角野さんの疫病感染が発表された。海外から帰国直後の事。それによりこの2台ピアノコンサートの東京、静岡、大阪の全4公演のうちの3公演目までの開催見合わせが発表され、千穐楽予定の名古屋公演が初日となったのだった。

本人は10日間の自宅待機(Twitter投稿を見ると医療機関に滞在された感じもうけるが)を経て19日に活動再開発表。21日には復活YouTubeライブ。Twitterの言葉は元気だし、ライブはフジロックを意識されたものとあり(暗くて顔はよく見えなかった)また一つ何かステージを上がったような印象を受けるほどだったけれど、自分としては生の姿が音が見て聴けるこの機会が待ち遠しかった。少し前ならそんなことは微塵も浮かばなかった無事を確認したい、という意味でも。

直前にTwitterで二人から公開された自作曲のリハの様子に否応なくテンションが上がる。わずか10秒と25秒で心を奪っていくのはずるい。赤ジャケット姿の角野さんがふと思い浮かんだ。



愛知県芸術劇場へは開場の13時過ぎに着いた。コンサートホールは建物の4階部分。地下鉄から直結している通路を使いエレベーターで直接上がる手もあるのだが、3階のエスカレーター横にある公演案内の札を写真におさめたくてちまちま上がる。幸いにもまだ混んでいないため撮ることができた。

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かっこいいなぁ、、心の声が外に漏れていそうだけど、きっと他の人も同じと開き直る。国際コンクールでも成績を残すほどの二人でビジュアルも強い。特に最近の角野さんは変わらない中に大人の雰囲気をまとう時があり、ドキッとする時がある。大変な公演に来れる機会を手にしたものだ。

チケットを手渡すとすぐの長机に用意されていたプログラムをとって先に進むように言われる。まるでA4ポスターのような二人それぞれの写真。後ろの人のことも気にしながら立ち止まらないように一部角野さんの写真のを手に取って進む。あ、さっき写真を撮ったのと同じかも。あれはプログラムだったんだ。表に文字はない。ogata氏の写真。中にも2人の写真とシンプルな曲目のみ。この時の角野さんはショール・カラーのタキシードにスタンドカラーのデザインシャツ。アダム氏のところでのラフマコンチェルトのコンサート告知に使われた写真と同じだ(私はこの組み合わせが好きだからうれしい)。亀井さんはピークド・ラペルにボウタイ。セミバタフライかな。アメリカ式とイギリス・ヨーロッパ式で個性を分けた感じなのか、いいバランスだと思った。

会場に入る。席は一階6列目。下手側寄りでちょうど第一ピアノの手元もペダルも見える位置。席を探しつつ舞台のピアノに近づくと、2台がとても近づけて置かれていることに気づく。まるで一つの黒い大きな塊のように見える2台。去年小曽根さんと上原さんの2台ピアノ公演の時に比べると間隔が少し違う気がする。調律師さんが作業していたけれど、まだあまり人がいない間にと写真を撮った。

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そうこうするうちにホールが埋まりだす。女性が多いかな。ご夫婦という姿も見かける。なんとなくそわそわした空気を感じる。

公演開始のアナウンスが流れ出入口が閉められる。

ライトが落ちた。静まりかえるホール。

下手からにこやかに角野さんと亀井さんが登場。ほぼプログラムと同じ出で立ちだけれど、角野さんは後ろのシャツを出していてこなれた感じ。第一ピアノに角野さん、第二ピアノに亀井さんが腰をおろす。

1曲目 バーンスタイン(角野隼斗編曲)「キャンディード序曲」

あとで角野さんからアナウンスがあるのだけれど、この公演で演奏されるものはできるだけ二人で手を入れて編曲と作曲をしようと決めたらしくこれは角野さんの編曲。1音目からとても鮮やかで楽しい旋律がホールにひびく。テンポも軽やかで速い。2台ピアノの音がコロコロと転がり駆け回るのだけど、まるで音が「ようこそ!」と二人の代わりに挨拶して回っているよう。予習で聴いていったのと全然違ったし、あぁ幕が開けたな!とそう思わせてくれた編曲と演奏。

