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ついにアキュフェーズの扉を開く。アンプで音はどう変わるか!?

マランツPM7000NとJBL4309にすっかり魅了されていたのだが、最近、Kindleでオーディオ愛好家ファイルたちの本を読むのが趣味である。

特にこの方は、ブログをまとめて電子書籍として出版しているという点で見本にすべき規範であり、僕も生意気ながらいつか電子書籍でこの連載をまとめてみたいと思っているので常々参考にしている。

気になったのは、この「俺のオーディオ」四巻で、アキュフェーズの音質と、PM7000Nの音質の違いに度々言及していることだ。

この方は僕とおなじPM7000Nを使っているという点でも親近感が湧いていたのだが、この方にとってPM7000Nを中心とするのは「サブシステム」であり、あくまでもメインはアキュフェーズのものだという。

そこまでの差が果たしてアンプだけで表現されうるのだろうか。
それが知りたくて、アキュフェーズのアンプが欲しい、という気持ちが次第に高まってきた。

僕は今、浅草橋と銀座で店に立っている。基本的に他の人のお店なのだが、店のコンセプトや設備のプロデュースはあるていど任されている。浅草橋の店も銀座の店も、音響装置がいまいち迫力不足であるというのがオーディオ愛好家ファイルとしての僕の不満なのだが、まさか一関のベイシーのように家ごと作るというわけにもいかない。置ける設備には限界がある。ただ、店に置くオーディオ環境を検討する時期に来ているかもしれない。

でもひとまずアンプを変えるならどうだろうか、というわけで俄然、アキュフェーズが気になってきた。

とはいえ、新品を買おうとすればかなり高額になる。
所詮僕はど素人なので、新品を買うのは抵抗がある。
中古品の出物を探したら、1980年台のアキュフェーズのアンプを見つけた。

値段も手頃・・・といっても、PM7000Nよりはずっと高価だが・・・だったので思い切って買ってみることにした。古いオーディオ機器は価格が落ちにくいので、全然ダメ、ということであれば同じような値段で売ればいいや、くらいの気持ちで。

ついでに、電源にも少しこだわるか、と思ってクリプトンの電源タップを見つけた。これも「俺のオーディオ4」にもともとクリプトンの電源タップを使っていてそれ以外のことには無頓着だったが、ある日電源タップを市販の普通のものに変えたら音が格段に悪くなった、という記述を見つけて気になっていたのだ。

PB-100も10年ほど前のやや古い機種だが、定価3万円のところを中古で10000円前後で落札できた。このあたりが相場らしい。本格的なオーディオ用の電源タップにしては安いのではないかと思う。クリプトンの電源タップも、高級機は20万円以上する。

クリプトンのPB1-00

樋口真嗣の特撮野帳と比べるとクリプトンの電源タップの大きさがわかると思う。オーディオにおいて、大きさは余裕。余裕は正義、なのである。

まず、マランツPM7000NとDENONのCDプレイヤーのシステムの電源をPB-100に繋いでみる。

正直、吾輩の腐った耳ではクリプトンの電源タップに変えて即座によくなったとか悪くなったとかはわからなかった。たぶん、耳が慣れてこないとわからないのではないか。

一度良い状態に慣れてから、悪い状態に落とさないと気づかないということはよくある。湾岸ミッドナイトにもそんなエピソードが出てくる。

たしか、地獄のチューナー、北見が悪魔のZをチューンアップするときに、総仕上げとして呼び出すのがジェッティングの富永。彼はノートパソコン片手に走行中の車のエンジンを調整し、一度良い状態にしてから悪い状態にして、それにドライバーのアキオが気づくか試す場面がある。

たぶんクリプトンの電源もそういう感じではないか。
一度クリプトンのある環境に慣れてから、ある日、普通の電源タップにつなぐと愕然とする、そんな感じだと思う。これが世に言う「自分の耳エイジング」ということか。

さあ、果たしてアキュフェーズは思い通りの音を描いてくれるのだろうか。
アキュフェーズはバイワイヤリング構成のプリアンプなので、A系統とB系統の二つからスピーカーケーブルが出せる。

