沢田蒼梧 ピアノリサイタル 2022.09.10

2022年9月10日 名古屋 三井住友海上しらかわホールでの沢田蒼梧さんのピアノリサイタルヘ行ってきました。

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チケットを取ったのは今年3月末のこと。
同月の紀尾井ホールでのショパコン使用のシゲルカワイを入れてのリサイタルに伺い、沢田さんの音とお医者様の卵ならではの志に深く感じ入り、今回はチャリティーコンサートということも聞いてすぐに申し込んだのでした。


ホールに入ると募金の小さなブースが設けられていました。この公演に込められる意味を感じた最初の瞬間。(ささやかながら協力させていただくとかわいらしいバスソルトを頂きました。)

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【プログラム】
・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第23番 へ短調 作品57「熱情」

・ラフマニノフ 「楽興の時」作品16より 第1番 第3番 第4番

・ショパン 24の前奏曲 作品28   

     (使用ピアノ スタインウェイ)  

◎ベートーヴェン「熱情」
慈愛に満ちた温かい音にふと気持ちが緩むのと、それらの安堵を全てほおりなげるような激しく狂おしい音とが、くるくると入れ替わり立ち代わり広がる情景がとても美しく切なく迫るようでした。一直線で進んでいくようなメロディの疾走感が出ればいいなと思って弾いたと後のMCで。

◎ラフマニノフ「楽興の時」作品16より 第1番 第3番 第4番
私がこの曲を知ったのはマルティン・ガルシアガルシアのリサイタルでのこと。
アンコールで第4番を聴き、衝撃を受けてこの曲がどういう曲なのかを知りたくて帰り道に調べたのはついこの間です(クラシック初心者です)。
第1番と第3番は知らなかったので予習はしたものの、聴くポイントが定まらずにいました。
沢田さん、MCで曲の解説というか、ここをちょっと意識して聴いてみて下さいね、とさらりとお話されるのが分かりやすくて楽しみでもあります。
この曲について、第1.3.5番はゆっくりした曲、第2.4番は速い曲。変奏曲みたいですね。第1番「大人な雰囲気でワインとかが合いそうな(中略)中間部が好きです」、第3番「悲しみを一歩ずつ。。ロシアの広い雰囲気を伝えられるといいな」、第4番「ガツンとくる。アンコールでも人気の曲。それまでのとの対比を伝えられるといいと思っています」と。(ざっくり書きました)

それらを踏まえて聴く「楽興の時」
第1番 酸いも甘いも噛み分けて少し疲れた?大人の落ち着いた感じ。憂いのある音からふと顔を出す明るい音、でもすぐそれは消えてしまう。安泰と翻弄と混沌とした感じ。高音の残響が澄んで美しい。

第3番 重さのある和音の重なりが何とも言えない悲哀を感じさせる。なぜか私はこの第3番にとても惹かれました。丁寧なタッチの音が棘のように胸に刺さるというか。最後の静寂たっぷりと。

第4番 力強く荒々しく何かに立ち向かうような挑むような。第3番からの続きと思うと沢田さんの重厚に響かせる音が、鬱々としたものに対する破壊的な何かを感じさせる演奏。最後のパッと弾ける和音に何とも言えぬ感動が沸く余韻。

(休憩)

◎ショパン 24の変奏曲 作品28
今年から取り組まれたという24のプレリュード。ショパンコンクールの曲からは少し離れみたらという関本先生のアドバイスからとのこと。
また曲の説明をしてくださって作品番号の奇数が長調、偶数が短調で24の調性全てが使われていること、1頁足らずから長いものまであること。

心に残ったのは「草原にいて風が吹いてきてそれぞれワクワクしている。草原で寝ながら、昔の思い出を振り返りながら、、という場面を想像しながら聴いてみてください。」という言葉。
そんなことを思ったことがなかったので目からウロコ。
(でも1日は24時間であること、月が上弦と下弦の状態を12回ずつ計24回で1年が成り立っていることを思うと、24の調性で表現されているものは、人にとっての一生に出会うものの集約なのかも知れないなと後から思ったりしました。(ちょっと飛躍しすぎる感ありですけど、なんだかそう思ったのです)

長い曲だとなかなか集中が難しいと言われていたけれど、ものすごい集中力で弾かれていました。厚みのある音から繊細で美しい弱音。詳しくない素人なりに、ハッとするところがそこここに。
個人的には第4番と第7番、第15番、第23番からのラストが好きでした。

◎アンコール(2曲)
 ・ショパン 子守歌
 ・ショパン 英雄ポロネーズ

(この2曲は紀尾井ホールでのアンコールと同じだなと後から気づきました。)

子守歌は優しい優しい音で、子供はもちろん子供時代があったすべての人が穏やかに眠りにつけそうな演奏。

プログラムに沢田さんの言葉として、病院実習の経験から病気と闘う子どもたちのために何かできないかという思いを強められたとのこと。それと同時に今の自分では具体的に何の力にもなれないという歯がゆさも感じられたと。この子守歌はそんな子どもたちにむけて、そしてホール内の聴衆にむけて差し出された沢田さんの人々を癒したいという気持ちの表れのような、そんな風に聴こえました。

今回の入場料収入は子どもたちの未来のためにその全額を寄付されるそう。

主催の大器株式会社 DAIKI GROUPがショパコン後すぐに沢田さんにお声をかけられて実現したこのチャリティー。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本赤十字社、ウクライナの子どもたちへの支援、マクドナルドハウスなどがその寄付先だそうです。素晴らしい取り組みだと感じました。

もちろんMCでのいつもの沢田節は絶好調。笑いっぱなしだったのだけど、その傍らしっかりとした意志をもち医師への道をも歩まれ続けている沢田さん。実際、卒業&国家試験間近でお忙しいようでした。来年になれば研修医としてますます多忙になられると思いますが、両立してくださるといいなぁ。

最後に、MCの中の一つを。夏前にある子ども病院で実習された時のこと。

その病院の先生の患者さんにピアノを弾く子がいたらしく「沢田くんのこと知ってる女の子がいたよ。」と。そのあとの言葉が「沢田くんの先生(関本先生)に習いたいんだって!」だったそうで(笑)(会場に関本先生もいらしてました。)

でもきっと医師としての「沢田先生に診てもらいたいんだって!」「沢田先生にピアノ弾いてほしいんだって!」という声が大勢の子どもたちから聞こえるのもそう遠くない未来ですよね。

こんなピアノも弾けてお話もよく分かって笑いのツボを押さえてる先生、そうはいませんから!

愛と優しさがたっぷり詰まった豊かな時間でした。沢田さん、ありがとうございました。


 『すべての子どもたちに明るい未来を』(今回のコンサートのテーマに掲げられていました)

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中秋の名月に




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