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ど素人のピュアオーディオ入門(35) 東京インターナショナルオーディオショウ2022に行く

吾輩が尊敬してやまないデザイナー氏に「インターナショナルオーディオショウ行かないの?」と聞かれて思い出した。

場所はOTOTENと同じく東京国際フォーラム。
日曜日に待ち合わせてShake Shackバーガーでランチをしたあと、いざ会場へ。

OTOTENには出ていなかったメーカーも出ていて、非常に有意義だった。

特に、最近気になっていたアキュフェーズとLUXMANという、二大国内メーカーのアンプを試聴できたのは収穫だった。

LUXMAN

LUXMANは1925年創業の超老舗メーカー。NHKの放送開始とともに始まったというのだからまさに筋金入りである。

最近、結果としてごくありきたりのセットアップになってしまった自分のオーディオ環境にスパイスが欲しくなり、暇さえあれば真空管アンプを調べている(でも暇はない)。

僕にとって真空管アンプ初体験は、忘れもしない。2014年のスウェーデンである。

スウェーデンのゴットランド県にあるヴィスビューという小さな街へ出張して、ヨーロッパの名門中の名門であるウプサラ大学でゲーム開発の集中講義をしたとき、現地にいらした日本人の先生に日本式のカレー(現地では大変なご馳走である)をご馳走になり、その夜に手作りの小さな真空管アンプから奏でられる音色に痺れてしまったのだ。

「こんなに小さくてこんなにいい音が出るの!?」

当時、まだオーディオにかぶれていなかった僕ですら、ビックリするくらいの豊かな音色で、その鮮烈な印象がずっと頭に残っていたことを最近よく思い出す。

思えばあのとき、「帰国したら小さな真空管アンプのキットを買おう」と決意していたはずだが、帰ってきたらそれどころじゃなかったというのは、詳しく知りたい方は技評の本でも読んでください。

最近、マランツのPM7000Nの完成度の高さに満足しながらも、「もっと上はないのか」「もう少し違った味わいはないのか」と季刊化したオーディオ雑誌を貪るように読んでいた。

OTOTENとか、今回のインターナショナルオーディオショウのいいところは、「金をかけてもこの程度である」という天井を知れることだ。

もちろんオーディオルームで落ち着いて好きな曲を聞くのと、東京国際フォーラムで密集して聞くのとでは全く趣が異なるが、それでも、自分が心動かされるサウンドか、そうでもないかは聴けばわかる。

また、どれだけ高級なオーディオであっても、自分の心に響かなければ、「まだ自分には早いのだ」と諦めもつく。

マークレビンソンの限定モデルのモノラルアンプは、一つ500万円台。ドル立てで買えば、本来は750万円くらいするのだが、これを2台使ってやっと2chのステレオが再現できる。

まあちょっとやそっとでは真似できないレベルの音がでるのであるが、個人的には「これは違いがわからない」と潔く諦めることができる音だった。

同じくハーマンの扱うJBLのスピーカーは、ピアノ仕上げの限定モデルが参考展示されていて、これは非常に格好良い。惚れ惚れするような美しさで、思わず欲しくなるが、これが似合う部屋というのを持っていなければ宝の持ち腐れ。大人しくスルーすることにした。

ハーマンが最近扱うようになったARCAMというメーカーは、主にアンプやプレイヤーなどのメーカーだ。このモデルは7万円台と低価格なのと、コンパクトなのが非常に目を引いた。技研バーなどでは使い勝手がいいかもしれない。

最近のJBLの売れ筋は、天井や壁面に埋め込むスピーカーらしい。

インストールも簡単で、これは分譲住宅には非常にいいのではないかと思う。吸音材必須だけど。

自室の壁がJBL。なんともワクワクするではないか。たぶん音質もまあそれなりに工夫しないときついとは思うが。

この手のイベントは、本来なら数百万円の借金をしないと決して聞くことができないような「音」が、手軽に楽しめるという贅沢さがある。

また、僕のオーディオ師匠であるデザイナー氏が言うには、「この手のイベントで大事なのは、音源だ」という話がある。

つまり、「いい音」だと思った場合、ここで流されている音源、つまりCDやレコードといったものを記録しておくと、ハイエンドオーディオ向けのデモに適した音源を知ることができる。要は、タダで「いい音源」を知ることができる。これだけでもこの手のイベントに来る価値があるというのだ。

確かに、「お!これは!」と思う「いい音」を奏でている音源は、思わず記録したくなる。

今回、僕が「これは!」と思ったのはこのアルバム

たぶんLUXMANで流れていたBob JamesとDavid Sanbornの「Double Vision」で、Amazon Music Unlimitedにも入ってる。

早速自室のPM7000N+JBL4309で聞いてみたが、このアルバムは確かにすごい。

とにかく出だしのパーカッションの立体感がすごい。弦楽器の響きも、管楽器の伸びやかさもオーディオに関する全部の魅力が詰まってる。俺は一体全体オーディオに何を求めているのか。それはほんの少しの非日常感と、体の奥に直接響くような高揚感ではないだろうか。その意味で、これほど良いチョイスもない。憎い選択である。こいつを聴きながらウイスキーを飲みながら最先端のAIマシンをドライブするのは最高の贅沢だ。思えば、AIの学習や推論にかかる待ち時間をいかにテンションを途切れさせずに過ごすか考えた末に始めたのが、このオーディオ趣味だった。もはや僕にとってオーディオは生きる目的そのものに限りなく近くなっている。

