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スタンダードのバント毒性について

 こんにちは、芥子にこ(@shibakarejizou)です。バーチャルなガワしてるクセにテーブルトップの大会記録を付けるくらいしかしていないわたしという存在は一体なんなんでしょうか。
 今回の記事は、プレイヤーズコンベンション横浜2024がありましたので、使用した「バント毒性」デッキについて、学んだり考えたりした内容を残しておこうというものです(ただし内容の大半はデッキについての理解をまとめるためにPC横浜の前に書いています)。

1.バント毒性とは

 バント毒性というデッキについて。このデッキは、いわゆるTier1であったドメインランプに対して極端に強く、またエスパーミッドレンジに対しても1段階速いアグロという立ち位置のデッキです。だいたいこういう高速アグロデッキは継戦能力の低さゆえにわたしが好まないタイプのデッキなのですが、バント毒性はその枠にはまらないところがとても気に入りました。
 以下はバント毒性が出始めた時期のリストの一例です。一例とは言いましたが、毒性カードの種類が多くないことから、どのリストでも75枚中65枚くらいは同じだったと思います。

 同じ毒カウンターによる勝利を狙うデッキでも、レガシーなどにあるような感染デッキは1体のクリーチャーから大量の毒カウンターを食らわせますが、Toxicという能力は何点食らわせたところで与える毒カウンターの数は変わらないため、バント毒性は横に広く展開して攻撃を通していく(通すというよりは、漏れたものを積み上げるという言い方が正確ですが)戦い方をします。最も主要なクリーチャーデッキであるエスパー系のミッドレンジよりも展開のスピードが速いため、こちらの攻撃をすべて受けきることは難しくなるわけです。
 正直、MOで出始めた当初の第一印象は安くて速いだけの一発屋デッキだと思っていたのですが、使ってみたら思った以上に粘れるというか、詰みにくい。MTGAで組んで軽く回してみてから、あれよあれよと使い込んで紙を買い揃えて店舗予選をサーキットするにまで至りました。

2.バント毒性の強み

 じゃあ具体的に何が強いのさ、という話になると、「キルターンの速さ」と「詰みにくさ」の2点を両立しているところだと思います。
 キルターンという部分については、最速はおそらく3ターンなのですが、基本的には起こりません(腐敗僧を固め引いて除去されず、3ターン目に青行進でドーン。マナベースに問題があり、再現性は見た目以上に低い)し、スタンダードというゲームにその速度は必要ありません。
 そもそもキルターンの速さは相対的に評価されるべきもので、現状のスタンダードで言えば、「エスパー系ミッドレンジよりも速い」「赤単にだけは若干速度負けする」というのがバント毒性の速さです。具体的な勝利までのターン数は、特定のマッチアップとのプレイングの指針を検討する場合にだけ必要なものだからです。
 そして、このバント毒性の速度はよほど速いコンボデッキなんかが現れない限りは追い越されないものであり、今回はPC横浜は新環境の一発目ではありますが、赤単とほぼ同速という位置づけで考えてしまっていいでしょう(これが何かのフラグにならないことを祈ります)。あとはボロス召集がイモデーン連打でブン回った時くらいか……と思っていたら、想像以上にボロスが多いうえに相性が悪く、サイドボードの再考を求められました。これについては後述。これが何かのフラグにならないことを祈ります、というのがしっかりフラグになりました。