MCが入る。「暑い中お越しくださりありがとうございます。角野隼斗です。」と挨拶された後、亀井さんの方を左手で紹介されるように。続く亀井さん「亀井聖矢です。」へへへっ…って顔を見合わす。仲のいい感じに思わずこちらも笑顔になる。角野さんからさらっとダウンしてしまって今日が初日になる話。そして亀井さんから「2年前に2台ピアノを配信で開催してから2年ぶりでうれしいです。(中略)続いては僕がこのツアーのために作曲したものなのですが、最初20~30分のをかいていたのですけど、さすがにご多忙な角野さんにそんな長いのを譜読みさせるわけにはいかず12分くらいにキュッとしました笑。4部構成になっていて、第1部は華やかに、続いて不安な感じを、3部では軽快に、最後には全部合わせて怒涛の追い上げで駆け抜けます。今日2000人近くの方に聴いていただけるのうれしいです。」角野さんがさぁピアノへと動きかけたところに、亀井さんが曲の感想を求める。角野さん驚き?笑いながら「譜読みが大変で笑、かっこいいしキャッチーなところもあって…現代音楽の不協和音とかあってゾクッとすることころもありますね。」亀井さん客席に向かって「楽しんでください。」

2曲目 亀井聖矢「2台ピアノのための共奏曲」 

亀井さんから弾き始め、角野さんの旋律が素敵と思ったのもつかの間これは本当にピアノだけで弾いている曲なのか?と思うような展開で、弦の音も管の音もしてくるような壮大な楽曲ということに気づく。2部は一気に不穏な世界なのだけど、これが宇宙でゆらゆらしている感じの初めて感じる感覚、現代音楽は私は苦手なはずなのに、どこか不協和音でない不協和音が気持ちいい。席から亀井さんは顔だけしか見えないのだけど、角野さんはiPadで楽譜を確認しながら、かつ亀井さんと時折目を合わせながら。3部の後半からすごく美しいすべてを歌いあげるみたいになって最後まで!書きながらものすごく断片的にしか覚えていなくてメモを頼りな自分が嫌になるのだけど、全身が反応する曲。たとえるなら交響曲、そう。 

大きな拍手。二人で一礼をして舞台下手にはける時に、お互いの腰に手をまわして戦友が闘った後に称えあうみたいなところほほえましかった。ドアの前で一瞬お先にどーぞどーぞのお約束付き。

3曲目 ショパン ノクターン第 13番 ハ短調

下手から角野さん1人が颯爽と登場。角野さんのソロ。静かな静かなノクターン。弱音の美しさや音粒の際立ちはさすが。ショパコン1次の1曲目、何かを訴えかけるような、静寂の中に熱がちらちら漂うあのノクターンも大好きだけれど。

4曲目 ラフマニノフ 組曲第2番 作品17

2人で下手から登場。すぐマイクを握った亀井さんが「素晴らしいノクターン。僕の作った空気を元に戻してくださってほんとさすがです。」と。亀井さんから角野さん好き好きオーラが出ていて思わずほっこり笑ってしまう。そのあと、やっと2年経って生でお届けできますという言葉があってからの演奏。第4曲のタランテラは2年前のリモート連弾がYouTubeに残っているが第1から4まで生で聴けるとあって密かに楽しみにしていた。ここで私のメモが一旦途絶える。2人の演奏に圧倒されたのだ。ぽーっと聴いている間に終わってしまった。我に帰ったのはタランテラで2台で揃うべきキメの和音がずれた時。その一回はタランテラの最後の最後だった。角野さんの表情になんとも言えない笑みが一瞬浮かんだ。それを見て私はやっと、2台ピアノとはなんと困難なことなのかと思い及ぶ。それまでの楽曲の美しさは驚くほど多くの音数がピタッとはまって生み出していたという奇跡に気づいたのだ。いや奇跡ではない、二人の技量と気概と楽曲に対するリスペクトがなせる業だった。

大きな拍手がまたホールに広がる。そして休憩。


5曲目 マルケス ダンソン第2番(亀井聖矢 編曲)

