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異動して5日でバトル!

「おはようございます!!」
朝から大きな声で挨拶して自席へ向かう。
挨拶はきちんと!これは俺のモットーだ。
とりあえず大きな声出しとけば、悪い印象は与えない。たぶん。

「んー、おはよう。」
元気の無い声で挨拶を返すのは俺のチームの柴木。直属の上長だ。厳しくも気持ちを入れて指導をしてくれる熱い性格の持ち主だ。

「おっ、おはよう。」
元気は控えめだが少し温かみのある返事をしたのは同じチームの3年目の米原社員。3年目ながら、様々な資格を持ち、バリバリにスキルのある優秀な方だ。

俺はとあるIT会社でエンジニアをやっている。その中で2人の少数精鋭チームにアサインされ、働いている真っ最中だ!


この数ヶ月、本当に色んなことがあった。

時は遡り12月。
中々内定が出ず、「泣いていいですか?」が口癖になりつつあった中、ようやく決まったのがこの会社だ。
未経験ながらエンジニアとしての採用が決まった。

「あなたの才能を見込んで…」という文言もあり、と言ってもまあどうせ入社する未経験皆に言ってるだろうが、淡い期待を胸に4月から1ヶ月間の研修に臨んだ。

Javaという見たことも無いプログラミング言語を1から習得するのには苦労した。コロナ禍ということもありリモートの環境だった。それがさらに学習の厳しさに拍車を掛けた。

それでもめげずになんとか研修をやり遂げ、遂に6月からオフィスに本配属となった。IT会社でありながらフル出社なのは納得いかなかったが、家から近いこともありそんな文句は言ってられなかった。よーし、研修で学んだことを活かしてどんどん吸収してくぞ!頑張れ俺!









B部署ではPythonを使います。Javaはこのオフィスで使いません。
研修は何の役にも立たなかった。俺の座席は何故か2階で、同じ部署の同期たちはみんな3階へ上がって行った。追い打ちをかけるように、私の育成担当の社員は別オフィスという。

「欠陥住宅かよ!!!」
思わず声が出た。小峠みたいだった。というかもう小峠になってた。でも、これは新しいことを学ぶチャンスなのだ。たとえ同期が周りに居なくても、担当社員が別オフィスでも、ピンチをチャンスに変えてこそ道は開かれるのだ。さあ、行ったれ、俺!!

1ヶ月間必死に勉強を重ね、ようやく作業にも慣れてきた。なんだ、俺やればできる子じゃん!偉いぞ!!帰りにハーゲンダッツでも買おう。これから本格的に仕事が始まるんだなぁ!頑張らないと!!










異動が決まった。え、嘘でしょ?なんで俺?はや過ぎない??まだ入社して1ヶ月よ??席の移動のことでしょ?

6月末唐突にB部署の課長から突然告げられた。
俺、異動になるから組織変わるんだ!お前は7月からA部署な!

めっちゃ頭抱えた。本気で頭抱えた。いや立場の高いあんたが異動なら飲み込むしかないわ。課長は遠くの部署に飛ばされたが、俺は異動といってもオフィスの移動はなく、ただ2階から5階に上がるだけなんだけども…
正気のSaturday Night.

俺を担当していた社員とは結局一度もリアルで顔を合わせることなくコンビ解消となった。次の部署もまた使ってるプログラミング言語が違うらしい。人の時間なんだと思ってる。終わった。マジでクソ。

おまけに、Bグループの社員からは口々に、「あぁ、Aに行くのね…頑張って。」「君のような肝の据わった新人なら大丈夫!」「生きて帰ってこい。」と、不穏な言葉ばかり口にする。なに俺出稼ぎに行く父親?

もうマジで不安しか残らなかった。そして迎えた7月初め。もはや仕事内容もリセットされ、新入社員一日目の気持ちで5階へ向かった。

「君がBグループから異動してきた子だね!俺は相葉!新しく君の担当になった社員だ!よろしくね!」
さわやかめのやさしい社員だった。相葉は俺の参画するチームのメンバーではなかったが、とにかく丁寧に教えてくれた。

柴木と米原も、懇切丁寧に指導をしてくれる。なーんだ。全然大したことないじゃん。



そして異動から5日目。いつものように大きな声であいさつをする。まあ快い返事はいまだに返ってきてはいないが。
2人の座席は俺のすぐ左隣の席に並んでいる。用があればいつでも話ができる便利な席だ。

ふと、柴木が席を外し、それとほぼ同時くらいに俺のメールに新規通知が一件来ていた。


「Re: 作業日報について」


昨日出した日報についての返信が来ていた。俺の会社は毎日定時前に日報を上長やその他のお偉いさんや先輩社員に送らなければならない。誰だよまったく日報とかいう無駄な習慣作ったやつは。どうせろくにみないくせによっ!