 一方で、高速アグロデッキというものはハンドを消費する速度も当然速く、勝ち切れなかったときににっちもさっちも行かなくなってしまうというのが宿命なのですが(そしてその状況がわたしがマジックザギャザリングをプレイするうえで最も置かれたくないものです。赤単は嫌いです)、それがそうもならないというのがバント毒性の第2の強み、詰みにくさであると言えます。
 理由のひとつは弓折れ矢尽きそうな状態であっても、そこまでに積み上げた毒カウンターは消えていかないということです。ライフを何点回復されようと、盤面に何点分の打点があろうと、先に毒カウンターを10個にできればゲームを終わらせられるわけです。増殖や敬慕される腐敗僧といった戦闘を介さずに毒カウンターを乗せるギミックを持っているため、毒カウンターを致死圏内に入れてしまえば、ゲームが続く限り捲り目が存在し続けます。
 ふたつ目の理由は、土地が強力であることです。4マナでダニトークンを生み出すミレックスと種子中枢は、どちらも酔っ払いが考えたと思うほど雑に強く、マナベースの弱さと天秤にかけて普通に勝ちます。バント毒性はカードを引き増すことはできないデッキですが、ミレックスに除去を唱えさせた時点でこちらの1枚得になります。ミレックスから出したトークンを種子中枢で強化して相手のクリーチャーと相討ちでもこちらの1枚得です。マナしか使っていないので。高速アグロデッキであるにもかかわらず土地でアドバンテージを作れるというのが、バント毒性の強みであり、異質な点であるというわけです。現代マジックですね。

3.バント毒性のプレイング

 バント毒性というデッキは、対戦相手に毒カウンターを10個食らわせて勝利するデッキなのですが、白という色が200種類あるのと同じように毒カウンターも実は4種類あります。それぞれのカードがどの毒カウンターを食らわせるのに適しているのかを理解することが、バント毒性を正しくプレイするうえでは重要になるとわたしは考えています。

3-1.毒カウンター①:1個目
 1個目の毒カウンターを乗せることは、増殖スペルで毒カウンターを乗せられるようになることを意味します。多くのリストで4枚の血清の罠と3枚の実験的占いが採用されていますが、これらのカードは毒カウンターを乗せて初めて真のパワーが発揮されます(むしろ増殖しないとマナコストの割に合わない)。デッキの1割強のカードが毒カウンターを前提にしているため、対戦相手に毒カウンターが1つもない状態はできる限り早く解消しなければなりません。1個目の毒カウンターが乗せられるかどうかが、キープorマリガンの最も大きな判断基準となります。
 また、この1個目の毒カウンターは戦闘ダメージか腐敗僧への単体除去によって乗せなければならず、12枚採用された1マナの毒性クリーチャーがその役割を担います。多少無理してでも1個目の毒カウンターは自分の2ターン目に食らわせたいです。
 1ターン目に1マナクリーチャーを唱える優先順位は、原則(対戦相手のアーキタイプが判明していない第1ゲームの先手第1ターンを想定)として【這い回る合唱者>腐敗僧>スクレルヴ】の順です。最序盤では相手の除去1枚で毒を与えられなくなるという状況を避けたく、除去の的になりやすく何も残さずに1:1交換を取られてしまうスクレルヴは、1ターン目に唱える優先順位としては最も低いものになります。

3-2.毒カウンター②:3個目
 3個目の毒カウンターが乗ることで、スクレルヴの巣や種子中枢に堕落ボーナスが付きます。特にこの2枚のボーナスはバント毒性側が一方的に押し切るゲーム展開を作るために重要なもので、3ターン目にここまで行けると後のゲーム運びがグッと楽になります。
 3ターン目に血清の罠でブロッカーをどかして増殖しながら戦闘ダメージを通すパターンが最もイメージしやすいシチュエーションになるでしょう。ゲーム開始時の7枚でここまで見えていれば、文句のないキープであると言えます。また、1回の攻撃で2個の毒カウンターを乗せられる顎骨の決闘者は、この3個目の毒カウンターを乗せる性能が高く、マッチアップ次第では1ターン目にスクレルヴを優先して唱える理由になります。
 顎骨の決闘者が与える第1戦闘ダメージや増殖によって3個目の毒カウンターが乗る場合、変則的なタイミングで堕落条件を達成することになりますので、種子中枢の起動やスクレルヴの巣による絆魂のライフ回復は忘れずに。

