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ど素人のピュアオーディオ入門 世界の空の下で一人オーディオ鑑賞する

イスタンブールに来ている。
と言っても、美しいブルーモスクを見に立ち寄ったわけではない。それほどの時間的余裕はない。猶予は、ほんの6時間ほどだ。乗り換えトランジットというやつである。

常に聖地の方向がわかるようになっている

出発がコードシェアだったので少し不安ではあったが、機内は快適そのものだった。こんなに快適なのに、僕は日本で一時保存しておいたNobrockTVをエンドレスで流していた。我ながらどうかしてる。

多少迷いはしたが、割とスムーズに国際線の乗り替えゲートにはたどり着いた。ラウンジに辿り着いて、電源を確保し、ほっと一息といったところだ。

こんなに豪華なラウンジを他に見たことがない

トルコ航空ターキッシュ・エアラインのラウンジは去年も来たが、わずかな時間しか滞在できず残念に思っていた。

今回はたっぷり6時間も時間を潰す有意義な時間を過ごすことができる。
個人的に親友だと勝手に思っている猪子寿之さんがサウジアラビアのジッダに新しい作品を作ったのを見に行こうと思うのだ。

その名も「チームラボ・ボーダーレス」
なんだ、昔の豊洲やお台場、今では麻布台ヒルズのやつと同じか、と思うかもしれない。まあ正直僕もそう思っていた。

しかし、久し振りに会った猪子さんと話すと、「同じだけど全然違う」というので、豊洲を先に見ていたのだが、わざわざ日を改めて今はなきパレットタウンまで女優のいとうまい子さん、映画監督の樋口真嗣さんらと一緒で見に行くことにしたのだ。

確かに全然違った。その日の様子は、僕のYouTubeの過去動画にあるので頑張って探して欲しい。

その猪子さんが中東で初の作品を作ったという。これはいかねば。同じ名前でも全然違う、似てるけど違う、違うけど似てる、その「違い」がなんなのか感じ取ることこそが、AIには真似できない、人間としての知的活動であると信じるからだ。

ちなみにサウジアラビアの観光ビザはオンラインで申請し、受諾されたが、唯一心配なのはサウジアラビアのチームラボの予約サイトで何度やってもクレジットカードが通らないことだ。アメックスに問い合わせたのだがそもそもトランザクションが来てないというのだからアメックスでもどうにもならない。そこでサウジアラビアの貨幣、サウジアラビアリアル(SAR)を持っていくことにした。

ところが秋葉原のヨドバシのトラべレックスではSARは扱ってはいるものの在庫がなくて交換できなかった。

朝早く成田空港の千葉銀行でトライしようとするもそもそも扱いがなく、ゲート内の外貨両替でようやくSARを手に入れた。タクシー代がいくらかかりそうとか全然わからないので多めに持っていく。

おそらくもう一生使うことはないだろうサウジアラビアリアル(SAR)

ちなみに中東に二番目にできるチームラボの施設はアブダビにできる「チームラボ・フェノメナ(現象)」といい、世界で他にどこにもないユニークなものになる予定だという。たまたま友達がアブダビに住んでいて、チームラボの施設にも出資してる会社に勤めていた。去年、それを聞いて猪子さんに連絡したら、なんと猪子さんもその日の夜にアブダビまで来るという。急遽一時間だけ一緒に夕飯を食べたのはいい思い出だ。

アブダビの方も年内オープンの予定と聞くが、多分まだ完成してない

さて、日本にいると朝から晩までAIに追われてじっくり音楽を楽しむ時間もなかなか取りづらい。

かといって飛行機の中はノイズが多くてじっくり音楽を楽しむというよりも、ノイキャンを全開にして音楽に「逃げ込む」と言った方がいい。

あらゆるものから真に自由になれる時間というのは、案外、こうして見知らぬ国のラウンジで何もすることがなく数時間、ぼうっと過ごす時くらいかもしれない。

朝三時に目が覚めて、軽くシラスの生放送をこなした後、成田空港へ向かうNEXに乗った。

成田空港に来るのは久しぶりだ。
ゲートが近かったので、今回はUnited Clubで出発までの小一時間を過ごした。

United Clubにもカレーはあった

そんな旅路を予想していたかのように、朝大慌てで荷造りをしていたのだが、Apple Vision ProとHHKB Studio・・・ではなく、なぜかShure 50と、
Astell&Kernのポータブルアンプ、そしてAONIC215イヤホンとUSB-DACを入れていた。

今回はあちこち回るのでロストバゲージのリスクを最小限にしたかったのでビクトリノクスのバックパック一つのみ。ただでさえストレージが少ないのにオーディオ機材を(AIrPods Pro入れて)三つも持ってくるやつがあるか。

HHKB Studioを持ってこなかった理由は、MLXでローカルLLMがたくさん動くようになった結果、機内でやりたいことは主にローカルLLMを使った開発ハックであり、Apple Vision Proで積極的にキーボードを使って何かやるほどのことは見当たらなかったため。ちなみに普段iPad miniと一緒に使ってる折りたたみ式のキーボードは持ち歩いているので、Apple Viison Proでキーボードが欲しくなったらこれを繋げばいいというバックアップも用意してある。