メールの返信は柴木からだった。さっきまで近くの席にいたのにどうしたんんだろう。もちろん柴木は先ほど席を外してからまだ自席に戻っていない。
なんだろう。メールでしか言えない重要なことがあるのだろうか??





……ガチギレされてた。もうすっごい文章だった。日報の書き方がなってないって。俺が教えた意味が理解できてないみたいだなって。もう根本からダメだった。嘘ぉん。さっきまで席近くいて普通に挨拶とかしてたじゃん。
なんでふわっと立ち上がってこんな悪魔みたいなメールよこすの。もう怖すぎる。

相葉の指導がなってない!ってことも書いてあった。でた、こういう連帯で責任負わされるの嫌だわ。怒るなら俺一人にしてくれい!!

その後相葉から日報を直すように一緒に添削してもらった。マジで優しい。
そんな感じで修正作業を一緒に行っている時、後ろから作業をじっと眺めてくるやつがいた。

「今何の作業ぉ?」
ちょっとおちょくるような口調でしゃべってきたのは、入社4年目の志賀。なぜか異動してから毎日度々こうして後ろに立って作業を眺めてくる。相当暇なのかコイツ。

「今、日報のこと柴木さんに注意されたんで、修正作業してる最中っす。」
そう相葉が答えると、「ふーん。」とつまらなそうに志賀が答える。そしていきなりしゃべりだしてきた。
「ねぇ、この日報の最初の文章さ、『本日の作業につきまして、以下の通り報告いたします。』ってあるけど、これって今日これから作業することの報告ともとれるよね?」

まぁ、言われてみればそう取れなくともない。でもこれ件名に「【~月~日 作業日報】」って書いてあるし、なんなら定時前に送るんだから間違う奴いないだろ。

「勘違いしてしまう人がいないように配慮しなきゃ。例えば本日の業務に関してとかにするとか。」


俺はその日すごくムカついていた。いきなり異動命じられたし、日報とかクソだるい作業なんぞに時間取られたくないし、直接言ってこないでメールで寄こすのも嫌だし、日に日に蓄積されたイライラが溢れだしそうだった。

「え?それも人によってはこれからやる作業に思えますよね?」俺は言い返してた。4年目のやつに。
「だから、そうならないように勘違いを生まないような文章を…」
「そんな全員が全員の気持ちなんて考えてたらキリないです。少なくとも自分が今まで(5日間)出してきた中で書き出しの文に文句言ってきた人はいないですよ。」

もう文句は止まらなかった。てかわざわざ時間使ってまで俺のとこきて揚げ足取りくるとかファンか?こういう時間を無駄にするクソ人間が死ぬほど嫌いだ。

「まぁ、そういうのを配慮しろって遠藤主任だったら言うよね。」
なんとコイツ、自分が言い出しっぺじゃないと人に擦り付けようとしてきやがった。「この日報遠藤主任も見てるんでしょ?だったら気を使わなきゃだめだよ。」

さすがにキモ過ぎたので、堪えていたものを吐き出した。
「偉い人が見てるからとかいう理由で書き分けたりするって考え持ってるんですか?そういうの良くないですよ。そんだけだけ言うならどういう文章がいいんですか?教えてください。」

志賀は(なんだコイツ…)みたいな表情で「そんなの自分で考えろ」といってどっかへ行ってしまった。
相葉は終始ひきつった表情でその場に居づらそうにしていた。ホントにごめんなさい。

最終的に相葉から「俺は『本日の作業日報を送付します』って書いてるよ!」と言われたのでそれを採用した。


結局次の日から志賀が寄り付くことはなくなった。その日は遠藤主任にガチギレされて2時間半以上残業したのだけれど…。

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