3-3.毒カウンター③:4~8個目
 ここからは中盤戦。対戦相手の使えるマナもブロッカーも増え、戦闘ダメージを通すのが徐々に難しくなっていきます。最初に「通すというよりは、漏れたものを積み上げるという言い方が正確ですが」という書き方をした通り、除去やブロッカーの数よりも多く殴ってダメージを通すゲームを目指します。
 中盤戦においては、ミレックスの起動とスクレルヴの巣から出るトークン、唱えるもの、戦闘で死亡するもの、対戦相手のブロッカーを数えて、ブロックされずに戦闘ダメージが通るクリーチャーの数が戦闘の前後で減らないことが殴れるかどうかの基準です。種子中枢の+2/+1によってブロックしてきた相手クリーチャーを落とせることが殴り続ける状況を作りやすくしてくれ、ミレックスやスクレルヴの巣から出したダニが除去されたり、種子中枢で強化して唱えられたクリーチャーと衝突したりすると0:1交換になり、こちらがカードの枚数で1枚得になります。
 戦闘ダメージだけで毒10個まで行くこともできますが、増殖スペルや腐敗僧+青行進セットといった飛び道具でのフィニッシュが描けるようになるまでは、この中盤の戦いが続いていくイメージですね。

3-4.毒カウンター④:9~10個目
 ゲームの最終盤。スタンダードのカードプールでは乗った毒カウンターを取り除くことができないため、一度中盤戦のやり取りを終えてしまえば、自分のライフがなくならない限りは、増殖スペル(または青行進など)待ちのテンパイになります。9~10個目とは書きましたが、腐敗僧+青行進セットを使えばマナまたは戦場のクリーチャーの数まで一気に毒カウンターを伸ばすことができるため、この4種類目の毒カウンターをどうやって乗せられるようにするのかを、中盤戦のうちから意識しておく必要があります。
 一方で、青いデッキとのマッチアップで腐敗僧の誘発でのフィニッシュを考えている場合は、ティシャーナの潮縛りをケアして11個目の毒カウンターまで入れられるようにしておくことも大切です。すぐに勝っても引っ張って勝っても同じ勝ちなので、盤面で勝っている(殴れる)状況が続いているのなら、盤面だけで行けるところまで行ってしまって、飛び道具でのフィニッシュは余らせてしまってもいいくらいの気持ちでプレイするのがいいと思っています。当然、隙を見せた相手は仕留めてしまうべきですが。
 腐敗僧+青行進のコンボ自体は非常に強力ですが、実験的占い以外のドロー操作が存在せず、強力な土地の存在からコンバットで戦っていけるデッキでもあるので、あえて狙うものではないと言えます。理不尽な最高速度が出せることは魅力的ですが、スタンダードというゲームにおいては基本的に過剰な速さであり、それが出せることだけがバント毒性というデッキの強さではないからです。