下手より二人登場。少しMCが入る。亀井さんが楽しくひけました、温かい拍手もうれしかったと話をし、その後角野さんがダンソンについて最近の曲であることと少し流行りですかね、なんて話をして和やかな雰囲気が流れてからの演奏だったのだが、これがすごかった。予習をして聴いていたダンソンより数倍増しでドラマチックな編曲。あやしく切なく妖艶な感じで魅せられたままはげしさを増していく。亀井さんのリズムに角野さんがのっかり髪が揺れるくらいに激しくと思いきや、ゾクゾクする角野さんの低音が響く。編曲がすごいのかこれにのせてくるリズムが絶妙なのか、いやそれのどちらもなのだろう。2台で生み出すものが2台分どころではないのだ。そしてそこから驚く音の渦巻く最後のたたみかけ!もう圧巻のダンソン。

これこの二人以外に2台ピアノ成り立つスコアなんだろうか、というのが真っ先の感想。この公演でまた聴きたい曲を聞かれたら(オリジナル曲はのぞいて)私はこのダンソンをあげると思うほど、たまらない演奏だった。

その後またMCがあり、ダンソンがメキシコ人の作曲家アルトゥロ・マルケスのものでキューバの2拍子の舞踏音楽からきているというような話のあと亀井さんのスカルボの話へ。この曲はクライバーンで弾いたこと、今日はみなさん審査員になった気持ちで聴いてください、怖い曲ですけど笑楽しんでくださいと。

6曲目 ラヴェル 「夜のガスパール」より スカルボ(亀井さんソロ)

亀井さん第一ピアノに座る。正直クラシック初心者の私にはクライバーンで聴いた時もこの曲の良し悪しはよく分からなかった。ただホール内がものすごくピンと張りつめた空気に変わったことや、それが一瞬ゆるむ時の安堵感は肌で感じた。亀井さんはこんな荒々しく危険なにおいのする音も出すのだと生音ならではの感触を味わいながら息をひそめて聴いた。最後ピアノから手が離れても数秒ホールは静まりかえったままだった。。大きな拍手。

そこへ下手から角野さんが登場して「すごかったですね、空気が引きしまりましたね。」そして自身の新曲の話へ。「1年前から2台ピアノコンサートのために新曲を作る話が出ていて、亀井くんがマリアカナルスで3位をとった時にバルセロナに僕見に行ったんです。18時間のみの滞在だったんですけど、亀井くんの情熱的なピアノとスペイン音楽と僕のリズム感がいかせるんじゃないかと思って曲を作りました。(中略)「エル・フエゴ」というのはスペイン語で炎という意味です。」「亀井くん、この曲どうでした?」ふられた亀井さん「かっこいい!ボクから言うことはないです笑」ともうその一言に尽きるって感じでにこにこ顔。

響く低音の色気とかあやしく翻弄する感じにアルペジオが情熱的に響くのが印象的な曲。3拍子と2拍子の混合リズム?。時折生娘が顔を出したかと思うとまた大人の女性が顔を出すような、奔放な女性がどんどんまわりを魅了して巻き込んでいって虜にするイメージ。「エル・フエゴ」その名がふさわしいと思った。二人から発せられるリズムの熱がホールを飲み込む。これをその短い滞在で作曲できる感性とはもう驚きでしかない。弾きおわりと同時に大きな大きな拍手。二人そろってお辞儀をしていたはずなのに、亀井さんが少し早く顔をあげ満面の笑みですごくうれしそうに角野さんに拍手を送っている。この弾いている時と弾き終わったあとの二人の仲良しぶりがたまらない。

7曲目 亀井聖矢(角野隼斗編曲)パガニーニの主題による変奏曲

これに関してはただただ聴き惚れたとだけ。角野さんのオリジナル曲以降メモを取れるような状況になかったから今もあまり思いだせない。クラシックでも、今聴いてとても刺激的でかっこいいと思った。他の人をよく知っているわけではないが、この二人の編曲って現代にクラシックを蘇らせるタイムマシンみたいだ。どれだけのインプットとアウトプットを繰り返すと人にこんな感動を与えられるんだろう。