さて、そんなわけで、イスタンブールに到着してかれこれ4時間が経過した。
生放送を試みるが、空港ラウンジではRTMPに制限がかかっていてできず、やむなく小さい声で喋ったセリフをSHUREのピンマイクで録音した動画をその場で編集してVIMEOでアップロードし、シラス会員むけにURLを共有する時間差放送の形をとることに。どうせ日本は深夜だし。

そういう仕事も一通り終わったので、さて、どうするか、とじっくり腰を落ち着けてみる。

いつもなら、ラウンジに来ると浴びるほど酒を飲んでダラダラしてしまいがちなのだが、最近の僕はノンアルづいているので酒をあまり必要としない。そしておそらく世界一食事が充実しているイスタンブール空港では、唯一、酒類だけは充実しているとは言えないようだ。他のものはなんでもあるのだが、酒だけはビールくらいしかなさそう。

というわけで絶好のオーディオ鑑賞タイムがやってきたのである。

一年前に買ったにも関わらず旅行以外であまり使ってなかったSHURE 50をあらためて使ってみると、音の良さに驚く。

しかし、試しにAstell&KernのポータブルアンプにAONIC215を繋いでみると、それはそれでかなり「イイ」のである。音源はAmazon Musicだが、音がシャキシャキしていて、まさに「オーディオ鑑賞」してる感じがする。

なんで旅先にこんなややこしいものを持ってきたんだ。24時間前の俺は頭がおかしい

できればSHURE 50ヘッドホンとAstell&Kernのポータブルアンプとの組み合わせも試してみたかったのだが、あいにくケーブルを持ってこなかった。それにSHURE50はバランス入力に対応してないのでアンバランス出力ができるDACも必要になる。DACとケーブルは注文し、パリに届けてもらうことにして、とりあえず手持ちの機材を聴き比べてみる。

Astell&KernとAONIC215の組み合わせは、明らかにAONIC215が力不足だ。それでも恐ろしいほどいい音がするのである。ボリュームを上げすぎるとAONIC215が文字どおり悲鳴をあげて限界を突破してしまうが、ボリュームを絞ると実にいい音がするのである。

いつも聞いてる浅倉大介のWintermuteをAstell&KernとAONIC215で聞くとどうも限界を突破してしまうので、SHURE50で聞くとちょうどいい。

ホルストの組曲「惑星」をベルリンフィルが弾いた音源では、この差がもっと強調されるように感じた。

日本の歌謡曲ではホルストの「木星」に歌詞をつけた平原綾香の「ジュピター」が有名だが、まあ木星は木星として聞くのがいい。冨田勲もいいけど。

ふと気になって、SHURE50にUSB-Cケーブルを直結したら聴けるのかどうか、つまりSHURE50にUSB-DACが内蔵されているのかどうか調べてみたら、果たして内蔵されていた。

なあんだ。じゃあわざわざBluetooth使わなくても直接聴けるんじゃん。

それでiPad miniとSHURE50をUSB-Cケーブルで直結すると、全然変わらない。いやそんなまさか。

色々試して、Bluetoothをオフにするのを忘れていたことに気づいた。

あらためて聞いてみると、うへえ、明らかに解像感が違うのである。
Bluetoothの能力が低いのかSHURE50の内蔵DACの性能が高すぎるのかわからないが、少なくとも内蔵DACの明かされない微妙な各種パラメータ(まあAI屋的にはハイパーパラメータとでも呼びたいところだが)がSHURE50用に完璧にセッティングされているとすると、この違いはもありなんという感じがする。

しかしSHURE50のノイズキャンセルは優秀だ。
ラウンジの喧騒から完全に別世界へと連れて行ってくれる。

試しに外音取り込みモードにしてみると、サーーッというホワイトノイズが入ってきて「嘘だろ」と思ってヘッドホンを取ると、実際、近くでフィッシュティッカを焼いてる鉄板の音だった。ノイキャンがある間は、そんな不規則な周波数の重なりも完璧に消せてしまうのだから恐れ入る。もちろん、本来的な意味では「ピュア」な音からかけ離れてしまう部分はあるのだが、快適さは如何ともし難い。そしてノイキャンが聞いてる状態でも、厳然として音質の差は生まれてしまうのである。これは個人的には発見だった。

ヘッドホンも音質そのものに拘れば開放型ということになるのかもしれないが、そんなのラウンジで使えないし、SHURE50は僕にとっては良いソリューションという気がする。ノイキャンの効きがすごいのも密閉型の特徴だろう。

21時を回って静かになってきたターキッシュエアのラウンジで、音浴に浸るのもある意味で贅沢な時間だ。

マイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンの名演奏、「So What?」を聞くと旅の疲れが一気に吹き飛ぶような新鮮な気持ちになった。

しかし参ったな
こんなに音が違うんじゃあ、長いUSB-Cケーブルを持ち歩かなきゃ。
まあそれも非現実的だが。

今はしばらく、この音を旅先で体験できる余韻に浸ることにしよう。