4.新環境にあたり

 PC横浜は新環境一発目の大会となるため、前の環境のメタゲームを引き継ぎつつも、新しい要素が加わったメタゲームとなります。特に目を引いたのは、MTGAでも爆増していて、実際にPC横浜でも最大勢力となったボロス召集の存在でした。
 事前の練習の中で、赤単同様に速度勝負になること、盤面への干渉手段は赤単よりも少ないこと、イーオスの遍歴の騎士への対応が難しいことの3点がポイントになりそうだという感想を持ちました。盤面への干渉が少ないためスクレルヴでブロック制限を付けて刺し合えれば十分に勝てる相手である一方で、いわゆるブン回りをされてしまうとあっさり負かされてしまう。メイン戦の勝敗によりけりではありますが、仮にメインを落としてしまったとすると、サイド後に後手のゲームで勝たないといけないということになります。ボロスを持ち込むプレイヤーが多いことは事前に想像できたため、やむを得ず、サイドボードの3枚分のスロットを門衛のスラルに充てることとしました。
 メインボードに採用するカードについては、毒性や増殖といった特定のエキスパンションにだけ収録されているテーマを使っているため、新しく採用するものはないかと思っていましたが、《迷路での迷子/Lost in the Maze》だけはデッキの方向性や求めるものに合っているため2枚採用することにしました。
 ブロッカーを一時的に無力化する青行進と同じ役割を担え、タップ状態の生物への呪禁付与が能力起動後のスクレルヴや戦闘時の永岩城に噛み合い、また麻痺カウンターを乗せることから青行進と違って無力化が2ターンに渡り、増殖できればさらに長く縛ることができるため、バント毒性の短いゲームレンジにおいては実質的な除去として機能させることも期待できました。
 しかし、バント毒性に迷路での迷子をそのまま採用するには問題がありました。従来の弱いバント毒性のマナベースでは、青マナのダブルシンボルを捻出することが難しいのです。そのため、マナベースの見直しを行い、青マナの出ない剃刀境の茂みを外してアダーカー抗原やヤヴィマヤの沿岸の採用枚数を増やし、また迷路での迷子をX=2~3で唱えることを想定すると4~5枚以上の土地が並んでいることを前提としているため、土地の枚数自体を増やすことにしました。元々ミレックスや種子中枢がマナフラッドへの受けになっているデッキだったため、土地を増やすことによる悪影響は無視していいと思います。
 そういうわけで、当日のデッキリストは以下のようになりました。

5.大会結果について

R1:スゥルタイリアニメイト〇×〇
 メインは切り崩し以外の妨害もなく、あっさりと勝ち。スクレルヴも腐敗僧もいるのに門衛のスラルに除去を当てさせる程度には刺さって、全体-2/-2を2発もらうも勝利。
R2:赤単××
 速度勝負を強いられる不利マッチ。メインはクリーチャーを並べられて押し切られ、2本目も赤単に強く出られるハンドが来ずダブマリのうえいいところなく敗北。3.4%しかいないので、もう当たらないでしょ、と割り切り。
R3:バント毒性〇〇
 ミラーマッチ。スクレルヴ→顎骨の決闘者の展開がはまって勝利。
R4:アゾリウスミッドレンジ〇〇
 身内。デッキリストも知ってるし手口も知ってるのでデッキ相性を押し付けて勝ち。この人数でなんで当たるかなあ。
R5:エスパーレジェンズ×〇×
 メインはダブマリして戻すものが違ってれば、という負け。除去の少ないデッキなのでスクレルヴ→顎骨の決闘者で最高速度を出して2本目を取るも、3本目で全体呪禁付与スペルでどシャクられて敗北。
R6:ゴルガリミッドレンジ〇〇
 ファイレクシアの抹消者を出してから格闘してくるタイプの相手。パワー1しかいないので格闘されても被害は最小、割と自由に殴らせてもらえたので勝利。
R7:5色人間〇××
 メリーラ出てきた。ありえん。

 ここで3敗になって賞金圏外なのでドロップ。ボロス召集はなんか毎ラウンドのように隣でミラーマッチをやっていましたが、ついぞ当たることはありませんでした。準備してきたんだけどな。
 実際にはエスパーミッドレンジも75枚用意して、どちらにしようかデッキ提出期限のぎりぎりまで迷っていたのですが、結果的にバント毒性を選択してよかったと思います。まだここには書かなかったバント毒性にまつわる色々なtipsもあるのですが、もう少しこのリストを使っていくつもりなので、それらは隠しておこうと思います。

 DiaryNoteのサービスが終わり、テキストベースのカバレージが書かれることもなくなって久しいですが、わたしはマジックザギャザリングを文章にすることの価値は変わらないと思っています。#芥子にこ譜 というハッシュタグで出た大会の結果と簡単な感想は残すようにしているのですが、せっかく準備して臨むんだから、こういった規模の大きい大会の時くらいは準備の過程から含めてちゃんと残しておこうと改めて思いました。
 また近いうちにお会いしましょう。


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