アンコール カプースチン トッカティーナ

角野さんが下手から一人で登場。確か人差し指を一本立ててもう一曲みたいなしぐさをしたと思う。おもむろに第一ピアノにむかうと弾きだしたのはトッカティーナ。前々日のライブでも聴いていたしYouTubeにアップされたものもどれくらい聴いたかわからない。(中毒だ。)だが生の演奏の疾走感跳躍感には痺れた。とにかくグルーブ感を伴って音が走るのだ、ジャズもロックも感じる音、少し背を丸めながら一心不乱に打鍵する姿はかっこいいのほかなかった。まさか聴けるとは思っていなくてうれしくて小躍りししたくなった。公演で温まったホールがまた一段とヒートアップ。とにかく最高。

アンコール2曲目 リスト ラ・カンパネラ

下手から亀井さんが登場。第一ピアノへ。もう亀井さんの十八番。弾き始めると同時におそらく聴衆ほぼ皆がうっとりとため息したと思う。華麗な美しい音運び、亀井さんのピアノの音も本当にきれいだ。これはアンコールじゃなくて今日の公演の第3部みたいじゃないか…と思っていたら、こそこそっと舞台上手から角野さんが登場。いたずらっ子っぽい笑みを浮かべて第二ピアノに近寄る。ホール内からさわさわと抑えた笑い声の波が起こる。亀井さんがトリルで様子を見ていたかと思ったら、そこから2台ピアノのラ・カンパネラが!!これにはもう言葉がつけられないくらいの盛り上がり。ホール内が沸きに沸いていたと思う、もちろん私も。終わると同時にスタオベ。会場かなりの人が立ち上がっていたと思う。

角野さんが、演奏後にこんなにも盛り上がるとは思わず、、と言っていたけれど、こんなサプライズしかけられて正気でいられるわけがない。みんなが笑顔で二人も笑顔で。そのあと先に書いたこの公演のテーマは今二人でできること全力で届けられるものをと思い編曲と作曲をしたことの話と、プログラムのQRコードの話。ここから感想を送ってくださいとのこと。プログラム、美しさにこだわって余計なものの説明は省いたんだろうな。最後の最後亀井さんが「楽しかったです。幸せでいっぱい。」とひと言。もうその言葉が全てを語っているようで、ホール内の人全ての人の気持ちも代弁しているようで胸がいっぱいになった。その後角野さんが短い曲をもう1曲だけと。

アンコール3曲目 チャイコフスキー トレパーク くるみ割り人形より

2台ピアノで奏でられるリズミカルでパワーあふれる演奏。今日はありがとう!明日からもがんばってね!って言われているよう。

弾き終わりと同時に大きな大きな拍手とほとんどの人がスタオベ。舞台の二人の幸せそうな笑顔。これだな、私は演奏や音や人柄にひかれるだけでなくこの聴く人や一緒に演奏する人をハッピーにしてしまう力にやられているんだ。そして特に角野隼斗という人間は音楽がそばにあれば幸せでい続けてくれるに違いない、とそう思った。クラシックやらジャズやらロックやら…いろんな音楽はあるけれど、彼にとって自分も人も笑顔になれるものは全て「音楽」ひとまとめ、それは鳥の声も風の音も全部含めて。

何度もいろんな方向にお辞儀をして手を振って。なりやまない拍手に袖にはけてはまた出てきてくれて。はける時にどっちが先みたいなやりとりが毎回くらいにされるのがかわいくてしょうがないのだけど最後の最後、姿がドアの奥に消えて閉まりかけたドアの隙間…私の位置から見えたふりかえって合掌する手。。誰にも見えないでしょうに。。。

この後の振替公演も沢山の方に音楽の素晴らしさが届くことを願っています。そして二人がずっと音楽と舞台の神様に愛されますように…。すばらしい公演でした。ありがとう。。


思うままに一気に書きました。初めてのnote 。段落とか見出しとかもわかってないけれど、公演の様子をほんの一部分でも必要な人に伝えられたら。

長く稚拙な文章をここまで読んでくださってどうもありがとうございました。

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