JBL4309はバイワイヤリングに対応しているが、まずはそのまま試してみる。

むかし映画ファンの友人と行ったアナログシンセサイザー「ロジック」のイベントで買った「ロジック・クロニクル」をかけてみる。

おお、すごい。全然違う。
ビル・エヴァンスとマイルス・デイビスのアルバムも試す。

冒頭を再生しただけで違いがはっきりとわかった。
アキュフェーズのほうが、明らかに圧倒的に「音に余裕」があるのである。
不思議だ。なぜそう感じるのだろうか。

のっけから「こんな音入っていたのか!」という驚きがあり、曲が進むとあまりにはっきりとした立体感を感じて「これ本当に2chなのか?」と混乱するレベルだ。

スピーカー切り替え機でPM7000Nにもどすと、明らかに一歩以上奥まっている。悪くない。決して悪くはないのだが、アキュフェーズの前には霞んでしまう。もうひとつ驚いたのが、このアキュフェーズが、1980年代、昭和末期の遺物であるということだ。これだけの時を経て、なお、アキュフェーズの良いオーディオ機器は最新のハイテクが詰まりに詰まったPM7000Nに余裕で勝ってしまうのである。コンピュータの世界では、こんなことは起きえない。1980年代に製造されたコンピュータが、現時点でも性能を上回ることは決してない。しかしオーディオの世界ではそうした錯誤が余裕で起きる。特に1980年代といえば、世はバブル真っ只中。自動車から家具から、ありとあらゆるものが贅沢な設計を許されていた時代である。しかも、1ドル235円の固定レート。日本は圧倒的に安い日本円を武器に世界中で外貨を稼いでいた。しぜん、部品は贅沢になる。

アナログ回路の部品にももちろん賞味期限があるのだが、少なくとも届いた個体にそうした衰えは一切感じられず、大切に使われてきた機械なのだなということがよくわかる。

以前、デザイナー氏の事務所で聞かせてもらった麻倉怜士氏が組んだシステムに少し近づいた気がした。

続いてバイワイヤリング接続も試してみる。

4309にはホーン部とウーファー部で二系統の入力ができるようになっており、それぞれにつなぐことで干渉を防ぎ音質が改善されるのだと言う。

PM7000N単体でも、単一のアンプ出力からバイワイアリング接続できないわけでもないのだが、どうもそれで何かが改善するというのが信じられなくてずっと試さずにきた。

アキュフェーズの二つある出力をウーファー部とホーン部にそれぞれ繋ぐ。

さっそくCDを再生してみると、どうも明らかに迫力が足りない。
どういうことだ。

実はアキュフェーズのアンプは、そもそも本当に二系統の出力があって、A系統、B系統、A+B系統の三パターンで出力を切り替えられるようになっているという本格的なものだ。

パネルを見ると、A系統のみが鳴っていた。当たり前だが、スピーカーはウーファーだけでは完成しない。少なくともこのスピーカーは、ホーンと同時に鳴ってこそ、というものがある。

そこで、B系統だけ鳴らしてみる。こんどはホーン部からキンキンとした成分の音だけが鳴り響いてくる。なるほどね。こういうことか。

そしてA+Bにスイッチを切り替えると、世界が根底から変わった。
イイ・・・明らかにイイのである。やはり、この良さというのは、「余裕」と言い換えてもいい。アンプ出力の圧倒的余裕。

これがJBL4309の本当の力なのか。
驚愕して聞き入るうちに、それまで全く感じなかった違和感を感じるようになった。

音質は明らかに、圧倒的に良くなった。
30年以上前の機械がこれほどの音を奏でるとは正直予想外だった。普段デジタル的なものに触れ過ぎていると、こういう本質的な良さに気づくまでに時間がかかるようだ。

ただ、JBL4309が明らかにアキュフェーズに対して役者不足に思えてきたのである。

特に高音部。
B系統に再び切り替えると、キンキンと金切り声のような音がするのだが、これがどう考えてもアンプの出力を余すところなく表現できているとは思えない。明らかに苦しそうだ。

そのホーンは、まるで狂おしく身をよじるように鳴る。アンプからの大出力に、明らかにスピーカーの表現力が足りてないのだ。

ついこの間まで、この組み合わせで満足していたのだ。間違いなく僕は。
OTOTENに行って、どれだけ高級なスピーカーとアンプが我が身を激しく主張しても、JBLやクリプトンの音が流れてくれば、見なくてもわかるくらいに気に入っていたのだ。「これ以上」が欲しいとは決して思えなかった。

しかしアキュフェーズが僕の新しい扉を開いてしまった。
さて、どうするか。