unLIMITEDでケセランパサラン
昨日は夕方から忙しくて、上原仁の誕生会に行って、それからラジオの生放送に行って、それからゴールデン街にも行かなければならなかった。
三日前に死にかけた人間としてはハードすぎるスケジュールだが、それが俺の生き様というものだ。
三度の食事が約束された牢獄の自由よりも、当てのない荒野を彷徨い、生きるか死ぬかの選択を重ねるのが性分なのだ。
ゴールデン街のunLIMITEDで夕飯を食べる。
この日は久しぶりにスペシャリテのカルボナーラ。
テンガロンハットがトレードマークの、ゴールデン街のウォルト・ディズニーこと恒さん特製の夢いっぱいのカルボナーラである。
火加減が難しいので今のところオーナーの恒さんしか作れない。
この生クリームがニクいのだ。
さて、カルボナーラを注文すると、隣にシロブチが座っているのに気がついた。
シロブチというのは、メガネのフレームが白いのでいつの間にかつけられたコードネームだ。まあゴールデン街ではゴールデン街特有の名前で読んだり呼ばれたりすることはよくある。ちなみに俺はとっくに社長ではないのにシャチョーと呼ばれている。
以前一度、「もう俺社長じゃないし、冴羽獠みたいに、りょうちゃんと呼んでくれないか」と聞いたことがあるが、一笑に付された。
「シャチョー、ゴールデン街に経営者が何百人いると思ってるんですか。その中で、あえてシャチョーだけをシャチョーと呼んでいる俺たちの想いを汲んでくださいよ」
「え、そ、そう?」
どういう想いなのかよくわからないが、そういうわけで俺のコードネームは一部の店舗ではシャチョーである。
そんな話はまあいいや。
このシロブチ、普段はアイスクリームというか、氷菓の営業マンをしている。会社は埼玉。自宅も埼玉。なのにゴールデン街に毎週埼玉から同僚やらライバル会社の営業やらを連れてくる変わった人だ。
そのシロブチが、埼玉で発見して惚れ込んだのがケセランパサランだという。
「ほう。ケセランパサランか。俺も昔みたことあるよ」
ケセランパサランとは、大きな綿帽子のような動物であるとされる。まあ俺からするとどうみても動物というよりも巨大なタンポポの綿毛なのだが、動物らしい。
俺も昔見たことがある。それがそんなに大事なものだとは気づかず、そのまま放置したが、これは持っていると幸運になるという伝説がある。
清野とおる著の「東京都北区赤羽」では、大量に発生したケセランパサランを片っ端からヤフオクで売って生活していたとある。
実際、清野とおるは最終的に壇蜜と結婚しているので、ケセランパサランのおかげかはともかく何かしら幸運を持ってる人であることは間違いなさそうだ。
僕がケセランパサランを見たのは埼玉県の蕨だった。
中学の先輩が住んでいて、1,2度遊びに行った時に見た。どうもケセランパサランは埼玉近辺にいるらしい。
「シロブチも幸運になりたいのかい?」
「いや、そうじゃなくて、ケセランパサランっていうユニットなんですよ」
「は?」
「ケセランパサランってユニットがとにかくいいんですよ」
「そうか。それにハマってるんだな」
「あまりにいいんで、今度ここに呼びますから」
「ここ?」
「ここです。アンリミテッド」
unLIMITEDは、何かと有名な吉本興業東京本社の向かい側にあるアメリカンダイナーで、まあ吾輩がよく仕事したり打ち合わせに使ったりしている、いわば吾輩にとってのセカンドプレースのような場所。喫茶店としては爆安で、昼はゴールデン街に巣食う漫画家や物書きの仕事場として、夜は外国人たちの社交場として賑わう店である。というか今俺がカルボナーラを食べてる店だ。
「ここ?ここに来るの?飲みに?」
「違います。ライブをやるんです。12/1に」
「え、なんで?」
「とにかく良いから。ゴールデン街の皆さんに知っていただきたくて」
「お前、本業はアイスの営業だろ?」
「これは本業とは関係ない、推し活です」
なんてやつだ。
普通、推し活というのは、まあ推しに金を払ったり、グッズを買ったり、せいぜい遠征したりというものだと思っていた。
ところがシロブチは、ライブを企画し、店を貸切、プロモーターとして活動することを推し活と呼ぶ。狂ってる。
狂ってるが、嫌いじゃない。
「じゃあチケット買うよ。よーわからんけど」
「ありがとうございます」
「今日ラジオだから宣伝しておくよ。強引に」
「本当っすか」
まあラジオってのは告知してもいいものなので告知した。冒頭で。
というわけで、僕も聞きに行くシロブチ一押しのユニット「ケセランパサラン」のライブ。12/1 18:00からゴールデン街unLIMITEDでスタート。
チケットは、ケセランパサランの公式ページか、unLIMITEDで発売中