見出し画像

「ハキム・ツィエク」は本当に正しい表記か?アラビア語から検証する

どうもシェウケンゴです。
ブログリニューアル作業、一応頑張っています。
完成するまでは、noteでいろいろ書いていきたいと思います。
とりあえず全部読めますが、良かったら投げ銭してくれると嬉しいです。

表記ゆれが激しいハキム・ツィエク

現在開催されているワールドカップも佳境になり、本日は準決勝のフランス-モロッコが開催されます。

アフリカ勢で初のベスト4進出を果たしたモロッコ。そのモロッコを牽引するのが、右ウイングのこの選手です。

イングランド・プレミアリーグのチェルシーに所属する、FWハキム・ツィエクです。オランダ出身のツィエクは、ヘーレンフェーン、トゥエンテ、アヤックスで活躍後、2020年からチェルシーで活躍しています。各年代別はオランダ代表でしたが、2015年からモロッコ代表でプレーしています。

しかし、このツィエク。日本語表記が非常に揺れがあります。日本語ウィキペディアの冒頭にはこのように書かれています。

この人物の日本語表記には、主に以下のような表記揺れがあります。
ハキム・ツィエク
ハキム・ツィエシュ
ハキム・ツィエフ
ハキム・ジエフ
ハキム・ジヤシュ
ハキム・ジアシュ
ハキム・ジエシュ
ハキム・シエシュ
ハキム・ジイェシュ
ハキム・ジィエフ

ハキム・ツィエク -Wikipedia-

10種類もあるのはすごいですね…。正直驚いてしまいます。

ちなみにワールドカップ全試合放送しているAbematvでは「ハキム・ツィエク」と表記されています。日本のメディアでは主にこれで統一されている模様ですね。

「Z」は「ツ」にならないのでは?

ベルギーサッカーを中心に見ているため、この選手の表記に関しては、あまり気にすることはありませんでしたが、ワールドカップが始まってから、ハキム・ツィエクの名前がよく聞かれるようになったので、海外メディアのソースを検索すると、思わず首を傾げてしまいました。

Hakim Ziyech

あれ?これはオランダ語で読んでも、英語で読んでも「ツィエク」にならないのではないか?「Z」は英語でもオランダ語でも日本語で言う「ザ行」になるものです。よって「Zi」は「ツィ」ではなく「ジ」になるものだと思います。

そして「ch」は様々な読み方はありますが、ベルギーで使われているオランダ語では、主に「は行」になることが多いです。ベルギーリーグにある「Mechelen」が「メヘレン」と呼びます。よって「は行」として考えることが多く、最後の文字も「ク」よりは「フ」の方がふさわしいと考えます。

(※ただし人物名ではフランス語由来の名前も多いため、混合することが多いので、耳で聴いてみてから判断するのがいいでしょう)

オランダ語に従って考えると、私は「ジイェフ」に近いかなーと感じられました。

アラビア語で考えよう

しかし、この選手、オランダ出身ですが、あくまでもモロッコ代表の選手。しかも先住民族のベルベル人のルーツだそうです。

ベルギー代表には外国由来の選手は大勢プレーしていましたが、オランダ語従来の呼び方をしないで、その選手のルーツに従うことが多く、オランダ語でもフランス語でもない呼び方をする場合があります。

(例:エンツォ・シーフォ(Enzo Scifo)はイタリア系のため、イタリア語の発音に従う)

よって、このハキム・ツィエク選手も、自身のルーツであるモロッコの公用語の一つ、アラビア語で考えてみることにしましょう。アラビア語で書かれるとこうなります。

حكيم زياش

アラビア語は右から読む言語です。「حكيم」が「Hakim」で、「زياش」が「Ziyach」となります。

アラビア語は日本人にとっては非常にとっつきにくい言語ですが、基本的には表記と音が一致する「音素文字」に当たるものです。文字さえ覚えれば、どのように発音すれば良いのか、割と簡単に判断することができる言語です。

それでは「زياش」がどのように読むのか考えてみましょう。

まず最初の文字「ز」です。

これは日本語で表すと「ザーイ」と呼ばれます。この子音の場合は、日本語で言うと「ザ行」であり、英語で言うと「Z」に当てはまるものになります。単独で表示されている場合は「ジ」となります。