けど、やはり会場で流れていた広大な空気感には少し及ばない。

まあなあ、所詮はフルセットで30万円くらいの構成だしなあ。
あんまりハイエンドの音に慣れてしまうと金がいくらあっても足りない上にオーディオのための家を建てなければならなくなってしまうのでこれ以上は危険と思いつつ、昔はさっぱり意味がわからなかったノーチラスやGIYAの魅力を理解しつつある。あんなのがおけるような家には到底住めないが。いや、あるいは実家の長岡なら・・・。

そんな妄想を膨らませていると、厳重にパッケージされた箱が届いた。
中身を開けると、それは「スターフォックス」のCDだった。

僕が「音楽」を最初に意識したのは、このスターフォックスというゲームだったというのは、言い過ぎではないだろう。

母がフリーランスのピアノ教師だったので、家には最初からヤマハのオーディオコンポがあった。ミニコンポではない、ちゃんとしたフルセットのコンポである。

だから、「でかい音で音楽を聴く」という体験を、よく考えると僕はうまれたときからやっていた。

ただ、あの頃は、「音しか聞こえないなんて」と思っていたのも事実だ。それでも親がいないときにこっそりと「荒野の七人」あたりのレコードを一人爆音で聞いて悦に入ったりしていた。「荒野の七人」なんてみたこともないのに。

「荒野の七人(The Magnificent Seven)」は、黒澤明の「七人の侍」のアメリカ版リメイク作品である。

映画を一度もみたことがなくても、この曲が持つワクワク感というエッセンスだけを全身に浴びて育ったと言ってもいい。

最近リメイクされた「マグニフィセント・セブン」はみたけれどもほとんど記憶に残ってない。やはり「七人の侍」フォーマットが強すぎるのである。「七人の侍」フォーマットは、僕が思いつく限りでも、「最強伝説黒沢」とか「マンダロリアン」とかにほぼそのまま引用されている。「のぼうの城」も、厳密には全く違うが、随所にその影響を感じる。

本来は力も金もない農民たちが、野党の襲撃を恐れ、サムライ(実際には戦闘経験を持つが食い詰めた浪人)をなけなしの金で雇い、知恵と工夫で野党を撃退するというだけの話である。

サムライとしてのプライド、農民たちの「生きる」という必死の思い、そして三船敏郎演じる菊千代の不器用さ。勘兵衛の知恵と策略。まあ普通に考えて、これほど面白いプロットはちょっと他に例がない。だからこそ何度も引用され翻案されているのだろうし、リメイク版「荒野の七人」に至っては続編が三回も作られている人気シリーズとなった。

まあでも僕は一度もオリジナルの「荒野の七人」をみてないんだけど、音楽だけで想像力を掻き立てられ、力がどこからともなく湧いてくるという体験を繰り返し繰り返しできていた少年時代は、今振り返れば意外と幸福だったのかもしれない。

なんとなくだけれども、「荒野の七人」の音楽と、隠密同心が活躍する「大江戸捜査網」の音楽には共通するものを感じる。

話をスターフォックスに戻そう。
スターフォックスはスーパーファミコン用に開発された初の本格的な3D STGである。これがなければNintendo64もないだろう。

しかし何より感動したのは、ゲーム機でありながらオーケストラ的な音楽を再現しようとした試みである。

ゲームももちろん面白いが、それ以上に音楽が本格的で驚いた。スーパーファミコンにはソニーの音源チップが使われており、当時は「原理的にはこの世に存在する全ての音が出せる」とまで言われていた(ログイン・五十嵐編集者の言)。

スターウォーズがなぜ「スペースオペラ」と呼ばれるか。まさにオペラのようにジョン・ウィリアムスのオーケストラが鳴り響くからである。

スターフォックスは、まだゲームは子供向けという世界の認識のなかで、会社や周囲の無理解と戦いながらも、わずかな容量しか持たないロムカセットに紛れもない「スペースオペラ」を詰め込もうと努力した人々の紛れもない熱意が込められている。

先日復活したスーパーファミコンでスターフォックスをあらためてクリアしたが、関わった人数のあまりの少なさ驚く。こんなに素晴らしいエンターテインメントをこんなに僅かな人々が作り上げたとは。

今でも初めてスターフォックスをクリアしてエンディングを聞いた時の感動は忘れられない。ひょっとすると、CDごときでは、本当のソニーSPC700チップがアナログのテレビ向けに奏でた音のほうが、実は解像感が高いのではないかと疑ってしまう。それにおそらく、実際にはそうだろう。

スターフォックスに限って言えば、音源は実機の方が数段上を行くはずだ。そのかわり、その素晴らしい音楽を楽しむためにはクリアする必要があるが。

さまざまな思いが去来しながら、そっと「Double Vision」に曲を戻す。
実にいい気分にさせてくれるではないか。

オーディオは、最高だ。