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「こんな時だからこそ! 夢溢る福引きを」
町の老舗スーパーで買い物をしたら、三回分の「福引き権」を得た。

抽選会場に貼りだされた言葉の意味はまったく不明だが、促されるまま抽選券を持って列に並ぶ。

特賞が「日帰りペア旅行」。一等賞が「和牛肉のセット」……色々当たるらしい。
列の頭二つ前の人がハンドルを握り、お馴染みのガラガラを回す。

出てきたプラスチック製の玉は青。大当たり! 和牛だぞすげえ。そう思った。
 
しかし何故か、場内はしんと静まり返った。数秒間、異様な空気が辺りを支配する。え? なんで。

明らかにおかしなタイミングで、ハッピを着たスタッフが無理やり大声を出した。「お、おめでとうございます~~!!」
鐘を鳴らして拍手をする。それに倣う人達。
パチパチパチ……。

何とも言えない違和感を覚えた。列に並ぶ客はまだしも、主催者側は初めから「当たりは出ない」と確信していたようだ。これには何か裏がある!


家路につき、すぐにガラガラの内部構造についてネットで調べてみると、あっけないくらいの速さで情報が出てきた。
なるほど。

下の図を見て欲しい。

まず、プラスチックの肉厚を変えて成形し、重い外れの玉、比重の軽い当たりの玉を作る。外れの玉を敷き詰めた上に当たりの色を乗せておけば、外れが出易くなるのは当たり前のことだ。
子供の頃から、ガラガラは単純に外れの玉と当たりの玉の数が違うだけの、確率の勝負だと思い込んでいただけにショックだ。少なからず。
まさにプラスチックマジック。出てきた玉の「樹脂計量値」を測定比較するやつなんていないもんなぁ。

抽選開始後間もないタイミングで、奇跡的に当たりが出れば、そりゃあ関係者周りの空気は凍り付くわけだ。

さあしかし。「からくり」が判ってしまえば攻略する方法はあるはずだ。
例えばハンドルを真面目に一方向に回すのではなく、その前に激しく左右に振って、上に乗っている当たりの玉が、外れ玉の間に落ちる隙間を作ってやれば、俄然勝てる可能性が上がるというもの!!
スタッフに注意されるかもしれないが、結果、当たりの色さえ出してしまえば、立場上やつらは鐘を鳴らすしかないはず。
ふふふふ。見ていろ、負けるものか。真実はいつも一つだ!!

ここで、ハッと我に返る。
なぜこんな簡単な仕掛けが、周知されているにも関わらず、古くから伝統のように現在まで受け継がれているのか。

これはきっと、本気で攻略する人がいないからだろう。「日帰りペア旅行券」を当てるため訓練に血と汗を流し、家計に負担をかけてスーパーで不要な買い物をしながら、ガラガラの当選に命を懸ける者はいない。

「ははは。外れた。でもしょうがないなあ、ガラガラだから」

こんな風に笑って受け流す国民の皆さんのおおらかさと余裕が、本日まで地域の「抽選会」という素晴らしい日本文化を支えてきたと言えるのかも知れない。だからこそ、今日も福引会場にテロは発生せず、なんとなく平穏な笑顔に包まれているのだ。

でも、それでも。
外れでもらった広告付きのポケット・ティッシュ三つを、見つめながら思ってしまう。
会場に貼ってあったキャッチコピーに対するツッコミだ。

「こんな時だからこそ!」
なんだろ? 
だったら外れの景品、マスクにしてくれよ(笑)

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