そして次の文字「يا」です。

子音「ي」と母音「ا」を組み合わせた文字になります。アラビア語は子音と母音の組み合わせによって、文字も変化する言語です。

「ي」日本語で表すと「ヤー」と呼ばれます。この場合は日本語で言うと「や行」と考えると良いでしょう。英語で表すと「y」になると考えられます。そして母音「ا」は特殊記号で、「アー」と音を伸ばす際に使われる文字です。

よって日本語表記するなら「ヤー」がいいでしょう。

最後は「ش」です。

これは日本語で表すなら「しゃ行」になります。英語で言うなら「sh」と表記されます。子音のみの場合は「シュ」に近い音になります。

これに従って、日本語表記をするならば「ジヤーシュ」が最もふさわしいと考えられるでしょう。

アラビア語に従うと「ハキム・ジヤシュ」に近い音に聞こえるかと思われますが、選手本人の発音を確認しても、おそらく同じように聞こえるでしょう。

最も使われている「ハキム・ツィエク」には聞こえないと思います。

どうして「ツィエク」になったのか?

しかし、こうなってくると、なぜ「ツィエク」になったのか気になります。

最初に「ツィエク」と決めたのが、そのまま広く伝わってしまったのだと考えられますが、彼の出身地であるオランダで使われるオランダ語にしても、ルーツであるアラビア語やベルベル語でも、当てはまらない音ではないかと考えられます。

※ベルベル語では「ⵣⵉⵢⴰⵛ」となるが、ティフィナグ文字での「ⵣ」は「z」であり、「ⵛ」は「sh」になるため、やはり「ジヤシュ」となる→参考

そこでウィキペディアの「z」で確認をしてみましょう。

  • ラテン語: zeta(ゼータ

  • 英語: zed(ゼッド)/zɛd/

    • アメリカ英語: zee(ズィー)/ziː/

  • ドイツ語: zett(ツェット)/tsɛt/

  • オランダ語・ポーランド語・チェコ語・スロバキア語:ゼット /zɛt/

  • ルーマニア語: ze, zet(ゼ/ゼット)

  • フランス語: zède(ゼッド)/zɛd/

  • スペイン語: zeta(セタ)/θeta/

  • イタリア語: zeta(ヅェータ/ツェータ)/dzɛːta/, /tsɛːta/

  • ポルトガル語・ハンガリー語:ゼー /zeː/

  • インドネシア語:ゼッエスペラント:ゾー

  • 日本では「ゼィー」または「ゼット」と呼ぶことが多い[1]

大まかに分けると、このようになるでしょう。

ザ行:英語、オランダ語、フランス語、ポルトガル語など
サ行:スペイン語
ツァ行:ドイツ語、イタリア語

このように考えていくと「ツィエク」という表記は、おそらくドイツ語かイタリア語から混ざってきたものかと考えられます。

ただ、末尾の「ch」を考えた場合、ドイツ語は主に「ヒ」で終わることが多く、ドイツ語とは考えづらいところでしょう。ではイタリア語はどうなるでしょうか?

イタリア語での「ch」は、どうやら「カ」「キ」「ク」「チェ」「コ」になるようです。イタリア語の発音に従って読んでみようとすると、たしかに「ハキム・ツィエク」に近くなるでしょう。→参考

要するに最初に「ハキム・ツィエク」と表記した人は、イタリア語の発音で読んでしまったのかと推測できると考えられます。

最後に

このように「Hakim Ziyech」のルーツであるモロッコの公用語であるアラビア語で考えると、日本語で表記するなら「ハキム・ジヤシュ」が一番適しているのかと考えられます。

一度「ハキム・ツィエク」と広まったものを訂正していくと考えると、やや難しいのかもしれません。しかし、より正確なものを追求していくのであれば、やはりアラビア語も十分に視野に入れていかないといけないでしょう。

もうすぐ「フランス-モロッコ」が始まりますが、ちょっと意識してみると、面白いかもしれません。


ここから先は

0字

¥ 200

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?